2018.03.16

ユカイ工学・青木俊介が語る「ロボティクスの未来」

2025年、ロボットは一家に一台の時代に?

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  • 2015年2月、日本経済再生本部は今後、国を挙げて「世界一のロボット利活用社会」を目指すことを発表。経済産業省もそれを支援すべく、現在、補助金事業「ロボット導入実証事業 」を展開しています。

    実証事業の事例を見てみると、現在は製造業を中心にロボットの導入が進んでいることがわかります。同時に、羽田空港でもロボットを利用した実証実験が行われるなど、サービス業でもロボット活用の道が模索されています。さらに一般家庭でも、ロボット掃除機などが登場し、以前に比べるとロボットは身近な存在となりました。

    そのなかで、「ロボティクスで世の中をユカイにする」をテーマにネットとリアルを繋ぐプロダクトを生み出しているユカイ工学株式会社は、“コミュニケーション”をキーワードにロボットを製作しています。

    同社のCEO・青木俊介さんに「ロボティクスへの思い、そしてロボットが果たす未来での役割」について聞きました。

    目次

    “コミュニケーション”としてのロボット活用

    ユカイ工学株式会社 CEO・青木俊介さん。2001年、東京大学在学中に友人5人と「チームラボ」を立ち上げる。その後、2007年にロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立

    ――SONYの「AIBO」が登場したのが1999年、HONDAの「ASIMO」の誕生が2000年です。ひと昔前まで、当時ロボットといえば、大手の企業が手掛ける特別な分野だった印象があります。

    そうですね。それが2005年の愛知万博(日本国際博覧会)を機に、ベンチャー企業が手掛けるロボットも登場するようになりました。そこにはソフトウェアの世界でオープンソース(無償利用)が広がり、技術革新が進むなかで、その潮流がハードウェアの世界まで波及したことが影響していました。

    つまり、技術的な面でロボット製作に参入しやすい環境が整い始めたんです。私もその時勢を感じ取り、「いまなら少年時代からの夢だったロボットを作れるかもしれない」と思い、チームラボを退社して、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を立ち上げたのが2007年でした。

    ――2007年に設立した「ユカイ工学」、最初のロボットが「カッパノイド」です。見た目はまるで、ぬいぐるみのようですね。
     

    それまでのロボットはメカメカしくモーターがむき出しで、素材も金属など硬質なもので作られているものが一般的でした。しかしそれでは、子どもがロボットと触れ合うことができません。

    ならば私は、「子どもも楽しめるロボットを作ろう」と思いました。カッパノイドは柔らかい外装で覆われ、関節もギアではなくワイヤーを使ってしなやかに作られているので、なでたり、抱きしめたり、床に落としても壊れません。このときから「コミュニケーションとしてのロボット」を追求してみたいと思っていました。

    ちなみに、見た目を妖怪(カッパ)にしているのは、ロボットも妖怪も、“イマジネーションの産物”という共通点があると考えたからです。

    ――その延長で生まれたのが2014年に誕生した家族をつなぐコミュニケーションロボット「Bocco(ボッコ)」なんですね。

    はい、そうです。2014年は、家庭向け人型ロボット「Pepper」が発表された年であり、“ロボット元年”ともいえる年でした。それ以前は、ロボットを活用したビジネスを考案しても、耳も貸してもらえないような状況だったのが一変しましたから。

    「Bocco」はスマートフォンのアプリと連動し、家にいる家族と気軽にメッセージのやりとりができるロボットです。

    「Bocco」の腹部にあるボタンを押して話すと、音声とテキストがスマートフォンに届く。また、アプリからメッセージを送り、「Bocco」にしゃべらせることも可能。さらに付属する「振動センサー」を利用すると、ドアの動きを検知して子どもの帰宅を知ることもできる

    面白いのが、家族に言われると嫌なことも、ロボット(Bocco)に言われると素直に聞いてしまう、ということがあるんです。これは子どもも大人も問わずです。だからロボットがあると、家族間のコミュニケーションがより円滑になるんです。

    家族だけでなく、会社で利用する方も多いですね。会議室の利用終了5分前に、それまで社員が電話連絡していたのを、「Bocco」からの通知に切り替えたという例もあります。これも「ロボットに言われると角が立たない」という特性を利用したものです。

    2025年には、「ロボットのある生活」が浸透

    ――昨年末には、クッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」も発表されました。
     

    「Qoobo」は、しっぽのついたクッション型ロボットです。「そっと撫でると」ふわふわと、「たくさん撫でる」とブンブンと、そしてときどき気まぐれに、しっぽを振るようになっています。まるで動物のように心を癒やしてくれるロボットです。機能は癒やしに特化しており、ペットを飼いたいけど飼えない方や、高齢の方からの問い合わせも多いです。
     

    ――今後“癒やし”もユカイ工学のキーワードになりそうな予感です。御社は「2025年にロボットがすべての家庭に1台ずつある世界」を描いているそうですが、その未来は実現すると現在もお考えでしょうか?

    はい。そのビジョンを発表したのは2015年のことです。近年では、ルンバ(ロボット掃除機)の登場により、ロボットが家庭にあることも、決して珍しい状況ではなくなりました。さらにAIスピーカーの登場も、「機械に話しかける」ことへの抵抗感をなくす追い風になっていると感じています。

    弊社が生み出しているロボットもまた、生活の一部に溶け込みやすいものばかりですし、今後さまざまな場面で「ロボットのある生活」が浸透していくと考えています。

    現在はIoTの世界を見てもそうですが、スマートフォンと連動して動作する、スマホ中心のテクノロジーですよね。しかし一方で、音声認識やAI対話などの開発・研究も進められていますから、いつかはロボットと人がコミュニケーションする時代も到来すると思います。

    ただ、私たちがコミュニケーションする上で、言葉が伝えている情報は40パーセントほどで、残りは音の抑揚や身振り手振りによって補われているという説もあるんです。つまり、コミュニケーションというのは、実は非言語の部分が多くを占めているわけです。

    現在、「人間とロボットが自由に会話できるようになるには、かなり時間がかかる」と言われていますが、“コミュニケーション”という意味では、必ずしも言語で会話する必要はないのです。

    今後さらに高まる、コミュニケーションロボットのニーズ

    ――人間とロボットが雑談できるようになるのは、かなり先のことになりそうですね。ですが多くの人は、ロボットの未来について、“コンシェルジュ”のような、完璧かつ何でもできるプロダクトの登場を期待している印象があります。
     

    その通りですね。しかし最初に社会(一般家庭)に浸透していくロボットは、「Bocco」や「Qoobo」のように、足りない要素もあるけれど、ひとつの機能に特化したプロダクトではないでしょうか。そこで重要になるのが、「人間同士をつなぐ」という機能だと考えています。

    スマートフォンの登場によって、私たちは昔よりも手軽にコミュニケーションを取れるようになりました。ただ同時に、スマートフォンは便利であるが故に、自宅で一緒に過ごしている家族など、自分の近くにいる人とのコミュニケーションを阻害してしまうこともあります。

    ロボットはその点、家族同士をつなぎ、コミュニケーションをより豊かにすることができます。人の側にいるペットのような存在であり、思わず名前を付けたくなるチャーミングさがそこにはあるからです。また現在のロボットは、インターネットにつながることが前提となっていますから、遠く離れている家族とのコミュニケーションをサポートすることもできるでしょう。

    このコミュニケーションロボットの分野は、世界中のどこを見ても“これから”の分野です。日本がその分野を牽引していけるように、弊社としても今後、さらに研究開発を進め、ロボットが私たちの毎日を豊かにしてくれるような未来をお届けできるようにがんばりたいですね。

    7年後に迫った「2025年」。ロボットは現在のスマートフォンのような身近な存在になっているかもしれません。その頃には、製造業を支えるロボットのように作業を効率化してくれるロボットだけでなく、人間同士のコミュニケーションを円滑にしてくれるロボットや、心に“癒やし”を与えてくれるロボットなど、その役割も細分化され、職場でも自宅でもロボットと触れ合うことが当たり前になっている可能性もありそうです。遠かったはずの未来は、もうすぐそこまで迫っているのかもしれません。

    Written by:
    BAE編集部