2019.05.31

認知は広まるものの、その実力は?チャットボットの現在地と未来

コミュニケーションチャネルからコンバージョンへシフト

チャット形式のコミュニケーションが増える中で普及が進むチャットボット。実用が進んでいる現在、どのような使われ方が成功し、また将来的にはどのような利用が広がりそうなのでしょうか。ビジネス分野でのチャットボットの導入コンサルティング・開発・運用を多く手がけるAutomagi株式会社の鈴木英彦さんに、チャットボットの現在地とこれからについて伺いました。

目次

中身の仕組みがそれぞれ異なる「チャットボット」

――近年、チャットボットが急速に広がった背景は何でしょうか?

やはり、AI(人工知能)技術の進化がブレイクポイントだと思います。
しかし、チャットボットと一口に言っても性能は千差万別です。安価に導入できるタイプのものは、ベースとなるFAQをキーワード検索してヒットした情報を提示する「一問一答型」で、現在はこちらが主流です。その場合、実はAIはほぼ使われていないケースが多いんですよ。

——チャットボットがメジャーになってきているとはいえ、まだまだ「そもそもチャットボットとは何なのか」という方も多く、その仕組みや具体的な活用方法については深く知られていなそうですね。

はい。「チャットボット導入を検討しているけど、実際に何に使えるのかわからない」と相談に来る方も多くいらっしゃいます。

AI型チャットボットとはいえど、ゼロベースでボットが回答を考えているわけではない

一見文脈によって回答を変えているように思えるものも、あらかじめパターンが用意されているか、データベースを接続していて変数部分を変えているかです。これを「シナリオベース型」とか「ルールベース型」のチャットボットと言います。

AI型チャットボットも、必ず想定問答集をインプットし、シナリオを用いており、AI型チャットボットは「シナリオ」「ルール」「AI」を組み合わせたものになります。

――AI型チャットボットも、人間の言葉を解析して会話しているわけではないのですね。

はい。チャットボットは、あらかじめインプットされるテキストや文章データを自然言語処理の技術で形態素解析※1や同義語処理しています。この技術の差が性能の差になります。

また、入力された質問を理解する能力も、チャットボットの性能差が出る箇所です。とくに、人間の言葉には「ゆらぎ」があります。「スマホが壊れた」と「ケータイ電話が故障しました」では同じ意味でも、言葉は異なります。人間の発する膨大な表現バリエーションに対応できないと、利用者の望む回答がスムーズに戻せません。ですから、収集した質問をAIで機械学習させ、人間同士が会話するように精度の高い回答を出せるようにするということが、運用段階で行われています。

※1……コンピューターの自然言語処理の1つ。与えられた文章を、辞書データなどを用いて形態素の単位に区切り、品詞を判別する処理。仮名漢字変換や機械翻訳、音声認識で使用する。

「ボット」が相手だから話しやすい

――実際にチャットボットはどのようなシーンで活用されているのでしょうか。

今活用されている多くは、社内で人間の手間を削減するなど業務効率化を目的としたものです。他にも新規顧客獲得・コンバージョンアップを目的にしたものも増えており、予算もインパクトも大きいという意味では、マーケティング活用の注目度は高いと思われます。

業務効率化の例では、みずほ証券様が社内のITサービスデスクの業務サポートでチャットボット窓口を設けた例があります。事務処理や届出書類などを作成する際の業務をサポートするために使われており、今後は、ITサービスデスクオペレーターの負担・業務時間の削減へつなげる予定です。

証券会社 導入実績

――マーケティング用途での、具体例を教えてください。

とある不動産会社の情報サイトで不動産の疑問に答えるAIチャットを設置しました。

人間が対面で対応すると教えるのを躊躇してしまう年収や購入希望価格といった情報も、チャットボット相手では気軽に情報を入力されるお客様が多いようです。そのため、物件の紹介からローンのシミュレーションまで迅速に行え、営業スタッフにつなぐ前から具体的なコミュニケーションが可能になってきています。

また、24時間受付可能ですから利用時間帯を選びません。夜11時以降の深夜の時間帯や、通勤・移動中の電車で利用可能なため、30代の会社員などの、ターゲット顧客だったのにこれまでコールセンターには問い合わせることがなかった層を獲得できました。

——対面だと話しにくいけど、ボットが相手だと話しやすい、という心理があるのでしょうか。

そうですね。有人チャットと比べると、チャットボットはクレームが少ないという傾向もあります。

また、チャットボットのメリットとして、ボットをキャラクター化してコンテンツとして利用するなど、企業のファンづくりにも有用であるという点も挙げられます。例えば以前、某不動産会社が、タワーマンションのキャンペーンで、女の子のキャラを作って、LINEのビジネスコネクトで資料請求の受付をするということをやり、大きな成果を得られました。

そういった意味では、チャットボットは会話の精度だけでなく、今後はUI・UXも大事になってくると思います。例えば、銀行のチャットボットだからといって、堅苦しい雰囲気では利用者は増えません。ボットをキャラ化したり、会話の中に季節の話題も取り入れるなど、お遊び要素も必要になってきます。

――チャットボットの導入は、まず金融分野が進んでいるようですが、他業界にも浸透しそうですか?

はい。日本は電話やFAXなどの通信手段が根強かったため諸外国には遅れをとっていますが、欧米だけでなく、中国・ASEANなど早くからスマホが登場してチャットサービスなどでのデジタルコミュニケーションが浸透している国々では、チャットボット系のサービスはあらゆる場面で浸透しています。中国の空港に降りた瞬間にサービスメッセージがプッシュで飛んでくる、といったことを経験した人もいると思いますが、モバイルサービスにおけるチャットはまだまだ進むと思います。

株式会社ビースポークによる、訪日外国人向けAIチャットコンシェルジュ「Bebot」

――その他、チャットボットをめぐる日本と海外の状況の違いを教えていただけますか。

海外ではSlack、Skype、Facebook、Telegramなど様々なチャットプラットフォームがあり、ユーザーもそれぞれに分かれているのが特徴です。特に商品販売・予約受付・マーケティング利用等が日本に比べて活発化していると思われます。日本においても今後は一般のユーザー(消費者)にも日常的に利用されていくと考えています。

チャットボットは高性能なバーチャルサービスへと進化する?

――チャットボットは今後どのように進化していくでしょうか。

まず、テキストメッセージメインで行われているコミュニケーションが、他メディアと複合利用になったり、組み合わせで利用されることになると思います。

Google HomeやAmazon Echoのような音声アシスタントは、チャットを音声に置き換えたものになっていますね。音声だけでなく、どこでも使えるテキストコミュニケーションの良さと入力が楽な音声の良さをそれぞれ活かし、複合的なコミュニケーションにするという利用の仕方もあるでしょう。

ほかにも、例えばカメラや画像解析と組み合わせることで、目視で行われていたような書類確認、ID確認などが自動化されて、チャットボットでのサービスの申し込み・審査・認証などが可能になるということも進んでいます。

――チャットボットが注目される一方で、いま話題に出た音声アシスタントも、ますます社会に浸透していくかと思います。最終的にチャットボットは、現在のようなメッセージ型ではなくなる可能性もありますか?

その可能性は十分あると思います。現に、20代以下の若い世代は、テキストを極度に省略したり、文字を入力する手間すら厭う傾向がありますので、サジェスト機能を入れて補完させたり、あまり入力しなくても済む設計が求められています。

チャットボットはあくまでフロントエンドのインターフェースの一形態ですから、コミュニケーションインターフェースの変化によって変わっていくと考えられます。

音声を使うのか、ビデオを使うのか、バーチャルな人間に近いセールスパーソンが対応するか、あるいはアニメのような親しみやすいキャラクターなのかは、どのような人に向け、どう使って欲しいのかによっても変わりますし、UI、UXのデザインとして重要なところだと思います。

一方、チャットボットの技術の核となるのは、基本的に自然言語処理の技術です。その技術が進化するほど、人間に置き換えた的確な回答をしたり、サービスを遂行したりすることができるようになりますが、チャットボットは人間の話し相手ではなく、あくまで目的に応じた回答を返すためのサービスです。スピーディで簡単に、精緻な回答を得ることを可能にするか、今後も技術的なポイントとなります。

鈴木英彦氏
Automagi株式会社 デジタルイノベーション部 鈴木英彦氏

AI型のチャットボットは、単にコミュニケーションを自動化してくれるだけでなく、ボット相手だからこそ引き出せる情報があったり、ボットを通じてファンを増やしたり、「チャット」でのやりとりだからこそのメリットがあるようです。

スマートスピーカーによって「音声アシスタント」が注目を集まっていますが、今後は目的に応じて、「音声」「テキスト」「画像」など、様々なメディアを複合的に組み合わせたサービスが主流になっていくかもしれません。

Written by:
BAE編集部