いま、全国で200を超えるという「ゲームカフェ」を訪れれば、そこにボードゲームで遊ぶ“若者たち”の姿を見ることができます。
まだまだスマホゲーム全盛の現代。なぜデジタルネイティブであるはずの彼らが、アナログゲームに魅了されているのでしょうか?
その疑問を解き明かすために、パズルゲーム「ぷよぷよ」の生みの親であり、最近ではオリジナルのボードゲームを多数制作しているゲームクリエーター・米光一成さんにお話を伺いました。
「昔からアナログゲームも好きだった」と語る米光さんは、デジタルとアナログ、どちらのゲームにも精通し、その歴史の変遷を知る人です。そんな米光さんは、近年アナログゲーム人気が過熱していると言います。
「1995年頃、ドイツ発のボードゲーム『カタンの開拓者たち』がゲーム好きの間で大きなブームとなりました。それ以来、20年以上のときを経て、いまアナログゲームは再燃している印象があります」
そこには、ひとつのゲームが影響していると米光さんは考えています。
「心理戦ゲーム『人狼』の登場は、それまでアナログゲームに触れたことのなかった若い世代に大きなインパクトを与えました。また、その前後にゲームカフェやアナログゲームのショップが増え始めたことも、アナログゲームとの距離を縮めるきかっけとなったのではないでしょうか」
特に『人狼』はテレビでもゲームの模様が放映されたことで、アナログゲームが広く周知される大きなきっかけにもなったようです。最近でも、テレビ番組で「あ〜♪」のフレーズだけで何の曲なのか、プレイヤー同士で歌いながら答えを一致させるという、アナログゲームのような遊びが紹介されています。
平日の夕方、ゲームカフェに行けば、楽しそうにボードゲームに興じる大学生たちに出会うことができるはずです。そこに、女性の姿が多くあることにブームを知らない人たちは驚くそうです。しかしいま、その客層はさらに広がりを見せていると言います。
「年に2回、国内最大規模のアナログゲームイベント『ゲームマーケット 』が東京ビッグサイトで開催されています。2010年に約2,200人だった来場者数は、2017年12月に開催された“2017秋”では、2日間の来場者が約1万8,000人を突破しました。しかもそこには女性だけでなく、親子で訪れている方も多くいたことが印象的でした」
増え続ける来場者、広がり続けるファン層に、「アナログゲームは一過性のブームではなく、定着する方向に進んでいる」と米光さんは分析しています。
幅広い層に受け入れる要因として、ゲームのテーマとして取り上げられるモチーフの傾向も関係しているかもしれません。
「アナログゲーム、ボードゲームというと、中世ヨーロッパ、ファンタジー的な世界観をイメージする人もいるようですが、現代的なモチーフのものもかなりあって、特にインディペンデントで作成されるゲームはいろいろなモチーフを扱っています。プロジェクトの進行度合いをごまかしながら進めていく『Not My Fault!』とか、J-POPでやるカルタ『狩歌』なんてのもあります(笑)」
日常生活の延長にあるような、なじみやすいテーマが選ばれていることも、親しまれる大きな理由なのでしょう。
デジタルゲームと対比したとき、アナログゲームの魅力はどこにあるのでしょうか?
「たとえばババ抜きをデジタルで遊んでもすぐあきちゃう。ほとんどが運で、かけひきの要素が少ないからです。しかし何人かで集まって実際に遊ぶと、ババを引かせるためにカードを少し上に出してみたり、ジョーカーを取られないように悪あがきしたり、コミュニケーションが生まれていく。細かいかけひきすら生じてきます」
つまりアナログゲームは、現実に虚構をプラスして楽しめるという大きな特徴を有しています。それはデジタルゲームのように、リアルな虚構を楽しむという趣向とは相反するものです。
「現実で100回連続負けたら大変なことになりますが、ゲームは違う。100回負けても現実にもどれば、それは何でもなかったことになる。だからこそ安心して、その瞬間しか味わえないスリルや感動に浸ることができる。さらにアナログゲームでは、人と人が対峙することで生まれる独特の面白さがあります。 “顔が見える”ということが、遊戯者にとって、大きな安心感につながっているように思います」
さらにアナログゲームでは、年齢も性別も学歴も、一切関係ありません。ルールを守り、その中で競うことが求められます。
「現実だと、お金を持ってたり権力持ってたり、会ったときに勝ち負けが決まって逆転できないことが多い。でもゲームをはじめると、社長だろうがお金持ちだろうが関係なく平等になる。フラットな関係になれるのも受けている理由のひとつかもしれません」
その面白さを、若者たちはデジタルを活用し、大いに拡散しました。
「アナログゲームを楽しむ多くの若者たちは、写真や動画を撮り、それをインスタグラムなどのSNSに投稿しています。それを見た友人が興味を持ち、アナログゲームに触れる。そうやって輪がゆるやかに広がり、アナログゲームが若者たちの間に浸透していったのだと思います」
今後、アナログゲームに企業がタイアップする可能性もあると米光さんは考えています。
「アナログゲームというのは、モチーフとルールが高い親和性を持っていることが大切なんです。たとえばお菓子なら、お菓子ならではの発想からゲームが生まれ、ルールが作られる。そのアナログゲームがヒットすれば、長期間にわたり、何度もプレイされ、遊ぶごとに拡散していく。そうなれば、企業にとってこんなに費用対効果の高いプロモーションは他にないでしょう」
すでに某ファストフード店のアルバイトを疑似体験できるスゴロクや、知育をテーマにしたアナログゲームを企業が手掛ける例も出てきています。そうした動きは今後、さらに加速していくのかもしれません。
米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲームクリエーター/デジタルハリウッド大学 客員教授
1987年、コンパイルに入社。のちに同社の看板タイトルとなる『ぷよぷよ』『魔導物語』を監督。以降、多数のコンテンツ、ゲームを手掛ける。またコラム・書籍の執筆、デジタルハリウッド大学の客員教授など、幅広い分野で活躍中。近年ではアナログゲーム制作に注力しており、代表作に「想像と言葉」「レディーファースト」「はぁって言うゲーム」などがある。