「スポーツ」と聞くと、日本では体を動かすものと思いがちですが、本来の意味は“競技”。つまり、囲碁や将棋もスポーツの一種なのです。
昨今、注目を集めている「eスポーツ」は、エレクトロニック・スポーツの略で、主にコンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦を指します。日本ではまだまだ出遅れている印象がありますが、その競技人口は世界で2億人以上といわれ、その市場規模も非常に大きなものとなっています。
日本でも2018年2月からプロライセンスが発行され、2022年のアジア競技大会では正式にメダル種目としての採用も決定。今後、過熱することが予想されるeスポーツは、プロモーションの視点で捉えたとき、そこにどんな可能性があるのでしょうか?
日本eスポーツ協会で事務局長を務める筧 誠一郎さんに聞きました。
若者から絶大な支持を受ける「eスポーツ」
――すでに海外では大きな盛り上がりを見せている「eスポーツ」。日本ではなぜ、“これから”と言われているのでしょうか?
eスポーツは海外では主に、パソコンを使ったコンピューターゲームのことを指します。しかし日本では、家庭用ゲーム機の人気が高く、コンピューターゲームよりも家庭用ゲーム機を使った“ゲーム”の方が一般に浸透していたからです。
一方、海外ではパソコンで行われるゲームのシェアが“ゲーム”の半数を占めていましたから、eスポーツが過熱しやすい土壌が整っていた、というわけです。
次第にユーザーたちは、自分の持つゲームスキルを競い合うようになり、人が集まるところで対戦するようになりました。それがいまでは、何万人もの人が集まる規模のイベントにまで発展しました。
日本でも、ゲームセンターに人だかりができている光景を目にしたことがある方は多いと思います。eスポーツは瞬発力と高度な技術の応戦ですから、思わず画面に見入ってしまう気持ちは、一度でもゲームをしたことがある方ならわかると思います。そしてそれが、まさにeスポーツの魅力でもあります。
――海外で「eスポーツ」を楽しんでいるユーザーの年齢層について教えてください。
現在eスポーツを楽しんでいる年齢層は、選手・観客ともに10代半ばから20代後半です。世界大会も行われているのですが、Twitch(ゲーム専用配信サイト)では同大会の配信が、同時接続約2,000万人ということも珍しくありません。
また、イギリスでは、政府公認の団体があります。その団体の方が言うには、「(イギリスの若者は)テレビよりもTwitchの視聴時間のほうが長い」そうです。Twitchはほぼゲームコンテンツやイベントしか配信していませんから、どれだけ海外の若者にeスポーツが支持されているかがわかると思います。
着実に広がりを見せている、日本のeスポーツ市場
――競技人口は世界で1億人以上といわれていますが、現在eスポーツの市場規模はどれくらいあるのでしょうか?
よくニュースなどで、「eスポーツの市場規模は約1,000億円」といわれていますが、そこにソフトの売上などは含まれていませんから、“最低でも1,000億円”という表現が正しいと思います。しかしながら、日本ではまだ知名度や認知度が低く、市場として認められるには、もう1年か2年くらいはかかると考えています。
ですが、日本にゲームセンター文化が発達したおかげで、格闘ゲームの部門では、世界一のeスポーツ選手がいたりするんです。eスポーツにはさまざまなジャンルのゲームがありますが、日本では格闘ゲームの競技人口がいちばん多いです。
また日本全国で、eスポーツをするのに最適化されたパソコンが販売され、関連商品が売上を伸ばし続けています。秋葉原では専門店も拡大し、ワンフロアだったコーナーが現在では丸ごとeスポーツ館になった、という例もあります。つまり、それだけ需要があるんです。ちなみに、この1年でのeスポーツ専門パソコンの伸び率は146% という統計も発表されています(ゲーミングPC市場における2017年1~11月の集計)。
他にも、日本のサッカーチーム「東京ヴェルディ」がeスポーツのチームを持ち、さまざまな大会に参加しています。日本でもしっかりと着実に、市場の裾野は広がりを見せています。
数年後には数万人規模のイベント開催も
――日本では発展途上のeスポーツですが、今後取り巻く状況はどうなっていくとお考えでしょうか?
2022年のアジア競技大会では、eスポーツが正式なメダル種目として採用されることが決まっていますし、日本国内でも確実に人気は高まっていくと感じています。
私たちが目指しているのは、他のスポーツ同様、地域に貢献したり、青少年の育成に寄与できるような“スポーツ”として、eスポーツが広がっていくことです。
様々なテレビゲームに慣れ親しんだ日本人には身近なもののひとつで、すでに学生の間では、eスポーツは特別なものではありません。早稲田大学には複数のサークルがあり、最大で150人規模のものもあります。他に、慶應義塾大学などにも同じく多くのサークルが存在しています。
いまはまだ成長途中ですが、将来的には、海外から訪れた人が日本人と一緒に楽しめるようになるとも思います。その頃には日本でも、数万人規模のイベントが実施されていることでしょう。そしてそれが実現することは、そんなに難しいことではないと、私は心から信じています。
家庭用ゲーム機のシェアが高く、eスポーツの普及が遅れた日本。しかし今後、国際大会など、さまざまな要因が複合的に作用することを考えれば、「数年後に数万人規模のイベント実施」も夢物語ではありません。今後もeスポーツは、動向をチェックしておきたい“キーワード”のひとつになりそうです。
- Written by:
- BAE編集部