2019.01.15

継続されるシェアエコサービスに求められる「信頼」と「体験創出」

人気ファッションレンタルサービスが導き出したヒント

「シェアリングエコノミー(シェアエコ)」という言葉を耳にするようになってから数年が経ち、日本でもその概念が広く浸透しつつあります。ユーザーの消費動向もモノから体験へ、所有から利用へと意識が変わってきていると言われています。
プロのスタイリストが選んだ服を月額定額でレンタルできるサービス「airCloset」は2015年にスタートし、日本におけるシェアエコサービスの先駆けのひとつとも言えるかもしれません。同サービスを展開する、株式会社エアークローゼットの代表取締役社長 兼 CEO天沼聰さんに、利用者のニーズやシェアエコの可能性についてお話を伺いました。

目次

ライフスタイルの変化により求められるシェアエコサービス

――airClosetを利用されている方は、どのような方が多いのでしょうか。サービスをスタートされた当時と変化はありますか?

隙間時間をうまく活用したいという女性がメイン層であり、これは当初とほとんど変わっていませんね。そもそも、airClosetを立ち上げた理由が「ライフスタイル全般に浸透するようなサービスをつくりたい」と思っている中で、女性の時間の使い方が変化しているという点に着目したのがきっかけでした。女性は20代後半になってくると、仕事や結婚、出産、子育てなどステージの変化によりファッションへ投資する時間が減っていきます。だからといって、オシャレすることを諦めているわけじゃないんですよね。妥協はしたくないけど、時間がない。そこで我々は、今のライフスタイルを変えずに、生活の中でファッションと出合ってワクワクする体験をつくる、ということを目的にサービスを考えました。実際に、20代から60代まで幅広い層の方に使っていただいており、メイン層は30代〜40代。9割がお仕事をされている方で、4割強の方はお子さまがいらっしゃいます。

airClosetの利用者層。株式会社エアークローゼット サービス概要より
 

時間の減少以外にも、年齢やライフスタイルの変化による洋服の悩みを抱えていたりするのですが、雑誌など見る時間がない上に、それを相談する相手も周りになかなかいない方も多いようです。とはいえ、ただ購買履歴を元に商品のレコメンドをしてもらいたいわけではありません。時短だけが目的ではないんです。

このようなニーズをくみ取り、特別な体験価値を提供できるスタイリストがセレクトする提案型サービスにしました。 スタイリストに友人のように赤裸々な要望を伝える利用者もいらっしゃって、例えば、「次回、水族館デートに合うコーデにしてください」という相談もありました。サービスを利用することで、そういった悩みのサポートにもつながっているようです。

“環状物流”の仕組みにより蓄積された情報の利活用

――実際に登録してみて感じたのですが、かなり細やかにユーザーの要望や体形など聞かれますよね。

そのあたりは、スタイリストさんたちにどのような情報が必要か聞いて、改善しています。イメージとしては病院や美容院の個人カルテのようなものを作成し、そこに対してスタイリングやお客さまからのフィードバックを蓄積していくことで、精度が上がっていくようになっています。プロのスタイリストが行うスタイリング情報、それに対するお客さまの満足度、そして好みの変化なども、独自のスタイリング提供システムでまとめて管理をしています。

レンタルやシェアエコサービスのメリットはECと比べ、一度出庫した商品が戻ってくる“環状物流”の仕組みであることで、単に「購入された、されない」の情報だけでなく、「何のために購入(利用)されたのか」「その後、満足されたのか」といった、お客さまの実体験としての感想をデータとして取得できるところですね。数十万というコーディネートデータに対して、数十万という感想のフィードバックがあり、それらの膨大なデータをスタイリストが参照することで、より精度の高いパーソナルなレコメンドを実現することができます。

――高度なシステムの裏で「スタイリスト」という人間が動いているという点で、意外とアナログな印象を受けるのですが、どのようにAIを活用していますか?

AIによるスタイリングに関しては実際に様々なアルゴリズムを試してはいるのですが、人の手によるスタイリングの方が精度が高いのが現状です。例えば、お客さまの顔写真を見た時に想像をめぐらして、その人にマッチした服を選ぶというのがAIにはできないんですよ。そういった想像力が問われる部分に関しては、まだまだプロのスタイリストにはかないません。また、先ほどの水族館のお話のように、生身のスタイリストさんだからこその体験価値もあります。一方で、フィット率が高いお客さまとスタイリストのマッチングなど、システムの一部ではすでにAIを採用しています。「ユーザー体験」を優先しつつ、お客様にフィットするのは何なのか、見極めながらデジタルとアナログを使い分けるべきだと思います。

――蓄積された膨大なデータは、airCloset以外での利活用の可能性もあるのでしょうか?

ひとつはこのデータを利用して、個人の趣味嗜好の把握。もうひとつはトレンドの把握もできます。例えば、今時点でお客さまの分布に対して、スカート丈は何センチから何センチが受け入れられやすくなっているかといったことがわかるんです。また、現在は実験段階ですが、生産量の把握やデザインについて、ブランドさん側にも情報提供ができると考えています。

――データをかけ合わせることで、面白いデータ活用ができそうという分野はあるでしょうか。

自動車、住宅、インテリア、映画、人材……「自己表現」という広義の意味でのファッションとして捉えれば、ほぼすべての業界に当てはまると思います。例えば、職選びも自己表現のひとつですよね。となると、こういう業界の人はこういうファッションをする傾向がある、というのが見えてくると思うんです。ですので、経産省も進めている情報銀行などのイノベーションのデータ共有の動きは、あるべき姿でただしいと思うのですが、実際に各業界がデータを開示するとなると、みなさん二の足を踏むことになると思うんですよね。そこをどう取り組んでいくのかは、これからのデータ活用の鍵でしょうね。

信頼できる第三者からの口コミが鍵に

――御社は実証実験や他企業とのコラボにも取り組まれていますね。

2018年12月にJR大宮駅が6社のベンチャー企業が参加する実証実験イベントを実施しました。私たちもスマートミラーを通してスタイリストから遠隔でアドバイスを受けられるブースを出したのですが、それもパーソナルなスタイリングを駅でも体験いただきたいというのが意図でした。この実証実験では、従来のユーザー層に加えて、50-60代の女性もご興味をもっていただき、スマートミラーを通じたスタイリストとのコミュニケーション。遠隔からスタイリングしてもらうという新感覚の体験に、より面白みを感じていただけたようです。
ファッションレンタルに限らず、パーソナルスタイリングに関わる取り組みは幅広くやっていきたいですね。

JR大宮駅での実証実験の模様

――オンラインサービスとして始めったサービスがなぜリアルの場にも進出するのでしょうか。

シェアエコやサブスクリプションサービスは継続されることが重要です。ですので、ただ便利なだけではなく、体験価値を高めることも私たちは大切にしています。最近では、寝具やクッション材の製造・販売をてがける「エアウィーヴ」さんとコラボしたのですが、こちらも実際に手に取って「体験」してもらうというところに価値を置いています。

airClosetとエアウィーヴのコラボ企画

――その他、「実体験」に重きを置いた取り組みはされていますか。

お届けに使うボックスを使ったマーケティングやプロモーションのサポートも行っています。ただ、いくつもの企業と同時コラボを行い、沢山アイテムを入れ込んで送っても、お客さまに喜んでいただけるとは思っていないんです。必ず1ボックスに対し1アイテムに注力してコラボレーションを行うようにしているのは、なぜ我々がこれを選んだか、なぜいいと思っているか説明したうえで、「実体験」をしてもらうことで、お客さまの満足度が圧倒的に高くなっているからです。

街角のサンプリングで、受け取ってもらっても50%も使われていないと言われていますが、我々のお客さまは8割以上の方に使っていただけているのです。またアンケートベースでは、48%の方がサンプリングした商品を買う、もしくは買ったと言っていただいているんですね。街角サンプリングでの購入は平均3%と言われているので、その数値がいかに驚異的か伝わるかと思います。

(右)ボックスコラボの事例

――なぜこのような高い数字が出ているとお考えですか。

あくまで私の仮説なのですが、「airCloset」が日々のコミュニケーションを通じて、お客さまにとって「信頼のおける第三者」だからこそ信じて使っていただけているというのがあるのだと思います。情報量が圧倒的に多い現在、すべてを自分で咀嚼して処理するには限界があります。だからこそ、今後は信頼のおける第三者からの口コミパワーはますます強くなっていくと思います。誰かを信頼しているから、その人からのフィードバックが信頼できる。身の回りではこの第三者が友人や家族であったりするわけですが、シェアエコのようなサービスも同様に「いかに信頼していただける仕組みづくりをするか」が重要かと思います。

――最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。

今、情報やモノがあふれている時代です。ひとりひとりがスマートフォンを持ち、様々な情報をキャッチアップできるからこそ、個々が求めているものも細分化されてきています。限られた時間の中でより良いモノを効率よく選びたいという人々のニーズに対して、私たちはパーソナライズされたサービスを深化させながら提供していきたいですね。


シェアエコサービスには、個々のお客さまとの継続的な関係性を構築することで、膨大なフィードバックデータを取得でき、より質の高いパーソナルなサービスや商品を提供できるという強みがあります。

このようなシェアエコサービスをする上で、キモとなりそうなのが、利用者に継続して利用してもらうための信頼関係を築く仕組みづくりと、パーソナライズ化をするためのマッチングシステムの構築。特に、信頼している人のの口コミ情報に重きが置かれる現在、サービス自体も信頼される第三者として生活者に認識されることが重要です。

消費動向が多様化してきている中、きめ細やかなパーソナライズによって個々人のニーズに対応できるシェアエコサービス、マッチングサービスはますます世の中に浸透していくでしょう。

Written by:
BAE編集部