2020.10.30

これからの体験型イベント、制約から生まれる新しい価値

ニューノーマル時代を知る リアル/オンラインイベント編

これまでのビジネスや生活様式を変える新常識「ニューノーマル時代」の業界展望をお伝えするこの企画。今回のテーマは、新型コロナウイルス感染拡大によって体験型イベントの在り方が問われる中、注目を集めている“リアル/オンラインイベント”です。

「泡パ®」や「Slide the City JAPAN」など数々の話題のイベントを主催し、コロナ禍以降も、リアルなライブステージを前に車の中でフェスを楽しむ「ドライブインフェス」などのユニークなイベントを企画しているアフロマンスさん。先行き不透明な社会情勢の中で打ち出すイベント施策のポイントや発想のヒントを伺いました。

目次

「制約」ではなく、新しい体験の可能性と捉える

——今年8月に開催された音楽イベント「ドライブインフェス」は、どういった経緯で企画が進められていったのでしょうか。

企画がスタートした今年の3月当初、国からのイベント自粛要請で大型イベントの中止が連日ニュースになっていましたが、このような状況だからこそ感染予防をしっかりして、世の中を前向きにする企画をやっていこうと思いました。いろいろな方と連絡をとったり、SNS上でアイデアをもらう中で、アメリカや韓国で盛り上がりを見せているドライブインシアターに注目し、このイベント形式を音楽イベントに転用できないかと考えました。

まず6月にテストイベント(VOL.0)を実施してから、8月の本番へと至りました。コロナ禍でのイベントなので、まず企画段階から非の打ち所がない企画にしようと思いました。車から出ないといけない飲食やトイレに対応できる仕組み作りはもちろん、ただ車の中で音楽を聴くだけにならないように、非日常なロケーションや空間演出など、フェスの世界観を楽しめる所を大事に企画しました。

具体的には、飲食についてはLINE公式アカウントを活用して、車の中からオーダーできる仕組みにしました。商品の配送は、スタッフが車まで届け、トイレもLINEで混雑状況が確認できるようにして、行列ができないように工夫しました。フェスだと飲食やトイレで並び、見たいアーティストが見られないという状況がよくありますが、こうした対策の結果、ユーザビリティの質も高められ、参加者にはとても好評でした。

フードをLINEで注文すると、ローラースケートを履いたレトロスタイルのスタッフが車までデリバリーしてくれる

——テスト開催後、8月22日、23日には規模を拡大して「ドライブインフェス VOL.1」を開催されましたが、どんな発見や気づきがありましたか。

VOL.1では各車、両隣の駐車スペースを1台分ずつ空けて右側のスペースを自由に使えるようにしたのですが、参加者が今までになかった楽しみ方を自主的に見つけ出すという状況が生まれていました。ペットを連れてきたり、バーベキューセットを持参したり、車内でちゃぶ台を囲みながら楽しむ人がいるなど、車というプライベート空間をそれぞれがカスタムして楽しんでいましたね。

実はコロナ以前にも、妊婦さんや小さいお子さんがいる方、車椅子を使っている方など、なかなか人と密になる空間に行くのがむずかしい環境に置かれている方は結構いたんですよね。他に開催したオンラインフェスでも、参加者には、子どもが小さいので音楽フェスに行けなかったという30代、40代の女性が多かったんです。実は、このコロナの状況に合わせて企画をすることが、いわゆるバリアフリーにも繋がる感じになっていて、ネガティブと思われる状況がただのマイナスに終わらず、気づきや価値が広がっているのを実感しています。

それから、企画する際のポイントとして、「今までのイベントをいかにしてやるか」という発想を捨てた方がいいかもしれません。「ドライブインフェス」は「新しい音楽イベントの形」というコンセプトを掲げて、車だからこそ楽しめるフェス体験をゼロから考えました。例えばロケーションもそうで、会場はロケ地を使っています。フェスの会場を選ぶ場合、普通は公共交通機関からのアクセスも大事なポイントですが、全員車参加となったら駅近などの利便性関係なく、これまで使われなかったような会場を選ぶことができます。ドライブイン形式だとどんなことができて、参加者を楽しませることができるかをベースに企画を考えたからこそ、参加者に「新しい楽しみ方だね」という感想を持ってもらえたと思います。

オンラインイベントの強みは“繋がり”の可視化

——withコロナの状況下で一番感じている社会的変化として、どんなことがありますか。

イベントのオンライン化が進んで物理的な制約がなくなり、時間の取り合いが激化していると感じています。例えば、渡航費30万円払って行くニューヨークのイベントと、歩いて10分の近所のローカルイベントが、オンラインでは横並びになります。チケットサービス会社のPeatixが集約したイベントの調査レポートによれば、地方で主催されているオンラインイベントの参加者は地元からが1〜2割に対し、首都圏からが5〜8割なんです。物理的な距離の制約がなくなることで、東京も地方も関係なく横並びで時間の取り合いとなった。すると、より人気のイベントに人が集中して、それ以外にはなかなか人が集まらない。この格差が、この半年で如実に出てきています。

今までイベント参加の高いハードルだった交通アクセスにかかる費用や時間などの制約が、オンラインによってなくなると、より中身の勝負になってきますし、実力のある人にとってはチャンスという状況ですね。

——コンテンツ勝負という状況の中で、ターゲットにどうアプローチしていくのが得策でしょうか。

リアルな話をすると、オンラインのコンテンツが量産され過ぎていて、コンテンツ過多の状況だと思います。その中で、企画手法やメディアの設計だけで突破できるかというと、なかなか難しい。

現状、オンラインイベントで集客するリアルな方法は何かといったら、多くのフォロワーやファンを抱える出演者の影響が大きいです。飛び抜けた企画のチャレンジにも、影響力のある「人」を組み合わせることで、再現性のある効果的なイベントのアプローチができると思います。

——リアルイベントと比べると、オンラインイベントならではの参加者の楽しみ方というのも生まれていますか。

自分の好きな環境や空間で楽しめるということが参加者に楽しみ方の余白を与えて、各自が楽しみ方をよりパーソナライズしているように感じます。例えば、オンラインフェスを自宅でアウトドアグッズを広げて楽しむ人や、マルチ画面で複数のフェスを同時に楽しむ人などがいます。

それから、オンラインだとイベント中にコメントがたくさん表示されて、人との繋がりが可視化されるんですよね。あの感じはリアルよりも強い側面もあるなと思っています。リアルのフェスでは、観客はみんな前のステージを見ていて、横にいる不特定多数の人とコミュニケーションが生まれることは少ないですが、オンラインだと何千、何万の人と、コメントやアイコンなどを通じて同じ時間を共有していることを体験できます。一言でいえば、「人の繋がり」がオンラインを楽しむポイントだと思います。

オンラインに、リアルな「手触り」をプラスする

——これからリアルイベントやオンラインイベントを開催するにあたって、考慮すべき点としてどんなことが考えられますか。

「ソーシャルディスタンスをとる」「3密を避ける」というのは、コロナが落ち着くまでしばらくは世界共通認識だと思います。その課題に対して、ネガティブではなく、ポジティブに転換する企画を取り入れていくと、みんなから歓迎されるのではないでしょうか。

例で言うと、6月にBEAMSが飲食店と組んで期間限定で開催した「ソーシャル・ディスタンシングマネキンプロジェクト」は、張り紙をして席を空けるのではなく、BEAMSファッションに身を包んだマネキンを設置して、ユニークな形でソーシャルディスタンスを促す様子が話題になりました。

オンラインイベントの場合は、「オンラインだからできる企画を考えること」と「オンラインだけで完結しない」という2つのポイントがあると思います。例えば最近の事例だと、世界の絶景から音楽ライブ配信をする「Cercle」が、カッパドキアの空に浮かぶ気球からライブ配信をしています。通常、観客を入れる前提だと、気球というロケーションは選択肢から外れますが、無観客の配信イベントだからこそ生まれてくる発想だと思います。また、個人的に面白いと思った事例で、街や山の中を歩きながらDJライブをするSUATさんという方がいて、Facebookやインスタで人気があるんですが、配信であればステージやDJブースを固定する必要もない、というのは斬新でした。

僕は4月からオンライン音楽フェス「BLOCK.FESTIVAL」の企画をしているんですが、音楽フェスに行くとフェスTを買って帰るというリアルな体験を少しでも届けたくて、フェスを楽しんでいる時に投げ銭をすると後日Tシャツが自宅に届く仕組みを組み込みました。すると、約5時間のイベントで約1300着が売れたんです。誰かがTシャツを購入すると画面に可視化され、盛り上がっている最中にシームレスにボタンを押せるので、フェスの熱狂をそのまま物販に繋げることができたのではないかと思います。

それにオンラインイベントは形に残らないものですが、Tシャツがあれば「面白かった、次も見よう」と思い出として残る。何かを伝えたい、記憶に残したいという時に、画面上だけで完結する必要はないと思うんです。ジャストアイデアですが例えば、オンラインイベントだけど参加者全員が夜空の下や海辺といった共通のロケーションで楽しむという設定を加えると、画面を見るだけとはまた違った体験になります。オンラインで同じ時間を共有しつつ、そこに肌触りや手触りなどのリアルな体験を組み込んで共有することはこれから可能性があると思っています。

——今後、リアルとオンラインを組み合わせたイベントが普及してくる可能性についてはいかがですか。

普及すると思いますし、やらなきゃという気持ちはありますが、オンラインとリアルで体験させるものが違うので結構むずかしいと思っています。画面の向こうの人に向かって話すのか、目の前にいる人に向かって話すのかで企画や演出が変わるんですよね。

もしオンとオフのハイブリットでやるのであれば、演出2つ、台本も2つのような2個イベントを作る感覚でやらないと、誰に向けた企画かわからなくなって中途半端なものになってしまうのではないかと思います。ドライブインフェスはリアルでもオンラインでもやりましたが、台本は2本書きましたし、2倍の手間でした。企画設計をする上で、配分も大事だと思います。オンラインがメインでリアルはサブなのか、その逆なのか、少なくとも半々で考えない方がいいと思います。

——アフロマンスさんが、これから仕掛けていきたいと考えている構想やアイデアを伺えますか。

コロナ以前のリアルイベントの一般的な指標は、「いかに人を入れて密にするか」ということでした。これはイベントをやる側のビジネス的な都合によるもので、本当は今までも密にならない面白いイベントや体験は考えられたのに、割に合わないと却下されてしまったことが世の中にはたくさんあったと思います。

その「イベント=人をいっぱい入れる」という固定概念を取っ払うと、色んな発想が出てきます。例えば、ライトアップした林の中に沢山のハンモックを吊り下げて音楽を楽しむイベントをやりたいなと思っています。密にしちゃいけない状況が、むしろ参加者からすると一周していい体験を作れるかもしれない。あとは、ソーシャルディスタンスを確実に確保できる場所という視点で、観覧車を使った音楽イベントも考えています。観覧車の一つのゴンドラをDJブースにして、他のゴンドラを客席にします。夕暮れから夜景に変わる背景の絵も含めて配信するなんていうのもいいかもしれません。観覧車と音楽は一見紐づきませんが、そういった違うものとの組み合わせを柔軟に考えてみるのが新しい体験のアイデアを生むポイントではないかと思います。

株式会社アフロ&コー CEO/クリエーター アフロマンスさん

制約をポジティブに捉えて、新しい体験価値を生み出す。予測のつかない社会情勢の中で、これはイベント業界に限らずさまざまな業界にも通用する重要な発想軸ではないでしょうか。さらにオンライン化で物理的制約がなくなった今、世界中どの場所にいても複数人で同じイベントを体験できるようになりました。イベントの延長戦上に顧客が自分自身で体験価値を見出していく、そんな新たな流れが生まれてきていることにも注目です。

Written by:
BAE編集部