2019.09.13

ユーザーとのエンゲージメントを高めるメディアプラットフォームの活用法

コンテンツと読者が集う「note」の活況と独自性とは

さまざまな分野のクリエーターや専門家が文章やマンガ、写真、音声などのコンテンツを自由に発表する、投稿型メディアプラットフォーム「note(ノート)」。2014年のローンチ以降、順調に成長を続けています。
最近では、企業や法人がnoteに公式アカウントを立ち上げ、ブランディングやファンコミュニティの形成を図るといった活用例が増えてきました。大手メーカー、新聞社、メディア配信サービス、WEBサービス、コンサルティング業など、多様な企業がnote上でのユーザーとの交流を実現しています。
自社サイトやSNSだけではなく、noteからの情報発信を行う理由やメリットは、どんな点にあるのでしょうか。noteを運営する株式会社ピースオブケイクの坂本さんにお話を伺いました。

目次

参加や応援がしやすい「街」のようなメディア

——プロ、アマを問わず、多くのユーザーから多彩な記事が投稿されている「note」。そもそもどのようなサービスなのでしょうか。

「note」はC to Cが基本のメディアサービスです。文章、漫画、写真、音声などを自由に投稿・購読でき、一般の方から著名人まで、あらゆるジャンルのクリエーター(ユーザー)が参加しています。

月間アクティブユーザー数は1,000万人(2019年1月時点)。会員登録者数は100万人以上。ボリュームゾーンは25~34歳だが、若年層からシニアまで幅広い利用者がいる

購読は、投稿したユーザー自身で課金制にしたり、サブスプリクション性を持たせることなどもできます。他の投稿に「スキ」を伝えたり、設定によってはコメントも書き込めます。
もちろん、投稿せずに読むだけでも問題ありません。無料で公開されているものはすべて会員登録なしで見られるので、潜在的なユーザーも相当な数が存在します。

——毎日、1万件前後の投稿があるそうですが、メディアとしての質はどのように担保されているのでしょうか。

noteに「編集部」が存在するということが、強く影響しています。面白いコンテンツが埋もれてしまわないように、ジャンルや視点が偏らないように注意しながら「おすすめ記事」のピックアップを行って、ユーザーに紹介しています。

本年7月には、元ヤフー株式会社代表取締役社長の宮坂学さんによる、ビジネスにおける重大事故発生時の対応に関する投稿が大きな話題に。同月の本田圭佑さんが自社のエンジニアを募集した際も注目を集めた

また、これは他のメディアとnoteの最大の違いでもありますが、noteには広告やPV数によるランキングが存在しません。
私たちが最も大切にしているのは、ユーザーが暮らしやすい「街づくり」の思想です。noteでは個人も法人も等しい立場のクリエーターであり、街の住人です。どちらかを持ち上げるようなことはしませんし、どちらにも、他のユーザーに心から喜ばれるコンテンツを発信してほしいと考えています。

素敵な住人やお店が増えれば街はにぎわいますし、それぞれのファンが集まることで、課金やコメント、コンテンツへの参加などの機会も増えるでしょう。 これは、昨今の消費傾向とも大いにリンクする部分です。ファンの多くは、好きなクリエーターや作品に対しては応援や貢献を惜しまないし、見守りたい、育てていきたいという気持ちなどがあるようです。
しかも、良いコンテンツが作られれば、関連するコンテンツがサジェストされ、note内での流通が拡大します。

私たちも、良質なコンテンツを継続的に投稿してもらうための仕組みや、ユーザー同士の良好なコミュニケーションの実現を熟慮して、サービスの運営と設計を行っています。
具体的には、例えば投稿フォームのUIなどは、誰でも書きやすく発信しやすいよう、検証の末、あえて徹底的にシンプルにしています。投稿フォームは、ほぼ見出しと本文のみです。画像やSNS、ECサイト等へのリンクも、貼り付けるだけでトーン&マナーが揃いますし、ほかの記事等からの引用もワンクリックで行うことができます。制作に集中できる環境を整えることで、クリエーターをエンパワーするということも、私たちが大事にしている事の一つです。

——初めからコンテンツへの関心が高い人の集まる場所に向けて情報を発信できるのは、大きなメリットですね。

はい。今まで、noteのように幅広い層に安定してアプローチできる場所は、ほぼ存在しませんでした。
ネット上に単独でサイトを立ち上げるには、非常に大きな構築コストがかかりますし、集客も困難です。スタートしても、コミュニティはなかなか作れません。まるで、砂漠に店を出すようなものですが、noteなら最初から盛り上がっていて、住人同士の交流もある商店街に気軽に出店することができる、というイメージです。

坂本洋史(さかもと・ひろふみ)さん
株式会社ピースオブケイク 事業開発部 坂本洋史(さかもと・ひろふみ)さん

販促やPRはもちろん、ブランディングや求人にも活用が可能

——note上に企業のアカウントや投稿も増えていますが、どのような目的で利用されているのでしょうか。

ブランディング、コミュニティ、販促やPR、リクルーティングなど、どんな目的でも活用可能です。今年の3月からは法人向けサービス「note pro」も開始しました。

新聞社、Webサービス、金融業、飲料メーカーなど、ジャンルを問わずさまざまな企業がnoteを活用。多くはB to Cだが、B to Bの事例もある

例えば、メーカーやサービス業の多くは、作り手やスタッフの思いや背景、開発時のストーリーなどを紹介することで、ファン作りや販促、ブランディングにつなげています。金融系やコンサルティング業などは、自らの知見やノウハウ、ナレッジを紹介することで、問い合わせやリクルーティングに結びつける例も多いようです。

——noteの雰囲気やユーザーの傾向と親和性の高いジャンルなどはあるでしょうか。

出版社のアカウントがnote上で実施している「無料の試し読み」などは非常に人気があります。
かつては「無料で公開すると買ってもらえない」と考えられていましたが、コンテンツとの出会いのきっかけとして、今やネットは外せません。内容をある程度オープンにして興味を持ってもらい、+αなどによって購買につなげる方法のほうが、読者と出版社の双方にとってのメリットは大きいでしょう。

一部無料、全文無料などの仕組みを使った、人気コミックや話題作の試し読みは注目度が高い。note上の連載から書籍化などが実現する例も増えている

——企業がnote上で注目を集めるためのポイントなどはありますか。

まず、「誰に、何を伝えたいか」をはっきりさせた上での運用をおすすめしています。「PRをメインに、リクルーティングにも使いたい」など、目的が多岐にわたる場合は、コンテンツを分類したり、アカウントを分けたりする方法もあります。
また、先述の通りnoteでは、企業アカウントが優先される仕組みはありません。ですから、やはり多くの人に喜ばれるコンテンツを発信することが大切です。面白くないものや直接的な宣伝・広告の色が強いものは、あまり読んでもらえないのです。
始めたら発信を継続・蓄積して、短期的な効果のみを求めないことも、ファンとの信頼関係を作るための重要なポイントです。

コミュニケーションツールとしての活用は拡大する

——コメント等以外に、企業とユーザーとの間では、どんなコミュニケーションが可能でしょうか。

「ハッシュタグの活用や引用」などは、重要な要素の一つですね。企業側が指定したハッシュタグを使って投稿してもらうことで、幅広い年齢層の自由な感想や意見を集められます。字数制限のあるTwitterや、アンケートのフリーフォームでは収集しにくい部分でしょう。マーケティング担当者などが、商材に関する定性的な情報を集める際に、タグ付きで投稿された内容が分析材料になるようです。
自社の商材やサービスに関する投稿を見つけたら、自社サイトで引用することもできます。その際、投稿者に通知が届きますから、コミュニケーションが生まれるきっかけにもなります。

その他、企業とユーザーをつなぐもう一つの方法として、タグを使ってテーマに添った投稿を募集する「コンテスト」という企画も実施しています。

「#あの夏に乾杯」をテーマにした作品の募集(大手飲料メーカー主 催)と、旅にまつわるエッセーを募集する「#旅する日本語」コンテスト(羽田空港主催)などを実施(2019年8月現在)

昨年の春に大手飲料メーカーが行った、新社会人のエピソードを募集するコンテストは好評で、オフライン、オンラインから参加者を募り、コンテストを総括する1,000人規模のイベントも実施しました。
コンテストはファーストビューでの企業色が薄くなったり、投稿された作品に競合他社の商品が登場することもありますが、投稿する側や読者がその企業や商品への理解を深めたり、想起するポイントになります。実施する価値は大いにあるでしょう。
投稿する側にとっても、「お題」があれば創作のモチベーションになりますし、作品が読まれ、評価を受けるきっかけにもなります。街としてのnoteも盛り上がり、「三方よし」のコミュニケーションが実現します。

大手食品メーカー 主催の「チャーハン大賞」で大賞に選ばれた作品(一部抜粋)。3才の娘さんとBBQでチャーハンを作る様子が綴られた、心温まるフォトエッセイ。結果を自社の公式サイトで発表してnoteと連携

——今後、note上での企業とユーザーとのコミュニケーションは、どのように変わっていくでしょうか。

まず、音声や動画を使うコンテンツは、時流に乗ってnote上でも増えていくのではないでしょうか。
また、どんな表現方法を選ぶにしても、これまでの広告のような、企業側からの一方的なアプローチは頭打ちでしょう。一時的な効果はあっても、持続性という点では難しいと思います。思いや本質をしっかり伝えることで、「密接ではなくとも、必要な時には思い出してもらう」という適度な距離感と関係性を築くことが、今後はより重要になっていくのではないでしょうか。

そのために、コーポレートサイトのようなフォーマルな場やTwitterなどのライトな場とは別に、エンゲージメントに寄与できるカジュアルな情報発信の場として、noteを活用していただければと思います。「伝えたいことが伝わりやすい場所」で、ぜひ多くの人を喜ばせるコンテンツを発信してください。


ユーザーとの信頼関係の構築や情報収集などの面で、企業によるファンコミュニティの形成には大きなメリットがありますが、既存のサイトやSNSを使ったきっかけ作りは困難でした。
しかし、そもそも「コンテンツを読みたい・自分でも表現したい」というユーザーの多いnoteのようなコミュニティ化されているメディアをうまく活用すれば、実現度は上昇しそうです。
実現には、企業側もまずユーザーと世界観や目線を同じくし、多くの人に喜ばれるコンテンツやクリエーティブを提供する長期的な取り組みが要となるようです。

Written by:
BAE編集部