2021.07.28

企業で広がる音声配信。ブランディングや認知向上に効く音声メディア制作の極意

活況を迎える音声市場で選ばれる番組のポイントとは?

PCやスマホ、スマートスピーカーから、気軽に再生・配信が可能になった音声コンテンツ。コロナ禍での「ながら聞き」ニーズを取り込み、市場は順調に拡大しています。
コンテンツマーケティングの手法として、音声コンテンツを配信する企業やブランドも増えてきました。企業発の人気番組のコンセプトや効果、また、企業が音声コンテンツを通じてユーザーの心をつかむための制作・配信の具体的なポイントを、音声配信アプリ「Radiotalk(ラジオトーク)」の井上さんに伺います。

目次

共感を誘い、企業やブランドとのエンゲージメントを高める

——企業やブランドによる、オウンドメディアの音声配信が増えています。背景には、どのような潮流があるのでしょうか。

まず、音声市場全体の活況による影響は大きいでしょう。コロナ禍で、音声メディアを聞く習慣は、予想より早いスピードで生活に浸透・定着しました。Bluetoothイヤホン等の普及も手伝って、1日中何かを聞く人も少なくありません。

Apple Music、Amazon Music、Google Podcasts、Spotify、Radiotalkなど、多くのサービスを通じて再生できるPodcast(ポッドキャスト)の台頭も影響しています。Podcastとは、簡単に言うと音声配信の仕組みのことです。

GAFAをはじめとした世界のテック企業スマートスピーカー等の普及と進化に通じる音声データの獲得や、音声コンテンツの制作に積極的です。例えば、SpotifyがPodcastの制作会社を買収したり、人気ポッドキャスター(Podcastの配信者)と契約するといった動きもあり、各プラットフォームによるクリエーターの獲得合戦にも注目が集まっています。

Google検索でも、「キーワード+ポッドキャスト(or Podcast)」で、Podcastとして配信される音声コンテンツが表示されるように。音声デバイスを活用すれば、音声操作によるポッドキャストの再生なども可能

——2016年頃から、企業やブランドによるオウンドメディアの配信も増えています。主に、どのような目的で配信されているのでしょうか。事例やポイントも教えてください。

ラジオ番組やアニメなど、コンテンツを直接紹介する内容のものを除くと、主に、「① 採用・広報」「② 購買促進」の二つを目的としたものが多いようです。

① 採用・広報に繋がる音声コンテンツ

音声なら、多忙な企業上層部のメッセージや、社員同士の談話やイベントの様子を簡単に録音・配信でき、話者の熱量や人柄、言葉のニュアンス、場の雰囲気、気配等が伝わります。文字情報では伝えきれない企業文化の伝達に活用されています。社外向けだけではなく、社内報の音声配信も増えています。

mercan.fm

2016年から続いている、メルカリによるオウンドメディア。社内や関連企業メンバーが仕事や会社について、カジュアルなトークを展開する。採用はもちろん、会社関連の最新ニュース、経営戦略に直接結びついたテーマ等が取り扱われることも

mercan.fm

ライフスタイルメディア #casa(ハッシュカーサ)

商品住宅を開発するカーサ・プロジェクトによるオウンドメディア。「暮らしとデザイン」をテーマに、建築や住宅、インテリア、ライフスタイルなどを紹介。新しい発見や共感できる暮らし方などを配信する。CROSS FMの番組内でも放送されている

ライフスタイルメディア #casa(ハッシュカーサ)

Tell Me Why

海外事例。アメリカン・エアラインが配信するオウンドメディア。企業トップによる今後の経営方針や、社会課題への考え方などがテーマ。意思決定にまつわる背景の理由や、具体的なアプローチの内容などを、おおむね10分未満のトークで簡潔に紹介している

Tell Me Why

Open For Business

海外事例。米国に本社を置くグローバルEC起業「ebay」が、2016~2017年に配信していた音声番組。起業家精神、雇用、価格、カスタマーの捉え方など、ゼロからビジネスを構築するために役立つ思考や戦略がテーマ

Open For Business

② 購買促進に繋がる音声コンテンツ

直接的にセールスを促進するだけではなく、ブランドや商品の認知度を高め、ファンを増やすことを目的としたコンテンツも増えています。ストーリーの伝わる企画や情緒的な演出で表現することで、商材やブランドの持つ世界観をリスナーと共有するような内容の番組が多いようです。

BE A KING presented by バドワイザー

バドワイザーによるブランデッドコンテンツ。『KING=理想の自分』をテーマに、活躍中の人気クリエーターやアーティストにインタビュー。理想の自分像や、クリエーティビティ、思考法、社会に対する想いなどが語られる

BE A KING presented by バドワイザー

時問時答

セイコーホールディングスによる配信。各界の著名人が、時間にまつわる自らのエピソードを語る。ほぼ全編、本人の声のみが収録されていることが特徴。また、「セイコー創業140周年特設サイト」で、テキストも読むことができる

時問時答

おうちラジオby阪急うめだ本店

「アロマテラピー」「おうちバレンタイン」など、ライフスタイルにまつわるトレンドや暮らしのヒント、またイベント情報や企画の背景などを、売り場やマーケティングスタッフが配信。生活シーンに寄り添うざっくばらんなトークで、リスナーの共感を誘う

おうちラジオby阪急うめだ本店

明日をゆるめる チャポンと行こう!

ECサイト上で、多彩な読み物や音声コンテンツを公開し、映画の製作まで展開していることで注目される「北欧、暮らしの道具店」による音声番組。セールス色がなく、サイトの世界観や雰囲気に共感するファンが純粋に楽しめる、ラフなトーク番組として人気が高い

明日をゆるめる チャポンと行こう!

動画やテキストによるオウンドメディアは、検索性やアーカイブの面など、音声よりも有利なポイントもあります。
しかし、取材や撮影、更新管理など、継続した配信には、様々な手間やコストがかかります。例えば、ハイブランドの高級感を伝えたい場合、多くの場合でリッチな動画やサイト制作が必要になってきます。

その点、音声コンテンツはコスパが抜群です。サウンドやボイスのみで、シチュエーションやディテールを演出することができ、聞く人にハイエンドな世界観やイメージを想起させたり、体験やシーンに入り込むような没入感を提供することが可能だからです。

実際に、Podcast内での音声広告ではディスプレー広告と比べて、ブランド認知が4.4倍向上することや、有名ブランドの音声広告を聞いたユーザーの61%は商品を購入する可能性が向上すること(※)や、「ながら聞き」によってブランドへのエンゲージメントが向上すること(※※)などが判明しています。
2018年12月 Nielsenの調査による
※※ 2019年 BBC「AUDIO:ACTIVATED 2019」による

リスナーを惹きつける番組が作れる8つのコツ

——企業が音声番組を制作・配信する際の、具体的なコツを教えてください。

現状のPodcastでの勝ち筋と、音声コンテンツ制作の鉄則を主軸に、制作と配信のコツをお話ししましょう。

「共感してもらう」「ストーリーを伝える」ことを重視したコンセプト設計を。アナウンサーなどではなく、社長やスタッフなどが直接話すほうが、熱量や雰囲気が伝わりやすい場合も。後述しますが、情報を伝えることが目的なら、テキストのほうが向いている場合もあります。

「冒頭の5秒」はキモ。冒頭で「なかなか始まらないな」「退屈しそうだな」と思われたり、毎回同じ印象だと、番組をスキップされてしまいがちです。タイトルコール、BGM、テーマ曲、ジングルなども、話が温まってくる中盤かラストに入れましょう。

開始5秒しか再生されないコンテンツと、半分以上再生されるコンテンツに有意差が。Radiotalkによるユーザーの利用シーン分析でも、上記のような行動が見られたという

③ 最初のコンテンツの長さは「12分前後」が最適解と分析しています。それを超えると「長い(時間がなくて聞けない)」と判断され、選ばれない可能性が。長尺を配信するなら、リスナー数が定着してから尺を伸ばす方法もあります。

④ 5分以下など短すぎるコンテンツも「ながら聞き」に向かないため、選択肢から外される場合があります。ただし、1〜2分の「試し聴き配信」やSNSでのシェアは、リスナーの獲得や認知向上の効果があります。

耳で理解しにくい言葉は、別の言い方に言い換えましょう。耳馴染みのない言葉、同音異義語なども同様です(例えば、「しよう」は「仕様」「使用」「試用」「私用」のどれなのか、音声だと瞬時に判断しにくい)。初出の固有名詞などには、短い説明などを加えましょう。

配信ペースは週1など、継続可能なペースを保ちましょう。一度気に入られれば、連続で聞いてもらえる可能性が高いことも音声コンテンツのメリットです。

「再生時間(尺)」を明記して、音声番組であることを事前に伝えましょう。Radiotalkの「Twitter Card(Twitterにシェアした際の表示機能)」でも、再生時間を明記したところ、再生率が40→60%に向上しました。

知らない人のタイムラインに流れた場合でも興味を持ってもらえるよう、タイトルを大きく表示。画像もカットされない仕様に

テロップ文字の活用も有効です。Radiotalkでは、SNS等に聞きどころをシェアする際にテロップを付加する機能を実装したところ、TwitterでのRT数が13%、WEBへの流入数が25%増加しました。

タイトルのみでは伝えきれない聞きどころが、目からの情報で補足され、ぱっと伝わる。拡散力や再生数を伸ばす効果がある

動画やテキストよりも、感情移入してもらいやすいことが音声コンテンツの大きなメリットです。コンテンツを通じて、人の気配、温度感を伝えることで、企業やブランドへの親しみを感じてもらえるはずです。“聞く人に居心地の良さを感じてもらえるか”を、鉄則として意識してみてください。構成、発音、話術などの質には、こだわりすぎる必要はないと思います。

また、「ながら聞き」の言葉が浸透していることからもわかる通り、現代では多くの人が、“目と耳と手の行動の最適化”を望んでいると考えられます。 実際に、仕事や家事の間はなんとなく音声を流し聞きして、興味のある内容が聞こえてきたら、手を止めて集中する――という風に、感覚と行動をシームレスに操る人は増えていますね。これに鑑みて、生活の中での適切な情報量や伝え方を工夫することがポイントになってきます。

要素を的確に伝えるには、同じ内容の音声とテキストの両方を配信する方法もあります。 先述の通り、音声コンテンツはニュアンスや雰囲気を伝えることは得意ですが、短時間で、大量の情報や、難しい文章を理解してもらうには、テキストのほうが向いています。その点、「音声×テキスト」の組み合わせにも、様々な可能性やシナジーが期待できると思います。

井上さん自身も音声とブログの同時配信を実施。検索性を高める上でも有利に働く。テキストではクールに感じられる文章も、語り口によって優しく伝わるといったメリットも

——数多くの音声コンテンツの中で、聞かれる番組として生き残っていくためのポイントはあるでしょうか。

SNS、サイト、メルマガなどの発信を通じて、とにかく聞かれる機会を増やすことは重要です。リスナーになる可能性がある人々とのタッチポイントは、いくらあっても困りません。複数のアプリから聞けるPodcast配信はその点でも、有利に働くと考えています。
1度選ばれれば1日中流しっぱなしにされる、という可能性もあります。

1日のうちの、目と耳の可処分時間を調査した結果。聴覚がフリーになる時間は、視覚の2.5倍に上る ※Radiotalk調べによる

位置情報を活用し、特定の場所で聞けるプレミアムな番組も

——今後の音声配信の可能性などについて教えてください。

期待される方向性の一つに、「音声×位置情報」があります。音声コンテンツに、特定の場所でだけ聞けるプレミアムを付加したり、精緻なターゲティングを行うといった方法です。

例えば、Radiotalkでは三菱一号館美術館や南海電鉄の沿線のみで聞ける番組を配信してきました。特定の場所に足を運んでくれた人だけに、スペシャルな体験を提供できる音声コンテンツは、行動変容や来店促進の動機を生みます。

アイドルの和田彩花さんや、吉田朱里さん、山本彩加さんが、美術館や観光に一緒に来た友達のように話しかけてくる内容。解説だけではなく、場所に合わせた自然な会話が聞ける

実は、Radiotalk本社でも、面接や打ち合わせに来られた人だけが聞ける、社外秘の広報メッセージを配信しています。来社の機会があれば、ぜひアプリを開いてみてください。

位置情報を生かしたターゲティングについては、米国のほうが技術が進んでいます。音声広告テクノロジー企業である、北米のInstreamatic社によれば、「車の位置情報に基づいて、帰宅途中にあたる人に近隣のファストフード店へ誘導する対話型の音声広告を配信したところ、半数近くがその店に寄り道をした」といった話も聞いています。
技術的な課題なども残っていますが、今後音声を通じてクライアント側のアピールとユーザーのインサイトを結び、消費行動を最適化できる可能性があるのです。

新型コロナウイルス感染症の影響で、人と人がリアルで集まって話し合う場所や機会は減っていますが、音声番組の配信や音声SNSは活況を迎えています。「話したい」「聞きたい」というプリミティブな欲求を叶える音声コンテンツへのニーズはますます拡大していくでしょう。企業やブランドからも、ユニークな音声コンテンツがたくさん生まれることを期待しています。

Radiotalk 代表取締役 井上佳央里(いのうえ・かおり)さん

共感や熱量、体験を伝えるコンテンツマーケティングの一手法として、企業やブランドによる音声の活用はますます進みそうです。音声番組をブログや動画と組み合わせる手法にも、さらなる効果が期待できるでしょう。
「音声×位置情報」の仕掛けも、その場所に出向く価値のつくり方次第で、ユーザーの行動を促す動機づけとしてプロモーションにも活用できるのではないでしょうか。

Written by:
BAE編集部