近年、インバウンド需要の増加に伴うコインロッカーの不足が深刻化。解決策として人気を呼んでいるのが「ecbo cloak(エクボクローク)」という、店舗の空きスペースを活用した「手荷物預かりサービス」です。
いわば、荷物を預けたい人と預かり先とをつなぐ、新しいシェアリングエコノミー。2017年1月にローンチ後、 都市や観光地を中心に拡大を続け、全国に1,000を超える加盟店を持つ背景には、どんなニーズがあるのでしょうか。ecbo株式会社 執行役員の猪瀬雅寛さんにお話を伺いました。
増え続ける“ロッカー難民”を事前予約で解消
――「ecbo cloak」とはどんなサービスなのでしょうか。
簡単に説明すると「コインロッカー不足で荷物を預けられない」という困りごとを解消するサービスです。
ecbo株式会社は2015年に設立され、もともとは貸倉庫業に近いサービスの開発をしていました。
しかし、ある時「コインロッカーが足りず、困っている人が増えている」という大きな問題に、代表取締役社長の工藤が気付き、現在の手荷物預かりにフォーカスしたサービスへシフトしました。
その時点でニーズは顕在化しており、問題の解決は急務でした。調査したところ、いわゆる“コインロッカー難民”の平均数は、1日平均で約17.6万人、ロッカーを探す人が、実際に荷物を預けられるまでにかかる時間は、平均で24.9分にも上ることがわかったためです。
そこで、店舗の空きスペースを遊休資産としてとらえ、そのスペースと荷物を預けたい人とをマッチングし、事前予約で預けられるようなサービスはかなり需要がありそうだと構想しました。
ローンチ後は、ロッカーを探す時間や手間を直接解消する新たな選択肢として認知され、利用が広がりました。実際に「ecbo cloak」をローンチしてから、利用者、店舗ともに順調に拡大を続けています。
荷物を預かるお店は1000店舗以上(*)。駅構内、郵便局、美容院、飲食店、カラオケ店、漫画喫茶、神社などさまざまです。東京、大阪、京都、金沢、広島、福岡、沖縄、北海道など、とくに需要の多い駅周辺や観光地から、全国に預かり店舗数を増やしています。
利用者は日本人が3割で、外国人観光客が7割を占め、アジア圏の方が多めです。男女の割合は同じくらいで、若い世代を中心に、20代からシニア層まで幅広く利用していただいています。
(*)2018年12月現在。
――短期間で拡大した理由は、どんなところにあるのでしょうか。
1つ目は、ユーザーと店舗双方へのメリットが効いていることだと思います。
ユーザーにとっては、従来コインロッカーの前まで行かなければ荷物を預けられるかどうかわからず、確認時間や手間が生じていましたが、オンライン上での事前予約で解決できます。
一方、預かり店舗側にとっては、導入コスト無料で空きスペースを収入に変えることができ、来店促進や新規顧客獲得の可能性も増やせます。荷物のやりとりが「おもてなし」としてコミュニケーションのきっかけにもなり、リピートにも繋がるようですね。
とくにコインロッカーが埋まりやすく、荷物預かり需要の高い主要駅構内での導入拡大や、駅構内のポスターやパンフレットの設置などには力を入れました。駅は我々にとって大きなタッチポイントであり、多くの人にとっても行動のハブとなる重要な場所です。
また2017年11月にトランプ大統領が来日した期間中のコインロッカー封鎖の際も、SNSなどで評判になり、特需が出ました。
その他、2017年11月の「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」や2018年10月の渋谷のハロウィーンなどのイベントでは、自治体などとも協力して、確実に人が集まる場所での手荷物預かり所や着替えができるスペースを設けるといった取り組みを行い、イベントごとの最適化にも需要を見込んでいます。
2つ目は、画面を5か国語表示にして、外国人でも直感的でわかりやすいユーザビリティになるよう工夫していることが挙げられます。
また、告知ポスターなどには「luggage storage(荷物の保管)」と大きく表記して、QRコードから多言語対応のサイトに飛べる形で、外国人観光客にも知っていただけています。
なお、預かり店舗側で預かった荷物を撮影し、写真をワンタップでユーザーに送って共有することで預かり証代わりとするなど、双方にとって手軽でわかりやすい仕組みにしていることも理由の一つです。
その他、利用者の周辺に内在するニーズにも強くアプローチしています。
たとえば、コスプレが趣味の方は、イベントなどの際、着替えなどの預け先を探されます。その方の周囲には同じ趣味を持つ友人やグループがあり、割引コードをお渡しするなどのインセンティブを設けたところ、紹介や口コミで広めていただくことができました。
さらに、最近では「ecbonist(エクボニスト)」というオウンドメディアの運営も始め、今後意外な使い方や「ecbo」に関わる人なども紹介していく予定です。「荷物を預ける=自分に身近な事」として捉えてもらい、日常的な活用を増やしてほしいという狙いがあります。
時間価値を高める妨げになる手荷物から解放させたい
――手荷物から解放されると、何が見えてくるのでしょうか。
はい。予定や旅程を組む段階で「荷物を預けるためにかかる時間」をなくせますから、預けた前後の行動に大きく影響すると思います。 とくに旅先やイベントなどでは時間も限られていますし、最大限楽しみたいですよね。インターネットやインフラなどの発展により、さまざまな物事のスピードが加速して、人々の時間がますます貴重になっている中、リソース活用の大きな妨げになる可能性があるのが「手荷物」ではないかというのが僕らの仮説です。
手ぶらになれば、時間にも体力にも余裕ができて、本来のリソースに振り向けることができますし、お土産を余計に購入したりすることもあるかもしれません。駅ナカの混雑緩和にも、一役買うことができていると思います。
「大切なものほど、人の手に」というニーズを満たす
――荷物を預かる際の、盗難、紛失、破損などに対するセキュリティ面は、どのように担保されているのでしょうか。
まず、大手保険会社の東京海上日動とecbo株式会社とで包括的な保険契約を行い、ユーザーにも預かり店舗にも負担をかけない形で、万が一の際の補償を行っています。
ユーザーに対するセキュリティについては、荷物を預かる側の加盟店にセキュリティや衛生面に関する独自の審査基準を設け、駅や郵便局など、社会的な信頼性の高い預け先も確保することで、底上げしています。
ユーザーへのアンケートの結果などからは「高価なもの、大切なものこそ、ecboに預けたい」と考える人が多いという結果が出ています。
小型の自転車など「雨ざらしにしておきたくないもの」「盗難などのリスクが高いもの」についても「ぜひ預けたい」という声が意外と多く、直接人に預けられるという安心感をメリットとして感じてもらえています。
――他にはどのようなニーズがあるのでしょうか?
「預けられるものは決してバッグやスーツケースだけではない」ことがわかりました。ベビーカーやギターなどの楽器、自転車、ゴルフバッグなど大型のスポーツ用品、コスプレやイベントの際の着替えの荷物などに関する問い合わせや要望が予想以上に多かったんです。
そこで、問い合わせやリクエストの調査・分析を強化して、より使いやすい状態にフィットするよう、調整をはかってきました。
たとえば、自宅以外の音楽スタジオやカラオケ店で楽器の練習をする人は案外たくさんいて、練習のあとは楽器を預けて仲間と飲みに行ったり、別の予定に出かけたいと考えていたことを知りました。
しかも、楽器は大切なものですし、サイズも大きいので、コインロッカーには預けたくても預けにくかったのです。つまり、練習後に身軽に出かけたくても、楽器の預け先がないために、多くの人が一度自宅に戻るためのコストを負担したり、または、持ったまま行動せざるを得ないという状況でした。
そこで、カラオケチェーンの加盟店を増やしたところ、楽器演奏者やバンドマンの間で「練習のあと出かけるときも安心」「便利だから楽器持ちにオススメ」と、SNSなどでも評判を呼び、利用も増えています。
カラオケ店はたいてい立地もよく、スペースが広く、営業時間も長いため、そういった点でも、貴重な練習時間を少しでも無駄にしたくない、と考えている楽器演奏者やバンドマンのニーズにフィットしましたし、カラオケ店側にも新たな集客の機会を提供することができました。
――現在の課題や、今後の目標などをお聞かせください。
引き続き、困っている人に確実に、安心してご利用いただけるよう、需要の高いところからスピーディに加盟店を拡充しています。
それから、先述の「大きい荷物や大切なものを預けたい」「荷物を預けて行動の自由度を上げたい」といったことと同じように、潜在的なニーズはまだまだあると思います。今後はアプリ化も進めて、エンドユーザーにより刺さるよう開発と改善をしていきたいですね。
長期的なビジョンとしては、預けた荷物を別の移動先などへ運ぶことなどの構想も描いています。
また、近い将来、グローバルにも展開することを目標にしています。ニーズはありますし、店舗側のオペレーションもシンプルなので、不可能ではありません。
2025年に500都市で展開することを目指して、今後具体的な計画を立てていきます。
ロッカーの不足という顕在化した問題を掘り下げると、「大きな荷物を預けたい」「大切なものを預けたい」といった潜在的なニーズを発見したということがわかりました。
時間や手間のロスを省きたいという思いはどこの国の人にも生じますし、預かり店舗側は新規の集客装置としても機能するという、双方にメリットを生む着眼点は、プロモーションにも活用できそうです。
- Written by:
- BAE編集部