2019.05.28

高まるエアーモビリティ社会への期待感――「空の産業革命」の現在地とは?

「空飛ぶクルマ」構想の課題とポテンシャル

CES2019でも「空飛ぶタクシー」のコンセプトモデルが発表され、話題になるなど、現在“空”への注目度が高まっています。昨年末には、経済産業省と国土交通省が「空の産業革命に向けたロードマップ」を発表。それによれば、2023年を目標に事業をスタート、2030年代には実用化の拡大となっており、“空飛ぶクルマ”の実現は、もはや遠い未来の話ではありません。

では、2019年の現在地とはどのようなものなのでしょうか。エアーモビリティ社会の実現を目指し、プロダクトや空路設計の開発、ドローン事業などを展開する株式会社A.L.I.Technologies 代表取締役社長・片野大輔さんにお話を聞きました。

目次

「ドローン」と「エアーモビリティ」は似て非なるもの

――現在、空を活用したビジネスといえば「ドローン」のイメージが強いと思います。まずは「ドローン」と「エアーモビリティ」の役割の違いについて、教えてください。

はい。まず現在のドローンの役割についてですが、エンタメ・プロモーション領域ですと「動画撮影(空撮)」、BtoB領域ですと「保守・点検」に利用されているケースが多い傾向にあります。

保守・点検の需要が高いのは、人が立ち入るのは危険な区域でも、ドローンならば安全に点検ができるからです。なお、この分野ではすでに、AIを組み合わせることで、自動的に問題箇所を検出するなど、利便性も向上しています。またルート上を自律飛行し、自動で農業用の薬剤や種子などを散布するといった利用もされています。

現在は、安全性向上に向けた研究も進んでおり、「障害物にぶつからない」ようにセンサーを搭載したドローンも登場しています。同技術は自動運転車の技術を応用したものですが、これはエアーモビリティにも搭載されると予想されます。

今後もさまざまなテクノロジーと融合しながら、ドローンはさらに機能性を高め、活躍の場を広げていくのではないでしょうか。そのなかでキーワードとなるのは、「無人だからできること」です。

一方で、エアーモビリティ社会の実現の大きな目的のひとつは、「渋滞の緩和」にあり、その役割もやはり「人を運ぶ」こと、新たな移動手段を生み出すことにあります。その延長として、災害時にエアーモビリティに乗った救助スタッフが駆け付ける、という未来も弊社では描いています。

災害時にエアーモビリティに乗った救助スタッフが駆け付けるイメージ

つまりドローンとエアーモビリティは、似て非なるものなんです。ドローンは無人、エアーモビリティは有人ですから、ドローンとエアーモビリティは統合されることなく、違う役割を持ち続けると考えています。

砂漠や湿地、被災地など難移動地域のための「空飛ぶクルマ」構想

――近年、日本だけでなく、世界中で「空飛ぶクルマ」の実現に注目が集まっています。その背景とはどのようなものなのでしょうか?

おそらくみなさんも、テレビのニュースなどで、他国の渋滞事情を目にしたことがあると思います。それほどに現在、世界中で都市圏における自動車の渋滞問題は深刻化しています。

付随して、離島や山間部における移動、さらには災害時の救急搬送や迅速な物資輸送を実現するなど、未来に向けた課題解決の方法を世界中が模索するなかで、辿り着いた答えが「空飛ぶクルマ」構想(エアーモビリティ社会の実現)だったわけです。

現在は、その実現に向け、日本を含めた世界中のさまざまな分野の団体・企業がその開発に取り組み、研究を進めている段階にあります。しかし、これまで未活用だった“空”を利用するためには、法整備など多くの取り決めが必要になります。

そこで経済産業省が音頭を取り、官民一体となり、今回のロードマップを策定したわけです。ちなみに、すでに官民一体となって動き出している、という点では日本は進んでいますから、世界のどの国よりも早くエアーモビリティ社会を実現するのが日本、という可能性も十分にありえるんです。

経済産業省が発表している「空飛ぶクルマ」が実現した社会のイメージ動画

――「空の産業革命に向けたロードマップ」によれば、日本は2020年代半ばの事業スタートを目指しています。では「エアーモビリティ」の現在地とは、どのようなものなのでしょうか?

多くの方にとって、エアーモビリティのイメージは、「大きなドローン」のようなものなのではないでしょうか。それは決して間違いではなく、「空飛ぶクルマ」が空を飛ぶ原理も、おそらくドローンと同じものが利用されると私は考えています。そういった意味では、エアーモビリティはドローンの進化系とも捉えることができると思います。

弊社でも先日、エアーモビリティ社会の実現に向け、ホバーバイク「Speeder®」の公開有人実験を行いましたが、そこに使われているのも基本はドローンの原理です。

公開試験では、地上から10センチの高度を維持し、飛行して着陸するデモンストレーションを行いましたが、これは航空法に準じたもので、高度のリミットを解除すれば、10〜20メートルの高度飛行も可能です。「エアーモビリティの現在地」という意味では、すでにかなり実現性の高いところまで来ている、と言えると思います。

0325PV Speeder🄬Series公開試験の様子

空の道路を起点に、すべてのビジネスが拡大

――確実にエアーモビリティ社会の実現に向けて近づいている現在ですが、課題はどのような点にあるのでしょうか?

まずは法整備ですね。日本の航空法は厳しく、現在も許可がないと200グラム以上のドローンは規制対象となりますし、高度も150メートルまでと定められています。またエアーモビリティは車の一種ですから、日本の公道で走るにはナンバープレートの発行も必要になります。

しかし最大の問題は、現在は「空に道路がない」ことです。

道がなければ、どれだけエアーモビリティが普及しても混乱してしまいますし、そもそも走っていい場所がわかりませんよね。おそらくその高さは飛行機とぶつからないところで、また地上と同様に信号や道路標識なども設置されるのではないでしょうか。もしかすると、地上とは違い、ARなどのテクノロジーを使ったリアルタイムで映し出す「仮想道路」になる可能性も考えられるでしょう。

――エアーモビリティ社会が実現すれば、渋滞がなくなるだけではなく、新たなビジネスも生まれそうですね。

そうですね。エアーモビリティを活用した「カーレース」、観光面でも、ホバーバイクを活用して湖や海を渡ったり、「空の道路」にもサービスエリアなどが誕生したりするなどの可能性もあるでしょう。

さらに、空の道路用の看板などが設置され、そこに広告が掲出されることも十分に考えられます。そこにはMRなどのテクノロジーが活用され、既存のビルの窓が広告枠と変わる可能性もあるでしょう。

つまり、現在あるすべてのビジネスは、「空」をフィールドに拡大することになるのではないでしょうか。その未来に向けて、これからもさまざまな角度からエアーモビリティ社会の実現を目指し、研究・開発を進めていけたらと思います。

片野大輔さん
株式会社A.L.I.Technologies 代表取締役社長 片野大輔さん

日本では、官民一体となり進められている「空の産業革命」。実現すれば、私たちの生活はさらに変化し、“空”という新しいフィールドを起点に、さまざまなビジネスが誕生・発展することが予想されます。高まる“空”への期待感。今後もその動向に注目が集まりそうです。

Written by:
BAE編集部