2018.05.21

AR / VRに続く、複合現実「MR」のポテンシャル

リアルとバーチャルが融合する新しい世界

徐々に利用が拡大している、革新的な最新テクノロジー。拡張現実「AR」はスマートフォン向けアプリを中心に、仮想現実「VR」はゲームなどのエンターテインメント分野を中心に、それぞれ利用が広がっています。そこに両者をミックスした複合現実「MR」が登場し、大きな注目を集めています。

では、ARとVRを掛け合わせた「MR」。その違い、強みはどこにあるのでしょうか?

すでにMR利用が進んでいる中国に本社を構え、さまざまな「MR」サービスを提供しているDataMesh株式会社 代表取締役・王 暁麒さん、マーケティング&セールスマネージャー・安井祐太朗さんにお話を伺いました。

目次

リアルとバーチャルが相互に影響しあう「MR」

王 暁麒さん、安井祐太朗さん
左・DataMesh株式会社 代表取締役 王 暁麒さん、右・同マーケティング&セールスマネージャー 安井祐太朗さん

――中国やアメリカでは、すでにプロモーション領域でも活用されている「MR」。日本でも認知度の高いAR/VRとは、何が違うのでしょうか?

「MRとは、Mixed Realityの略です。現実世界に仮想世界を融合していることから“複合現実”と呼ばれています。AR(拡張現実)もリアルとバーチャルを融合した世界観ですので、似ているように感じるかもしれませんが、似て非なるものです」(王さん)

「ARはあくまで、『現実世界に、仮想世界を”重ねる”』もの。しかしMRは三次元の空間認識力を持っており、『現実世界に、空間情報を持つ仮想世界を”融合させる”』ことができます。たとえばバーチャルの3Dボールを壁に向かって投げた場合、ARだとすり抜けてしまいます。しかしMRでは、空間情報を持つため、ボールは“跳ね返る”ことになります。つまり、リアルとバーチャルが相互に影響し合う世界、それがMRなのです」(安井さん)

「そのため、融合する仕組みも異なります。ARはスマートフォンのアプリなどを介し、位置情報やマーカーに反応してコンテンツを表示します。大ヒットした『ポケモンGO (Pokémon GO)』も同じ仕組みです。MRでは、デバイスに付いた複数のカメラが空間情報を認識することで、現実世界に空間情報を持った仮想世界を表出させることができます」(王さん)

――ARよりも、現実世界との連動感ではMRに優位性があるのですね。では、VRとの違いはどんなところにあるのでしょうか?

「VRは、CGやビデオで構成された、完全なバーチャル世界です。現実世界との連動がないという点がMRと異なります。似ているところは、MRもヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)に似たデバイスを装着するという点です。また、デバイスを装着したユーザーの映像を、スクリーン上で共有することができる点も同様です」(王さん)

MR用のデバイス
MR用のデバイスは透過レンズ仕様。レンズを通して、MR(複合現実)の世界を体験できる。なお、同デバイス※では、指を使った“Air Tap”というジェスチャーコントロールにより、コンテンツの表示などを切り替えられるようになっている。また音声アシスタント機能もあり、声での操作も可能
※マイクロソフト社の「Microsoft HoloLens」の場合

――MRは“AR/VRを発展させたテクノロジー”と言えそうですね。

「はい、その表現がいちばんわかりやすいかもしれません。ただし、VRは完全な仮想世界により没入感を演出できますから、ゲーム分野はVRの方が向いていると思います。MRの強みはやはり、リアルな空間とバーチャルを融合できる点にあります。遠方にいる相手とのミーティングなどのビジネス利用や、プロモーション領域などにおいては、MRの方が相性がいいと考えています」(王さん)

(データ提供:DataMesh)
 

ビジネス、プロモーション分野での活用事例

――MRがビジネスに活用できるのは、デバイスの違いも関係しているのでしょうか?

「はい。VR用のHMDは、あくまで映像を見るためのディスプレイですが、MR用のデバイス(現在は「Microsoft HoloLens(マイクロソフト ホロレンズ)」が主流)はパソコンに近く、『次世代型のスマートフォン』とも呼ばれています。スマートフォン同様、OSとカメラを内蔵しているので、メールやスカイプはもちろん、動画や写真の撮影なども可能です。そのためスマートフォン同様、さまざまなビジネスシーンで利用できる可能性が高いのです。すでに企業研修、トレーニングなどにMRを使用するケースも出てきています」(王さん)

紙資料ではなく、立体表現が可能なMRを使った企業研修は、受講者に対してより深い理解を促すと考えられる

――現時点で、「MR」を活用したプロモーション事例にはどのようなものがありますか?

「プロモーション領域ですと、展示ソリューションとしての活用が進んでいます。たとえば、まだ製品が完成していない新商品を発表する場合でも、MRを使えば、商品の細部に至るまで、全角度から見せることができます。また弊社が提供しているMRの第三者視点可視化ソリューション『DataMesh Live!』を使えば、一人ひとりがデバイスを着用している必要はありません。デバイスを装着している人が体験しているMRの映像を、スクリーンやモニターに映し出すことで、その場にいる全員でMRを体感することができます」(王さん)

「その他に、ショールームでも利用されています。MRのデバイスを装着して見ると、何もないように見えるディスプレイの台座に製品のミニチュアが登場する、といった仕掛けを用意した事例もあります」(安井さん)

ショールームにMR専用のミニブースを設置すれば、バーチャルと融合させた仕掛けを用意することが可能。また、近付けば細部まで確認できる(右の画像は工業製品の例)

「他に、AR/VRではできない表現の一つに先述したソリューションを使った“リアルタイム合成”があります。これは、カメラで撮影した現実世界とバーチャルを瞬時に合成する技術なのですが、中国ではテレビ演出など、エンターテインメントの分野で導入が進んでいます。日本では今後、テレビだけでなく、体験イベントなどのプロモーション領域への応用も想定しています」(王さん)

第三者視点可視化ソリューション『DataMesh Live!』を使った「リアルタイム合成」の例

「もしその仕組みを店頭プロモーションで使う場合、スクリーンやモニターを利用すれば、誰もが同じ映像を共有できますから、面白い仕掛けの驚きも共有できるはずです」(安井さん)

MRが生み出す新しいカタチ

――AR/VRに続き、「MR」は今後、どのように発展していくのでしょうか?

「ビジネスシーンでの利用が広がるとともに、MR用のデバイスの小型化が進めば、将来的にはスマートフォンの代わりとなる日も来るかもしれません。ちなみに「Microsoft HoloLens」を開発したマイクロソフト社は、「MRはAR/VRを超える」と発表しているほどデバイスの開発に注力しています。このことからも、グローバル単位でMRが生活やビジネスシーンで大きなインパクトを与える可能性は充分にあると考えています」(王さん)

―将来的には、「MR×AI」といった新しい展開も考えられますか?

「はい。現在弊社では、商品の使い方を「MR×AI」によって構成されたアバターに尋ねると、バーチャル上のアバターが回答してくれるプロダクトを開発しています。そうしたサービスが広がれば、そこに立体型の新しいデジタル広告が生まれる可能性もあると思います」(安井)

「MR×AI」によるアバターのイメージ
「MR×AI」によるアバターのイメージ

「ひと昔前まで、電話やPCを 持ち歩く時代が来るなんて、誰も思っていませんでした。しかしその日はやってきました。つまり、未来は常に、想像もつかないほどの驚きと感動に満ちているものなのです。その実現に向けて、弊社もさまざまな取り組みを今後も進めていきたいと思っています」(王さん)

VRのような装着型デバイスを用いて、AR以上に精度の高い、リアルとバーチャルを融合した表現を可能とする「MR」。AR/VRとはまた違う領域で“まるでそこにいるような新しい体験”を生み出す技術として、今後さまざまな活用法が模索されていくことになりそうです。

Written by:
BAE編集部