2018.09.21

変化を楽しむ印刷技術を効果的に見せるコンテンツづくり

スマホで撮影すると劇的変化、フラッシュプリントの可能性【後編】

スマートフォンでの写真撮影が日常的に行われている今、撮影前後で変化を起こす新しい印刷技術に注目が集まっています。株式会社SO-KENは、今春印刷新技術「フラッシュプリント」を開発し、驚きと楽しさを提供しています。前編では、その技術の概要や実際の事例などについてお話を伺いました。後編ではフラッシュプリントの技術を光らせる「コンテンツの力」を株式会社SO-KENの浅尾代表と電通テックのアートディレクターが意見交換をし、可能性を探っていきます。

目次

必要なのは自然に行動を起こさせる仕組みづくり

左から:株式会社SO-KEN 代表取締役 浅尾孝司氏 / アートディレクター山田杏里氏 / アートディレクター太田岳氏
山田

フラッシュプリントを実際に体験させていただいたのですが、気楽にできるというハードルの低さは魅力です。デバイスを使いつつ、リアルな変化が見られるのが楽しいです。また、ちょっとしたアナログ感がいいですね。現在はデジタルサイネージなどが主流ですが、デジタルで完結するよりも、味があり、わくわく感が増します。

太田

変化がはっきり見えてすごいですね。体験したときにわかりやすさは大事だと思います。実際に、フラッシュプリントを体験した人の反応はどのようなものなのでしょうか。

山田と太田
フラッシュプリントを実際に体験する電通テック クリエーティブチームの山田氏(手前)と太田氏(奥)
浅尾

やはり驚いてくれる方は多いですね。人が集まるという効果は大きいのでそれをどう発展させていくか議論しているところです。これまでは圧倒的にフォトスポットの引き合いが多く、派生商品として店頭ポスターやポストカードなど、店舗の販促ツールとして利用が可能かお問い合わせをいただいております。

太田

実現可能なサイズとしては、例えば大きめのクリスマスツリーでも問題ないですか。

浅尾

はい。クリスマスシーズン、年末商戦での利用には期待しています。

山田

写真を撮る機会が多いイベントシーズンと相性がよさそうですね。お正月の年賀状やグリーティングカード、年賀状なども体験価値が高まり、楽しんでもらえそうです。フラッシュプリント、実際に自分でやってみるとびっくりしますが、でも、未体験の方に「スマホでフラッシュ撮影すると絵が浮かび上がる」というギミックや魅力を伝えるのが難しそうという課題も感じます。

浅尾

認知されやすいという点では、パーソナルな場所で使うのではなく、多くの人が集まる場所で体験してもらったほうがいいと思います。例えば、脱出ゲームなどのイベント会場で使うとか。そうすると、人に気づいてもらいやすいですし、楽しみ方も周りの人を真似するだけで理解できますし、体験してみての驚きや感動を隣の人と共有することができます。

浅尾孝司氏
株式会社SO-KEN 代表取締役 浅尾孝司氏
太田

昨年のハロウィンイベントでクラブにパネルを配置したフォトスポットを作りましたが、この技術があるともっと楽しめますね。例えば被写体と連動させて、ゾンビが襲ってくるように見えるとか。

太田

それは面白いですね。よく観光地に撮影用の顔出し書割看板がありますが、そこに使ってもらっても面白いと思います。実際に撮影したら書割のデザインがまったく別のものに変化しているというアイデアです。

山田

動物園のような場所も使いやすいですよね。最近は夜間開園している動物園も増えてきていますし、親子で楽しめます。また、動物園にくるお客さんは元から写真を撮るモチベーションが高いので、フラッシュプリントを体験していただきやすいと思うんですよ。

浅尾

おっしゃる通り、時期もですが、写真を撮るモチベーションの高い場所の方が、フラッシュプリントの相性はいいと思います。無理矢理感はないほうがいいんです。魅力的なコンテンツや情報が街中にあふれる中で、この技術を使う必然性がないとなかなかお客さんに振り向いてもらえません。いかに自然に「利用したい」と思ってもらえるか、コンテンツの中身もさることながら、導線づくり、現場のオペレーションなどにも工夫が必要ですね。

エンタメ以外の教育やインバウンド向け施策の可能性

太田

動画でもフラッシュプリントは撮れるのですか。

浅尾

フラッシュが強制的に光る設定にできるカメラならできます。

太田

それでしたら、この技術を使ったファッションショーを企画したらどうでしょう。ハイブランドであればあるほどいい。今はファッション業界もデザイナーが若返り、新しい素材を求めています。

浅尾

動画を使ったアイデアは斬新ですね。今は指定したメディアにしか印刷できませんが、理論的には可能です。

山田

屋外では使えないですよね。

浅尾

明るすぎるとフラッシュが負けてしまいますので、難しいですね。

山田

プラネタリウムはどうでしょう。夜空の星座を撮影することで天体に変化が起こるなどショーそのものにフラッシュプリントを取り入れたり、見るだけではなく、既存のコンテンツにプラスすることで、新しい体験ができそうです。ちなみに、フラッシュプリントは立体物にも使えますか。例えば博物館の恐竜にも?

浅尾

印刷物を貼ることができる物体なら可能です。

太田

個人的にはエンタメだけでなく、子ども向けの食育や教育など、遊びではなく生活に密着したものに使っていくのもありだと思いましたね。病院や学校も。例えば食べ物の好き嫌いをなくすための仕掛けとか面白く考えられないかなあと。子どもたちが喜ぶと親に浸透します。そういう意味では図鑑は面白いかもしれません。博物館も教育に絡んでいるので必然性が高いです。

紙以外にも印刷ってできるのですか。

浅尾

布にも印刷ができるように開発中です。 例えば、「本音と建て前Tシャツ」というアイデアがありまして、建て前がプリントされているんですけど、撮影すると本音が浮かび上がるというのは面白いと思います。

Tシャツなどの布にも印刷が可能
山田

このフラッシュプリントの課題は、撮っている瞬間は楽しいのですが、後で誰かに見せても撮る前がわからないので「変化する」という面白みが伝わらないことです。

浅尾

そうですね。フラッシュプリントは絵が変化する、つまり「前振り」と「落ち」という2つの情報が楽しめる技術で、そこがフラッシュプリントならではの独自コンテンツを可能にするのですが、一方で「前振り」と「落ち」、どちらかだけ見せられても面白みが半減してしまうという可能性があります。

以前、イベント会場にフラッシュプリントを使った記念撮影可能なフォトブースを設置していただいたのですが、運営側のスタッフさんが撮影する側に回ってしまったので、撮った写真をお客さんに見せても何の気づきもないシチュエーションになってしまいました。友だち同士ならまだいいですが、ビフォーアフターの「アフター写真」だけ見せられても何も面白くないわけです。コンテンツを考える上では、その特性をしっかりと理解する必要がありますね。

太田

そこは重要で、拡散した後に第三者にどう理解させるかをクリアしないと体験した人のみの感動でしかない。共有や拡散ができないんです。先ほど「本音と建て前Tシャツ」のお話がありましたが、スラング英語が書かれたTシャツを撮ると意味が出てきて、「おまえ、ダサいの着てるな」みたいなメッセージが浮かび上がるというジョークグッズだったら、第三者から見ても変化後の写真だけでも十分面白く感じられるのではないでしょうか。最近では、面白い日本語を書いたTシャツを着た外国人の方を見ますが、逆バージョンも考えられます。

一方で、変化する面白さにこだわらず、実用性の高い分野で活用することで、まずフラッシュプリントという技術を認知してもらうというのもありだと思います。僕が考えたのは、訪日外国人向けに、日本語看板をフラッシュで撮れば、英語が浮かび上がってちゃんと意味がわかるという使い方です。

浅尾

それはいいですね。

パーティーを盛り上げるフラッシュ撮影で変わるメッセージのサングラス
太田

仕事柄、様々な印刷技術を目にする機会がありますが、ここまで変化するギミックがあるものは珍しいので、単に特殊印刷というだけでないアイデアが浮かびそうです。使用するには予算も大事になってきますが、そのあたりはどうでしょうか。

浅尾

今は1メートル28,000円です。

太田

それなら大きな予算をかけなくても表現できますね。

浅尾

現状、一点物のほうがリーズナブルで、ロットが大きくなると高くなります。大量に作るにはオフセット用のメディアを作る必要がありますが、需要が読めないので迷っています。

山田

今後さらなる技術開発はお考えですか。

浅尾

やりますよ。それが当社の生命線であり企業価値につながります。どんどん面白いコンセプトの新しい技術を世に出していきたいし、考えていることはいろいろあります。技術的な課題のクリアは懸命にやるので、皆さんには魂を吹き込んでいただきたい。この技術があることで、世の中に意味のあるものを作ってもらえれば何よりうれしく思います。

フラッシュプリントの効果を最大化させるためには、その特性をよく理解したコンテンツ作りが必要です。そのギミックを理解してもらうためにはどうすればいいのか、変化を感じさせるためにはどうすればいいのか……ポイントを抑えることで、人々の驚きや感動を引き出すユニークなコンテンツが生まれそうです。
エンタメ分野以外に教育などの実用的な活用のアイデアも登場しました。発想次第で、さまざまなフラッシュプリントの可能性はますます広がっていくでしょう。

株式会社電通テック
アートディレクター  太田岳(写真右)
東京工芸大学デザイン学科卒業後、2010年電通テックに入社。マス広告を中心に、コンテンツ開発、イベント演出、音楽制作、ダンス動画など、エンタメ関連のアートディレクションを得意とする。

アートディレクター  山田杏里(写真中央)
武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、電通テックに入社。アートディレクター9年目。グラフィック・動画・ウェブ・イベントなど1つの案件でも様々な角度から関わっている。

Written by:
BAE編集部