2020.03.18

拡大するメンズコスメ市場! その背景と現在地、ポテンシャルとは?

+tech labo 堀かおり×メンズメイクアップアーティスト 高橋弘樹

近年、メンズ向けビューティー市場が世界的に注目を集めています。そこに着目したのが、電通テック +tech labo(プラステックラボ)研究員の堀かおり。2018年末よりZ世代男子に向けて、InstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)を通じてメンズコスメ関連の情報を発信するなかで、「そのニーズの高さに、たしかな手応えを感じている」と語ります。

今回は、アカウントの運用、メンズコスメ体験イベントでも協業している、メンズメイクアップアーティストの高橋弘樹さんと対談。「拡大するメンズコスメ市場の背景とポテンシャル」をテーマに、意見を交わしました。

目次

若年層を中心に拡大している、日本のメンズコスメ市場

(左)メンズメイクアップアドバイザー・高橋弘樹さん、(右)電通テック +tech labo 研究員・堀かおり
(左)メンズメイクアップアーティスト・高橋弘樹さん、(右)電通テック +tech labo 研究員・堀かおり

私はSNSが大好きで、その延長で「メンズコスメ」の存在を知りました。その瞬間、“これは今後、必ず拡大する市場だ”と感じました。

高橋

たしかに、メンズコスメは、ダイバーシティが声高に叫ばれる現代の風潮ともマッチしていますし、その直感は正しいと思います。もはや「男だから」「女だから」という観点で物事を捉えていては、次のトレンドは読みづらい時代ですよね。

はい。その後、市場調査会社の富士経済の調べで、メンズコスメ市場は2018年までの10年間で約20%伸び、1,200億円近くに達していると知り、直感から確信に変わりました。

高橋

確実に、メンズコスメへの関心は若年層を中心に高まっていますし、それがそのまま数字にも表れているんでしょうね。

同時に、私の所属する+tech laboは、「次世代のプロモーション」を創造するのがミッションですから、“自分がやるべき仕事”を見つけた気がしました。なぜなら、若い人の文化は、大人からすると理解しづらいもの。その架け橋になりたいと思ったからです。

高橋

いつの時代も、どの国も、新しい文化は若者から生まれていますよね。現在マンガがこれだけ市民権を得たのも、新しいカルチャーが定着した証拠であり、メンズコスメが同じ道を辿る可能性も十分にあると思います。

はい。2015年頃から日本で「ジェンダーレス男子」がメディアで活躍し始めたことで、男性でもメイクをしたり美容に対して高い意識を持ったりすることが“おしゃれ”の一環であると受け止められるようになってきました。 実際、私の友人の中にも、メンズコスメを使っている男性がいて、彼らは情報が少ないため、女性の友人に「いいコスメがあったら教えてほしい」と相談していました。ならば、現状まだ少ないメンズコスメ情報を発信しながら、彼らのインサイトを分析・言語化し、大人たちとつなぐことができれば、誰もが生きやすい、よりよい社会の実現に貢献できるかもしれないとも感じました。目標は「男性が人目を気にせず、普通にコスメを買える社会」を作ることです。

高橋

たしかに、メンズコスメは、新しいカルチャーですから、日本では商品も情報も不足している印象ですし、現時点では「堂々と男性が化粧品を買える世の中ではない」かもしれません。

一方で2018年にシャネル、その後、日本の大手化粧品メーカーも続々と参入していますし、新しいカルチャーではあるものの、各社が現在、メンズコスメ市場に「ビジネスチャンスを見いだしている」という事実もあります。

高橋

なのに、プラットフォームがなかった。そこで、InstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)を立ち上げることを決め、僕に声を掛けてくれたわけですよね。

はい。それが2018年ですから、“まさに、ここから”というタイミングでスタートを切ることができました。また、Instagramを事業で活用しているLIDDELL株式会社に一人飛び込みで話を持ちこんだところ、同じくメンズ市場に興味を持っていたタイミングで協業を即決してくださったのも大きかったです。何事もアクションが大事ですね。
こうして、Z世代の男子をターゲットとしたBoys Beautyを立ち上げました。当初はリポストを主としておりましたが、それでは彼らが求めるような情報を提供できないと気付き、現在のようにオリジナルの投稿も制作するようになりました。常に反応を見て、フォロワーやアンバサダーの子たちから直接意見を聞いて、コンテンツ制作をしています。

InstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp
高橋

現在メンズメイクのなかで、特に盛り上がりを見せているカテゴリーが大きく3つあると僕は思っています。まず、好感度アップにつながる「身だしなみ系」、次にZ世代の男性から需要の多い「韓国メイク」、最後に中性的に仕上げる「ジェンダーレス系」です。

現在、シャネルや日本の大手化粧品メーカーが参入しているのも「身だしなみ系」としてのメンズメイクのカテゴリーですよね。

高橋

はい。メイクと聞くと、すごくハードルが高く感じる人もいると思うのですが、実はリップで保湿することも「身だしなみ系メンズメイク」のひとつに入りますし、気がついていないだけで、すでにメンズコスメに多くの人は触れているんです。

SNS時代だからこそ広がった、メンズメイク

最近だと、就活セミナーでも「身だしなみ」として、BBクリーム(スキンケア・下地・ファンデーションの機能を持つコスメのひとつ)の使い方をレクチャーするそうです。やはり面接においても見た目は重要ですし、就活をきっかけに、メンズメイクにハマる人も多いみたいですね。

肌荒れなどを隠す、メンズコスメの入門編アイテム・コンシーラー
高橋

それに、SNSの影響もあると思います。現代は自撮り文化がありますし、スマホで自分の顔を撮影することも多く、男女問わず、加工アプリを利用するのが当たり前になっています。そのなかで、「アプリに映る自分になりたい」と考える若い男性も増えていると感じます。

SNSの根底には「よく見られたい」という願望がありますから、SNS文化とメンズコスメが上手く結びついた可能性は大いにありそうですね。たとえばさきほど出た、若い男性の「韓国メイク」を知ったきっかけは、SNS経由という方が多い印象がありますし、SNSとメンズコスメの親和性は非常に高いともいえるのではないでしょうか。

高橋

そうですね。SNSを通じて、メンズメイクをしているユーザーに出会う機会も増えていますし、若い人からすれば、メンズメイクに否定的な方は少数派になりつつあると思います。個人的には、メンズコスメのビフォー/アフター動画で人気を博し、現在も美容系ユーチューバーとして活躍する、はてにゃん、よききの登場は大きな影響を与えたと思っています。  

すっぴんを晒し、メンズメイクの効果を広く伝播した、はてにゃん

よききのYouTubeチャンネル登録者数は、120万人以上います。このことからも、「メイクに関心のある男性」ユーザーが彼から情報を得ている現状がうかがえます。

メンズメイク動画が人気の「よきき」のYouTube
高橋

よききが披露しているメンズメイクは「ジェンダーレス系」のもので、女性同様、下地からファンデーション、アイメイクまで施すことで、いわゆる“整形メイク”を実現するものです。その変わり方に衝撃を受けたユーザーは多く、顔に自信を持てないユーザーに、勇気と希望を与えることになりました。

「きれいになりたい」と願う女性は多いですが、実は男性でも同じ思いを抱えている方は多かった、ということが証明されたわけですよね。

高橋

そうですね。Z世代の若者たちは、お手本となるインフルエンサーを自分のなかで数人フォローしていて、その人たちを指針にしているところがあります。はてにゃん、よききは、そのひとりになっています。

「吹き出物ができたからググる」のは、ひと世代前のユーザーの消費行動で、現代の若者は、SNSを情報源にしています。ですから、彼らの影響は大きかったと思います。

高橋

はい。フォローしているインフルエンサーのレコメンドを信頼する傾向にあります。いまは情報の多い時代ですから、お金を使う選択肢も多い。そのなかで、何にお金を使うかというときに、インフルエンサーの言葉は、彼らにとって非常に大きな意味を持っているように感じます。彼らの消費や行動は“ヒト起点”であるケースがとても多い傾向にあります。

知名度よりも、自分と価値観が合うかどうかを重要視していますよね。加えて、Instagramでは、ひとりフォローすれば、似ているユーザーが「おすすめ」されますから、新たなお手本に出会うこともできる。そうやって“自分らしさ”を形成しているんですよね。

いま必要なのは、「体験できる場」

現在、メンズコスメ市場を牽引しているのは、韓国だといわれています。アジアでは他に中国、そして日本が市場を拡大しているイメージがあります。

高橋

韓国は、芸能と美容が深く結びついていますから、メンズコスメとの距離が自然と近くなったのかもしれません。ちなみに、「韓国メイク」の発祥である韓国ですが、メンズメイクの主流は「身だしなみ系」です。しかしアイテム数が日本とはまるで違って、非常に豊富にあります。

比べて日本は、女性用のコスメは多く、種類も豊富なのに、メンズアイテムは少ない。ですがそれは、そこに大きなポテンシャルがあるともいえると考えています。時代的にも「男らしさ」の定義が曖昧になってきていて、「男は男らしく」という文脈もいまの若者に刺さるものではありません。むしろ「自分らしさ」が重要であり、そのひとつの要素として、メンズメイクはファッションの一部となって、浸透し始めているように感じます。

高橋

昨年、Boys Beautyのイベントを開催してみて、ニーズの高まりを肌で感じましたよね。

はい。高橋さんおすすめの500アイテムを無料で試せる、メンズコスメのタッチ&トライイベントには、若い男性を中心にご来場いただき、みなさんが心から楽しそうに、コスメに触れる姿が非常に印象に残っています。

高橋

やっぱり、何を選べばいいのか、わからないんですよね。その悩みを解決できる機会を作れたことは、非常に意義のあるイベントだったと思います。

一回目が10月、次いで12月に開催したイベントでは、5社のブランドにご協力いただき、商品を陳列したところ、これも非常に好評でしたね。現代ユーザーの美意識の高さを再確認するとともに、メンズコスメを試す場がいかに少ないかを知る機会にもなりました。

オンラインとオフラインのどちらのプロモーションも得意とする電通テックだからこそ、早々にオフラインイベントを実施することが出来ました。今年も引き続きオフラインイベントを実施するとともに、POP-UPストアなどのリテール分野にもチャレンジしていきたいと思います。

2019年12月に開催した、メンズメイクのタッチ&トライイベント「2019 X’mas Party」の様子
InstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp
高橋

課題やニーズが見えた以上、その解決も今後実現していきたいですよね。

はい。私の現在の目標は、日本初のメンズコスメのフェスを開催することです。そのためには、さまざまな企業と横断的に手を組み、多種多様なコスメを試すことができる場であることが重要だと考えています。

一方で、電通テックはすでに数多くの国内有名メーカーとの長いお付き合いがあります。そのつながりを活かし、さまざまな企業のハブとなることができれば、業界全体の市場拡大に寄与できるのではないかと感じています。自社の持つ強みを活かして、土台を作り、横断的に企業を結びつける。そこに新たなビジネスチャンスが生まれれば、自然と市場も活性化すると考えています。

高橋

メンズメイクに注目して、10年以上が経ちますが、ここ数年は、メンズメイクのカテゴリーも広がり、急速に広がりを見せています。メンズコスメが今後、さらなるブレイクをするためには「リーダー」(旗振り役)が必要だと感じます。それは決して人である必要はなく、Boys Beautyのようなコンテンツメディアであってもいいはずです。

Boys Beautyがメンズコスメをさらに大きなムーブメントにしていく立役者になれれば、時代は大きく変わると思います。

そして最終的には、はじめに言ったように「男性が人目を気にせず、普通にコスメを買える社会」を実現するのが夢です。日本におけるメンズコスメの市場は拡大傾向にあるものの、ブレイクまでもう少しという状態にあります。あと一歩、その背中を押すためには、リアルな場を設けて、タッチポイントを増やすことが重要だと感じています。

高橋

楽しいことは、続けたくなるもの。いま必要なのは、「商品を売る」ことではなく、「メンズコスメの楽しさを伝える」ことですよね。メンズコスメの体験価値は、“変身するわくわく感”にあります。だからとにかくまずは、一度体験してもらいたいですよね。

体験価値を知る人が増えれば、市場はさらに拡大するはずです。来年とは言いませんが、10年後にはきっと、メンズコスメは“当たり前になる時代”になっていると私は信じています。その未来のために、いまから動き出すことで、メンズコスメ市場のプロフェッショナルとなり、将来的に出てくるであろう企業ニーズに対応できるように、準備を進めておきたいと思っています。
たとえば、まだまだ少ない男性が試す場を定期的に設けたり、メンズ向けのパウダールームを設置したり等はぜひどこかの会社さんと、Z世代男子のリアルな意見も詰め込みながら実現してみたいですね! そのためにも、今後も高橋さんのお力を借してくださいね。

高橋

もちろんです! 今後ともよろしくお願いします。

こちらこそです! 一緒にメンズメイクの未来を開拓していきましょう!本日はありがとうございました。

高橋 弘樹

株式会社MBP.NEXT 代表取締役/メンズメイクアップアーティスト

男性のスキントーン(肌色)スペシャリストとして活躍するヘア&メイクアップアーティスト。長年にわたり蓄積した肌色データを活用し、現在は肌トラブルに対するアドバイスや各社コスメブランドの商品監修、男性の肌色にマッチする化粧品・メイクイベントの企画コンサルティングなど幅広い活動を行う。2018年より、電通テック +tech laboと協業し、Instagramアカウントの運用および各種イベントなどを開催している。

堀 かおり(ほり かおり)

株式会社電通テック +tech labo研究員

2014年電通テック入社。店舗運営や外資系企業のプロモーションに携わる。2018年5月より未来志向の開発型組織+tech laboの研究員となり、Z世代とSNSをテーマとして日々開発業務を行う。昨年末よりZ世代男子の美容に対する意識の高さに注目しており、彼らに向けて美容情報を発信するInstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)をLIDDELL株式会社と共同で運用している。

+tech labo
Written by:
BAE編集部