中国のEC市場はここ数年、拡大の一途をたどっており、現在その市場規模は世界の各国別市場規模、越境ECの利用者数・市場規模ともに、世界一※。急成長する越境ECにおける中国人ユーザーのニーズや効果的なプロモーションについて、日本商品に特化した中国人向け越境ECショッピングアプリ「豌豆公主(ワンドウ)」を運営するインアゴーラ株式会社 執行役員/Vice President・唐莹さんに聞きました。
※出典:経済産業省の調査結果 平成29年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
「ちょっといいもの」として注目される日本商品
――毎年、流通総額を伸ばし続けている「インアゴーラ」。中国の経済発展に伴い、越境ECにおける市場は変わってきているのでしょうか。
中国人の日本商品消費は、少し前話題になった訪日中国人観光客による「爆買い」からさらに進み、現在は中産階級にまで人気の裾野が広がり始めています。
現在、弊社の越境ECアプリ「豌豆公主」を利用し、日本の商品を購入しているのも中産階級のユーザーが中心です。それを象徴するかのように売れ筋も生活雑貨が上位を占めています。
2018年8月に行った周年記念キャンペーンにおける販売個数ランキングでは、「1位 日本製のコットン」「2位 日本製の歯磨き粉」「3位 日本メーカーのグラノーラ」「4位 日本製の日焼け止め」となっています。
ちなみに歯磨き粉だと、中国商品の3倍くらい価格は違います。それでも豊かになってきた中国人たちは「品質」を求め、少し高くても日本の商品を購入する傾向にあります。つまり近年、中国において日本の生活雑貨は、ブランド化しているのです。
「90後」「95後」には“15秒”でシーン訴求
――日本商品への購買意欲の高い「中産階級のユーザー」について、もう少し詳しく教えてください。
「豌豆公主」のユーザーの約9割は20代の女性。北京や上海などの都市部に住んでいます。なお、この世代(1990年代以降生まれ)の中国人は、「90後(ジウリンホウ)」と呼ばれ、それ以前の世代とはまったく異なる価値観を有するといわれています。
「90後」は、デジタルネイティブであり、両親に経済力があり、消費力が高い傾向にあります。また、この世代は「一人っ子政策」の影響で、子どもの数が少なく、両親の経済力に甘えやすい環境にあることも消費を押し上げている要因でしょう。彼女たちは新しいものへの関心が高く、品質の良いもの、自分が本当に好きなもの、知られざる名品や自慢したいと思えるものなどを使いたいと考えています。また中国にとどまらず、海外への関心が高いのも特徴のひとつです。
そしてその5年後以降(1995〜1999年)に生まれた「95後(ジウウーホウ)」はさらに消費への意欲が高く、現在この両世代が「中国市場を牽引している」といわれています。
彼女たちはデザイン面でも、従来から好まれてきた鮮やかな色だけでなく、ごくシンプルなデザインも“日本風”と形容し、好んでいるようです。また、インスタ映えする商品は日本同様、とても反応する傾向にあります。
両世代の影響力は大きく、現在、中国市場を捉える上でもっとも重要なことは、「90後、95後に受け入られること」です。
――「90後」「95後」の女性ユーザーのニーズが、高品質の日本商品とマッチしているから中国向け越境ECも好調なのですね。では、彼女たちにアプローチするためには、どんな点に工夫が必要なのでしょうか?
まず、日本と中国では、生活習慣も言語も違いますから、商品の説明が必要になります。日本人が当たり前のように食す「インスタントスープ」も、中国人からすれば、どうやって食べればいいかわかりません。他にも「サプリメント」の取り扱いもあるのですが、これもやはり説明が必要になります。
しかし、情報の洪水社会で忙しい彼女たちには、“説明書”ではなかなか読んでもらえません。そこで短時間で端的に理解できるよう、商品ごとに15~30秒の「説明動画」を自社で作成しています。丁寧かつコンパクトなこの動画は好評で、視聴数も多いです。
例えばフェイスクリームの場合、適量を手に取って塗るまでの使い方の説明を動画でしています。もしかすると「ここまで丁寧にするの?」と感じるかもしれませんが、それくらい日本と中国の文化は違うのです。
中国版インフルエンサー「KOL」の効果的な活用法と留意点
――中国ではライブコマース市場が急成長し、「KOL(Key Opinion Leader)」を活用した「KOLマーケティング」が非常に効果を発揮していると聞きます。どのような特徴があるのでしょうか?
2016年に中国のライブ配信利用者は3.25億人を超え、中国のインターネットユーザーの45.8%が利用しているといわれています。その世界で特に台頭している「KOL」は、いわゆる“中国版インフルエンサー”で、10万人以上のフォロワーを有するなど、中国のSNSで大きな影響力を持っています。
彼らが商品を紹介すると売上が伸び、なかにはひとりで年間50億円を売り上げたKOLもいます。「90後」「95後」はデジタルネイティブ世代であり、新しいもの好きですから、ライブコマースの利用にも積極的です。またSNSの利用率も高いため、「KOLマーケティング」との相性もとてもいい傾向にあります。
ちなみに、弊社の越境ECアプリ「豌豆公主」でも、KOLが日本商品を紹介するライブ動画を不定期で配信していますが、「90後」「95後」との相性の良さも手伝って、毎回、多くのユーザーに視聴されています。
――では「KOLマーケティング」を行う際の留意点や注意点は、どんなところにあるのでしょうか?
KOLは自分のファンを持っています。彼らの発信は、通常の広告よりもファンからすれば説得力があり、かつ好みも似ていますから、商品の認知拡大が期待できます。その特性を生かし、KOLとコラボアイテムを作成する企業は多いですね。また日本も同様だと思いますが、人気のKOLには企業がサンプル商品を送ることもあります。その際、ライブコマースが多いことに焦点を合わせ、あえて中身がわからないようにして送ることで、彼らがライブ配信で「何が入っているのかな?」と紹介してくれたケースもあります。
またKOLによって、ファン層がある程度セグメントされていますから、ターゲティングしやすく、狙っている層にアプローチが可能です。彼らが紹介しやすいカテゴリーとしては、コスメ、健康食品、生活雑貨(枕やアイマスクなど)、ペット関連などが挙げられます。
ちなみに以前、子供服のメーカーとタイアップした事例では、社員よりも商品に詳しいほどKOLが同メーカーのファンだったこともあり、内容的にも結果的にも良好でしたから、ブランドのファンであるKOLをアサインすることは有効なアプローチと言えるでしょう。こうしたメリットは、日本のインフルエンサーを使った施策も似ている点が多いと思います。
ただ日本だと、インフルエンサーが芸能事務所に所属しているケースも増えてきていますが、中国ではフリーランスであることが多いんです。そのため、オファーに慣れていないとトラブルになるケースもあり、配信の当日にKOLが来ないということや、KOLのギャラが、5万元(日本円で約78万9000円)から、1週間後には10万元に跳ね上がったということもあったと聞きます。
そこで弊社では、そうした問題解決のために、中国のKOLと日本企業をつなぐサービスも始めています。
――中国には独自の文化があり、日本企業の参入は難しいと言われてきました。越境ECで効果的なプロモーションを行ううえでのメッセージはありますか。
中国は人口が多く、日本企業の中国進出への期待は非常に高い傾向にあり「越境EC」は注目されていますが、同時にライバルも多く、競争の激しい市場です。厳しい市場ですが、日本商品は質が高いという信頼があるので、影響力の高いKOLや中国独自のSNSをうまく活用すれば歓迎されるでしょう。
中産階級の拡大や「90後」「95後」の出現により、越境ECに生まれた市場変化が加速・発展しつつあります。日中の商習慣や文化で異なる点に留意しながらKOLや中国独自のSNSを活用すれば、日本よりもずっと大きな市場でプロモーションの成功につなげられそうです。
- Written by:
- BAE編集部