2019.10.31

さきトレ|注目のテクノロジー「デジタルツイン」が変革する未来

“デジタルの双子”は、ビジネスをどう変えるのか?

これからの未来を描くであろう、最新テクノロジーのニュースを先取りしてお届けする「さきトレ」。今回は、「戦略的テクノロジー・トレンド」として注目を浴びる「デジタルツイン」について解説します!

取材協力:首都大学東京 システムデザイン学部 電子情報システム工学科 渋谷正弘准教授

BAEでは以前、「P.A.I.(パーソナル人工知能)」=デジタルクローンについてご紹介しました。これは、自分の複製をデジタル上に生み出す技術のことで、実現すれば、自分の代わりに仕事をしてもらうことも可能になるというものです。

「デジタルツイン」は、その概念を人間だけでなく、モノにまで拡大したもののことです。ツインとは双子のこと。つまり、“デジタルの双子”を意味しますから、デジタルクローンもその一例といえます。なお、デジタルクローンを含めたデジタルツインは、オリジナルに関するさまざまな情報を収集することで、デジタル上に複製を生み出します。

ではなぜ、同テクノロジーにいま、注目が集まっているのでしょうか?

そのきっかけは、米ガートナー社が2019年に企業や組織にとって戦略的な重要性を持つと考えられるテクノロジーのトレンドのひとつとして、「デジタルツイン」を挙げたことです。そこには近い将来、「数十億のモノに対するデジタルツインが存在するようになる」とあります。

またマーケッツアンドマーケッツ社の市場調査レポートによれば、現在デジタルツインの世界市場規模は2019年時点で推計38億ドル、今後さまざまな業種でも活用が広がり、2025年までに約358億ドルまで拡大すると予測されています。その成長率にいま、世界中がデジタルツインに熱い視線をおくっているのです。

現在、製造業においてはすでに、デジタルツインのテクノロジーが活用され始めています。一般的なシミュレーションとデジタルツインによるシミュレーションの違いは、「精度の高さ」にあります。

シミュレーションとは本来、“模擬実験”を指しますが、デジタルツインを活用したシミュレーションの精度は非常に高く、その結果をもとに改善を繰り返すことで、新商品の開発コストの削減や、業務プロセスの効率化を実現します。

特に部品が多く複雑な自動車や航空機、船舶などにおいては、正確なシミュレーションを実現できるため、安全性の高いエンジンの設計などにも同テクノロジーが活用されています。

今後、再現の対象はモノから、人間、そして都市にまで拡大していくと考えられています。すでにシンガポールでは、2014年から「バーチャル・シンガポール」が推進されており、地形や景観、交通網など、さまざまなモノを仮想化することで、今後の都市の発展のシミュレーションならびに、災害の影響や日照時間なども計算できるようなシステムの構築を目指しています。このようなプロジェクトがもし実現すれば、都市開発における工事の効率化などが図られ、時間とコストを大幅に削減できると考えられています。

今回、取材協力を依頼した、首都大学東京 システムデザイン学部 電子情報システム工学科 渋谷正弘准教授は、「デジタルツインが変革する未来」について、以下のように語ります。

「現実世界の膨大なデータをサイバー空間で数値化、定量的に分析することで、社会システムの効率化などを実現する『サイバーフィジカルシステム(CPS)』の研究が活発に行われ、さまざまな可能性が見えてくると、研究者の関心はデジタルツインに向けられるようになりました。

想像される新たな活用法として、映画『ブレードランナー』で主人公・デッカードが使用した「ESP」という捜査機械のカメラ(声で操作でき、360°視点の写真が撮影できる)も、デジタルツインの技術が発展することで、実現するかもしれません。それはつまり、リアルを補完するデジタルの活用です。もし、これまで見えなかった部分をデジタルと融合することで可視化できるようになれば、幅広い分野で利用が広がるのではないでしょうか。

しかし、デジタルツインの技術が発展した未来においても、やはり現実世界には、リアルにしかない魅力が存在し、仮想空間が完璧に代替できる世界にはならないと考えています。ですから現実空間と仮想空間、それぞれをしっかりと見つめ、問題を可視化し、多角的な視点で分析し、意思決定することが大事と考えます。なぜなら、2つの世界は似ているようで異なるからです。たとえば、現実空間の時間は前にしか進みませんが、仮想空間の時間は自由自在です(早送りや巻き戻しなど)。こうした、それぞれの特性を理解した上で、2つの世界を活用することが今後、肝要になるのではないでしょうか」

デジタルツインが普及すれば、業界を問わず、ビジネスに大きな変革が訪れるだけでなく、私たちの生活にも大きな変化が訪れることになりそうです。デジタルツインの技術が発展した未来においても、リアルとバーチャルをいかに融合し、活用するかが重要なポイントとなりそうです。

Written by:
BAE編集部