国が掲げる「日本再興戦略2016」では、2015年には5.5兆円だったスポーツ市場規模を2025年には15.2兆円に拡大する目標が示されました。その中で、テクノスポーツを含めたIT技術活用は、成長の牽引役として大きく期待されています。
テクノロジーを使ったスポーツといえば、主にモニターを前にゲームで対戦する「eスポーツ」の目覚ましい拡大が話題ですが、「テクノスポーツ(超人スポーツ)」とも呼ばれるフィジカルな競技も台頭してきました。中でも、人気の競技「HADO®(ハドー)」はファンを増やし続け、世界大会も開催するなど、存在感を増しています。
ブレイクの夜明けを迎えている「HADO」の開発・運営を行う、株式会社meleap(メリープ)CEOの福田浩士さんに、「HADO」を含めた「テクノロジー×スポーツ」の現状や展望についてお聞きしました。
幅広い層が熱狂するテクノスポーツの魅力
――「eスポーツ」を含めて、テクノスポーツや超人スポーツと呼ばれる場合もあるようですが、「テクノスポーツ」はどんなスポーツですか。
「テクノスポーツ(超人スポーツ)」とは、主に「人間の能力をテクノロジーで拡張する技術」を使ったスポーツのこと。2014年に国内の有識者団体である「超人スポーツ委員会」(現・超人スポーツアカデミー)が、2015年には競技の開発や運営を取りまとめる「超人スポーツ協会」が設立され、認知度が上昇してきました。
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使う競技もあれば、ドローンや電動スクーターなどを使う競技もあります。
「HADO」も、超人スポーツの公式種目の一つに認定されています。「HADO」のローンチは2016年末。簡単に説明するとAR技術を使って、エナジーボールと呼ばれる弾を撃ち合い、得点を競うスポーツです。
――百聞は一見にしかず。まずは映像をご覧ください。
プレーヤーは、ヘッドマウントディスプレイとアームセンサーを装着し、専用フィールド上でバトルを行います。ルールは簡単で、主に3対3でエナジーボールをぶつけて攻撃したり、シールド(盾)を張ったりしながら、相手のライフを多く削ったほうが勝ちです。
プレーヤーの位置を瞬時に把握するトラッキング技術を開発して、リアルタイムでCGのエナジーボールやシールドを出現させたりできるようにしました。
――実際に「HADO」をプレーすると、攻撃や防御が自分の動作と完全にシンクロすることに驚かされます。
ディスプレイの表示が違和感なく現実に溶け込んで見えるので、「臨場感が極めて高く、体を動かす爽快さを味わいながら、手に汗握るバトルが楽しめる」と、好評をいただいています。
プレーできる施設数は、他の「HADO」シリーズを含めると23カ国52店舗(*)。ファンが最も多いのは日本ですが、次いで中国、マレーシア、韓国でも人気があります。アメリカやイギリス、スペインにも施設があり、認知度は年々上昇して、体験者は130万人を超えました。
主軸は先述した3対3のバトルですが、主にテーマパーク向けに「HADO」でモンスターを倒す「HADO MONSTER BATTLE」など、アトラクション性の高い種目も展開しています。
*2018年11月現在。
――「HADO」バトルの公式大会の規模は、どのくらいですか。
国内公式大会は、現在大きく3シーズンで構成しています。ビギナーズカップやマスターズリーグなどの区別があり、それぞれに全国で予選大会を行っています。
参加者は年々増え続けており、今年は予選を含めて約1,000人、250~300組前後のプレーヤーが参加しました。
――プレーヤーは、どのような方たちでしょうか。
最も多いのは、10代後半から20代の方々です。大会を目指すのもこの層が多いですね。ただ、予備知識などが必要なく、直感的にスポーツとして楽しめますから、ファミリーでプレーされる方も多いですし、中高年の方がチームに加わることも珍しくありません。コンピューターゲームをやったことがない方、スポーツの経験がない方でも、熱中されています。男女比は6:4くらいですね。
見るだけでも楽しめるルールや仕掛けがファンを増やす
――競技者とファンを増やしテクノスポーツを浸透していくために、具体的にどんなことを行われているのでしょうか。
まず、プレーヤー人口については、これはテクノスポーツ全体にかかることですが、ARグラスなどのツールの普及に伴って増えていくでしょう。
ARグラスを持っている人のほうが増えれば、テクノスポーツが日常生活に取り入れられるハードルは、どんどん下がります。通信技術が進化すれば、プレーする場所なども選ばなくなるでしょう。
観戦者を増やすために、私たちがより注力していきたいと考えているのは、「見るだけでも楽しめるスポーツ」としての魅力を高めていくということです。
見て楽しめるスポーツとして認知してもらうには、ルールやプレーを誰にでもわかりやすく伝える必要があります。
例えば、現状の「HADO」バトルは、フィールドの双方から攻撃が飛び交うため、どうしてもスーパープレーをとらえにくい、という弱点があります。
これをクリアするために、実況や演出などを工夫しています。さらに2019年の1月から新たにYou Tubeの公式チャンネル上で「HADO BEAST COLOSSEUM」という番組を始めることにしました。
予選を勝ち抜いたチャレンジャーが「HADO」でビースト(猛獣)と対戦するという内容で、全員倒せば賞金1,000万円を獲得できます。
スポーツのチャレンジ番組の要素を取り入れて、「1点!また1点……!!」と盛り上げて見せますから、視聴者の方が誰でもプレーヤーの高い技術や、攻撃が決まる痛快さを味わえます。
――見て楽しむ魅力を高めれば、潜在的なファンも掘り起こせそうですね。
来年にはさらに「HADO」シリーズとは違う新しい競技も発表する予定です。
こちらも、サッカーやバスケットボールのようにポイントを競うかたちで、初めてテクノスポーツをする人でも簡単でわかりやすい競技性を意識して開発しています。
コミュニケーションを含めた新しい価値を創造し続ける
――テクノスポーツ市場の拡大の展望について、教えてください。
「テクノロジー×スポーツ」の展望を語る上でもう一つ重要なのが、テクノロジーによる新しい価値の創造です。
テクノロジーの力は、今までにない競技を生むだけではありません。プレーヤーと観戦するファンのコミュニケーションのあり方を変えることができます。
たとえばファンの応援が増えるとチームが強くなるという仕組みも考えています。
――ゲーム中に、ファンがプレーヤーやチームに対してアクションを起こすなど、コミュニケーションが取れたら面白いですね。
リアルなスポーツにはできないことですが、実現すればプレーヤーの意識も変わるでしょうか。
そうですね。コミュニケーションを増やすために、プレーヤーの側からファンに歩み寄る、といった変化が考えられます。
ファン同士のコミュニケーションを厚くする手法は現在も拡大していますが、ファンとプレーヤー同士のコミュニケーションについては「テクノロジー×スポーツ」にしか成しえない、新しい価値の一つになるでしょう。
――「コミュニケーションも含めて競技の一つになる」といった価値観の変容が起こるかもしれませんね。それこそ、超人スポーツのブレイクスルーの呼び水になるかもしれません。「テクノスポーツ」の将来的なビジョンを、どのように描かれていますか。
まずは「HADOでサッカーを超えたい」と思っています。
言うまでもないことですが、サッカーは世界中に多くのファンが存在します。
コアなファンの中には、親子三代にわたって特定のチームのファンであることを誇りにしている人や、「勝っても負けても、このチームが人生そのもの」といったマインドを持つ人もいます。サッカーが熱狂の対象であり、文化的にも日常的にも重要なウェイトを占めているのだと思います。チームが頑張る姿を見ることで「自分もやってやろう!」と力がみなぎる。スポーツは人生に活力を与える大事な要素だと思うのです。
ただ一方で、特定のスポーツにのめり込めていない人もたくさんいます。
なんとなく寂しいような、もったいないような気がしませんか?(笑)
――確かにそうですね。今後何かのきっかけでスポーツファンになり得る、潜在層の数は多いという気がします。
テクノスポーツには、先述の通り「直感的に誰でも楽しめる」「リアルなスポーツにはないコミュニケーションがとれる」といった新しい価値やポテンシャルがあり、人々を熱狂させる力があります。その力で「何かにのめり込めるはずなのに、のめり込めていない人を救いたい」と思っているんです。子供も大人も夢と希望で溢れ、魂が躍動する。そんな世界を目指しています。
「テクノロジー×スポーツ」の可能性を追求しながら、新たな市場を切り開いてきた「HADO」。高い没入感でプレーヤーを熱中させるのはもちろん、見る人も楽しめるルールづくりで、老若男女問わず、幅広い層の人気を得てきました。
今後も、テクノスポーツは「観戦者も参加できる」「プレーヤーと観戦者のコミュニケーションをゲームに反映させる」など、リアルなスポーツではなし得ないことを実現できる可能性が高く、まったく新しいスポーツの価値や魅力を生みそうです。
普及のポイントは、プレーヤーと観戦者、つまり、する側と見る側の双方が楽しめるコミュニケーション設計にあるでしょう。今後も市場は拡大を続けるものとみられ、多くの関心や注目が寄せられています。
- Written by:
- BAE編集部