2018.05.31

「直感性」と「表現」で人々を動かすARナビゲーション

ナビゲーションやスタンプラリーなど、広がるAR技術活用

VRやMRが注目を集めていますが、AR(拡張現実)技術も近年、サービスやツールに採用されはじめています。ARを利用したナビゲーションシステムを研究開発する、株式会社SCREENアドバンストシステムソリューションズの山下義男さんにお話を伺いました。

目次

画像解析をして現実の風景にARでルートを表示

知らない土地へ行く時にスマートフォンの地図アプリを使用することがありますよね。でも、屋内やターミナル駅の迷路のように入り組んだ構内ではなかなか目的地にたどり着かず、時間をロスしてしまったという苦い経験はないでしょうか。広大な商業施設、アミューズメントパークでも、同様の経験をしたことがある人は多そうです。
駅の通路や商業施設のような、人の通行が多く、道が入り組んだ空間などの屋内でも、細やかにお客さんを誘導することができるシステムがあれば、イベント等、来場者にも企業にも恩恵があるはずです。

空間内の人々の動きを把握し、いかに誘導していくか、そのような課題を解決してくれる手段の一つとして注目したいのが、ARと画像解析技術を活用したナビゲーションシステム。今年になって地図アプリの「Yahoo!MAP」がARモードを取り入れたり、GoogleマップでもAR機能の実装が発表されるなど、注目度の高い技術です。

今回お話を伺ったのが、京都に本社を置く企業、株式会社SCREENアドバンストシステムソリューションズ。半導体やディスプレー製造装置、デジタル印刷機などを手がけるSCREENグループ内でソフト開発を担う同社が、AR案内機能のソリューションとして提供しているのが「アプリ開発ライブラリNAVIMICHAEL」です(以下、ナビマイケル)。

上の動画を見ていただくと一目瞭然ですが、スマホをかざすと、目の前の風景にARでルートが表示されます。そのルートに沿って歩いて行けば、目的地にたどり着けるというわけです。風景とルート案内が一致しているので、わかりやすく、わざわざ地図アプリを確認しながら歩くという煩わしさからも解放されます。

山下義男さん
株式会社SCREENアドバンストシステムソリューションズ第二開発部 開発二課 山下義男さん

「スマートフォンのカメラで画像解析をして現在地を分析しながら、あらかじめ用意したルートのデータを画面にリアルタイムに合成しています。また、階段やスロープなどの高低差に対して3次元的にルートを表現できるのも特徴です」(山下さん)

高低差を表現できることで、複数の階層がある空間(例えば建物の中)や、アップダウンのある場所(例えば山道)などで、通常のナビよりも、より細やかな道案内をすることが可能となります。

またナビマイケルの最大の特徴は、電波の届かない屋内でも現在地を把握してナビゲーションができることです。

「地磁気を利用した精度の高い屋内測位技術もあるのですが、弱点としては磁場の強い場所では計測の精度が下がってしまうのです。例えば、駅の構内で利用する場合、電車の近くは磁場が強く、影響を受けてしまいます。一方で画像処理の方法は、アプリを起動した時だけ位置情報を取得することができれば、画像解析だけで現在地を計測できますので、オフライン環境でもナビをすることが可能です」

カメラに写った画像(空間)を解析します

一度アプリを閉じてしまうと、再びナビを再開する時に何かしらの方法で現在地情報を取得しなければいけないというデメリットはありますが、例えば施設内の各所に位置情報を仕込んだQRコードなどを設置して、常に現在地を確認できるようにしておけば、この課題はクリアできるそうです。

ARによるナビのメリットは「直感性」と「付加情報」

山下さんはARを利用したナビゲーションのメリットとして、「直感性」と「付加情報」を挙げます。

「矢印の方向に向かって進むということで、一目で正しい道順がわかります。また言葉を使わず直感的に理解できるため、外国人観光客向けのナビゲーションとしても有用です。観光案内のみならず、非常時の避難経路を案内するという用途にも使えますね。実は当社がARナビゲーションを開発したのも、京都市との実証実験で、災害時に訪日外国人を避難誘導する時、日本語がわからなくても視覚的に安全な道と場所を案内する方法が求められたのがきっかけでした」

また、ARの特徴である現実風景に仮想的な視覚情報を付加するという性質もメリットになります。

「例えば観光地で使用する際は、かつて存在した建造物や歴史的な出来事などをAR的に表示して案内するなど、現実世界に情報を重ね合わせてわかりやすく説明することができます」

実際の風景に情報を重ね合わせることで、例えば目的地付近に近づくとキャラクターが現れて詳細な位置を教えてくれるたり、いまはもう存在しない廃城を3Dグラフィックで再現したりするなど、豊かなナビゲーション表現が可能になり、人々を惹きつけることができます。

「ナビマイケルのルート案内には、矢印が道筋に沿って動くアニメーションを採用していますが、これは3Dオブジェクトだったらなんでもいいんですよ。例えば、アミューズメント施設の案内として活用する際は、マスコットキャラクターのアニメを利用するのは効果的かと思います」

よりプロモーション的なARナビゲーションの活用方法としては、「AR広告」があります。例えばお店のある方向に向かってカメラをかざすと、広告や店舗の案内、クーポンなどを表示するといった使い方もできます。

ARを利用することで、広告とスポット(お店など)が紐付けしやすくなり、より効果的に人々を誘導することが期待できます。

位置情報×ARで新たなコンテンツの創出も

同社はナビマイケルの他に、スマートフォンのセンサーを利用して、一人の人間の行動から空間の混雑状況を把握する「行動分析ソリューション」というサービスも提供しています。これらの位置情報サービスにはプロモーション活用の大きな可能性が開かれていると山下さんは言います。

「例えば、商業施設内での行動分析ですね。店舗の中でお客さんが商品棚の前で止まった時に、何分止まっていたかだけでなく、しゃがんでいたなどの具体的な動きをセンサーで捉えて、それではこの商品棚の商品に興味があるのではないかと分析するわけです。興味度分析と言いますか」

さらには、ARナビゲーションそのものを「スタンプラリー」や「宝探し」などのコンテンツとして、空間を利用したキャンペーン、地域活性化に活用することも可能です。

アルキスタ(ARナビ+スタンプラリー)(梅小路活性化委員会)

一方でこれらの施策の実現には、位置測定技術のさらなる進化、導入のためのコストダウン、歩きスマホが問題視される中でのARナビゲーションの安全な運用など、さまざまな課題も待ち受けています。

「行動分析をする場合も、来場者の位置データをいかに取得するかが肝です。専用アプリを入れてもらって、スマートフォンのセンサーから位置情報を取得するにしても、わざわざアプリをダウンロードしてもらうというのはかなりハードルが高くなります。既存のアプリにARナビゲーション機能を組み込むなど、簡単に利用できる工夫が必要ですね」

屋内空間において、人々をいかに導いていくか、そういった課題を抱える企業は多いかと思いますが、視覚的にわかりやすく、かつ表現自体をエンターテインメント化できるARナビゲーションは有効な手立てとなりそうです。

AR自体は以前から知られていた技術ですが、今回のナビゲーション利用のみならず、最近では車のフロントガラスに情報を表示させる「自動車AR」など、活用の可能性がどんどん広がっています。ARを利用したサービスやツールは、今後VR、MRなどの技術とともに、どんどん増えていくでしょう。

Written by:
BAE編集部