エンタメやSNSでのコミュニケーションを盛り上げるVRアバター。最近では、スーパーや百貨店の売り場や、イベント、展示会会場、観光地、飲食店などのモニター上にも登場して、プロショッパー(店頭等で販促を行う販売士)やガイド役、接客スタッフとして活躍する例が増えています。
VRアバターによる接客や対応には、どんな課題解決や、メリット、効果が見込めるのでしょうか。また、VRプロショッパーやVRガイドを活用し、現場に好循環を生むコツはどこにあるのでしょうか。
2018年から「バーチャルプロショッパー」を展開するアドパック社の宮城さん、石川さん、坂さんにお話を伺いました。
※「バーチャルプロショッパー」は株式会社アドパック&VPCが商標登録申請中です。
プロ販売員が全国へ出張。商品や情報の価値を向上させる
——活用が広がっている「バーチャルプロショッパー」。店頭やイベントなどで目にすることも増えてきましたが、なぜでしょうか。
宮城
VTuberの活躍やVRテクノロジーの進化によって、VRと身近なサービスとを融合させた展開が可能になってきたということが大きな理由ではないでしょうか。
私たちも、長年取り組んできた売り場の支援を中心に、VTuberや3DのVRアバターを活用したソリューションを展開しています。例えば、店頭にモニターを置くだけで、遠隔操作によって販促のプロであるプロショッパーが全国に出張できるといった形です。
——技術とコストのバランスもとれてきたほか、VRへの認知が広まってきたことで、VRアバターの活用の場も増えているようですが、どのような課題の解決に役立つのでしょうか。
宮城
アバターをインフラとして利活用することで、商品や情報の認知や価値を向上させたり、コンテンツとして売り場を盛り上げられるといったメリットで注目されています。
距離を超えて働けますから、省人化や潜在的な人手不足の解消や教育コストの削減に繋がります。スキルのある人材の補充や、専門知識や技術を持つ人の活躍の場も増やせます。
ちなみにVR業界の一部では、アバターの中に入る人は、“魂(たましい)”と呼ばれています。自社のスタッフが魂となるケースもあれば、特別な知識や技術を持つプロや専門家がなるケースもあり、クライエントの目的や考え方によってコーディネートしています。
アバターの外見についても、汎用性の高いごく一般的な3Dキャラクターが用いられる場合もありますし、お店やブランド専用のオリジナルキャラクターの場合もあります。IP(知的財産)を持ったタレント性の高いVTuberが求められるケースもあります。
例えば、こちらは2018年12月に小売業初(※)のVRプロショッパーとして滋賀県のスーパー「平和堂」でデビューした「鳩乃 幸」さんです。
※ アドパック調べによる。
宮城
1日4回のライブ配信による対面販売やイベントを行ったところ、合計273名のお客様とコミュニケーションをとることができました。この際は、PBブランドのシュークリームの販売数が前週比で約3倍になるという結果が出ています。
売り場に活気と期待感を生む力がある
——その他では、VRプロショッパーをどのような形で活用しているのでしょうか。
石川
別の大手スーパーでは、接客員の姿をしたアバターにスタッフが入り、売り場で一般的な接客を行っています。同じく大手総合スーパーでは、オリジナルキャラが、YouTube上ではVTuberとして、売り場ではVRプロショッパーとして活躍しています。着ぐるみがリアルイベントに登場する日もあるようです。同様に、アバターをブランディングと連携させていく取り組みも多いですね。
——販促の効果を示すデータを教えていただけませんか。
石川
例えば、昨年関東エリアのスーパーではバーチャルプロショッパーを用いて、午前中1回、午後2回にわたって、ミニクロワッサンの試食販売を実施しました。この際は、販売実数が前年比で約176%という結果が出ています。当日の全店中で断トツ1位の売上となり、実数は2位の店の2倍に上りました。
また、近畿、中国エリアの家電量販店では、バーチャルプロショッパーがパソコンの新商品のポイントを解説する10分間のミニセミナーを実施しました。こちらは、4週間に渡って、2店舗で合計48回行いました。結果的に50台以上が販売され、当時全国で最もPCを売っていると言われた競合店の成績を抜いたそうです。
石川
その他にも、「カップラーメンの試食販売を2日間で6回行ったところ、同一エリア内のトップ店の記録に並んだ」「年間に数本しか売れなかった調味料が1日で数十本売れた」等の事例があります。
——お客様を惹きつけるための、VRプロショッパー側のコツなどはあるのでしょうか。
宮城
お客様への声かけや対話は重要ですから、トークスキルやアドリブ力があれば強いですね。ただ、商品知識との兼ね合いも重要です。
インバウンドに外国語で話しかけたり、地域性に配慮して方言で話しかけるといったローカライズも場合によっては有効でしょう。
石川
お客様を惹きつけるという点では、「お買い物中の皆さん」「そこの青いコートのお姉さん」といった形で、臨機応変に呼び掛けを出し分けて、一度応えてもらえると、長く会話を続けてもらうことができますね。
中でも、お話好きなシニアや外国の方は、長く対話を楽しんでくれるケースが多いようです。特に、子どもはほぼ反応しますから、それをきっかけに、周辺の多くの人の意識や視線が集まることも多いですね。新鮮なコンテンツとしてインサイトするものが大きいようです。
販促の場合、ロングトークが成立したほうが買い上げ率は上がります。一般的な試食販売等と同様に、対話の楽しさや親近感によって顧客がファン化することで、「その人から買いたい」という気持ちになるのだと思います。
試食を交えた土日のイベントの次の週に、「この前アバターが紹介していた商品はどれ?」という問い合わせが入ることもありました。強く印象付けることができるようで、販促効果の持続も期待できそうです。
石川
「伝えたい商材や環境に合わせて印象や見た目を変えられる」ことも、VRアバターの大きなポイントであり、メリットですね。
野菜を売る時には野菜博士に、パンを売るならパン屋さんらしい服装に、と瞬時に変身することは、生身の人間にはできません。視認性を向上させ、情報をより直感的に届けることが可能です。
——VRプロショッパーを展開する、店舗側のコツとしてはどういったことがあるでしょうか。
石川
VRプロショッパーを登場させるモニターの位置を、カスタマージャーニーとうまくマッチさせることが重要です。商品の陳列状況、売り場のゾーニング、通行量などを鑑みてコーディネートする必要があるでしょう。
VRプロショッパーの正面に陳列した商品は、正直手に取られにくいのですが、レコメンドを聞いたあとに、通常の棚で商品を手に取ってくださるお客様も多いので、「見せ場」と「買い場」の位置がうまく連携できればベストです。
CVをどこに設定するかによっても変わります。商品理解や認知、ブランディングを取りたいなら店頭もいいのですが、販売実数を上げるなら、多くは売り場内のほうが効果的ですね。
——VRプロショッパーと特に相性のいいジャンル等はあるでしょうか。
石川
明らかに手応えがあるのは家電量販店ですね。VRに対する来店客のそもそもの期待感やリテラシーが高いため、テクニカルな商材の販促が受け入れられやすいようです。スーパーや百貨店で言うと、お客様が「試しに買ってみよう」と思える数百円のものや、もともと売れているものがさらに売れる傾向にあります。
——VRプロショッパーの魅力をどのようにとらえられていますか。
石川
VRプロショッパーが店頭で評価される理由の一つに、「活気を作り出す力」があると思います。いいお店には活気があるわけですが、活気はただ待っていても生まれません。誰かが作り出す必要があります。
その点、VRプロショッパーが売り場に登場すると、「何かをやっているお店だな」というお客様の期待感や、「いつもの店」という日常に非日常的な魅力が生じて、明るい活気が生まれます。その力はぜひ体感してほしいですね。
常設展開や無人店舗への活用が進む可能性
——イベント、展示会などでの活用も増えているようですが、感触はいかがでしょうか。
石川
VRアバターには行き交う来場者の視線を惹きつける力がありますし、広く呼び掛けることで、ブースや説明スタッフに近寄ってもらえるといった効果があります。
同時に、画面内にQRコードや画像、動画を表示して、より多くの情報を伝えることも可能です。ちなみに、私自身がセミナーへのバーチャル登壇を行ったこともありますが、会場の反応は上々でした。
——AIやその他の技術によるサービスの進化はあり得るでしょうか。
宮城
簡単な質問であればAIが応えるといった進化は近い将来実現しそうですね。また、データ活用にも多くの可能性があるでしょう。現在も、モニターを見ている人の年代や属性、何秒間立ち止まったかといったデータを取得できますが、今後はより高度なマーケティングやオムニチャネル化に直結する形でのデータ分析などが求められるようになるかもしれません。
——接客等にまつわるVR活用の展望を、どのようにご覧になっているでしょうか。
宮城
大手通信会社がVRと5Gの連携に関する展望を強く打ち出していますし、販売だけではなく、航空会社やセキュリティなど、様々な産業がVRを現場に取り入れ始めました。マーケットとして確実に広がっていくでしょう。
個人的には、VRプロショッパーを常設展開する店舗や受付が増えてほしいと考えています。アバターとユーザーが交流することへの慣れや、話しかけやすい環境づくりが進めば、無人店舗や24時間営業の店舗などへの活用も可能になり、VRの新しい価値が拡大するでしょう。今後もVRのインフラとしての活用に尽力していきたいと思います。
社会インフラとして定着しつつあるVR技術。特別なコンテンツとしてではなく、スーパーの店頭などの身近な場所でも、ワークスタイルや人と人とのコミュニケーションに新たな価値を生み始めています。今後はAIとの掛け合わせや、データ取得によるOMOへの活用などへの期待も高まりそうです。
- Written by:
- BAE編集部