2019.04.26

人気のゲーム配信サービスから見えるコミュニティの新しい形

デジタルネイティブ世代が集うバーチャル空間の中の居場所

「Mirrativ」は、スマホゲームの実況配信を誰でも簡単にできるライブ配信アプリです。プレイの様子を配信する「ゲーム実況動画」は、以前から人気の動画コンテンツですが、誰でも手軽に配信できる機能などの登場により、ライブ配信を通じてユーザー同士がつながるという新しいコミュニティの形も生まれてきています。彼らはどのようなコミュニティを形成しているのでしょうか。配信ユーザー100万人を達成した株式会社ミラティブのCCO、小川まさみさんに、「ゲーム配信」を起点に生まれる若者世代の「つながる場」について伺いました。

目次

ソーシャルコミュニケーションとしての「ゲーム配信」

——アプリのユーザー層を教えてください。

ユーザーのボリュームゾーンは10代後半〜20代前半ですが、40〜50代や10代前半の人もいて、その幅は広いです。また、リアルイベントに精力的に参加してくれるコアなユーザーは、30代の比率が高いですね。

アクティブな配信者さんの数
2015年からサービススタートし、現在では配信者数100万人を超える

——どのようなきっかけでMirrativを利用するのですか。

流入経路としては、オンラインゲーム内や、Twitterでつながっている友達から「Mirrativでゲーム配信するよ」と誘われて視聴を開始するケース、直接知り合いがいなくても、ゲームアプリのオープンチャットに投稿された配信の告知リンクから入ってくるケースが多いようですね。

また、一般的に実況というと配信者はYouTuberに代表されるような何千、何万という視聴者に対して配信する、「1対多」のタレント的なイメージがありますが、Mirrativの場合は、5人に1人は配信もやっていて、誰もが配信者にも視聴者にもなりうるという関係性であるのが大きな特徴です。Mirrativで配信を視聴して「こんなに簡単に配信できるんだ!?」と、視聴者が配信者に転換したくなる環境を、運営する私たちも大切にしていますね。

——YouTuberによるゲーム実況動画などに比べて、ライブ配信の動画はどのような特徴があるでしょうか。

配信者からすると、ゲーム中のスマホの画面をリアルタイムで共有するだけなので、テロップを入れたり加工したりといった編集レベルの高さを求められないことが挙げられます。
また、顔を出す必要がない、ということも大きな特徴ですね。ゲームの話はしたいけれども、YouTuberのように顔出しするのは躊躇する。あくまで配信するのはスマホの画面なので、「顔出ししないのではなく、その必然性がない」という理由があるのがいいんです。

——顔を出さない正当な理由があるって面白いですね。

私たちはこの「理由」を大切にしています。「顔出ししない」という「やらない」理由だけでなく、逆の「やらないといけない」という理由の場合もあります。例えば、Mirrativで配信を始めるユーザーさんによく見かけられる光景なのですが、Twitterなどで「私の配信なんて需要ある?」という問いかけコメントをします。それにフォロワーさんから「見たい!」ってリプが返ってくるんですけど、これは「私はそんなに乗り気じゃないけど、見たい人がいるから」という理由を自らつくっている場合もあるんです。

——Mirrativではアバターを提供されていますが、これも「顔出ししたくない」ユーザーにはありがたいシステムかもしれません。

はい。自分の個性を表現するための機能として「エモモ」という3Dアバターを用意しています。これにより、好きな見た目で雑談配信ができるようにしました。

アバターによる配信もできる

ゲームを通じた居場所づくりの場

——なぜ、ゲーム配信にここまで根強い人気があるのでしょうか。

実は必ずしもゲームは「目的」ではなく、「コミュニケーションのためのツール」であるとも私たちは考えています。わかりやすい例えで言うと、友達の家でドラクエをやっているような感覚に近い。プレイヤー以外はゲームに集中しているわけではなく、ほとんどはチラチラ見ながらも、お菓子を食べたりマンガを読んでダラダラしていましたよね。技術を上達させることより、友達と同じ空間や環境でゲームをするのが楽しいんですよね。

一見、男性が好きそうなバトルロイヤルゲームの「荒野行動」が女子高生に人気ということが一時期話題になりましたが、あれも、普段はゲームをしない人たちが、友達に一緒にやろうって言われたから始めて「みんなやっている」状態になったんですよね。でもTikTokが流行ったらそこに流れる、みたいな。それって、実は友達とコミュニケーションすることが重要で「ゲームでもいいし、ゲームじゃなくてもいい」状態なんだと思います。
Mirrativでは自分に合った配信を見つけて、応援したり、たわいもない会話を楽しんでいるユーザーが多い。ゲームというバーチャル空間で居心地のよい場所を見つけているのではないでしょうか。

小川まさみさん
株式会社ミラティブのCCO、小川まさみさん。10代の頃にチャットサービスで年齢も環境も違う人と同じ話題で盛り上がったインターネットの原体験がMirrativに通じていると言います

——友達にすすめられたらすぐにアプリをインストールして遊べるので、昔よりも「口コミ」の効果は高そうですね。

そうなんです。「入れてみなよ」と友達に言われた時にその場ですぐ入れるタイプがMirrativのユーザーです。また、デモグラフィックによると、ゲームを試す本数が多く、課金経験者が多く、課金金額も平均より高めです。もちろんゲームのプレイ時間も長い傾向があります。

学校や職場と違う、サードプレイス的な居心地のよさが支持されている

——お話を聞いていると、MirrativはゲームアプリというよりもSNSに近く、いい意味で緩やかなコミュニケーション空間になっている印象があります。自己実現をしたい、人気者になりたいというガツガツした感じもありません。

いま、若者に人気のアプリは複数ありますが、それぞれコミュニティ特性があり、一つのコミュニティでユーザーの全ての欲求を満たすことは難しい。Instagramで自撮りをする時に所在なくポーズをとっていたりする子が、実は、好きなゲームという共通項で気軽に会話できる場が、息抜きになっているのではないかと私は考えています。とくにMirrativは匿名性が高いので、クラスの友達や現実の知人とフォローしあったり、写真をいいね!しあうような義理も義務感も必要ありません。
それはいわば、ゲーム配信空間が他のSNSでのコミュニケーションや実生活に対する「サードプレイス」になっているということですよね。

いつも一つの場所しかないと息が詰まることだってある。Aのコミュニティが調子悪い時はBで相談したり、Cで励ましてもらったほうが、人間って生きやすくなりませんか。私たちも気の合う同士でつながり、自然に友達になれるそういった第二、第三の場にするということを大切にしています。Mirrativのようなゲーム配信は、自分をさらけ出すことなく、自分のペースで見せたい部分だけを見せられるという点が支持されているのかなと思います。

——複数コミュニティの話ですと、職場や学校ではなかなか居場所を見出せなくても、別のコミュニティでは活躍できる、という場面もありそうですね。

Mirrativでもユーザーの皆さんが自らの役割を見つけようと動いているのが面白くて、ある時は配信者になったり、ある時は視聴者になったり、中には「プロ視聴者」と呼ばれる視聴専門ユーザーさんもいらっしゃいます。誰かの役に立ちたい、という意識から、コメントで配信者をサポートしてあげたり、操作を人に教えてあげる人がいるんです。そういうふうに、人って自分が好きな場やコミュニティに対して、何か貢献したい気持ちがあるのではないでしょうか。

さらに仲良しグループが、ユーザーネームに同じ絵文字を付けたり、名前の一部を共通にしたり、家族での「お父さん役」などとコミュニティ内で役割をつくったりと、「現実の仲間」の形成と同じようなことも普通に起こっています。

そういう想いを受けて、私たちも、運営と積極的に関わっていきたいと思ってくださるユーザーさんには、ユーザーインタビューへの参加やイベントボランティアの手伝いをお願いしたりとアプリ空間と同じように「Mirrativでの役割」を果たせる場を提供しています。また、運営側からもコミュニケーションをとり、改善要望についてもバージョンアップに吸収するなどもしています。

——そういったユーザーの「自発性」も取り入れたコミュニケーションの場を運営する上で、気をつけていることはありますか。

誰か一人が有名になるのではなく、それぞれの居場所があるということを大事にします。配信者に対して視聴者も数〜十数人くらいで、濃いコミュニケーションができればいいと思っています。

それはユーザー同士のコミュニケーションを活性化させるということが、サービスを使い続けてもらうための一番のリテンションになるからです。
このサービスを通じて、いつも「誰かにとってのサードプレイスでありたい」と思っています。


人気のゲーム配信サービスが支持をされる理由を探るうちに見えてきたのは、現代人ならではのコミュニティの在り方でした。
これまでの趣味やスポーツといったリアルなつながりだけでなく、人の多様性に応えるバーチャル空間のコミュニティは、自分らしくいられる場所として機能し、新たなサードプレイスとなっているようです。

Written by:
BAE編集部