「ブラックライト印刷」という技術があります。印刷した紙をブラックライトで照らすと、ビジュアルが浮かび上がるというもの。廣済堂の「ルミナスパレット」は、ブラックライト印刷の表現の可能性を革新的に広げました。開発を手がけた同社の中村和久さんにお話を伺いました。
ブラックライト印刷で「フルカラー」表現が可能に
壁に並んだ絵画。部屋を暗くしてブラックライトで照らしてみると……。
なんと、モノトーンだった絵画が美しく色づきました! 暗闇に浮かび上がる鮮やかな色彩は、幻想的な雰囲気を醸し出しています。
ブラックライトを照射するとインキが発光する、これがブラックライト印刷です。廣済堂が「ルミナスパレット」を開発したのが2016年。しかし、ブラックライト印刷自体は以前から存在していました。
「もともと、セキュリティ対策のための技術なんです。お札やパスポート、またはキャラクターグッズの偽造防止のために使われていました。最近では、集配の効率化目的でハガキにも利用されていますね」
こういった用途のためか、通常ブラックライト印刷は単色しかありませんでした。しかし「ルミナスパレット」はフルカラーでの印刷を可能にしました。
「従来は、カラーといってもRGB(レッド、グリーン、ブルー)を組み合わせて、例えば車はレッド、芝生はグリーン、空はブルーといった感じで、結局単色でしか表現できていなかったんです。我々の技術は、RGB3色をかけ合わせて、光の三原色でフルカラーでの表現を実現するというものです」
しかも「ルミナスパレット」はオフセット印刷機による印刷を可能にし、枚数によっては従来より大幅にコストを抑えることができます。これによりポスターやパンフレット、ノベルティなど、用途が大きく広がりました。
フルカラーでのブラックライト印刷、その強みは何といっても「驚き」や「感動」。目をみはるほどの鮮やかさもさることながら、ブラックライトを照射すると色が浮かび上がるという演出もドラマティックです。
暗闇に浮かび上がる演出が、来場者の心を動かす
2016年に誕生したブラックライト印刷技術「ルミナスパレット」。印刷というと書籍や冊子などがイメージしやすいですが、施設やイベント会場など、多様なシーンで活用されています。例えば、東京スカイツリー。
「東京スカイツリーさんの財産である『夜景』を生かして、夜間帯の客足を増やす方法がないだろうかという課題がありました。とはいえ、夜景が美しいといっても、天候などの影響で365日キレイに見られるわけではないんですよね。そこで、パンフレットに実際に見るとこんな感じになりますよ、と夜景の写真を入れました。ブラックライトをパンフレットに照らすと本物の夜景のようなイメージが浮かび上がる仕掛けです」
また、暗い空間で効果を発揮するブラックライト印刷は、その性質から「夜景」や「イルミネーション」などのコンテンツとの相性が抜群です。北海道を代表するイルミネーションイベントのひとつ「第37回さっぽろホワイトイルミネーション」でも「ルミナスパレット」は採用されました。
「イルミネーションで彩られたトンネルにポスターを設置しました。数分ごとにライトが切り替わり、ポスターが光を放つという演出です。あまりにもポスターが鮮やかなので、単なるモニターと勘違いされるお客さんもいたようです(笑)」
ブラックライトによる劇的な演出やロマンチックな演出が、イベント会場などで来場者の心を動かし、より深く印象づけることを可能にします。
アクションを促す=体験型コンテンツに最適
ブラックライト印刷を用いたコンテンツは、ライトを照らすという能動的なアクションを必要とします。その特性を利用したのが以下の事例。
「『御堂筋オータムパーティ 2017』に出展されたJ:COMさんのブースでは、『ざっくぅを探せ』という企画を実施しました。暗い空間の中に入って、手元のブラックライトで周辺を照らしながらキャラクターを探すというアトラクションです。結果的に、20分待ちの大盛況になりましたね」
絵本での活用事例もあります。『ブラックライトでさがせ! 妖怪探偵修行中』(パイ インターナショナル刊)は、その名の通り、付属のブラックライトを使って、風景の中から妖怪を探すという、遊び心あふれる本です。
遊んでいるうちに、絵本に出てくる妖怪をすべて暗記してしまったお子様もいらっしゃるそうです。
このように「参加型」コンテンツとなることで、ただ「見る」だけ以上の楽しみや感動を与えるなど、新しい体験価値を生むことができます。
将来的には立体物への印刷も可能に
今後は紙だけでなく、プラスチックや金属など、立体物への印刷も可能になるとか。それにより、商品のパッケージや、交通機関へのラッピングなど、ブラックライト印刷の活用範囲はより広がっていきます。
「実際に、バスを丸々ラッピングして、そこにルミナスパレットを使いたいという話がありました。残念ながら、ブラックライト印刷は紫外線に弱いので長時間日光を浴びるところでの使用は難しいとお断りしたのですが、例えば地下鉄でのラッピング広告を用いたプロモーション活用は可能性があるかもしれませんね」
印刷できる範囲が広がっていけば、娯楽施設での展開も考えられそうです。例えば、プラネタリウムや水族館、博物館などで、展示物を印象的に見せるための演出として。飛行機の機内で突然照明が落ちて、天井に星空が浮かび上がるという演出もあり得ます。 暗闇の中を光るグッズを身につけて走るナイト系ファンランや、ナイトクラブのような空間で運動する暗闇フィットネスなど、数年前から若者を中心に盛り上がっている「暗闇×光」コンテンツとも相性が良さそうです。
また、飲食店の内装に利用することで、壁に描かれた模様をブラックライトで照らして別の絵に変化させ、時間ごとに店の雰囲気を変えていく、そんな使い方もできそうです。体験型コンテンツとしては、アトラクション施設で「宝探し」「スタンプラリー」などの、夜間イベントへの活用は手堅いでしょう。
イベントに限らず、ルミナスパレットを使った販促物と合わせて、ブラックライトの設置された空間を作れば、そこに人が集まりやすくなりますね。
屋外での利用という課題のほか、ブラックライト自体が割高でまだまだ広く一般に普及していないという課題もあります。今後、コストが下がりイベント会場で無料配布できる程度の値段になる、あるいはスマートフォンにブラックライトが標準装備されるようになれば、ブラックライト印刷の実用性はより高まるかもしれません。
ノベルティやパンフレットといった印刷物を超えて、幅広い利活用の可能性を期待できる新技術「ルミナスパレット」に今後も注目です。
- Written by:
- BAE編集部