2018.12.05

インバウンドの消費行動を広げるバーコード活用の展望

多言語アプリ「Payke」で可視化される興味や行動

2020年に向け訪日外国人のさらなる増加が見込まれています。情報不足・PR不足による機会損失の解消は、多くの場所で急務となっており、様々なサービスが生まれています。

その中でも注目を集めているインバウンドのショッピング・サポートアプリ「Payke」。ユーザーのアクションから収集されたデータ分析でインバウンドの興味や行動を可視化でき、メーカーや小売店、行政からも関心が高まっています。

「Payke」の活用から、インバウンドの行動や、消費のポテンシャルは見えてくるでしょうか。株式会社Paykeの代表取締役CEO 古田奎輔さんにお話を伺いました。

目次

商品情報だけでなく、PRや関連情報も瞬時に伝わる

株式会社Payke 代表取締役CEO古田奎輔
株式会社Payke 代表取締役CEO古田奎輔(ふるた・けいすけ) 19歳で貿易業、EC事業を立ち上げ2014年に株式会社Paykeを設立。

――「Payke(ペイク)」は、どんなアプリでしょうか。

「バーコードを媒体として活用することで、世界中の商品の情報をインターネットに繋げる」アプリです。
使い方は、商品のバーコード(JANコード)をスマートフォンやタブレットでスキャンするだけです。商品名や情報、価格、その他のインフォメーションが、選択した言語で閲覧できます。

現在は日本語を含む7カ国語に対応しており、エンドユーザー数は約350万人。世界中の方々に使われています。うち95%以上は、台湾、香港、中国、韓国、タイ、ベトナムなどのアジア圏の方々です。
2015年10月にローンチ後、SNSなどを通じて口コミで広がり、2017年1月のApp Storeランキングでは、台湾、香港、マカオで1位、韓国で3位を獲得しました。現在の加盟企業数は1200社以上、登録商品は25万アイテムを超えました(*)。
*2018年11月時点。

――ユーザーはもちろん、メーカーや小売店にも利便性がありますね。
まず、外国人観光客のニーズと、メリットについて教えてください。

 
ユーザーは「自分が手にしている商品が何か」を知ることができます。
商品名や価格、商品の魅力、食品のフレーバーや原材料、化粧品の使い方や成分などはもちろん、お菓子やベビー用品、玩具などの、安全性や対象年齢といった詳細も確認できるでしょう。
閲覧ログによる比較検討や、おすすめ商品、コラム、レビューなども参照できます。
 
ユーザーのほとんどは「Payke」を旅に出る前に、自分の国でダウンロードしています。コンテンツからガイドブック的に買い物の予習ができますし、お土産のリクエストを聞いたりするのにも便利に使えます。
実際に、海外で日本の商品がスキャンされる数も増えています。日本からのお土産の商品情報を確認することなどにも使ってもらえているようです。

――小売店からはどんな反応がありますか。

観光客が増える一方、小売店では、インバウンドに対応しきれていないという課題があります。接客スタッフの整備や店頭POPを設置するにしても、多言語での対応は難しく、伝えたい情報を伝えきれないことも多いようですが、コストをかけずにそれぞれへの対策が可能になるため、好評をいただいています。
 
「Payke」専用タブレットを導入した店舗では「外国人からの質問が減り、売り上げが上がる」傾向がみられました。実際に、沖縄県のあるドラッグストアでは、専用タブレットの設置後に外国人客の売り上げが前月比36%上昇するという結果が出ています。
 
今まで、直接の対応ですら伝えきれなかった商品情報やセールスポイントも、個別の翻訳やPOP設置の手間なく、パッと伝えることができます。
「お店に来てくれたが、何も買わずに帰ってしまった」といった機会損失の減少に繋がりますし、顧客1人が4回以上スキャンすると購買率が大きくアップすることなどもわかっています。

タブレットを設置した近くの棚の商品が売れやすくなることも明らかになっている。「ついで買い」を誘発。「自動セールス機」にもなり得る

――メーカー側のメリットについては、いかがでしょうか。

最大のメリットは、「店内の棚の前で、直接商品を手にしている状態の顧客にアクセスできること」です。
買い物をする意志がある状態の人、――中でも、インバウンドに対して、最後の一押しとなるプレゼンやプロモーションができるプラットフォームは他にはありません。

たとえば、お酒を選んでいる人におつまみ情報を合わせて提供したり、シャンプーを買おうとする人にトリートメントをセットでおすすめする、といった使い方も可能です。
コストを抑えながら、PR効果のアップを狙うことができ、「ついで買い」を誘発することができます。

スキャンされた背景から、位置情報や動態分析も可能

――どういったデータによって、訪日外国人の消費行動を把握していますか。
 
データを「興味関心」と「動線」に大別して、順に説明しましょう。
まず「興味関心」。スキャンデータの累積やリアルタイムでの分析によって「どこで、どの国の人が、どんな商品に興味を持っているか」を知ることができます。
 
たとえば、過去に行った興味指数の分析では、インバウンドが日本の医薬品やスキンケア用品に高い関心を持つことがわかり、トレンドランキングなども発表しました。
ユーザーは、日本製の安心、安全な商品に関心があり、その細かな違いを知りたがっています。まとめ買いや大量買いも一部では「減った」といわれていますが、健在です。
 
その商品を手に取る前後に、どの商品をスキャンしたかも明らかですから、購入前後の比較検討の様子もわかります。もちろん、どの商品とどの商品を組み合わせて購入したかや、スキャンしても購入には至らなかった商品なども判別できます。
EC(通販)サイトでは当たり前に獲得できるデータですが、実店舗においては貴重でしょう。
 
メーカーや小売店が参照できるのは、現状は自社に関わるデータのみですが、PRや在庫・販売数の管理に活用できますし、POSと連動した実売数との比較も可能です。
「たくさんスキャンされている(=興味を持たれている)のに、実売数が伸びていない」といった商品を洗い出し、スキャンしたときに表示する情報を変えることで、効果を試すといった対策も立てられるでしょう。

「商品をスキャンする=能動的にその商品に興味を持っている証拠」でもある。ワンハンドで顧客と商品との密なコミュニケーションが実現

次に、「動線」にまつわるデータですが、調査ビジネスの一環として、用途に合わせてカスタマイズした分析を提供しています。たとえば、ユーザーがどこで何をスキャンしたかを定点観測したデータから行動を分析すれば、広告戦略や出店計画に活用できます。

もう少し具体的に説明すると――、Aという店の競合がB店だとしましょう。Bで買い物をするユーザーが直前にC店に寄るケースが多いとわかれば、CからBへの動線のどこかにA店の広告を打つ作戦を練ることができます。
今後はデータを用いたプロモーションの提案なども増やしていきたいですね。

「Payke」の使用状況を可視化したデータの一例。スキャンされた商品のほか、場所やユーザー属性、時刻などがわかる
 

――移動の状況や滞在時間なども読みとれますね。そのデータは行政や自治体も関心が高いのではないでしょうか。

はい。2018年9月の北海道胆振東部地震が起こった際、ユーザーが一カ所に集まり困っていることがすぐにわかりました。災害時にSNSで積極的に情報が拡散されましたが、訪日外国人の方は情報が取りにくいため、ユーザーに交通情報やスマホの充電場所の情報などを送信したところ、一定の反響がありました。

どこの国の人が、どこで、何に興味を持つかという情報は、観光や消費に関する施策はもちろん、災害対策にも応用の可能性があるのです。

情報がワンアクションで伝わることが消費活性のカギ

――今後の目標や展望をお聞かせください。

私たちの目標は、「まだ伝えきれていない商品の魅力を伝えることで、人々の買い物を活性化し、世界の消費を上げること」です。

「今まで1万円使っていた方に、1万1千円を使って欲しい。そのためには情報と理解が不可欠です」

たとえば、単に商品の味や特徴だけではなく、作った側の狙いやこだわり、ヒストリーを知って、その商品をより身近に感じることがあるでしょう。
私自身も、お菓子の開発者からある人気商品の開発にまつわるドラマティックなエピソードを聞いて、すっかりその商品のファンになったことがあります(笑)。コンビニで目にしたときなどは、ついそれを選んでしまいますね。
少し高くても、より納得して購入した方が満足感は高いでしょう。これは日本だけではなく、どの国の人にも共通する感覚です。
 
しかも、バーコードの規格は世界共通で、どの国でも当たり前に使われています。「スキャンする」というアクションも万国共通ですし、説明も不要です。だから、私たちのアプリにはチュートリアルを設けていません。もちろん、将来は日本人が海外に旅行したときにも「Payke」を使えるようにしていきたいですね。
 
「バーコードをスキャンする」という体験を通じて商品と人との懸け橋になり、世界に豊かな消費を増やしていきたいと考えています。

訪日外国人の短い滞在時間でどれだけ接点を増やすことができるか、その回数とタイミングが重要です。
店内で直接商品を手に持っている顧客にワンアクションで情報やPRを伝えることができれば、販売促進への最後の一押しを仕掛けることができるでしょう。
また、実店舗でのインバウンドの興味関心や、購買前後の動線データを取得することで、商品開発や出店計画など、ショッピングのみに留まらない需要発掘への一手も見出せそうです。

Written by:
BAE編集部