空中に映像が浮かんで、スマホのタッチパネルのように手で操作をすることができる。SF映画ではおなじみの「空中ディスプレイ」技術が、デジタルサイネージの世界を大きく変えていくかもしれません。最前線で活動する株式会社アスカネットにお話を聞きました。
国内外の展示会で注目を集める先端技術
海外の近未来SF映画やドラマなどで、主人公の周りにディスプレイが出現して指先で操作する、そういったシーンを見たことはないでしょうか。
格好いいけどフィクションの話だよね……と思うかもしれませんが、実はもうそれに限りなく近い感覚を味わえる「空中ディスプレイ」が実在するって皆さんご存知でしたか?
2017年10月3日〜6日にかけて開催されたITテクノロジーの展示会「CEATEC JAPAN 2017」で、来場者の注目をひときわ集めていたブースがあります。「壁面空中サイネージ」と名付けられた展示の前では、何もない空中に5つの映像が表示され、来場者がそこにあるはずのない“画面”を不思議そうな顔で眺め、脇から覗き込む光景が見られました。また、別の展示では空中に等身大の女性が出現し、握手をしようと手を伸ばすとそこには何もないことに驚くといったシーンも見られました。
このトリックのようなプロダクトを開発したのは、フォトブックの制作・販売などで知られるアスカネット。そのメイン事業とはあまり結びつかない印象もある「AI (エアリアルイメージング)プレート」について、エアリアルイメージング事業部の矢野崇さんにお話を伺いました。
「『AI プレート』自体は2011年に初めて商品化されたもので、開発からすでに6年半以上経過しています。さらに認知を広げようと、展示会でより実際の利用シーンに近い体験ができるようなブースを作ったところ、今年のCEATECでは大きな反響を呼びました。主催者発表では集客ベースで10位となり、大手メーカーさんが居並ぶ展示会としてはかなりの評判だったといえます。また、ドバイで開催されるAV機器やコンピューターの総合展示会『InfoComm MEA 2017』にも出展したのですが、そこでも海外のお客様から多くの反響を呼びました」
空中ディスプレイの装置としては大掛かりな印象もある「AI プレート」ですが、アスカネットで製造・販売しているのは特殊な透過反射板のみで、元の映像を投影する液晶ディスプレイやジェスチャー操作を認識するセンサーデバイスは市販品が用いられています。この『AI プレート』とはいったいどのような仕組みの板なのでしょうか。
「基本的な原理としては2つの直交する反射板(ミラー)を経由して、『AI プレート』を対称軸に光源(液晶ディスプレイなど)と1:1の空間上に実像を結ぶという技術です。よく知られている“ペッパーズ・ゴースト”という古典的な視覚トリックと同じかと聞かれるのですが、『AI プレート』ではそれとは反対側に像を結ぶので、何もない空中に映像を出現させることができるのが大きな違いです」
話を聞くと、とてもシンプルな仕組みである印象を受けますが、光学設計の専門家ほどこの仕組みを知って「盲点だった」と驚かれるそうです。また、理論はわかっても実際にこの2つの直交したミラーを歪みなく接合するには高い技術を要するといいます。製造することができるのは国内でも数社に限られ、模倣することは難しい、まさに「メイドインジャパン」品質の賜物といえそうです。
広がる「空中ディスプレイ」の可能性
見えるけれど触れることのできない空中ディスプレイは、実に多くの活用シーンが想定されます。その可能性について、矢野さんにヒントをいただきました。
先ほどのデジタルサイネージやアミューズメント施設の利用が一番わかりやすい事例と呼べますが、この設置方法はいくつも考えられます。ユニークなところでは、水槽の底面に装置を設置することで水の中に魚の解説映像やCGのキャラクターを映し出す「水中ディスプレイ」という使い方も考えられます。
また、「AI プレート」は液晶ディスプレイと異なり、原理的に視野角が上下左右20度と狭いという特性があります。これはデメリットのように思われるかもしれませんが、斜め横から覗き込んでも見えないので、銀行のATMのテンキータッチパネルを置き換えるといったセキュリティ面での応用が期待されます。
さらに、見える角度が限られているという意味では、着座位置が固定されている車載ディスプレイへの期待は高く、展示会やショールームでも多くの問い合わせがあるといいます。
映像面に指で触れないという特性は、衛生面でも有利。飲食店のタッチパネルや医療現場でのディスプレイ表示への応用も期待されます。
コンテンツこそが命
現状ではコストの高さから、まだまだ企業が空中ディスプレイを導入するハードルは高いといえそうですが、大量生産とコストダウンが実現すれば、POPの領域や小型の組み込みボックスなどノベルティの分野への展開も可能性はあると矢野さんは言います。
また、コスト面の課題以上に重要となってくるのが、空中ディスプレイならではのコンテンツの問題だと矢野さんは指摘します。
「私たちはあくまでプレートのメーカーであって、サイネージなどに何を投影しどのように設置するかというところの専門家ではありません。今回のCEATECでは自分たちで頭を絞って利用事例を展示して幸い好評を得ましたが、空中ディスプレイの持つポテンシャルを発揮させるのは、パートナー企業様であり、お持ちのアイデアやコンテンツがポイントになってくると思います」 小さなスペースを活用した展示、注意標識を見せる、また、ある一定の位置からしか見えないので、景観を損なわず案内することができたりと、可能性は未知数です。
先に紹介した海外の展示では、来場者からの反応の大きさは日本以上だったそう。空中ディスプレイの本格的な実用化は、まだまだこれからといった感触ですが、SF映画やドラマでのイメージの浸透によって、世界中の人々に受け入れられる下地は既にできあがっています。
「空中ディスプレイ」の可能性は無限大。未来のプロモーションのヒントが見つかるかもしれません。
アスカネットの空中ディスプレイを、電通テックでは、リアル店舗における顧客評価をユーザーから直接集めるソリューション「QAir」に導入しています。選択式アンケートの画面を空中ディスプレイにする事で、回答自体の体験価値を高めるために活用しています。(※QAirは開発中のソリューションです)
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- Written by:
- BAE編集部