2018.05.07

「One to One」が心に響く、デジタル時代のDMの在り方

必要なのは、届けたい相手に向けたクリエーティブ

電子メールやSNSなど、デジタルでのコミュニケーションが主流となる時代に、ダイレクトメール(以下、DM)はどのような役割を果たすのでしょうか。VRを利用したユニークなDMで「第32回 全日本DM大賞」を受賞した、株式会社ダイレクトマーケティングゼロにお話を伺いました。

目次

VRなどテクノロジーとの連携で新たなDMの価値を生み出す

株式会社ダイレクトマーケティングゼロは、通信販売に関するコンサルティング業務から、マーケティング戦略立案・企画、さらには制作物のクリエーティブと、幅広くサポートを行っている企業です。毎年、優れたダイレクトメール(以下、DM)を表彰している日本郵便株式会社主催のアワード「全日本DM大賞」で、同社はこれまでに数多くの賞を受賞しています。

今回、金賞を受賞した「貴方の会社が突然主人公になる!360度VR DM∞」は、同社が2000通発送した年賀状の内、50社のクライアントに対して送ったもの。1社ごとに360度VR映像を個別に撮影して作ったそうです。

小泉典子さん、鈴木裕人さん
東京本部 コンサルティング部 1課の小泉典子さん(左)、鈴木裕人さん(右)

「私たちのクライアントは普段DMを送る側であるけれど、送られる側ではないので、DMが届いた時の気持ちを味わう機会は少ないんじゃないかと思います。DMを開けた時の感動や驚きを届けたくて、毎年、力の入った年賀状を送るようにしています。このような感動を顧客にも届けたいと、問い合わせや CRMを重視した案件の受注も増えています」(小泉さん)

箱を開けるとVR用のグラスと、小冊子が入っています。この冊子に書かれた物語を読んだ後に、同封のQRコードにスマホでアクセスすると新年に向けたメッセージを織り込んだ動画が再生。続いて、VR専用の動画へ誘導されます。VRグラスを着用して視聴すると、360度眺めることができるパーティーの映像がグラスの向こうに広がり、自分が映像の中のパーティーに参加しているような疑似体験を味わうことができます。

「実は、この前年の年賀状でもQRコードを利用して動画に飛ばすという試みをしているのですが、デジタルと連携させることで、1枚のDMの向こう側にもコンテンツを用意し、新たな体験価値を与えることが可能です」(小泉さん)

また、このDMを大きく特徴づけるのが、送り先によって内容をカスタマイズした「バリアブル」な設計です。VR動画の最後には、パーティーに参加しているダイレクトマーケティングゼロ社のメンバーが担当するクライアントに向けたメッセージを掲げて踊る様子が流れます。

「企業ごとに映像を撮影しています。大変でしたが(笑)、クライアント企業からの反響がよくて、SNSでもシェアしていただきました。DMって、やはり開封してもらったり、読み込んでもらったりすることがなかなか難しいんです。そこで、受け取った人の企業名や名前などパーソナルな情報が盛り込まれていると、見てよかった、楽しかったと思ってもらえます。どうすれば面白いと思ってもらえるか、今回のVRしかり、仕掛けづくりには普段から気をつけています」(小泉さん)

デジタルとアナログを連動させてメッセージを届ける

今やメールやSNSなど、デジタルでのコミュニケーションが全盛の時代。そんな中で、DMはどのような役割を果たすのでしょうか。

「全体のコミュニケーション設計の中で、DMをどう位置づけるか、どう効果を最大化するのか、という考え方が昔と変わっていると思います。例えば、金色のDMを送るとしましょう。『何か金色のものが来てるな』という記憶に残るDMを送付後、メールで『あの金色のDMにはこんなことが書いてあるんですよ』と内容を説明するという仕組みです。DMとメールを別々に考えるのではなく、いかに連携させるかという時代になっていますね」(鈴木さん)

アナログのDMは、実はデジタルネイティブの若者たちにも有効だといいます。

「若者たちはLINEやSNSなど、日々デジタル環境で膨大な情報を受け取っているので、メールを送っても埋もれてしまいます。一方で、そもそもDMを受け取る機会が少ない若者にとっては、DMは目につきやすい存在でもあります。メールを見てもらうためのきっかけとしてDMを活用することは有効です。もちろん、購入の入口はやはりネットショッピングなど、デジタルになってくるのですが」(鈴木さん)

近年のDM施策のキーワードは、「One to One」であると鈴木さんは指摘します。

「以前はDMといえば、同じ内容で一度に何万通と大量に送ることが普通でした。しかし、今は購買データなどからお客様一人ひとりの行動や嗜好性を把握できる時代です。例えば、年5回商品を購入してくれている人に送るDMと、一度も購入したことがない人に送るDMとでは、伝えるメッセージは変わってきますよね。多くの人に一律のメッセージを届けるのではなく、お客様それぞれに合わせてDMの内容をカスタマイズしていくことで来店率が上がったりします。コストはかかりますが、全体のLTV(顧客生涯価値)から見ると効果が期待できます。」(鈴木さん)

受け手にとっても、無作為的、機械的に送られてきたように見えるメッセージよりも、個人に向けられたパーソナルなメッセージの方が心に響くはずです。先に紹介した「貴方の会社が突然主人公になる!360度VR DM∞」も、企業名といったパーソナルな内容を盛り込むことで、大きな反響を得ることができました。

必要なのは一人ひとりに寄り添ったコミュニケーション

そのような流れから近年増えているのが、お客様と接する担当者を決めて一貫してコミュニケーションする、というDMの手法です。

「例えば、そのお客様の担当者をイラストなどのキャラクターに仕立てて、毎回DMに登場させます。実際に会う人、メールでやりとりする人、DMに登場する人、すべてに一貫して同じ人物が登場することで、お客様にとっては一緒に伴走してくれる人がいるような、寄り添ってくれているような安心感があり、継続率が上がる傾向があります」(鈴木さん)

鈴木さんは、最近は特にDMを受け取る側の人たちが、“誰から送られているのか”ということを気にするようになったのでは、と感じるとも言います。背景にあるのは、大量に送られてくるメールやDMに対する不信感。そういった意味でも、企業ではなく個人が前面に立ったメッセージが受け取られやすいということも、うなずけます。

2018年は9周年にかけて「Q」つまりクイズをテーマにしたDMを作成。同梱のルービックキューブを解くと秘密のウェブサイトへ入るためのパスワードが現れます

情報過多の時代に、いかにして生活者の心までメッセージを届けるか。その課題を解決する上で、「モノ」としてのアナログのDMはまだまだ効果的なツールのひとつです。必要なのは、デジタルとアナログを分けて考えるのではなく、互いをうまく連動させたコミュニケーション設計。そして、内容面ではこれまで以上に一人ひとりの受け手に寄り添っていくこと。 そのために、今後ますますDMのクリエーティブも「One to One」を意識したアイデアが求められそうです。

Written by:
BAE編集部