顧客動線を見える化し、店舗運営をサポートする「動線分析ツール」。データに基づき商品陳列などを改善できるため、「来店から商品購入のプロセス」を最適化できるツールとして、現在注目を集めています。
加えて、顧客の動線を分析できるため、インストアプロモーション(店内の販売促進活動)に活用できる点も大きな特徴のひとつです。では具体的に、どのように利用できるのでしょうか。大手百貨店などに動線分析ツール「Moptar(モプター)」を提供している、スプリームシステム株式会社 代表取締役 佐久間 卓哉さんにお話を聞きました。
動線分析のニーズは、マーケティングの最適化
――なぜ現在「動線分析ツール」が、注目されているのでしょうか?
デジタル領域、例えばECの分野では、ユーザーの購入履歴だけでなくWebアクセスログに基づいたレコメンド、ダイレクトメッセージを送信するなど、One to Oneコミュニケーションによる販売促進が普及してきています。 しかしリアル店舗では、来店者の購入履歴に基づいた販促はあっても、Webアクセスログのような根拠に基づいたレコメンド、ダイレクトメッセージはありません。だからといって、1年に1回しか購入のない顧客に対して、購入履歴だけを見ても何をレコメンドしたらいいかわかりません。
つまり本来は店舗もEC同様、ユーザーが何を求めているのかを知ることは非常に重要なことなのです。ですから、購入履歴だけでなく、ECのWebアクセスログに相当する「店舗内での回遊状況」を利用し、One to Oneコミュニケーションによる販売促進を実施することは、店舗運営を効率化する上で、とても理にかなっているのではないでしょうか。
――さまざまな情報が得られる「動線分析ツール」ですが、顧客動線のデータはどのように取得しているのでしょうか?
先日、EUでGDPR(General Data Protection Regulation)が施行されたことを受け、日本でも個人情報保護への意識は高まっています。この観点から、現在は「3Dセンサー」という機器を店内に数台設置し、位置情報のみを取得するケースが多いです。
ただし、カメラでの取得のニーズも強いため、広い店舗や工場で利用できるように、魚眼カメラとAIによる人間検知と動線追跡機能も2018年9月にリリースする予定です。
リアル店舗における広告の効果検証も可能
――年齢や性別などがわからない「顧客の動線」データでも、有効活用できるものなのでしょうか?
はい。インストアプロモーションへの活用はもちろんですが、それ以外にも、不審行動をしている人物の検知と通知(防犯)、迷っている人の検知と通知(接客支援)やレジ待ち人数・待ち時間の通知など、さまざまな情報を得ることが可能です。
ここで重要なのが、来店者の位置を点ではなく、「同一来店客の動きを線」でデータを取得していることです。もし点で情報を取得しても、それがAさんなのかBさんなのか判別できなかったらデータの価値は半減しますよね。しかし動線分析ツールは、来店者それぞれの動線データを取得しますから、個々に合わせた対応ができるんです。
また年齢や性別などがわからなくても、どの商品の前で立ち止まったかは別途ツールを使うことで判別可能です。弊社が開発した棚前行動分析ツール「Reach(リーチ)」を組み合わせれば、何人の来店者がその商品に手を伸ばし、その後どういった行動をしたかがわかります。
――たとえば商品の前にPOPがあった場合、その効果がどの程度出ているかもツールを使えば分析できそうですね。
そうですね。インストアプロモーションの効果検証にも有効です。
たとえばアルコールを手に取ったユーザーがいたとしましょう。そのユーザーに対して、店内のデジタルサイネージと連携し、「おつまみのレコメンド」をします。その内、何人が実際に「おつまみの売り場」に直行したかも検証可能です。この一連の検証も、「動線がわかるから」できることです。
他にも、デジタルサイネージを利用すれば、顧客にLine@などでQRコードを配布し、来店時にQRコードリーダーにかざしてもらうことで来店ポイントを付与したり、リピート来店分析をすることもできます。また、来店客の動線情報から興味がある商品をレコメンドする、One to Oneの販促施策なども実施可能です。
ただ、動線分析ツールは、“これからの”フェーズにありますから、データをどう使うか、という点については、まだまだ多くの可能性があると思います。
動線分析ツールを活用し、来店者の利用を促進
――実際に「動線分析ツール」を導入し、インストアプロモーションに活用した企業の事例を教えてください。
アミューズメント施設A社は、コインゲームの利用を促進するために、お客様にLine@などでQRコードを配布。来店ポイントを付与することで、来店時にQRコードリーダーにかざしてもらうよう促し、お客様の動線に応じた販促を実施することで、来店者の利用活性化を図ろうとしています。
また動線分析ツールを使用することで、実際に販促で来店した人数だけでなく、利用を促進したいゲーム機のプレイ状況なども見える化できるため、より詳細な効果測定が実現できます。
他にも駅直結のショッピングセンターのB社は、駅のなかにあるため、通行量は多いものの、来店に結びつける難しさを感じていました。ツールの導入以前も独自にアンケート調査はしていましたが、数も多くなく、決め手になるようなデータではありませんでした。 そこで動線分析ツールを導入し、正確な通行量や、ユーザーの動線を把握。サインを最適な位置に設置するなどの改善を行いました。また改善後も動線をチェックできるため、施策の効果をすぐに検証でき、PDCAサイクルを従来よりも早く、そして正確に回すことができるようになりました。
――動線分析は、インストアプロモーションの強い味方とも言えそうです。「動線分析ツール」は今後、どのような形で求められていくとお考えでしょうか?
リアル店舗が今後、さらに競争力をつけていくためには、IT武装し、データを活用することが必要になるはずです。そうした時代の潮流のなかで、「来店者の動線データ」を取得する動きは加速し、デジタルサイネージなどと連携したインストア―プロモーションや、退店後の販売促進まで、さまざまな形でデータ活用が広がっていくのではないでしょうか。
他にも最近ですと、無人店舗が話題ですが、その実現のために、「動線分析ツール」が貢献できればと思っています。またセンサーも2Dセンサー、3Dセンサー、ステレオカメラ、魚眼カメラだけでなく、照射距離が長く屋外でも利用できる「LiDAR(ライダー)」もサポートしましたので、屋外やイベントでの来場者の動きを把握するなど、これから活用の場はさらに広がると考えています。
近い将来、店舗でのOne to Oneコミュニケーションは当たり前のものとなり、ネットも含めたオムニチャネルでの販売促進に、「動線データ」が利用される未来を私は想像しています。そのときに、弊社の製品が多くの店舗に導入されていたら、こんなにうれしいことはないですね。
消費者の動線を見える化する「動線分析ツール」。デパートなど、人の出入りが多い場所では、来店者の正確な動線が把握できるため、効果的な集客にデータを活用することが可能です。また店舗のインストアプロモーションを考える上で、さらには適切な商品レイアウトを考える上でも、顧客の動線を知ることは、非常に有効と言えます。
加えて、ビーコンやQRコード、デジタルサイネージなどと連携すれば、One to Oneコミュニケーションをより強固なものへと変えてくれます。(QRコードを使用し、リピート分析を行い、リピート拡大の施策を打つなど)
さらに顧客だけでなく、同時に従業員の動線も確認できるため、効率的なスタッフの配置にも利用できるなど、「動線分析ツール」は、さまざまな利用法があります。つまり、人の行動を見える化できれば、データに基づいた店舗の最適化、効率的な運営の実現につながります。今後そのニーズは高まっていきそうです。
- Written by:
- BAE編集部