2018.06.29

360通りの“ヴィレヴァンらしさ”を支えるブランディング

“ここにしかない”価値を高める流儀

ヴィレッジヴァンガードと電通テックのコラボレーションによって生まれた、ヒット商品「脳麺」。前回の記事では、ヴィレッジヴァンガードコーポレーション 事業開発部 部長・姫野文信氏と、電通テック アートディレクター 石原絵梨氏が、当時話題となったクリエーティブを振り返り、ヒットの理由を探りました。

その対談を行ったのは、ヴィレッジヴァンガード 渋谷本店。店内にはずらりと商品が並び、さらにそのすべてが、思わず足を止め、手に取りたくなるようなアイテムばかり。

同社は1986年の創業以来、“カルチャーの殿堂”を標榜し、独自の視点でカルチャーやトレンドを発信し続けています。そんな同社のアイテムへのこだわり、“ヴィレヴァンらしさ”を維持するブランディングや商品セレクトについて、前回に引き続き、ヴィレッジヴァンガードコーポレーション 姫野氏にお話を聞きました。

目次

360店舗ごとの“ヴィレヴァンらしさ”

姫野文信氏

――ヴィレッジヴァンガードは、どの店舗をいつ訪れても、オリジナリティあふれる魅力的なアイテムが並んでいる印象があります。どうやってヴィレッジヴァンガードらしさを維持しているのでしょうか?

ヴィレッジヴァンガードは、本部と店舗、それぞれに商品の発注権があります。そのため共通で置いてあるアイテムもあれば、その店舗にしかない商品もあるんです。

現在、全国に360店舗あるのですが、店舗ごとの客層・ニーズに合わせ、商品ラインナップ、店頭ポップも異なります。しかしそれでも、どの店舗を訪れても360通りの“ヴィレヴァンらしさ”を感じることができるはずです。

ちなみに、現場のスタッフが選ぶものは、自店の客層や好みを考慮したものもあれば、単純に「自分がいいと思ったから」というものまで、さまざまです。基本的に公序良俗に反するものでなければ、何でもアリにしています。

その自由さが店舗ごとのオリジナリティや“ヴィレヴァンらしさ”を生み出しているのだと思います。店舗ごとのおすすめと、ブランド全体としてのおすすめ。両方が並ぶことで、独自性と売上の両方を担保できるように本部はバランスを調整している感じです。

ただ、その自由さを支える本部は、全360店舗、各120万前後のアイテム(SKU)を管理していますから、非常に大変ではあります(苦笑)。そうした苦労があるからこそ、360店舗それぞれのオリジナリティが守られているとも言えますね。

――そうした背景を考えると、御社と電通テックが生み出した「脳麺」は、“ヴィレヴァンらしい”商品だったように感じます。

脳麺

そうですね。普通に考えれば、奇抜なフードではありますが、ヴィレッジヴァンガードのカラーを考えれば、決してチャレンジングな商品ではありませんでした。むしろ当初から店舗の反応もよかったですし、首都圏を中心に人気商品になったことも、“ヴィレヴァンらしい”と多くの方に感じていただけた結果だと受け止めています。

店内のアイテムの共通点は「SPICE」

――店舗が独自で仕入れた商品と並んでも「脳麺」に違和感がなかったのは、そこに“ヴィレヴァンらしさ”があったからだと思います。商品をセレクトする際、全店で共通のルールなどはあるのですか?

“ヴィレヴァンらしさ”を言語化した「SPICE(スパイス)」という言葉があります。

Sはセレクト、Pはポピュラー、Iはインテリジェンス、Cはカルチャー、Eはエンターテインメント。それぞれの頭文字を取って「SPICE」です。この5つの要素を持つ商品は、現在でも“ヴィレヴァンらしい”と言えると思います。

店内に並ぶ商品はどれも個性的で、“ヴィレヴァンらしい”ものばかり

さらにその5大要素に加え、「POPが作りやすいとなおよし!」です。というのも、現場スタッフが作っているPOPの影響力は甚大なんです。そのため、“ヴィレヴァンだから売れるもの”という商品もこれまでに存在しています。

たとえば以前、とてもまずいアメリカのお菓子を仕入れてしまい、どうやって売るかを考えて、「めちゃくちゃまずいです!罰ゲーム用にどうぞ!」とPOPを書いたところ、飛ぶように売れた、なんてこともありました。

つまり、ヴィレッジヴァンガードでは、売り場のスタッフの発想や売り方次第で、他店では売れないものも売ることができるんです。さきほどの話は、食用ではなく、罰ゲーム用の商品として、「使い方を提案した」ことで売れた事例とも言えます。視点を変えて商品をおすすめする。これも弊社の得意とする分野です。ある意味で、接客だけでなく、POPを通じても、お客様とコミュニケーションをしている部分があり、その点も“ヴィレヴァンらしい”特徴のひとつですね。

また、ヴィレッジヴァンガードのツイッターアカウントは、公式、オンラインショップ、各店とわかれているのですが、どのアカウントも多くのフォロワーを抱えています。SNSの登場により、店舗とお客様とのつながりは、より強くなった印象があります。

――そんなヴィレッジヴァンガード全店を通して、どんな商品が現在、人気がありますか?

ヴィレッジヴァンガードといえば、「遊べる本屋」のキャッチコピーで知られていますが、店内には雑貨や衣類、コスメ関係も多く取り揃えています。5年ほど前から食品関係も扱うようになり、さらにアイテムの幅は広がりました。

最近は、若い子を中心に「韓国トレンド」のブームがありますが、ヴィレッジヴァンガード全体でも強いですね。コスメはもちろん、食品に関しても韓国から輸入しているアイテムの売れ行きはいいです。たとえば最近だと、「ヨーグルトグミ」はブームになっていて、多くの店舗で人気商品になっています。

最近ではアパレル関係、Tシャツも人気商品のひとつだそう

“ここでしか買えない”を重視し、情報収集に注力

――他にも、ヴィレヴァン発のヒット商品は多くありそうですね。

はい、いくつかあります。少し前ですと、CGアニメ「ゴールデンエッグス(The World of GOLDEN EGGS)」は、弊社の文化である“掛け流し(店内で映像を流すこと)”から注目を集め、日本全体で大きなブームとなった例もあります。

――どれも個性的な印象のヴィレッジヴァンガードのアイテム。その魅力とは、何だとお考えですか?

仕入れで意識しているのは、“ヴィレヴァンでしか買えない商品である”ことです。ヴィレッジヴァンガードは約5000店の問屋と取り引きがあり、日々それぞれの問屋とバイヤーたちが情報交換をし、気になったアイテムを仕入れています。

他にも各バイヤーはSNS、知人などを通じて日々、独自に情報収集していますし、本部も新聞・雑誌をチェックし、各業界の動向を見ながら、どんな商品カテゴリーが時代にマッチしているかを研究しています。また、商品部には毎月、500件近い売り込みがありますので、そのすべてに目を通し、きらりと輝くダイヤの原石を見つけるケースもあります。

そうした努力の末、店内に新しいアイテムが投入され、来るたびに“ここでしか買えない”新しいものに出会える店づくりがされています。

――“ここでしか買えないもの”という意味では、オリジナル商品も非常に重要な意味を持ちそうですね。

そうですね。それこそオリジナル商品は“ヴィレヴァンでしか絶対に買えないアイテム”ですから、ニーズは高いと感じていますし、増やしていきたいとも考えています。

全体で扱うアイテム類が増えているのは、「遊べる本屋」としてスタートしたヴィレッジヴァンガードが進化し続けている証拠だと考えています。その次のステップとして、オリジナルを増やしていくことも、前進する上では重要なことです。

ですから「脳麺」のように、社外のデザイナーとのコラボレーションは、今後の弊社にとっても大きなプラスになる出来事だったと思っています。今後も、本部と店舗、そして外部のパートナーさんたちとしっかりと手を組み、“ヴィレヴァンらしさ”をより強固なものにしていけたらうれしいですね。

ヴィレッジヴァンガードは1986年の創業から今日まで、“カルチャーの殿堂”であり続けています。その背景には、時代やニーズに合わせたアイテムセレクト、その実現のために実施している細やかな情報収集、さらにツイッターアカウントを各店で運用し、リアルとデジタルの双方でユーザーとつながるといった施策があります。

また店舗に足を一歩踏み入れれば、“意図的に”膨大な商品点数が雑多に陳列され、ワクワクするような独自の空間が広がっています。そこには、“探す楽しさ”という余白が存在しています。
 
時代が変わり、ユーザーが求めるアイテムは変わっても、“モノを探す楽しさ”は変わりません。これからもヴィレッジヴァンガードは、リアルとデジタル、それぞれの強みを活かしながら、ユーザーに“楽しさ”を提供し続けるのではないでしょうか。

Written by:
BAE編集部