2019.02.22

“売れる”ロボットから見えた、人間とロボットが共存する世界像

高まるシニア層の需要と、教材としてのロボット需要

AIテクノロジーや家庭向けロボットを積極的に受け入れる層が増加しています。Alexa、Google HomeといったAIスピーカーなどの日本上陸に先駆けて、いち早くコンシューマー向けロボットを扱うショップをオープンした新宿タカシマヤでは、ファミリー層へのロボット販売が順調です。日本の消費者は「何を求めて」ロボットを購入しているのでしょうか。百貨店初の、ロボット専門ショップ「ロボティクス スタジオ」を企画した株式会社髙島屋の田所博利氏に伺いました。

目次

新学習指導要領の影響で高まる教材としてのロボット

新宿タカシマヤの9階は、主にベビー・子ども向け商品を扱うフロア。2017年10月、ファッショナブルな子供服や玩具が並ぶこの一角に出現した「ロボティクス スタジオ」は、「コミュニケーション型」「ライフスタイル型」「プログラミング型」「エンターテイメント型」の4カテゴリーに分類されたロボット・IoT製品・プログラミング教材が陳列されており、気軽に手に触れて試すことができるショップです。

ITやコンピュータなどとは縁遠いこのフロアを敢えて選択したという仕掛け人の田所氏は狙い以上の手応えを感じています。

「未就学のお子様連れから、高齢者のお客様まで、広い年齢層の方がいらっしゃいます。おかげさまで売上も好調です」

ベビー・子ども向けフロアを選んだのには理由がありました。それは、多くの場合、親・子・孫の三世代が集まって訪れる場所だからだそうです。
たとえば子どものための「プログラミング型」ロボットや教材は、親や祖父母世代ともに購入意欲が高く、クリスマスシーズンや新学期などは非常に引きが強くなります。

「文部科学省によって2020年に実施されると発表された新学習指導要領では、小学校でのプログラミング教育の必修化として、『新たにプログラミング的思考を育成』という言葉が掲げられています。そういった理由から、日本でもプログラミング型のロボットに注目が集まっています」

教育分野でのロボット需要は海外では高いそうで、スマホを使って操作するプログラミング可能なロボットを用いた「Sphero edu」は世界で2万校の学校で、3万人以上の先生方に採用されているとのこと。現状では、まだまだ日本発信の商品が少なく、今後の需要の高まりは注目していきたいと田所さんは語ります。

教材としての需要のほか、親のためにロボットをプレゼントしたいという働き盛り世代や、ちょっとロボットを使ってみたいと思っている高齢者にとっては、ファミリーで訪れるこのフロアは、格好の購入検討チャンスとなるそうです。

「実は2016年夏に、“ロボットと共生する新たな暮らし”というテーマで「暮らしとロボット展」を開催した際、実際に足を運ばれたのは、テクノロジーに詳しい、いわゆる“ギーク”的な層でない一般的な方。ご家族連れや、年配の方が目立ちました。おじいちゃんおばあちゃんが孫と一緒に来たり、ということもありましたね。それで実感したのは、ライトユーザー層におけるロボットへの関心がとても高いということでした」

経済的にも余裕があって、数十万円代のロボットの購買力もあり、興味はあるけれど「ネットやテレビで目にするロボットは、一体どこで本物が見られるのか?」と思っていたところ、ロボティクス スタジオにたどり着くケースが多いとのこと。

様々なプログラミング型ロボットが並ぶ店内

「ご家族連れの方や年配の方など、みなさん、思った以上にロボットに興味を持っていらっしゃいます。また、購買される時も、高価格なだけに、百貨店で実際に手に取って説明を受けながら買えるなら、安心だと仰います」

ロボット購入者の懸念点として大きいのは、使用するのに一定以上のリテラシーが求められるということ。ロボットの市場を広げていくためにも、簡単に自宅で使えるような商品の開発や、バックアップ体制が小売やメーカーも含めて必要だと、田所さんは言います。

「タカシマヤは、百貨店として“衣食住をテーマにした暮らしの提案”をしていますが、それに加えて、“ロボットのある生活”というものを提案する時が来ているのではないか。もともとは、そこがバネとなってショップオープンにつながりました」

コミュニケーション型ロボットの需要は高齢者層で高い

売り場の4カテゴリーの中でも一番の売れ筋は「コミュニケーション型」です。こちらの商品を購入するのは、圧倒的に高年齢層。従来は働き盛り世代を中心とした子どものいる家庭なども中心的ターゲットと考えられてきましたが、AIスピーカーの日本発売を境に、ターゲットがハッキリ割れることになったそうです。

「働き盛り世代は、ストレートに機能性や利便性を求めます。若い人ほどテクノロジーに対するリテラシーも比較的高いので、量販店で1万円を切ったAIスピーカーの方がとっつきやすく、断然便利ということになるんですね。お客様からも『これはAIスピーカーでできるんじゃない?』と聞かれることが多く、私も『しっかりロボットを定義しなければいけない』と思いました。そこで、人間のスキルアップや肉体的な補完をするものがAIスピーカーやスマート家電などライフスタイル型のロボットで、私たちが一般的にイメージする『ロボット』は、会話を主とした触れ合いを通じて、癒しや心の豊かさなどを引き出すというもの、共感を抱けるもの、そういったコミュニケーション型のロボットを指すのではないかと考えました」

田所氏
株式会社髙島屋の田所博利氏

田所さんが、そのようにロボットを再定義することで、お店に足を運ぶお客様も増えたようです。また、高齢者やライト層が「コミュニケーション型」ロボットに求めているのは「便利さ」ではなく、圧倒的に「かわいさ」だったり、「癒やし」だったり、「気持ち」や「心」に訴える機能だそうです。

「実際に店頭で売れるロボットの特徴は、まず一目見て“かわいい”かどうか。次に、少し会話をしてみて“さらにかわいい”と感じられるかどうか。『この子が家にいたらちょっといいかなあ』と想像ができるかどうかが、買うか買わないかの分かれ目なんですね。この子だったら話してみたい、この子に何か言われたら嬉しいかも、というように、気持ちが通じる、心の拠り所になると考えられるようなものが、まさに、コミュニケーションロボットの重要な役割なんです」

現在一番人気というヴイストン社の「Sota(ソータ)」は、ロボットクリエーター・高橋智隆氏の愛くるしいキャラクターデザインや仕草で、会話もスムーズと、高年層にとても好まれています。特に年齢が上がるほど、無機質なAIスピーカーやスマホに話しかけるのに抵抗感を示す人が増えます。

(左)ヴイストン社 「Sota(ソータ)」 (右)ユカイ工学 Qoobo(クーボ

「気持ちが和む、安心するということで、フワっとした手触りのぬいぐるみやしっぽが動くだけというロボットも出てきています。会話だけを突き詰めていくのではなく、スキンシップというコミュニケーションが成り立つことは、今後、コミュニケーション型ロボットの特徴になっていくでしょう」

透明化と顕在化、生活の中で二極化するロボット

コミュニケーション型ロボットは、いわゆる「見守り」の役割もあり、親へのプレゼントに購入したいという人に注目されています。

「だいたいお客様がおっしゃられるのが、離れて暮らす両親の様子が気になっていると。でも頻繁に電話はできないし、忙しくてなかなか実家には帰れない。その一つの解決策がロボットを見守りの役割として使うということです」

さらに、その見守りには「自然」であることが求められています。

「見守りであっても、監視カメラのように見張られるのは高齢者の方にも抵抗があるそうです。ロボットを相手にコミュニケーションをとっているうちに、それが自然と見守りにつながっているという自然な感じが必要です」

ただし、今後は「自然な」見守り機能としては、より機能的で利便性の高いスマート家電などが担う可能性が大きいと、田所氏は考えています。それでは、私たちがイメージするような表情のあるロボットはどのような需要が出てくるのでしょうか。

「1年余りロボットを売ってきて分かったのは、“何でもできる”ロボットではなく、何か一つでも特徴的な機能があるロボットが売れやすいということです。というのも、我々日本人は昔からアニメや漫画などのフィクションを通じて、ロボットといえば万能型の人型ロボットを想起する方が多く、自然と期待値も大きくなってしまっているのです。ですが現在の技術では、まだまだもの一つ掴むことでもロボットは難しいと聞きます。万能型の人型ロボットのようなものはまだ実現できないからこそ、何かの機能に特化したロボットの方が受け入れられやすく、喜ばれるのだと思います」

実際、売り場でロボットに触れる来店者の反応は、思ったよりずっと良い/悪いと、意見がハッキリ二つに分かれるそうです。

「話しかけて、ロボットの反応があったかどうかで『あれ、まだこの程度なの』という人、『まあ、こんなにできるの!?』という人で極端に分かれてしまいます。1秒の遅れというのにも、すごく反応するんです。それぞれの『この程度はできるだろう』という期待値を超えないと、ネガティブな印象になってしまいますね。一方で、海外のお客様は妙にポジティブですね(笑)。ロボットに寛容度が高くて、反応しただけで喜んでいただける。日本人が求めるレベルが高いのかもしれないですね。アニメとか映画とかでロボットが身近すぎるんです」

日本人はそれぞれがロボットに対しての先入観を持っており、その期待値を元に性能を判断するのだとか。

「近い将来、私たちが家庭にロボットをいくつか所有するということは、ふつうに起きることだと思います。労働や利便性を追求するものは、家電の進化形のような存在になるでしょう。それらは便利になればなるほど透明になって、私たちの生活の中では意識されないものになるはずです。

そうなっていくと、私たちが“ロボット”として意識するのは、話し方や仕草がかわいらしかったり、手間がかかったりするもの、または“ほうっておけない”“世話をしてあげたい”“温かみがある”というような、人間の気持ちに寄り添うタイプがメインになっていくのかなと思います」

ロボティクス スタジオでは、2019年秋冬に発売予定のGROOVE X社の「LOVOT(らぼっと)」の取り扱いをすでに予定しています。らぼっとはCES 2019でも話題となったコミュニケーション型ロボットで、言葉を認識するだけではなく、なでると喜んだりするなど、身ぶり、仕草も愛くるしく、ペットのようなロボットです。

らぼっとなら、「一歩先の次元の異なるロボットとして、お茶の間で受け入れられるでしょう」と田所氏も高い期待を寄せています。


コンシューマー向けのロボット売り場に足を運ぶのは、決してITリテラシーが高いとは言えない、高齢者層や、親の見守り目的での購入を検討している方々がメインでした。特に高齢者の方が求めているのは、高い機能性よりも店舗やメーカーのサポート体制という安心、さらにはロボット自体のかわいさや、感情移入できるかどうかが購入のポイントとなるそうです。
田所氏の見立ての通り、今後本格的な見守りを担うのは形の見えないIoT家電であって、人間味のあるコミュニケーションロボットは、ますます人間の感情面での寄り添いという役割に特化していくかもしれません。また、教育分野にもプログラミングが浸透してくることで、今後よりロボットは身近なものになっていくでしょう。
高まるプログラミング型ロボットの需要も含めて、これからのコンシューマー向けロボットの動向に目が離せません。

Written by:
BAE編集部