コロナ禍でのDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む自動販売機。街中や商業施設で、ユーザーとの新しい接点を生む、無人の販売スポットとして期待されています。
実際に、大型サイネージや非接触型の決済システムを搭載した次世代型の自販機では、数千円~1万円のコスメやジュエリー等の売れ行きが好調。若い世代を中心に、「自販機でコスメやジュエリーを買う」という体験がSNSでも話題のトピックとなっています。
高額商品が売れる仕組みや、ユーザーとのコミュニケーションを実現する理由などについて、都内を中心に次世代型自販機を展開するPRENO(プレノ)の肥沼(こいぬま)さんにお話を伺います。
「自販機でジュースを買わない世代」に刺さるショッピング体験
——次世代型自販機の開発に取り組まれた経緯と狙いを教えてください。
以前から、コスメの企画、開発、販売等を手掛けてきました。販売チャネルの拡大や、購買につながるUXなどを模索する中で、「どんな人も平等に楽しく購入体験ができる仕組みをつくりたい」と考え、日本人にとって親しみのある自動販売機のアップデートに取り組むことにしたのです。
次世代型自販機のコンセプトは、「ユーザーの体験価値向上 × OMOの実現」です。UI/UXがカスタマイズしやすく、決済も便利で、人を介在せずにユーザーの利便性を高め、楽しませることができます。データの取得・活用によって、PDCAを回しやすいというメリットもあります。
——どんな場所で、どんなアイテムを販売されているのですか。実績なども教えてください。
現在は、原宿、渋谷の商業施設を中心に10台前後を展開しています。施設全体の来訪者数は多いのにあまり使われていない場所や、店舗にするには小さすぎるスペースを、無人でマネタイズできるのがポイントです。
例えば、渋谷の「RAYARD MIYASHITA PARK」には、パールアクセサリーブランドの自販機を設置しており、デッドスペースを有効活用できるメリットが買われています。販売しているアイテムは、有名ブランドや自社ブランドによる数千円~1万円程度のコスメ、ジュエリー、アパレルなど。一般的な自販機の売上は月3万円前後といわれますが、次世代型自販機では4週間で200万円弱のジュエリーを売り上げた例や、2週間で千円台のコスメが500人に購入された例などがあります。詳しくは後述しますが、サンプル配布、アンケート、広告配信への活用も可能です。
ユーザー層の中心は20~40代の女性ですが、コスメの自販機などは購入者の1割強が男性だったケースもあり、性別を問わないところにお客様がいるということを実感しています。
接客を受けるのがおっくうだとか、気兼ねするという人、友だちや恋人と会話を続けながら買い物をしたい人、スマホで調べたりしながらじっくり買い物をしたい人などには、特にウケがいいようです。
ジュエリーでもアパレルでも、1万円前後のものをパッと買っていかれる方が、予想以上に多いことも特徴です。数千円のものは、友だちの分やお土産などを複数買いされる方もいます。場所などによっては、むしろ2000円以下のもののほうが動かないケースもあります。
——「自販機でパールを買ってみた!」といった動画等がSNSに投稿され、拡散されるケースも増えていますね。理由をどのように分析されていますか。
「高額商品を扱う珍しい自販機」というだけではなく、「自販機で買うこと」自体を、ユニークな体験・レアな体験として楽しんでくれているようです。
そもそも10代、20代などの若い世代の多くは、自販機で飲み物などを買わないらしいのです。理由を詳しく聞くと、「自販機じゃなくてコンビニやカフェに行く」「自販機はおじさんたちが缶コーヒーを買うもの」といった意見がありました。
ただ、皆さんスマホやタブレットには親しんでいて、次世代型自販機から流れる動画には興味を示してくれるし、ディスプレイの前まで来ると、直感的にスワイプして商品を閲覧してくれます。
AIカメラによるデータで販売効率を高める“DX力”
——次世代型自販機のディスプレイでは、ブランドや商品のイメージ動画などを流されていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。コンテンツづくりのポイントも教えてください。
まず、販促だけではなく、ブランディングに生かせることは大きなポイントです。筐体や動画のコンテンツに統一感を持たせれば、小さな空間でもブランドやショップの世界観や商品イメージを効果的に見せることができます。
コンテンツやイメージづくりのポイントとしては、自販機の筐体のカラーやデザインと同様に、動画にも旬の色、モデル、テンポを採用して、ユーザーをワクワクさせるトレンド感を重視して制作しています。とはいえ、TikTokのように賑やかすぎる動画でも、施設のロケーションや周囲の雰囲気にマッチしないので、バランス感覚が必要です。
運用後もデータを分析しながら、常にアジャイルで改善を行います。思い切って短くカットしたり、差し替えたりする場合もあります。
——UI/UXにはどのようなポイントがありますか?
UIには、実は“次世代型自販機ならでは”のポイントがあります。スマホの挙動は踏襲していますが、ECには寄せずに、わざとほんの少しだけ使い勝手を悪くしているんです。 簡単に言うと、そのほうが自販機の前に立って見たときに商品が並んでいる様子などがきれいに見えるのと、「画面を触ってみると面白い(動きをする)」という手応えを感じさせることができて、結果的に滞在時間などが延ばせるためです。
ちなみに、商品の箱にもこだわりがあり、取り出して開封するときにテンションが上がるような、高級感を感じるデザインにしています。
——「ユーザーの体験価値向上 × OMOの実現」が次世代型自販機のコンセプトということですが、具体的にはどのような活用が可能なのでしょうか。
ユーザー数、PV数、平均セッション時間など、一般的なアナリティクスのデータは一通り獲得できます。上部にAIカメラを設置しており、属性のほか、「前を通る人」「立ち止まった人」「自販機の目の前まで来た人」などの人数もカウントしています。リアルタイムで計測し、レポーティングしていますが、動画の保存などはしていません。
今までの自販機ではできなかった、「どのアイテムが何秒閲覧されたか」「寄ってくれたのに買わなかったか(機会損失)」といったデータの分析結果や、客層・時間帯に応じて動画やUIを調整するなど、細かな調整を行っています。
ただ、私たちとしては、自販機のDXに取り組むことで「購買率や回転率をとにかく上げる」ということだけではなく、自販機での買い物を楽しんでもらうことも重視しています。
何時間も迷って購入されるユーザーもいますし、1日に何度も来て3回目で購入されるユーザーもいます。“その人なりの、店舗ではできない買い方”が実現するように心がけながら、チューニングを行っています。
——「モノを売る」以外の活用もできるという点についても、詳しく教えてください。
はい。先述の通り、サンプル配布やアンケートなどへの活用が可能で、実際にサンプルの配布をしながら、リード獲得にもつながっている事例があります。ある高級コスメブランドは、今年と昨年に店頭でサンプル配布を実施しました。1日に数百個と、人手で配るよりも多くの数を非接触で配布でき、お客様からも好評でした。
仕組みとしては、LINEなどで友達登録をしてもらい、アンケート等に回答してもらうと、二次元コードコードが発行され、それを自販機に読み取らせるとサンプルが出てくる、といった形です。受け取るときに、自販機に簡単なクイズやゲームなどを表示して、ユーザーが楽しめるコンテンツをプラスすることもできます。仕掛けによって、来店のきっかけづくりに活用できるでしょう。
自販機同士を連動したコンテンツの展開も可能に
——今後、次世代型自販機の機能や使い方などは、さらに進化していくでしょうか。
はい。冷蔵機能や、データ収集の目的に応じたセンサーの増設など、自販機自体の機能の拡張は現状でも可能です。フラワーロスの解決をコンセプトとした“生花の自販機”などの展開を予定しています。
また、次世代型自販機の隣に人型のロボットを配置して、遠隔操作による接客を付加するという実証実験も行っています。特に、高額商品を販売する際は、接客による対話の有無が充実感を左右するため、「自販機+ロボット」というコンビネーションには大きな可能性があると考えています。
今後は、自販機自体をネットワークで結び、コンテンツを連動させることなどを計画しています。例えば、2台の自販機を並べて、ディスプレイ上にお笑い芸人を映して、掛け合いで漫才をさせるといったイメージですね(笑)。
3人組のダンスユニットや、7人組のアーティストなど、台数を増やして表現を広げることも可能でしょう。サイネージとして24時間情報やコンテンツを流しながら、関連グッズを販売するなど、多いに盛り上げられると思います。
——今後の目標を教えてください。
今後も、都内の商業施設を中心に常設の台数を増やしながら、新しいトライを続けていきます。インバウンド向けとして、観光地などへの設置も増やしていきたいですね。キャンプや登山など、都市部と離れた場所でのアクティビティを楽しみに来た人々にも、お土産には自販機でブランドのアイテムを購入してもらう、といったことが可能になると思います。台湾、マレーシアなどへの海外展開も目指しています。
これまで見落とされてきた空きスペースを利用して、商品やブランドを印象づけ、ちょっと変わった楽しい購買体験を届けられるという点は、次世代型自販機の大きな強みです。
皆さんが「ちょっと買い物しようかな」という日に、いくつかのお店を回ったり、ウィンドウショッピングするジャーニーの中に、PRENOの次世代型自販機が入り込めたらいいなと思っています。
これからも「ここに来ればワクワクする買い物ができる」と感じてもらえるような仕掛けを続けていきますので、ぜひ遊びに来てください。
空間価値の最大化、非接触決済、省人化といったメリットに加えて、データを生かしたDXが可能な次世代型自販機。意外な場所での高額商品の販売や、自販機を仲介したOMO施策を中心に、活用が広がるでしょう。スマートコインロッカーや「BOPIS(Buy Online Pick up In Store。ECでの注文品を店舗やロッカーで受け取る仕組み)」などと近い場所に導入することで、ユーザーの利便性を高める空間づくりなども可能になりそうです。
また、大型ディスプレイ上にコンテンツを流しながら、アイテムを24時間販売できるという仕組みは、IPなどの掛け合わせによって、大きな成果と話題を生みそうです。次世代型自販機のさらなる成長に期待がかかります。
尚、電通テックでは、次世代自販機と同様に、空間に新しい買い物体験を創出するソリューションの一つとして注目される「BOPIS」の導入サポートを行なっています。
- Written by:
- BAE編集部