アプリやウェブサイトを介して、ニーズをマッチさせる「マッチングサービス」には、現在さまざまなものが登場し、そのニーズは拡大傾向にあります。ビジネス(仕事の受発注)、人材のマッチング、個人売買(オークション)などのなかには“育児”の分野での利用もあります。
そのひとつが、待機児童問題の解決を目指し、ベビーシッターとの出会いの場(プラットフォーム)を提供している株式会社キッズラインです。同社のマーケティングマネージャー・藤井聖子さんに「育児代行の利用が広がり始めた背景、今後の市場ニーズ、そして企業に求められる視点」について聞きました。
総務省が5年ごとに行っている調査によれば、2012年の時点で日本の共働き世帯は全体の45.4パーセント。最新の統計はまだ発表されていませんが、2018年現在では、50パーセントを超えることが予想されています。
働く女性が増える一方で、待機児童の問題は大きな社会課題となり、子どもを預けたくても預けられず、仕事と育児の両立に悩む女性が多い状況にあります。そんな社会背景を象徴するように、市場を拡大しているのが「育児代行」の分野です。
以前は「ベビーシッター」といえば、費用が高いイメージがありました。また、手続きが面倒で、事前の申し込みが必須だったことも、利用のハードルを上げる要因になっていました。キッズライン社は、その問題を根本から解決しようとしている企業です。
「なるべくリーズナブルに、ネットから24時間、いつでもベビーシッターを探すことができるサービス。それが“キッズライン”です」
1時間1000円からいつでもベビーシッターを探せるサービスは好評で、年々利用数は増加の傾向にあると藤井さんは言います。
「2015年2月にスタートして以来、現在は3万人以上の会員様にご登録いただき、急速に利用も増えています」
キッズラインのプラットフォームは、ネットとアプリ。どちらを利用しても、ベビーシッターを探すことができます。また、マッチングするベビーシッターは、顔写真はもちろん、資格、経験、利用者の口コミまで確認することが可能です。
「どんなに安くて便利でも、お子様をお預けになりますので、“安心で、安全である”ことは必須条件です。そこでキッズラインでは、ベビーシッターの情報をなるべく多く提供するようにしているんです」
市場が拡大している背景には、待機児童問題の他にも、こんな理由があるそうです。
「現在、会員登録しているユーザーの8割が共働き世帯です。ひと昔前であれば、親と同居し、子育てするのが当たり前の時代がありました。しかし現代はそうではありません。むしろ、頼れる人がそばにいない状況で、子育てに奮闘している女性が多いのも実情です」
つまり、共働き世帯は増えたにもかかわらず、親との同居が減った結果、昔よりも育児の負担は増えているのです。
そのため、子どもの面倒を見るだけでなく、「相談に乗ってほしい」というニーズもベビーシッターに対してあるそうです。
「ご近所付き合いも減り、孤独感を感じやすい時代です。各自治体もその点を危惧し、独自の育児サポートを提供しているケースもあります。そうした時代背景と、キッズラインのサービス内容がうまくマッチしているのだと思います」
さらに、市場が拡大している背景にはスマートフォンの登場が大きな推進力になっていると言います。
「SNSの影響は大きいですね。現在、キッズラインを利用したことをSNSで報告してくださる方がとても多いんです。それを見た方が『私もお願いしてみよう』と、口コミとなって利用が広がっています。まさに、いまの時代だからこそ、これまで定着しなかった文化が定着し始めている兆しを見せているのだと思います」
ベビーシッターは現在、自宅での保育以外に、保育園や子どもの習い事の送迎に利用するケースが多いとのことです。特に習い事は、送迎することが難しい働く女性から、非常に好評を得ているそうです。つまり、ベビーシッターの利用により、そこに新たな時間や選択肢が生まれ、さまざまなニーズを実現することもできているのです。
現在は企業との連携も増えてきていると藤井さんは言います。
「福利厚生の一環として、キッズラインを利用される企業様も多いですね。在籍する社員の方がキッズラインでベビーシッターを頼むと、その費用を会社が負担してくれる仕組みです。また、企業主催のイベントで託児スペースを設ける際にご利用いただくケースもあります。住宅展示場でのお子様が遊べるスペースや、他にも、美容室が託児をサービスとして提供するケースなどもあります」
サービス利用者は無償で利用できますが、もちろん企業は費用を支払います。それでも企業が「託児サービス」を用意するのは、必要とされている方が多く、需要があるからです。育児をしていると、自然と「子どもがいるから、やめておこう」となる場面が多くあります。託児サービスを設けることは、その判断を「子どもがいても大丈夫」に変える大きな効力を持っています。
「企業がそうした背景を理解し、店舗やイベントでベビーシッターを利用することは、企業イメージの向上にもつながるのではないでしょうか。やはり育児で悩んでいる方からすると、『サポートしよう』という姿勢を見せてくれるだけでも好感を持ちますよね」
今後、育児代行の市場はさらに拡大していくと同社は予想しています。
「育児サポートは、共働き世帯だけの問題ではありません。専業主婦の方でも、近くに頼れる存在がいなければ、気軽に出掛けることもできませんし、相談することもできません。今後、ニーズはまだまだ増えていくと感じていますし、育児全般の広く深い問題をキッズラインは解決したいと考えています。そのためにも、誰でも気軽に利用できるプラットフォームをより進化させ、これからも多くの方々をサポートしていきたいですね」
将来的に「育児代行」の利用がさらに広がれば、時間の使い方だけでなく、ライフスタイルも変化していくことが予想されます。そのなかで自然と、ユーザーのニーズにマッチした新たなサービスも生まれてくるでしょう。企業は今後、そうした変化や多様性に合わせた、プロモーションや事業に取り組むことが重要になりそうです。