2018.10.26

会場は自宅! バーチャル空間でのイベントが受ける理由とは?

バーチャルイベントプラットフォーム「cluster」に見る、VR空間のポテンシャル

ここ数年、プロモーション領域において重視されている「体験」というキーワード。そこに“インスタ映え”というトレンドも加わったことで、近年ますます体験の価値は高まっていると言えるでしょう。

そこに新たな体験の場として、現在注目を集めているのが「バーチャルイベント」です。ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)を使い、自宅からバーチャル空間にアクセスし、イベントや会議などに参加します。

なぜ、「バーチャルイベント」の需要が生まれているのでしょうか。2017年6月にバーチャルプラットフォーム「cluster(クラスター)」を正式ローンチし、各方面から期待される若手起業家・クラスター株式会社 CEO 加藤直人さんにお話を聞きました。

目次

ありそうでなかった、大人数で参加できる「バーチャル空間」

加藤直人さん
クラスター株式会社 CEO 加藤直人さん/京都大学理学部を卒業後、約3年間のひきこもり生活を経験。その後、VRと出会い、同社を設立

――加藤さんは昨年、イベント開催に特化したバーチャルプラットフォーム「cluster」をローンチしました。エンタメという点では、他の選択肢もあるなかで、なぜ「バーチャルイベントを実施できる場」を作ろうと考えたのですか?

人間は本質的には、「人と関わり合っていたい生き物」だと僕は思ってるんです。 だからもしVRデバイスを使って参加できるイベントがあったら、そこには大きな可能性があると感じました。なぜなら、リアルイベントにひとりで参加するのは勇気がいりますし、またリアルイベントの開催場所が自宅から遠ければ、そもそも参加することも難しい。ですがバーチャル空間なら、そうした問題はすべてクリアできるからです。

さらに日本ではアニメ文化の影響もあって、VTuber(ブイチューバー:バーチャルユーチューバー)が他国に類を見ないほど人気です。しかしVTuberはリアルには存在しませんから、彼らと同じ空間を共有する方法は「バーチャル空間」しかありえません。

ですがサーバの負荷の問題で、大人数が参加できるバーチャル空間というのは、これまで存在していませんでした。そこで生まれたのが「cluster」です。

またイベントだけでなく、会議利用など、バーチャル空間にはさまざまな活用法があり、秘められたポテンシャルの高さも惹かれた理由のひとつです。

バーチャルプラットフォーム「cluster」の利用イメージ。HMDの利用を推奨しているが、PCやスマートフォンからもアクセス・参加可能

――ちなみに、VRの市場と、御社が狙うVRライブイベントの市場というのは、どのような規模なのでしょうか?

世界における、VR全体の市場規模というのは、ゴールドマン・サックス社が発表しているデータによれば、2016年から拡大傾向にあり、2018年には約1兆5000億円(150億ドル)、2020年には約12兆5000億円(1100億ドル)にまで成長すると予想されています。

メインはハードウェア、ゲーム市場ですが、その内の約1割、およそ1兆5000億円はライブイベントの分野になるという予測が出ています。これからVRブームはさらに加速し、自然と「バーチャル空間の利用」も広がっていくと考えています。
 

 

VR×ライブイベント市場

バーチャルなのにリアル。だからユーザーは感動する

――「cluster」は昨年から実際にサービスをスタートしています。イベントの開催事例を教えてください。

今年7月に「第1回 夏のファイ祭り」という、総勢50人を超えるVTuberが出演する12時間生放送のイベントをcluster上で開催しました。

このイベントは、ミーティングもすべてcluster上で実施し、「イベントなのにリアルでの対面が一切ないまま開催される」という異例の形となりました。当日は、2000〜3000人以上のユーザーがリアルタイムで参加。クイズ企画など、テレビ番組のような内容を12時間にわたりお届けしました。ユーザー満足度も高く、進行・システムともに問題なく、無事にイベントを終えることができました。

また本イベントでは、IT関連の企業6社から協賛をいただくこともでき、今後の可能性をさらに感じることができました。

――同イベントには、出演したVTuberのファンで、同じ時間を共有したいと思い、参加したユーザーが多かったのでしょうね。他に、リアルにはない、バーチャル空間ならではの利点はありますか?

いくつかあります。現在、1ルームの最大収容人数は5000人です。もしこの規模でリアルなイベントを実施しようとしたら、最低でも4桁の予算が必要になります。しかしclusterであれば、それを低コストの予算で実現できます。

なぜなら、場所代は無料、設営・撤収は不要、さらに警備の必要もないからです。逆にリアルイベントと似ている点という意味では、VRの持つ没入感のおかげで、イベントが始まる直前は、他のユーザーと一緒に客席で開演を待つわけですが、「不思議と一体感がある」んです。

 

HMDを装着していると360度の視界が存在しますから、バーチャルといえど、やはり“そこにいる感覚”というのは味わえるんです。しかもリアルなイベントでは、席を移動できませんが、バーチャル空間であれば、好きな場所に移動して、マルチアングルでイベントを楽しむことができます。

ちなみに、cluster上の音楽イベントでは、サイリウムを振ることができるのですが、これは実際に自分の手を動かす必要があるため、リアルイベント同様、疲労を伴うというのも、「バーチャルなのにリアリティを感じられる仕組み」のひとつと言えるかもしれません。他にも拍手やコメントの投稿など、“バーチャル空間を使った参加型イベント”としてユーザーからも高い評価を得ています。

バーチャルイベントを使ったアプローチは効果的

――今夏には、初の有料音楽イベントも開催したところ、チケットが即完売したそうですね。

 

はい。人気バーチャルYouTuber「輝夜月(かぐやるな)」初となるバーチャルライブ「輝夜 月 LIVE@Zepp VR」を開催しました。7月に事前告知およびチケット販売を行ったところ、5400円という価格にも関わらず、発売開始後わずか10分でチケットは完売しました。

さらに全国7都市15劇場の映画館でライブビューイングも同時開催し、リアルとバーチャルあわせ5000人以上のファンが同じ体験を共有し、大いに盛り上がりました。また終演後にファンがSNSに感想を投稿し、“カグヤルナライブ”がTwitterトレンドランキング1位を獲得するなど、大きな反響を呼びました。

ツイート数は約3万件。史上初のVRライブは大盛況のうちに幕を閉じました。家を出ずとも熱狂・感動を体験し共有できる「自宅から参加できる商業バーチャルライブ」の成功は、VR史に新たな歴史を刻んだ出来事になったと感じています。

――それだけ反響があったことを考えると、バーチャル空間を使ったVTuberイベントは、今後さらに増えそうです。参加しているユーザー層についても教えてください。

cluster上で実施したアンケートによれば、ユーザーの8割以上が男性です。さらにそこに当社の描いているユーザーのペルソナを加えると、20代後半〜40台前半、可処分所得は多く、趣味にお金を使うユーザーが多いと捉えています。

近年、お金の使い方が「モノからコトへ」と変化したと言われていますが、VRイベントに参加しているユーザーのニーズも“体験”にあると考えています。

また、バーチャルだからと言って、ユーザーは“その他大勢”でいたいわけではなく、それぞれ“自分らしく”アバターの顔(アイコン)をカスタマイズしたり、上級者になると、3Dモデルを作って完全オリジナルのアバターを使用しているケースもありますね。

――まさにアバターは、ユーザーの分身として、そこに存在しているんですね。それも世界観に入りやすい要因かもしれません。今後、バーチャル空間でユーザーが熱狂していることに注目した企業が、プロモーションを展開するケースも増えるのではないでしょうか?

そうですね。リアルイベント同様、バーチャルイベントでもバーチャル空間上のモニターに企業CMを流したのですが、ユーザーがとても反応するんです。「いいな」とか「ほしい」とか、CMに対してユーザー同士でコメントし合って、盛り上がっているんです。これは面白い現象だなと思いました。

おそらくユーザーは、映画館の予告編に近い感覚でCMを見てくれているんだと思います。広告が効かない時代と言いますが、その点でもバーチャル空間へのアプローチは効果的だと考えます。

イベントへの協賛だけでなく、商品の体験イベントを企業主催で実施しても面白いと思います。現在はリアルな場に足を運び、そこでVR体験をするケースがほとんどですが、clusterなら、すでに仮想空間にいるユーザーにアプローチできるわけですから、そのハードルは自ずと低くなります。バーチャルイベントに参加したついでに、“VRで新車の試乗”なんて事例も生まれるかもしれませんね。

5Gの普及を見据えれば、今後さらなる可能性が生まれる

――バーチャル空間の利用を後押しするという面では、次世代通信5Gの普及もプラスに作用するのではないでしょうか?

はい。5Gが普及すれば、容量の大きな配信も可能になりますので、映像のクオリティはさらに高まりますし、よりリアリティあふれる体験ができるようになるはずです 。

また通信遅延が限りなく小さくなれば、よりリアルタイム性の高いイベントの開催も可能になるでしょう。

他にも、技術的な制限からclusterの現在の最大収容人数は5000人ですが、これも5Gが普及すれば、プラスに働くと考えています。そうなれば、さらにバーチャルイベントの可能性も広がるはずです。

――まさに2018年は「バーチャルイベント元年」と言えそうです。今後の展望を聞かせてください。

「バーチャルなのにできること、バーチャルだからできること」をより追求していきたいです。具体的には、イベントに参加して物販を購入するためのEC機能、出演者とユーザーがコミュニケーションを取るためのギフト機能の搭載 (10月26日(金)開催のイベントより本リリース予定)の搭載などを現在進めているところです。

今後もアップデートを重ね、音楽イベント、講演会(カンファレンス)、企業イベントなど、さまざまな形で活用されてほしいと思っています。そしていつか、誰もがバーチャル空間とリアルを行き来することが普通になる。そんな未来を切り拓きたいですね。

バーチャルプラットフォームを使った施策は現在、ゆるやかに、そして着実に浸透しつつあります。音楽イベント、カンファレンスといった有料イベント、さらにはすでに大手企業が社内会議のために導入するなど、その利用シーン自体も広がりを見せています。

今後“新しい場”、“新しいアプローチ法”として、バーチャルイベントをどう活用していくのか。その問いに企業がこれからまさに答えていくフェーズ。それが“バーチャル空間の現在地”と言えるでしょう。

Written by:
BAE編集部