新築住宅を中心に、現在IoTを活用した「スマートハウス」が増え始めています。その背景には、2011年に発生した、東日本大震災が関係していることをご存知でしょうか?
神奈川工科大学 創造工学部 ホームエレクトロニクス開発学科教授であり、経済産業省のスマートハウス関連プロジェクトで座長なども務める、スマートハウスの専門家・一色正男さんに「日本において、スマートハウスが増加している背景、未来像」などを聞きました。
東日本大震災を機に、注目を集めたスマートハウス
現在、さまざまなモノのIoT化が進み、スマートフォンひとつで、エアコンなどの家電を操作できる時代になりました。しかし実は、“IoT”が大きな注目を浴びる前、2012年から日本は国を挙げ、IoTを活用したスマートハウスの普及に力を注いでいます。その背景には、2011年のある出来事が大きく関係しています。
「2011年に発生した東日本大震災では、首都圏でも計画停電が実施されるなど、“電力不足”が大きな問題となったことを覚えている方は多いと思います。当時、政府でも家庭部門での省エネ・節電を推進するための検討がなされました。
そのなかで、IoTによってさまざまなものがつながり、電力の管理・省エネが可能なスマートハウスが普及すれば、その不足分を補えると考えました。こうして日本では、2012年の2月から正式に、国を挙げたプロジェクトとして、新築住宅のスマートハウス(省エネ)化が推奨されることになったのです」
ITを駆使し、家庭内のエネルギー消費を制御する“次世代省エネ住宅”「スマートハウス」。そこには、“HEMS”と呼ばれるシステムが採用されています。
「HEMS(ヘムス)とは、“Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネジメント システム)”の略で、家庭で使うエネルギーを見える化し、最適に制御することで電力を節約できる管理システムのことです。これにより、従来の住宅よりもスマートハウスは省エネを実現できるのです」
すでに現在、日本では数十万棟のスマートハウスが建築され、製品のIoT化においても、「日本は世界をリードする状況にある」と一色教授は言います。
「世界中を見ても、これだけ多くの製品がIoT化(IoT対応)しているのは、日本くらいです。その背景には、スマートハウスの普及も関係しているでしょう。ただ、数十万棟と言っても、住宅全体で見れば1パーセントほどです。新築住宅のスマートハウス化も進んでいますが、まだまだ決して多いとは言えません。しかし、電力の見える化を可能にする“スマートメーター”はすでに2700万台以上、設置されています。つまり、普及の下地は整ってきているわけです。今後、既存の住宅も含め、着実にスマートハウス化は進んでいくと考えています」
今後スマートハウス×IoTにより、省エネと利便性はさらに向上
前述の通り、日本におけるスマートハウスは、国を挙げたビッグプロジェクトです。そのため、経済産業省とハウスメーカーが手を組み、国内における規格をすでに統一。異なるメーカー同士でも連携できる仕組みを構築しています。
「目標は、エネルギーの正味消費量ゼロです。私たちはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)と呼んでいます。当初は省エネがメインだったスマートハウスですが、現在は『省エネ(電力消費を軽減する)+創エネ(太陽光発電などによる自家発電)+蓄エネ(蓄電池などで電気を貯める)』により、自宅で利用するエネルギーを太陽光発電などの再生可能エネルギーによって賄う構想をしています」
またその未来では、IoT製品が、私たちの日常をより豊かにしてくれると言います。
「スマートハウスはインターネットですべての家電がつながっていますから、エアコンや照明の調整もより手軽になります。ハブとなるIoT機器は、スマートフォンや最近注目されている音声認識ロボット、AIスピーカーなどが挙げられるでしょう。タッチひとつ、または話しかけるだけで、エアコンをつけたり、消したりできるというのは、想像以上に快適なものです。また玄関の鍵を閉めると、自宅で消し忘れた電気があれば消すように設定したり、子供が帰宅すると、アプリを介して親御さんに通知されたりすることも可能です。ある意味で、スマートハウスは、“あったらいいな”を実現できる住まいとも言えるでしょう」
さらに、家電の多くない単身世帯にもメリットがあると一色教授は語ります。
「過去の事例では、スマートフォンのアプリを介して、家の外から自宅のお風呂が沸かせる機能を単身向けの集合住宅に設置したところ、非常に好評を得たケースがあります。ニーズは人によって異なりますが、ライフスタイルに合わせて利便性を享受できるのがスマートハウスの魅力です。つまり100人いれば、100通りのスマートハウスのカタチがあるわけです」
現状は、2025年頃から急速に普及が進む見込み
スマートハウスでも重要な位置付けにある「IoT」。現在では、ホテルなどでもIoTを活用した“IoTホテル”が誕生し、注目を集めています。その背景を一色教授はこう分析しています。
「ホテルを訪れる人々の目的はひとつ、“宿泊”です。となると、することは限られていますし、自ずと動線も限定的になります。その範囲内での利便性を向上させることを考えれば、IoTの導入もしやすいはずです。先ほど“100人100通りのカタチ”と言いましたが、ことホテルにおいては、存在するニーズは限られます。そのため、受付をロボットが担当したり、ホテル内の施設(シャワーなど)の空き状況をAIスピーカーが教えてくれたり、といったIoTを活用したサービスを提供することで、多くの宿泊者にとってメリットが生まれやすい状況にあると言えます。今後さらに、ホテル業界でもIoTの利用は拡大していくのではないでしょうか」
ホテルだけでなく、将来的には「すべての住宅がスマートハウスになる日」が来る可能性も十分にあるようです。
「日本におけるスマートハウスの普及とは、インフラの普及でもあります。多くのインフラは、全体の10パーセントを超えると急速に広がり始め、すぐに80パーセントほどに到達する傾向にあります。おそらくその最重要地点、10パーセントに到達するのが5年後、遅くても2025年頃だと予想しています。そこからは、あっという間に広がっていくでしょう」
そのためには、「テクノロジーが人を幸せにする」必要があると、一色教授は補足します。
「テクノロジーは誰かを幸せにできなければ、存在価値がありません。また、人の役に立たなければ、普及もしません。モノとして売れるかどうかだけでなく、技術者が“人を幸せにできるかどうか”という視点を持たなくては、真の意味で新しいテクノロジー(スマートハウス)は広がっていかないと私は考えています。そうした技術者が増えていけば、スマートハウスはきっと、あなたと大切な人を笑顔にしてくれるはずです。キッチンのロボットがあなたの声に反応して、レシピを見せてくれたり、祖父母の家と自宅がインターネットでつながれば、見守りサービスを利用したりすることもできます。それぞれが幸せなカタチを追求していけば、自然とスマートハウスに辿り着くはずです。私自身も今後、さらなる普及を目指し、まだ見ぬスマートハウスの“可能性”を模索したいと思っています」
住宅だけでなく、商業施設など、今後さらにIoTは普及し、より身近な存在になることが予想されます。
いずれスマートハウスやIoT化が一般家庭にまで浸透すれば、私たちのライフスタイルも大きく変化していくでしょう。その使い方は人それぞれですから、一人ひとりに合わせたカスタマイズ性の高いサービスも同時に増えていくのではないでしょうか。
少し先の未来に必要なサービスを考える上でも、スマートハウスにおけるIoT活用法は大きなヒントになるでしょう。今後もその展開に大きな注目が集まりそうです。
- Written by:
- BAE編集部