2017.10.05

ジェネレーターに秘められた可能性、新ロゴデザインの開発(第2回)

第2回 理想のパターンを見つけ出す数々の試行錯誤

コンピュータがジェネレートしたイメージを企業のCI・VI(ロゴ)にすることは可能なのか? 今年、新体制になった電通テックは、1000人弱の全社員の名刺をまったく違うパターンで作ってしまった。ジェネレーティブなイメージを表現として成立させるために、電通テックが挑んだ方法とは。

部署と個人をどう表現するかパラメータとの格闘

ジェネレーターは多様なビジュアルを生み出す。その仕掛けは?

浦川 フィボナッチ関数(※1) で作ったもの、同心円状に並べたものなど、グリッドのパターンとパラメータの調整によってバリエーションを作ります。このときは10個のグリッドのパターンと、それぞれにパラメータが3つあって、それぞれの値が0~100まであったら、100×100×100通りになる…というように出力していきました。

パラメータを変えることで形が変わる

浦川 交差する点だったり、それぞれの距離に係るパラメータを入れてバリエーションを出します。二つの同心円の交差するところだけに点を置くなどのパターンを作って、ドットの数や大きさを振り分けて、最後に名前の情報を掛け合わせて出来上がるようになっています。
隈部 アートディレクター的には、ドットの大きさのバランスがいいかというサイズの検証を行いました。
茂出木 ジェネレーターで数値を一個ずつ試して絵になっているものを集めることから始めました。そこで実際に出来た円環の種類分けをして、利用可能なものを仕分けしていったんです。最終的に隈部さんがチェックして、カッコ良くても「円環に見えないからダメ」というようにしっかり判断していただいて。少しずつ調整しながら、「ここからここはダメ」という範囲を決めていきました。
同心円でジェネレートされた円環。デザインの幅をもたせると円環に見えないものがでてきてしまう。

ジェネレーターには無限の自由がある。だからこそ、パラメータを狭めていくのが最も大変なところだ。

いかに似たようなパターンに見えないようにするか

浦川 “ジェネレーターあるある”で陥りがちなのが、全部同じものに見えること。見た目に違いが出ることにはすごく気を使いました。
茂出木 そこで重要なのが入力するパラメータです。多すぎても、少なすぎてもいけない。名前・性別・生年月日などを入れる案もありましたが、今回は名前だけにしました。

プログラムによってグラフィックは無限にジェネレートできる。そこから表現を絞り込んでいくのは、人間の仕事だ。

川原田 ジェネレートされたパターンを名刺サイズに出力して、「円として成立しているかどうか」というデザインのレビューはリリース直前までやっていましたね。
茂出木 アートディレクターとプログラマの戦いですよ(笑)。そこまで制限したらジェネレートする意味がない、という自由度と、絵として綺麗に見えなければならないというせめぎ合いです。

ビジュアルのプログラムを担当したのは堂園氏。建築において使われる「アルゴリズミックデザイン」を取り入れた。

堂園 アルゴリズミックデザインは、プログラムが勝手にジェネレートするというよりも、ガチガチにルールを作って制約を組むことでデザインが生まれるという手法です。基本的には、同心円と放射状の円環があったときに、まず同心円のパターンとスパイラルの放射状のパターンという分け方をするんです。デジタル的に直行するパターンや「シェーピングファンクション」(※2)、フィボナッチ(※3)が提唱した0から1までの間を変化する曲線の関数などを使い、いかにバリエーションを出せるか、というシステムをデザインしています。そこにちょっと余白を入れて、予想外なものが生まれることを意識しました。

人の手による検証

ジェネレーターの開発を進める一方で、電通テックではデザイナー・川原田氏と、外部のデザイナー渡辺氏に協力を仰ぎ、人の手でデザインされた円環パターンを300種類ほど制作していた。

川原田 初めての試みなので、どこまで機械でデザインしてもらうのか、どういう上がりになるのか、誰もわからなかった。そこで、人間のデザインで、どういう見え方まで落とし込めば良いのか、ずっと検証していました。
ジェネレートされる円環のルールは、デザイナーが決めることです。例えば、ドットが細かいと模様っぽく見えるが、存在感がなくなるなど、大きさをどうするのか。ドット同士の重なりはどうするか。など、実際に検証してみなければわかりませんでした。
デザイン検証によって生まれた円環の一部。
川原田 このイメージをもとに、コズモさんにご相談しました。ジェネレートによるデザインも、人がルールをデザインすることが必要でした。

川原田氏が制作したデザインは統一性があり美しい。しかしここで限界を感じたという。

川原田 人間のデザインは美しいのですが、ランダム性がなくなってしまって、個人個人のパターンの違いが、実はあんまり出てこないんです。この人力のパターンとジェネレーターのパターンを照らし合わせたときに、部署ごとに分けられる、4つのパターンが見えてきました。

グラフィックの方向性が決まったら、数万パターンもの絵の中から使えるものを精査する段階に。精査は西田氏が担当した。出来上がったグラフィックを精査する作業はまるでオーディションのようだったという。

精査する際に実際に使用した資料の一部。この資料で初めてジェネレータを信頼することができた。

精査する段階ではもらって嬉しいデザインを目指した

出揃ってから、部署ごとにパターンを当てはめていった。

隈部 円環のパターンが出揃ってから、ある程度絞り込み、部署ごとにイメージを当てはめていきました。この部署は積極的に前に出てくるから渦にしようとか、社内のことを統制してもらうから同心円にしようとか、デジタルっぽいからグリッドに沿う形にしよう、というイメージです。

形の精査において、気をつけたのが、「もらった人が嬉しい」グラフィックになること。

隈部 出来上がったものをたくさん並べてみると、全体の中の個性的なパターンに惹かれますが、名刺を受け取る人間にとってはワンアンドオンリーだから、これだ!と納得出来るものでないといけない。そこで統一感を出そうとすると、ジェネレートで作れる範囲が狭まるという。このせめぎ合いは、4種類に絞った時にデザインとプログラムの両面で詰めていきました。
川原田 僕の名刺も、もらった瞬間に「かっこいい」と思って気持ちが上がるんですよ。何万種類も見ていても、やっぱり自分にもらったパターンは気になりました。
茂出木 そういうところがやっぱり面白いんですよね。目でデザインしていくと、そういうことは起こらないから。
茂出木 このプロジェクトのお披露目の際には、ムービーも制作しました。弊社で座組みを作って、実際にジェネレートしたデータを素材に組み込んで。
川原田 生成するときのプロセスを動画として見られる映像も。作られる過程が見られるのはすごくいいですよね。
茂出木 映像に関しては、企画から納品までが1ヶ月ほどだったでしょうか…。
隈部さんの頭の中にあるイメージ、コンテ、モック映像をディレクター左居さんに伝えつつ、表現自体はモーショングラフィックのクリエイターに自由に作ってもらいました。円環のいろいろな表現方法を入れ込むことを目指しています。
隈部 伝えたかったのは、電通テックの事業領域や持っているスキル、戦略を始め、出来ることが多岐にわたっていることや、社員の多様性です。

経営陣の思想が、デザイナーやプログラマとの協業により、的確に形になった稀有な事例だ。

※1フィボナッチ関数:黄金比にも使われる「フィボナッチ数列」に基づいた関数
TWOTONE
株式会社ツートンhttp://www.twotone.jp/
デジタル領域を軸とした、コミュニケーションデザインを構築するデザインスタジオ。 ウェブ、アプリ、映像、グラフィックなどの分野で、企画・設計・アートディレクション・デザインを守備範囲とする。 国内外の広告賞/デザイン賞多数受賞。
茂出木 龍太アートディレクター / 代表取締役
2010 年TWOTONE INC. 設立。インタラクティブコンテンツのディレクションや、映像の企画演出を手がける。
西田 悠亮アートディレクター/ デザイナー
2011 年TWOTONE 入社。ウェブUI、アプリUI デザインを中心に、企画、映像編集、撮影なども行う。
廣瀬 健デザイナー
2015 年4月TWOTONEに入社。モーショングラフィクスや3DCG 制作を得意とする。
株式会社 コズモhttp://qosmo.jp/
2009 年設立。創作の過程にアルゴリズムを介在させることで、新しい気づきや視点をもたらす表現を実践する。 近年はComputational Creativity and Beyond をモットーに、AI を用いた作品制作、アルゴリズミックデザインなどを手がける。
浦川 通テクニカルディレクター
2013年早稲田大学大学院修了。基幹理工学研究科・数学応用数理専攻。
堂園 翔矢プログラマー
2016 年Qosmo 参加。高次元空間のビジュアライゼーション等、プログラマーとしても活動。
株式会社 電通テックhttps://www.dentsutec.co.jp
プロモーション×デジタル、最先端の専門性で、顧客企業の多様な課題に応じた最適なソリューションを企画から実施までワンストップでご提供。
隈部 浩クリエーティブディレクター / アートディレクター
ロゴを中心としたコミュニケーション全般を担当。
徳久 正樹プロデューサー
今回のVIリニューアルプロジェクトのプロデューサーを担当
川原田 俊アートディレクター/ デザイナー
クリエーティブセンター所属。広告制作、商品開発、キャンペーン企画、グッズ制作などを担当。
Written by:
齋藤 あきこ
Photographer:
YOSUKE SUZUKI

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