AR(拡張現実)を使った位置ゲーム『ポケモン GO』の大ヒットから2年。もはやARは珍しいテクノロジーではなく、私たちにとって、身近なテクノロジーとなりました。
キャラクターコンテンツの仕掛け人として知られる、株式会社ユークス プロデューサー・内田明理さんが手掛けるARグループ「ARP」もその一例です。最先端のAR技術を使い、まるで会場に実在すると錯覚するほどの存在感と臨場感のあるライブを展開。「会えるARイケメングループ」として話題になっています。
では、「AR×キャラクターコンテンツ」には、どんな可能性が秘められているのでしょうか。内田さんにお話を聞きました。
――数々の恋愛シミュレーションゲームを手掛け、“キャラクターコンテンツの仕掛け人”とも呼ばれる内田さん。キャラクターコンテンツの歴史、原点はどこにあるのでしょうか?
あくまで私見になりますが、キャラクターコンテンツの始まりは、テレビにあると考えています。1950年代に子どもたちのハートを鷲掴みにした、アニメや特撮はその代表例と言えるでしょう。当初は子どもが夢中になって見ていたアニメですが、『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)くらいから大人も楽しめるアニメが登場し、その裾野は現在に至るまで広がり続けています。
1990年代に入り、家庭用ゲーム機が普及すると、プレイヤーが当事者となって遊べるソフトが増え、よりインタラクティブな関係性が実現できるようになりました。これは大きな変革であり、そのニーズから生まれた恋愛シミレーションゲームも、当時大ヒットしました。
――当時は「恋愛シミュレーションゲームは男性向け」という風潮がありましたが、内田さんは女性向けの恋愛シミュレーションゲームを手掛け、ヒットさせました。どんな工夫をされたのですか?
何か大きな工夫をしたわけではありません。たしかに当時はキャラクターコンテンツにはまるのは男性という先入観があり、私が手掛けた女性向けの恋愛シミュレーションゲームも、発売前は「誰が買うんだ?」と揶揄されました。
しかし結果は大ヒット。SNSのない時代でしたが、口コミであっという間に人気に火が付き、どのゲームショップも品薄状態になりました。
では、そのとき性差を意識していたかと言えば、そんなことはないんです。もちろん、多少のカスタマイズはしましたが、「人間が求めるもの」は男女ともに共通していると考えています。特に恋愛は、男性にとっても女性にとっても特別なものですよね。“恋愛を楽しみたい、またはドキドキしたい”というインサイトは、男女ともに共通で存在しているとも言えると思います。
つまり、時代がどれだけ変わっても、潜在的に人が求めるものは変わらない。それが私の持論です。
――そんな内田さんが2016年にプロデュースをスタートしたのがARキャラクターによる音楽ユニット「ARP」です。現在、彼らはリアルな場でライブを行い、多くのファンを動員しています。なぜゲームではなく、リアルな場でキャラクターコンテンツを展開しようと考えたのでしょうか?
私は音楽が好きなので、「音楽コンテンツを作りたい」というところからスタートしました。2016年はAR/VR元年と言われていますが、同テクノロジーは、その数年前から主にアメリカのショービズ界でたびたび紹介されていました。その頃から、テクノロジーを活用したユニットをプロデュースすることに興味を持つようになりました。
ただ、配信ビジネスが主流となり、明らかに誤った認識ですが「デジタルコンテンツは無料」と感じるユーザーが増えていることを懸念していました。その一方で、リアルな音楽ライブの市場は活性化、動員を伸ばしていました。
そこでテクノロジーを駆使したキャラクターによる、リアルライブという発想にたどり着いたわけです。
ただVRはひとり1台のデバイスが必要なため、同時に大勢で楽しむには向いていません。その点ARは、デバイスなしで同じものを共有することができるテクノロジーですから、「やるならAR」だと思いました。
そこに生まれる価値「二次元なのに会える」は、確実にキャラクターコンテンツ好きのユーザーに対して需要があると感じ、2017年の1月、ついに「ARP」は本格始動しました。
――そのライブは、お披露目でもあったわけですが、来場者の反応はどのようなものでしたか?
まずARPの仕組みについて簡単に説明すると、キャラクターたちは、声担当のボイスキャストと動き担当のアクティングキャスト、表情を作るフェイシャルキャストによって、構成されています。だから会場で見られる彼らの言動はすべて、再生ではなく、“生”のものなのです。
そのおかげで私自身、リハーサルを見ながら「いるな」と感じましたし、実際に来場者の方たちも、彼らからリアルタイムで話しかけられたり、声援に反応する姿に大いに驚いた様子でした。
――「AR×キャラクターコンテンツ×ライブ」の強みとは、どんな点にあるのでしょうか?
ある意味で「ARPは究極のアイドル」です。ダンスも歌も一流で、かつスキャンダルがないからファンを裏切ることもない。ARというバーチャルだからこその強みという点では、映像とのコラボレーションが挙げられます。
CGもバーチャルですから、ARキャラクターとの親和性は非常に高く、空を飛んだりすることも容易に可能です。他にも、全国で同時にライブを開催するという離れ業を実現できるのも「AR×キャラクターコンテンツ×ライブ」ならではの特徴と言えるでしょう。
全国すべての会場に、本物のARPが同時刻で登場し、どの会場とも、双方向でコミュニケーションができる。これはARキャラクターでなければ、実現することは不可能です。
ちなみに現在、ライブをより楽しめるようにオリジナルアプリ「ふれフレ」を利用して、ライブ中のパフォーマーを応援したり、声援を送ったりすることができる仕組みを導入しています。
ライブでは、応援が多くあったパフォーマーが楽曲のサビを歌うという観客参加型の楽曲を設けているのですが、それを全国同時に実施すれば、他会場との連動感も高まると感じています。
実際、一生懸命に応援してくれているファンのみなさんは、勝負に負けると泣いちゃったりするんです。申し訳ない気持ちにもなりますが、それだけ世界観にのめりこんでくれている証拠ですから、うれしい気持ちにもなります。
――ARPのプロデュースをするなかで、「新たなキャラクターコンテンツビジネス」の可能性について感じたことはありますか?
はい。たとえば今後、リアルなアーティストが2次元キャラクターとして、別人格となって音楽ライブを行うという選択肢も生まれると思います。また、すでにキャラクタービジネスを展開している企業においては、「ARP」に使われている技術を応用することで、ファンとリアルな交流をすることも可能です。
同様に、出版社やゲーム会社の持つ知的財産(作品に登場するキャラクターなど)を、ARライブに活用することもできます。自社キャラクターで展開しているVtuberがいるならば、よりリアルで自由な表現を実現可能です。
ARPを動かしているのは、ARライブシステム「ALiS ZERO(TM)」。手前味噌ですが、ARライブにおいては、トップレベルの技術が詰まっていると思います。
これまでもモーションキャプチャによって、人の動きを2次元で再現する技術はありましたが、リアルタイムでのレンダリングは、非常にハードルの高いものでした。その点をクリアし、“まるで人間がそこにいるようなライブ感”を生み出すことに成功したのが「ALiS ZERO(TM)」です。
すでに亡くなってしまった歴史上の人物、たとえば坂本龍馬だって、この技術を使えば、観客の目の前に登場させることができます。そうやって、リアルとバーチャルのいいところを組み合わせながら、多くの人に夢を与え、今後も「AR×キャラクターコンテンツ」は進化を続けていくのではないでしょうか。
――具体的に、次世代の「キャラクターコンテンツ」のイメージはありますか?
未来を見据えるのなら、AIには期待していますね。もはや裏側に人を必要とせず、独立した存在としてのバーチャルキャラクターが「最終形のキャラクターコンテンツ」ということになるかもしれません。
そのときにはスマートフォンのように身近で、コンシェルジュのように私たちの側に寄り添ってくれるキャラクターも登場するかもしれません。感覚的には自分といつも一緒にいる「0.5人」。距離感は現在におけるスマートフォンです。
しかしその未来においても、やはり人が求めているものは変わらないでしょう。だから私はこれからも、キャラクターコンテンツを通して、人の心を満たし、笑顔にし続けていきたいと思っています。
ARの映像表現と、人の動きや声をリアルタイムに合わせることで2次元では表現できなかったインタラクティブな体験を提供可能にした、新しいキャラクターコンテンツ「ARP」。
さらにこの技術は、世界中どこの場所でも同時に、リアルタイムに双方向のコミュニケーションを可能にします。
リアルとバーチャルのメリットを組み合わせたイベントやライブ演出など「AR×キャラクター」コンテンツは様々な活用の可能性がありそうです。