©タナカカツキ/講談社
日本で注目が集まっているサウナ、実は世界的にも若者を中心にサウナブームが起こっています。
かつては、働き盛りの男性が入るものというイメージが強かったサウナに、なぜいま、若者たちが魅せられているのでしょうか。公益社団法人日本サウナ・スパ協会公認のサウナ大使でマンガ家のタナカカツキさんにお話を伺いました。
――サウナはフィンランド発祥の文化だと聞いています。日本に現代的なサウナが持ち込まれたのはいつ頃のことなのでしょうか。
私が聞いた話によると、前回の東京オリンピック(1964年)がきっかけだったそうです。北欧の選手がオリンピック選手村にサウナを持ち込んだのですが、他の国の選手が入ってみると、疲れがとれるし競技の成績まで上がった、と話題になったのだとか。 その評判が広まって、日本でサウナが流行したと聞いています。
――その後、日本ではどのようにして「サウナ」が普及していったのでしょうか。
レジャー産業がサウナに注目して、遊園地や健康ランドなどの温浴施設とセットにしたことがヒットにつながったようです。一般人にも、サウナに入ることで疲労回復やリフレッシュができると知られるようになりました。
――近年は若い人たちにも人気がでていますが、それはタナカさんも実感されていますか?
先入観がなく、新しい文化としてフラットに楽しんでいる印象がありますね。「日本サウナ祭り」という瞬時に200枚のチケットが売り切れてしまうサウナー(サウナ愛好家のこと)に人気のイベントがあるのですが、若い人たちの来場者が殺到していますね。
日本サウナ祭りは、長野県南佐久郡小海町の松原湖湖畔にテントサウナ、ドームサウナ、サウナコタなど、様々な形式のサウナを設置して楽しむというイベントです。本格的なフィンランドサウナを体験することを目的としていて、ここ何年かは女性の来場者が目立っています。
――そのほか、若いサウナファンならではの動向はありますか?
ネットを活用してサウナを楽しんでいる印象がありますね。サウナー(サウナファンの俗称)はサウナ検索サイトを活用し、情報収集をしていることが多いです。サウナ施設の情報を共有しあい、独自のコミュニティーができあがっています。サウナは温冷交代が必須で水風呂の温度が大切ですが、そのリアルタイムな情報をキャッチアップするにはTwitterが便利です。最近では若者が中心となりサイトを立ち上げ、サウナの魅力を発信したり、サウナグッズを作ったりしています。
――かつての「サウナ」の楽しまれ方と、現在の「サウナ」の楽しまれ方には、どのような変化が起きているのでしょうか。
ライフスタイルの変化にともない、サウナに求めるものが変化していると思います。例えばかつて、サウナは高温で乾燥したカラカラのタイプが多く、「サウナ=熱い、つらい」という、ともすればネガティブな印象もありました。高度経済成長期は競争意識が激しい時代です。人よりも上をいこう、去年よりも上をいこうと上昇志向が激しかったんです。現在のサウナは室温も下がり、湿度が上がったので敷居が下がり、熱さを我慢するという価値観も変化してきています。
また、象徴的なのが「テレビ」ですね。従来の日本のサウナは、室内にテレビが設置されていることが普通で、エンタメ志向の傾向がありました。テレビが黄金期を迎えていた時代は、視聴率の高い番組の時間になると、銭湯から人がいなくなったそうです。それほど、テレビが人々にとっての娯楽の王様だった。そこで、お客さんを引き留めるためにテレビを設置して、よりサウナ室が「エンタメ」の場と化していきました。ところが、最近では日本でもテレビが設置されていない施設が多くなってきています。
――サウナが「エンタメ施設」ではなくなってきているということでしょうか。
「エンタメ」の在り方が多様化しているということだと思います。スマホもあるし、いわば、日常自体がエンタメ化してしまっているんです。いま若者たちが求めているのは、安らぎや瞑想、リラックスといったオフの時間。テレビやスマホといった情報から強制的に遮断されるサウナは、「静けさのアクティビティ」となっているのです。最近は、サウナ室の照明が暗くなってきていますし、アロマを使ったロウリュサービス(加熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させること)も人気を集めるなど、サウナにリラクゼーションを求める傾向が見られます。
――若者のサウナ人気は日本だけなのでしょうか。
いいえ、世界中でもその傾向は見受けられます。実はサウナの本場・フィンランドのみならず、ロンドン、ニューヨークでも、若者がサウナに注目しているんですよ。フィンランドではかつての日本の仏間のようにどの家庭にもサウナがあったものですが、次第に消えていってしまいました。それが、再び評価されているのです。
――それはなぜですか?
都市部の生活でストレスが高まる中で、リラクゼーションの方法として、またビジネスのツールとしてサウナが注目されるようになりました。ヨガや瞑想が、ビジネスのツールとして利用されているのと同じような感じです。日本のサウナが「静けさ」を求められるようになったり、リラクゼーションの場となっているように、世界の若者たちもそういった場を求めているのでしょう。
また、これは私がサウナ大使として活動する中で、世界の方々との交流の中ででてきている意見なのですが、若者たちが日常で「酩酊」をする場を失っていることが、サウナへ足を運ばせる要因になっているのではないかという仮説があります。例えば、若い人は日常でお酒をあまり飲まなくなりましたよね。サウナはそういう人たちが手軽に酩酊できる場所になっているのではないかと。僕自身も飲み会はあまり好きではないですし(笑)、サウナに行ったほうがいいと思うんですよね。
――先ほどのサウナに関するイベントの話題がでましたが、若者たちのサウナの楽しみ方に新しい動きはあるでしょうか。
最近では、「テントサウナ」という携帯可能なサウナを持ち出して、アウトドアとして楽しむ方もでてきています。そもそも本来のサウナは、湖のほとりに小屋を建てて、水風呂のかわりに湖に入るものなんです。自然の中のアクティビティという本来の姿に回帰しているのだと思います。それに自然の中で楽しもうと思っても、30代40代になってくると、20代のときのように徹夜でフェスを楽しむ!とか体力的にきつくなってきますよね。年を重ねても自然を楽しみたいという人に、サウナは新しい遊びとして受け入れられ始めています。
――ビジネス界での著名人の中からも、サウナ好きを表明する人が増えている印象があります。
企業の中に「サウナ部」を設置する動きがあったり、施設内にコワーキングスペースのような作業スペースを設置するサウナもでてきています。福利厚生に取り入れられるなど、海外の有名IT企業でも注目されている「マインドフルネス」の一環としてサウナを捉える動きもありますし、ビジネスとサウナの相性は非常にいいと思います。そもそも、仕事でパフォーマンスが高い人は、休み方がうまいんです。でも、日本ではそれを教えてくれない。サウナは新しい休み方のひとつとして受け入れられていくと思います。
同じ公衆浴場として、近年では「銭湯」も若者たちの間で注目が集まっていますが、サウナはレトロなものに焦点が当たる文脈とはまた違う形で、評価が高まっているように感じられます。そのひとつがタナカカツキさんのおっしゃる通り「静けさのアクティビティ」としての価値。
情報供給が過多になり、スマホをはじめとしたエンタメが増えるほどに「何もしない」ことが、エンタメとなり得る。外部の情報から閉ざされるサウナはまさに「何もしないを楽しむ」のにうってつけの場となります。現代の若者たちの興味関心を読み解く傾向として、サウナブームにも注目です。
取材協力=スカイスパYOKOHAMA