2019.07.12

女性起業家のOMO的オン&オフライフ

良質なデジタルコンテンツがビジネスとライフスタイルを革新

電子決済をはじめ、あらゆるサービスのオンライン化が進み、テクノロジーが生活のなかに急速に浸透する中国。そこに暮らす人々のライフスタイルを「OMO中国ライフスタイルレポート」として紹介します。シリーズ第2回は、都会で軽やかに働き、オンタイム・オフタイムともに充実している起業家(旅行プランナー)に焦点を当てます。
「OMO」とは、Online Merges with Offline(オンラインとオフラインの融合)。オンラインとオフラインを分けるのではなく、オンライン起点でビジネスを捉えるマーケティングの新たな考え方を指します。少数精鋭で新しいことに挑戦する企業家たちは、仕事の面でもいまのテクノロジーを最大限に活用している人々の代表と言えるかもしれません。仕事にプライベートに忙しい毎日を送る大人の女性のOMO的生活をのぞいてみました。

目次

デジタルの力でビジネススタイルを一新、アプリをフル活用

王さん(39歳)は、上海市内のマンションで両親とともに生活しています。自身が購入した現在の住まいに、高齢の両親を気づかい同居を決めたという、家族思いの自立した女性です。
トラベルエージェンシーの経営者兼プランナーの王さんは、海外出張が多く家を空けがち。忙しい彼女にとって、時間の使い方は大きなテーマです。
「普段から『京東(ジンドン)商城』(中国で天猫(ティエンマオ)に次ぐ規模のECサイト)の当日配達サービスはよく利用していますね。でも一番よく使うのは、アリペイのスマホ決済です。私はこれがデジタル化によって一番便利になったことだと思います。ここ1年半くらいは現金にさわっていません。小銭やポイントカードを気にしなくていいし、買い物がスピーディになりました」

京都の高瀬川周辺。商品になる隠れ花見スポットは自分の足で探す

「日本の高野山でお坊さんと一緒に生活してみたい」「安藤忠雄さんの建築研究所内部を視察したい」といったユニークな旅のアイデアをかたちにできることで高い評価を得ている王さん。仕事でデジタル化できることは、ほぼすべて移行しています。

「『玩途旅行』という自社アプリを活用しています。中国国内の大手銀行10社のアプリと連携していて、各銀行のアプリから旅行を申し込めるようなシステムにしています。以前はカウンターでお客さまに対面して決済は銀行振り込みでしたが、いまはすべてアプリ上で完結できるので便利になりました。利用者の多くはリピーターで、弊社アプリを見た人からオンライン通話等で依頼の問い合わせが入りますが、見積もりなどその後のやりとりはWeChatを使っています。特に広告は出していません。旅行プランの具体的な相談もWeChatで受けるため、スタッフには細かな質問への対応やニーズに合った旅行プランが提案できるよう研修しています」

自社アプリ『玩途旅行』は最強のビジネスツール

デジタルを活用したビジネススタイルに変えたことで、家賃といった固定費や販促コストを削減でき、商品開発にリソースを集中できるようになったという王さん。他の旅行代理店と一線を画す旅をプランニングするには、質の高い情報収集は欠かせないと言います。

「情報収集に使っているのは『得到(ダーダオ)』。1ジャンル年間399元(約6,600円)で専門家の話を聞けるアプリです。これは仕事だけでなくプライベートでもフルに活用しています。よく使うのは医学、経済、文学(古典の解説など)のジャンル。医学では健康診断書の読み方について詳しく説明してくれる回が役立ちました。仕事では、例えば仏教。観光地にはお寺が多いので、歴史的背景など事前の勉強に使っています。あとは、起きたばかりの国際的なニュースについて専門家が解説してくれるコーナーもよく利用します。海外旅行を扱っているので最新の国際情勢を把握しておく必要がありますが、新聞をじっくり読む時間がないのでとても重宝しています」

『得到(ダーダオ)』アプリ(左)、日本の雑誌も「Kono電子雑誌」アプリでまとめてチェック(右)

中国はいま、良質な有料アプリの時代に入っているのではないかと王さんは言います。ミーティングの相手が海外クライアントや国内企業の上層部である王さんは、幅広い教養を求められる場面も多く、そういったときでも役に立つ情報は有料でなければ得られないと感じています。「得到」は、多分野における専門家や文化人による解説、発信情報を手軽に得られる便利さと、時間を効率的に使えるところが気に入っています。

また、こうしたアプリを上手にとり入れることで、お客さまのニーズによりきめ細かく応えられるようになり、仕事のパフォーマンスが上がったと実感しています。いまはアプリで収集した情報をもとに三重県の旅を企画中。
「現地の海女さんがとった海鮮をその場で焼いて食べるという、レアなテーマの旅が大人気なんです。『もっと変わったことがしたい』『他の人がやらない体験を』という旅のニーズは常にありますね」

デジタル活用による時間やコストの効率化の一方で、時間をかけているのはリアルな人と人との関係づくりです。例えば、日本各地の自治体とは常に交流を図っています。だからこそ、アプリで収集した情報から着想したアイデアをすぐに旅行商品としてかたちにできるのだと言います。ユニークな旅を実現するための交渉は信頼関係がベースになるので、日頃のコミュニケーションを大切にしています。

プライベートでの行動もアプリによって変化

「最近もっと頼りにしているのは『Keep』です。これはダイエット、体づくりのためのアプリで、帰宅後にインストラクターの映像を見ながら、筋トレやストレッチをしています。このアプリの一番のメリットはジムに行かなくてもいいこと。出張や移動が多い人には、ジム通いは難しいと思います。以前ジムに通おうとしたこともありますが、年会費を払ったのに結局3回しか行きませんでした。その点『Keep』は、特に海外出張が多い私にとってホテルでも使えるので、続けるという意味で効果的です。激しい運動設定にしていないのでダイエット効果はわかりませんが、ストレス解消にはぴったり。仕事終わりのストレッチが日課になっています」

『Keep』で仕事の合間にリラックス

このアプリは最初に身長や体重、運動頻度などを入力すると、同じようなタイプの人とアプリ上でつながることができ、「今日はこれだけやった」「もう〇㎏痩せた」といったメッセージが届くなど、いい意味で競争しながらモチベーションを保てる仕組みになっています。他にも、効果的な脚痩せ方法といったパーツごとのトレーニング方法もアプリ内のミニプログラムで提供されていて、実績あるインストラクターによる指導映像は有料で販売されています。また、各地で「Keepでジョギングしている人集まれ」といったオフ会も開かれ、同好の人たちとオフでの交流につなげている人もいるようです。

「最近は『変啦(ビェンラー)』というアプリもよく使っています。これは、自分のライフスタイルや体調などを登録するとプライベートドクターのような人が目標体重に近づくためのプログラムを組んでくれて、『今日はこれだけ運動してください』『今夜は揚げ物などを食べないで』などのアドバイスをしてくれるアプリ。『変啦』と連動したテレビ番組を見始めたことが利用のきっかけになりました」
スマホひとつで、いつでも好きな時に、好きな場所で、好きなだけトレーニングを楽しむことができたり、仕事のプランニングをサポートしてくれたり。デジタルは出張が多い王さんにとって、時間と場所の制約をなくし、オンタイムとオフタイムを自由に行き来するための最強ツールではないでしょうか。

日常に欠かせない信用スコアの効力

王さんはジーマクレジット(芝麻信用)を信用スコア機能が登場してからすぐに使い始めて、いまではオンタイム・オフタイムともになくてはならないものとして日常に浸透しているようです。
「私はすごくスコアが高いんです。レンタカーやホテル宿泊のデポジットや登録が不要なのは大変なメリットです。これがないと仕事もプライベートも回らないのではないかと思うほど。情報漏えいなどのリスクや不安より、恩恵のほうが多く感じます。(ジーマクレジットを運営する)アリペイに対しての信頼感もあります」
一方、サービスに対する評価スコアは気にしたことがないとも言います。「ドライバーに星がついていることはありますが、まったく気にしないです。気にしていたらタクシーが捕まらないですし。デリバリーの係員に点数をつける機能もありますが、面倒なので一回も点数はつけたことがありません」

王さんにこれからの中国社会がデジタルを軸に進むべき方向についての希望を聞きました。
「私はいま海外出張が頻繁で忙しいなか、体調が思わしくない母の世話をしています。高齢者にやさしいAI技術が進み、そこからつながっていく人の心や生活に寄りそうサービスが出てほしい。こういったものが、働く私たちの世代の生活をさらに豊かにしてくれると思います」
最近見たテレビ番組で、AI搭載の冷蔵庫が紹介されていたと言います。それには高齢者が冷蔵庫を開ける頻度、入っている食品から何を食べているか、賞味期限切れのものはないかを子のスマホに送ってくれる機能がついているもの。それは、中国では今後発展する余地のある分野です。ITやAIがもっと人に近くなり、人の弱さをカバーしたり、人を助けたりする社会がくることを王さんは望んでいます。


―取材を終えて
いま中国では有料アプリの利用が拡大し、情報は「買う」時代に入っているようです。王さんが利用する「得到」は、人気講座ともなると30万人もの受講者を抱える講師もいるとのこと。利用者にとってはこれまで入手が難しかった専門性の高い情報や知識にアクセスしやすくなり、発信者である専門家や文化人にとっては研究などで培った知見をオンライン上で提供することで受講者の規模拡大を図れて収益を見込めるといった、利用する側、提供する側の双方にとって有益なプラットフォームとして成長しているようです。
こういった良質なコンテンツを誰もが手軽に利用できるようになることによって、ビジネスやプライベートの質が底上げされ、より良いサービスの提供や豊かな生活を送れる環境がつくられていくのではないでしょうか。
また、時間効率というワードが出てきましたが、忙しい現役世代には、場所や時間を問わないオンラインでできることが増えることは、オンタイム・オフタイムともに最大のメリットと言えます。
王さんの話にもあったように、その先には、人の心や生活に寄りそうデジタル技術がいかに精度を上げ進化していくか。人の暮らしがどう折り合い、重なり合っていくのか。そこにOMOの進化のヒントがあるように思います。

Written by:
BAE編集部