スマートフォン視聴に最適化した縦型動画が以前にも増して若者層に浸透しつつあります。Z世代などにアプローチしたい企業にはうってつけのフォーマットと言えそうですが、企業が縦型動画をどのように取り入れるべきなのでしょうか。
Instagramを中心としたSNS運用代行やインフルエンサー事業を手掛ける株式会社FinTのSNSマーケティング事業部 堀 拓望さんにお話を伺いました。
縦型動画はZ世代にマッチしたフォーマット
——まず縦型動画プラットフォームの最新動向について教えていただけますか。
縦型動画を配信するプラットフォームはInstagram、Twitter、YouTubeなど増えてきていますが、勢いがあるのはやはりTikTokです。同社は2021年9月に、世界の月間アクティブユーザー数が10億人を超えたことを発表しています。
そのTikTokも、最近ではコンテンツの多様化ともに、ユーザー層も幅広くなってきているように感じます。TikTokが登場した当初は、視聴者は10代が中心で、カメラの前で口パクをしたり踊ったりする「自撮り」系の動画が主流でしたが、最近では人物がメインの動画だけでなく、ハウツー系や、生活のお役立ち情報をお届けする動画というのも増えてきました。それに伴って、視聴者の年齢層も20代、30代、40代と広がっています。
コンテンツの内容が多様化してきたということは、それだけユーザーの母数が急速に増えてきているということなのかなと思います。とはいえ、投稿に「いいね」をするなど、アクティブに視聴しているユーザーはまだまだ若年層が多いという印象はありますし、投稿されているコンテンツもまだまだ若者向けの動画が主流ではあります。
——あらためて縦型動画が若者たちに受ける理由は何でしょうか。
いまのZ世代と言われる人たちは、たくさんの情報やコンテンツの中から、自分の価値観に合ったものをすごく早いペースで選別していって、つまみ食いをするように軽く楽しむという傾向があると言われています。それでいうと、縦型動画というのはスマホのディスプレイがそもそも縦長ということもあり、感覚としては動画が帯のようにつながっているイメージで、コンテンツのスキップがしやすい。だから情報を効率よく、幅広く収集するような世代としては、スマホのUIとして縦型動画の親和性が高いのだと思います。
——なるほど。縦型動画に短尺のものが多いのも、つまみ食い的に楽しめるように、という狙いがありそうですね。
はい。一方でつまらないと判断されてしまうとすぐにスキップされるのも縦型動画の特徴なので、しっかり視聴者に届けるためには、短い尺であっても飽きられて離脱をされないよう動画を作る必要があります。
「アカウント運用」「インフルエンサー施策」2つのアプローチ
——「TikTok売れ」というフレーズもあるほどプロモーションの手段として注目を集めている縦型動画ですが、その強みは何でしょうか。
Z世代などの若年層にアプローチできるというメリットが一つ。また、スマホを縦向きにして視聴したときに、横型動画に対して縦型動画は画面サイズが約300%拡大するため、それだけ印象に残りやすいというのも特徴として挙げられるかなと思います。実際にTikTok Adsの2020年の調査では、広告認知率が横型動画平均18%であるのに対して、縦型動画が平均63%になったという結果も出ています。
——実際に企業が縦型動画を取り入れるとしたら、現状ではどのような形が考えられますか。
大きくは「インフルエンサー施策」と、「アカウント運用」の二つに分かれてくると考えています。アカウント運用はその名の通り、企業が公式アカウントを持って投稿をすることです。このタイプの成功事例としては、ロート製薬さんやドミノ・ピザさんなどが挙げられます。ロート製薬さんがうまいのは、TikTokのトレンドを巧みにコンテンツに反映させているという点です。特に若年層向けの縦型動画では、プラットフォーム上でのトレンドをいかに素早くキャッチアップして、コンテンツに取り入れていくかということが大事になってきます。
——TikTokは移り変わりが早いということなので、常に最新の流行をキャッチアップして動画コンテンツを作っていくというのは、なかなか労力がかかりそうですね。
そうですね。実際にTikTokのアカウント運用に取り組まれている企業もまだ多くはありません。しかし最近の若い世代、特にZ世代はInstagramを離れて、TikTokにより多くの時間を割いているという実態もありますので、そういった層への認知拡大を狙った企業が、今後TikTokを活用していくのではないでしょうか。
——実際に御社で縦型動画プラットフォームでのアカウント運用をサポートした事例はありますか。
小田急百貨店町田店様のInstagramアカウントにおいて、リールズを活用した来店促進施策の企画・撮影担当をさせていただきました。元々来店されていた高齢のお客様だけでなく、20〜30代の比較的若い世代の顧客を獲得したいという若年層へのアプローチをしていきたいということで、ご依頼をいただいたことがきっかけでした。具体的には、小田急百貨店町田店様の美容部員さんが、それぞれの推しのブランドのアイテムをリールで紹介するという動画を作成し、クーポン利用数は1.4倍、動画は合計2万PVを獲得するほどのご好評をいただきました。まだまだ静止画による投稿も訴求効果は高いところではありますが、メイクのように使ってみて効果がわかる商材に関しては動画の方が伝わりやすく、結果に結びつきやすいと言えます。
——施策を通じてわかった見られやすいコンテンツの傾向はあるのでしょうか?
TikTokはプラットフォームの特性として、プロのモデルを起用するなどCMのように作り込んだ映像よりも、リアル感や生っぽさのあるコンテンツが受けやすいという傾向があります。縦型動画は人が前面に出るコンテンツが画面の構図的にも相性がいいため、小田急百貨店町田店様のように、美容部員さんなどスタッフや自社の社員などが登場する動画は受けが良い傾向にあります。一方で、ブランドイメージとの兼ね合いから、社員を前面に出すことに抵抗感のある企業様もいらっしゃると思います。そういう場合は、アカウント運用よりもインフルエンサー施策がおすすめです。
——縦型動画で影響力のあるインフルエンサーは出てきていますか?
定番の方でいうと、以前“いま日本の女の子が一番なりたい顔”として話題になったなえなのさん(@naenano)は、女子高生からの支持が厚いインフルエンサーで企業からも注目をされています。またやみちゃん(@ayami_yamichan)というTikTokでさまざまなコスメの紹介をしているインフルエンサーがいるのですが、この方が紹介した商品はその日のうちに品切れになってしまうというほどの影響力を持っています。インフルエンサー施策は店舗への来店や購買など、行動変容に結びつきやすいため、ブランド認知を目的とするのであればアカウント運用、購買促進を狙うのであればインフルエンサー施策といったように、狙いごとに活用の仕方を考えてみてもいいかもしれません。
クローズアップや音ハメなど、スキップをされない動画テクニック
——具体的な縦型ショート動画のクリエーティブのテクニックを教えていただけますか。
動画の尺が短いので効率的に情報を見せていくように編集する必要があります。なので私たちが動画を制作する場合は、動画を早回しにするなどテンポの良さを常に意識しています。動画の速度が速いと視聴者の理解が追いつかず情報がうまく伝えられないのでは?という懸念もあるかもしれませんが、その心配はありません。先にお伝えした通り、視聴者は興味のない動画はすぐスキップしてしまうのですが、逆に初見で印象に残った動画に関しては、繰り返し視聴してくれるという傾向があります。一回目でざっくりと視聴した後に、細かい情報は二回目以降に映像を止めながら確認するのです。
あまり同じ構図を見せ続けないというのもポイントの一つです。ちょっとでも同じ場面が続くとすぐに離脱されてしまうので、例えば弊社が運用サポートをしている「わたしの節約」アカウントであげた「やかんの汚れピカピカにしてみた」という動画では、汚れたやかんにクローズアップしていくという一見無意味に思えるカットを挿入しているのですが、これも引きを作って注意をそらさないようにするという狙いがあります。
また、動画を盛り上げるための演出として動画の内容と音楽を合わせる「音ハメ」のテクニックもよく活用しています。TikTokでは、動画のクライマックスと、音楽のクライマックスが一緒に来るようにし、最後には何が起こるのか、という期待感を持たせる工夫です。
——TikTok、Instagramなどプラットフォームによって縦型動画のクリエーティブの特徴に違いはあるのでしょうか?
はい。私たちもプラットフォームのトンマナに合わせたクリエーティブはかなり意識しています。TikTokを視聴している若者に好まれやすい音楽となるとノリやすいBGMになってくるのですが、Instagramのリールズに投稿するとなった場合は、もう少しおっとりした、落ち着いた音楽を選ぶといいかもしれません。ユーザーが心地よく見られるフォーマットはプラットフォームごとに異なるので、同じ商材だとしてもそれぞれの特性に合わせて工夫することが重要です。
——最後に縦型動画を活用していきたいと考える企業にアドバイスをいただけますでしょうか。
縦型のショート動画は簡単にスワイプで飛ばされてしまうコンテンツなので、いかにユーザーが心地よく視聴できるフォーマットで配信していくかが大事です。そもそも縦型動画を通してどういったユーザーにアプローチしていきたいのか、それによってまず選択するプラットフォームも変わってきますし、クリエーティブの中身もトンマナも変わります。企業側が発信したい内容をそのまま送るのではなく、何を目的に置くかをしっかりと検討することが、成功のヒントになると思います。
Z世代を中心とした若年層にアプローチするには最適の縦型動画。最近では視聴者層が広がってきているということもあり、企業のプロモーションやセールス活動においてより重要度を増していくでしょう。現在プラットフォームとして最も存在感があるのはTikTokですが、InstagramやYouTubeなど発信元を適切に選択したり、縦型ならではのクリエイティブを他の媒体にも応用することで、より効果的なアプローチが可能になります。SNSマーケティングの新潮流として、縦型動画はますます見逃せない存在となるでしょう。
- Written by:
- BAE編集部