2019.02.08

活況を迎えるヘルステック。人々に求められるための仕掛けとは?

ヘルスケアアプリ「FiNC」の人気のけん引役はF1層

近年、モバイル、IoT、AI、ウェアラブルデバイスなどの進化とともに、医療や予防医学の分野でも、問題をテクノロジーで解決する取り組みが進んでいます。
今年1月、米・ラスベガスで開催された「CES2019」でもさまざまな新製品が紹介され、「ヘルステック」は今年の注目ワードになりそうです。
国内でも、ヘルスケアアプリ「FiNC(フィンク)」がF1層を中心に人気を博しています。アプリを運営する株式会社FiNC Technologiesの代表取締役CEOである溝口勇児さんに、ヘルステックに求められる仕掛けについて伺いました。

目次

IT技術で非対面型のパーソナルトレーニングが実現

溝口勇児(みぞぐち・ゆうじ)さん
株式会社FiNC Technologies 代表取締役 CEO 溝口勇児(みぞぐち・ゆうじ)さん

――「FiNC」は国内400万DLを上回り、現在も1日に1~2万DLされています(*)。多くのユーザーに支持される理由はどんな点にあるのでしょうか。
*2019年1月現在。

ヘルステックは、自身の健康状態の把握に役立つ体重や食事、歩数などのデータをテクノロジーを活用して可視化できることで、健康に対する意識がさらに高まり、浸透しはじめています。
健康に関するデータを管理ができるアプリは多く存在していますが、別々に使い続けるのは面倒ですよね。
「FiNC」は、歩数、睡眠、体重、食事、体調などを一つのアプリで管理でき、それぞれのライフログなどに応じたアドバイスが受けられます。

――プラットフォームとして一元化することで、ユーザーのニーズにきめ細かく対応できるのですね。

はい。健康は万人の望みであり、ヘルスケアは誰にでも関係するテーマです。ジムやパーソナルトレーニングに興味を持つ人は増えていますが、高価で場所が限られていたり、受けたくても時間がないといった理由で、受けられない人はたくさんいます。

しかし、AIなどのテクノロジーを活用することで、この状況は解決できます。
AIがスマホを通じてユーザー専用のトレーナーのような存在になり、食事や睡眠、運動などのデータをもとに、美容や健康のアドバイスをする方法なら、「健康になりたい」と願うすべての人にパーソナルなヘルスケアを安価で提供できるのです。
しかも、事前の予約やスタジオに出かける必要もなく、場所を選ばず非対面(オンライン)で、トレーナーの指導を受けられます。

トレーナーのアドバイス、体重や歩数の記録、モデルやアスリートのコラムなどを、個人に最適化して提供する

――「FiNC」は女性ユーザーを中心に愛用され、なかでもF1層(20~34歳前後の女性)から人気に火が付いたようですが、なぜでしょうか。

人気のITサービスのトレンドをたどると、多くはまずスマホにアクティブな女性たちの間で評判となり、拡散される傾向にあります。

F1層が使えばその年代の異性が使い始め、ミドル、シニア、ヤングへと利用がさらに広がるのです。ですから、「FiNC」もまずは女性に支持されるプラットフォームにすることを意識しました。
現在も「FiNC」のユーザーは20〜40代の女性ユーザーが大半で、男女比でも9割が女性です。

先述のF1層を含めて、20~40代の女性は「変わりたい」という願望を抱いている層です。
年齢的に、何もしなければ代謝が下がり、体調や体型の変化が起こります。女性は男性に比べて、美意識や客観性を大切にする人が多いですから、「何か始めなくては」と考え始めるでしょう。それが、女性たちが「FiNC」のようなヘルステックに対して高い関心を抱く理由の一つだと思います。

手軽さと「取り組みたくなる仕掛け」で習慣化に繋げる

――たくさんの人に利用してもらうためにはどのようなことが重要でしょうか。

「サービスが安価であること」「使う手間がかからないこと」「楽しく取り組めること」「パーソナライズ化がされていること」といった点がポイントですが、近年のテクノロジーの進化とスマホの普及で、どれも実現可能になりました。

「FiNC」も、AIを使って、悩みの解決に役立つコンテンツを表示する、歩数をグラフ化する、体重を測るだけで体重計とスマホが連動され記録する、パターンを学習して入力の手間をはぶく、写真を撮るだけでカロリーを算出するなど、ユーザー目線でアップデートを行ってきました。

「FiNC」に搭載されているAIパーソナルトレーナーは、チャットを使ってユーザーに話しかけて得た回答の最大公約数から、ユーザーの好みや傾向を学習します。話しかける内容、話し方などは、絵文字を交えたり、文体を調整したりすることで、女性に親しみやすく感じられる設計を心掛けています。

AIはタップした内容やメッセージを閲覧したタイミングなども、ユーザーの習慣や行動から学習していて、ユーザーがアプリを開きやすいタイミングで通知を送る仕組みにもなっています。UIなども、女性が好むデザインを意識しました。

――アプリを習慣的に使い続けてもらうためのコツはなんですか。

習慣的に使い続けてもらうために「インセンティブの仕組み」と「取り組みたくなる仕掛け」が重要です。

「FiNC」にはトレーニングや歩数などの目標を達成するたびに、ポイントを付与するシステムがあります。貯まったポイントは1ポイント=1円でウェルネス・ヘルスケアに特化したECサイト(FiNCモール)にて、使用することが可能です。

インセンティブとしてECサイトで使えるポイントを付与する。トレーナーの投稿へのコメントなども可能

さらに、リアルと連動したアプリ内のウォークイベントなども開催しています。目標の歩数を達成すると海外旅行が当たったり、自分が選んだキャラクターから褒めてもらえるなど「取り組みたくなる仕掛け」を提供しています。
インセンティブのように何か目的を作ったり、エンタメ性のあるコンテンツを届けることは、継続して使ってもらうために大切なポイントとなります。

また、メディアとして読み物などの配信にも力を入れています。多くの人にとって、知識・知恵の獲得とモチベーションアップは相互関係にあるからです。

人々の消費や関心は「自分への投資」に向かっている

――今後のヘルステックの展望をどうとらえられていますか。

今後も精度の高いAIなどを活用して、個人に最適化したサービスを安価で提供できるよう開発を進めていきます。

一口に「F1層」といっても、実際には生活環境、予算、意欲、望ましい運動レベルなどは異なります。健康はあくまでも手段で、目的ではありません。
ユーザーのパーソナリティーを多角的・複合的に知り、健康状態や生活スタイルはもちろん、性格やTPOなどにもマッチした最適なヘルスケアを提供するために、精度の高いAIはもちろん、様々なテクノロジーを駆使することで、よりパーソナライズされたコミュニケーション設計を目指します。

その他の取り組みとしては、ヨガのレッスンや筋トレなどのライブ配信なども増やしていきます。
ユーザーは自宅でレッスンを受けながら、リアルタイムでインストラクターとのコミュニケーションが可能です。満足度も高く、インタラクティブなライブ配信によって、ユーザーとの距離をさらに縮めることができると感じています。

ヨガのレッスンイベントの様子
100万DLを突破した際に行われたヨガのレッスンイベントの様子。今後はライブ配信などで自宅でのコト消費を増やす狙い

ヘルステック全体の展望でいうと、すでにさまざまなモノやコトがあふれていて、商品やサービスはコモディティー化しています。その中でユーザーが今後、何に対して関心を示し、投資をするかというと、自己投資や「自分に向き合うこと」だと考えています。

人の体と心に関わるヘルステックはその中核を担う分野ですから、ニーズは今後さらに高まるでしょう。
とくにミレニアル世代は「自分らしく生きること」や「素敵なつながりを保つこと」など、内面の豊かさを重視します。投資や意識が自分に向いていくことは、当然の流れでしょう。


商品やサービスのコモディティー化やイコライズ化が進む中、消費者の関心や投資は「モノ」や「コト」だけではなく、「自分自身」に向けられつつあるようです。自らの体と心の健康維持や“自分磨き”のために、自身を可視化でき、健康管理ができるヘルステックは、今後もますます注目が集まるでしょう。さらに継続して使ってもらうためには、パーソナル化を進めるなど、AIなどのテクノロジーを駆使したユーザーのニーズに対応したモチベーションを高める仕掛けが、必要不可欠なようです。

Written by:
BAE編集部