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新年度のスタートと共に、新しいノートを手にする人も多いのではないでしょうか。参考にしたいのは、トップクリエイターたちのノートの中身。Webを中心にユニークな作品を発表し続けている株式会社ブルーパドルの代表/プランナーの佐藤ねじさんに独自性のあるアイデアを生み出すノート術について話を伺いました。
ありがちなアイデアにならないためにノートを活用
「5歳児が作った工作を販売するECサイト」「読めば読むほど紙のように色褪せていくWeb記事」…コンセプトを聞いただけでも「その発想があったか」と思わず唸る、そんな驚きと発見に満ちたコンテンツを発表し続けているのが、株式会社ブルーパドルの代表/プランナーの佐藤ねじさん。「GOOD DESING AWARD 2015:BEST100」「Yahoo!クリエイティブアワード 一般の部:グランプリ」など、数多くの賞を受賞しています。
クライアントワークのみならず、個人的な作品もインターネット上で数多く発表し、共感とシェアを集めています。
ねじさんの発想の源となっているのが「ノート」に書きためたアイデア。そのノウハウをまとめて、「超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方」(日経BP社)という本を出されています。
「アイデアを求められた時に出てくる案って、例えば『ビットコイン』『オリンピック』など、直近の出来事やニュースに影響されていることが多いんです。その場の思いつき感があるというか、思考の範囲が狭くなり全部出し切った感じがしません。でも、過去に自分が面白いと思ったことをメモしておけば、そこの差分を補えるんですよね」
実際に、意見を求められた時にノートを開いて出したアイデアが採用されるということを何度も経験しているそう。
「メモを取らずに、パッとアイデアを出せる天才肌のプランナーももちろんいます。僕はどちらかというと(アイデアを)ためる派。よく『忘れてしまうアイデアは大したものではない』と言いますが、忘れてしまう中にも、優れたものはあると思うんですよね。思いついた時は夢物語でも、テクノロジーなど時代が追いついた時に意味を持つこともあるんじゃないかと」
日常的にメモをすることで、アイデアに幅が出せるとも言います。
「(クライアントからの)お題ベースで考えていくと、アウトプットがどうしても真面目になってしまいがちです。一方で、日頃から考えてノートにメモしているフリーなアイデアは制約がない分、奔放な感じがある。真面目なアイデアと、奔放なアイデア、両方ある方がいいですよね」
2軍ノートに記録し、選りすぐりを1軍ノートに集約
「メモ魔」を自称するほど、さまざまな項目を記録しているねじさん。iPadを使って、アイデアメモのほか、「過去の実績管理」「読書メモ」「議事録」「目標」「タスク」など複数のノートを作って、細かく情報整理をしています。
「紙と違ってデジタルは一元管理することができるので、複数のノートを運用しても一覧性は失われません。また、デジタルはやり直しが簡単なので、紙のように失敗を恐れずにどんどんメモできます。枚数を気にしなくていいですし、ストレスがなくトライすることが可能です。僕もコーヒーにハマった時にコーヒー専用ノートを作ったのですが、10日で終わってしまいました(笑)」
ねじさんのノート術は、「1軍ノート」「2軍ノート」を使い分けるというもの。「2軍ノート」には、気づいたことを思いつくままにメモし、「1軍ノート」は「2軍ノート」に書かれたネタから厳選されたアイデアが、手描きのイラストとともにまとめられたもの。1軍、2軍とランクづけをすることで、アイデアをメモする心理的ハードルが下がるそうです。
「まず思いついたネタや気になったことをスマホでメモしていきます。たまったネタは週に1回、時間を作ってEvernoteの『今週のアイデア』というノートブックに整理して一元管理。この2軍ノートを時間がある時に見返して、1軍ノートに選りすぐりのネタをまとめます」
メモを仕組み化することで、アウトプットの量を安定化。さらに、2軍から1軍に昇格する際にも、元のネタに手を加え、より魅力的に成長させます。この1軍ノートにたまったアイデアが、ねじさんの心強い戦力となります。
「5度ずらし」発想を生み出すための視点
ノートの整理法だけでなく、アイデアのヒントを拾い上げる「視点」も大事です。
「日常に潜む、仕組みやルール、フォーマットなどに注目しています。これはこうあるべきという人々の『思い込み』を崩すと、奇抜なアイデアが生まれやすいんです。
例えば、『時報サービス』って時間を正確に伝えるものですよね。でも考え方を変えて、24時間ずっと女性が時を刻み続けるサービスだと考えると、急に違和感が出てくるじゃないですか。そこから『あの女の人が、あの声で時報以外のことをしゃべったら面白そうだな』と考えて、メモするんです。
フォーマットの中に『ずれ』という異物が入ると違和感が生まれる、その違和感が面白いんですよね」
既存のフォーマットにちょっとした変化(ずれ)を与えて驚きを生む、ねじさんはその振れ幅を「5度」と表現します。そんな「5度ずらし」発想の実験場となっているのが、株式会社ブルーパドルが運営している「変なWEBメディア」です。
例えば「画面を越えるWEB」という作品。記事を読んでいると画面上に蚊が次々と現れ、画面下の「蚊取り線香ボタン」を押すと、蚊が落ちるだけでなく、記事中の「か」という文字も落ち、最後には驚きの結末が訪れます。
「蚊って本当に小さいから、パソコンの画面だとすごくリアルに見えるんですよね。これが現実なのか演出なのか、曖昧になるあの違和感を表現したかったんです」
パソコンの画面にとまった蚊が偽物だとわかった時には「してやられた」という楽しい驚きが生まれます。
共感性の高い体験をベースに「もし蚊が偽物だったら」という5度ずらしの視点を加える。実体験を元にしているそうですが、誰もが見過ごしてしまうこの日常の違和感を捉えたねじさんの視点の妙が効いたアイデアです。
時代に染まり過ぎない独自のアイデアを生み出すために
ねじさんはノートに記録したアイデアを「資産」と捉えます。
「過去に残したアイデアは、その時の自分が思いついたからこそ価値があるんだと思います。例えば、2011年3月11日周辺にメモした内容には、さまざまな感情が付随していると思うんです。そういった過去のアイデアを生かしていく。トレンドやマーケティングに沿って生まれた企画ももちろん大事なんですけど、アイデアに自分らしさや独自性を込めることは難しいですよね」
瞬発的な発想だけに頼るのではなく、ノートへストックしたメモを参照することで、独自性のある良質なアイデアを安定してアウトプットできる仕組みを作る。ねじさんの実践しているノート術は、日々、人と違うアイデアを求められるビジネスパーソンへの大きなヒントとなりそうです。
- Written by:
- BAE編集部