2018.09.20

スマホ時代だからこそ効果を発揮する、驚きの印刷技術

スマホで撮影すると劇的変化、フラッシュプリントの可能性【前編】

スマートフォンでの写真撮影が日常的に行われている今、撮影前後で変化を起こす新しい印刷技術に注目が集まっています。株式会社SO-KENは、今春印刷新技術「フラッシュプリント」を開発し、驚きと楽しさを提供しています。前編で同社の代表・浅尾孝司氏にその技術の概要を伺うとともに、後編では電通テックのアートディレクターを交えてこの技術の可能性を探っていきます。

目次

スマホがあればだれでも体験できるという新技術

「フラッシュプリント」とは、再帰反射技術(あらゆる方向から入ってきた光を、光の入ってきた方向に向けて反射するという技術)を利用したユニークな印刷テクノロジーです。必要なのはスマートフォンのみ。印刷物に向かってフラッシュをたいてシャッターを切ると、隠された絵柄が浮かび上がります。

ドラキュラ
フラッシュオフ(左)、フラッシュオン(右)

実際に体験してみると、その歴然とした変化と、色彩の鮮やかさに驚きます。フラッシュをオンにする前には全く見えなかった絵柄が浮かび上がっています。

――まず、SO-KENさんについてお聞かせいただけますか。

浅尾

私たちの前身はリフォーム会社だったんです。壁材を扱っていたのですが、真っ白な壁紙は芸がないから、照明一つで全く違う柄になったら面白いなということで、インクジェットのフルカラー化を始めて、それを1つ目のトリックプリントということでリリースしました。印刷に力を入れ始めたのは、そこからです。

従来の情報伝達手段としての印刷技術を追求しても、現時点でもその兆候があるように、やがてデジタルに置き換わってしまいます。受け手が「見る」だけ、ではなく、もっと五感に訴求できる印刷技術はないだろうかと、SO-KENでは「トリックプリント」というブランディングで、ギミックがある印刷を手がけています。今春開発に成功した「フラッシュプリント」のほかに、「ブラックライトプリント」「ソーラープリント」「エディブルプリント」があり、すでに広告やイベント、エンターテインメントの多くのシーンで活用されています。

浅尾孝司氏
株式会社SO-KEN 代表取締役 浅尾孝司氏

――フラッシュプリントには、どのような技術が使われているのでしょうか。

浅尾

この技術はもともと「リフレクトプリントS」という名称で2016年にリリースした商品の進化版で、フルカラーバージョンのものです。再帰反射技術を利用し、スマホのカメラでフラッシュ機能を使って撮ると、見えていたビジュアルとは異なるものが写るという技術です。これは偶然生まれたアイデアで、いろいろ試しているうちにうまくいったというのが実際のところです。ところがリフレクトプリントSとして世に出してみると、想定以上に反響がありました。理由は、皆が持っているスマートフォンを介在させている手軽さにあり、専用のアプリも要りませんし、SNSで拡散する時代背景ともマッチしているからでしょう。これまではワンカラ―のみでしたが「フルカラーでは出せないの?」という要望が高まり、今年2月から開発を始めました。

フルカラーでここまで鮮やかな表現が可能になった「フラッシュプリント」

――まさに最近なんですね。これまでにはなかった技術なのですか。

浅尾

再帰反射技術は昔からあります。この技術は、光が入った角度に対してまっすぐ同じ角度で光が返ってくるという原理を応用したものです。わかりやすい例でいえば、車のライトが当たると光って返る交通看板です。ただそこにギミックは必要ありません。トリックプリンティングに応用する以上ギミックがなければならず、基礎技術を生かして見えないグラフィックが浮かび上がるアイデアを形にしました。

――「リフレクトプリントS」の時代を含めて、「フラッシュプリント」には、これまでにどのような引き合いがありましたか。

ロレアル パリ ローンチパーティーのフォトブース
浅尾

圧倒的にフォトスポットでの利用用途がメインですね。その他、販促物としてポストカードとか、ポスター、店舗の販促チラシなども多いです。

例えば、ロレアル パリさんのゴールドのリップのローンチパーティーのフォトブースにご採用いただいたケースがあります。フラッシュ撮影をすると、唇やリップの部分がゴールドに光り、さらにブランドのロゴやキャッチフレーズが浮かび上がるというギミックです。リップの色を引き立たせるために、あえて写真をモノクロにしたことで、効果的に新商品をPRできたのではないかと思います。
パーティーには、メディアの方やインスタグラマーの方なども多数お招きしていたのですが、非常に大きな反響をいただきました。

また、面白いところでは映画のPRとして、装飾として印刷した飾りをクリスマスツリーにたくさん付けて、ツリー全体をスマホで撮影することでスケールの大きなフラッシュプリントの変化を楽しんでいただくということをやりました。

「フラッシュプリント」を光らせるのはコンテンツの力

浅尾孝司氏

――これからこの技術を普及させていくための課題は何でしょうか。

浅尾

こうした技術を開発しても「何に使うの?」と聞かれます。面白さや驚きを商品化できる会社とパートナーシップを組んでいかないといけないと思っています。世の中の多くの会社は左脳でビジネスをしています。私たちは右脳で勝負したい。「かっこいい」「驚いた」「面白い」を消費してほしい。そのための商品開発をしようというのが私たちのコンセプトです。ただ、技術で驚きを与えられるのは1回きり。必要なのはコンテンツで、そこは私たちメーカーの力では限界があるので、パートナー企業に魂を吹き込んでほしいというのが願いです。

フラッシュオフ(左)、フラッシュオン(右)

フラッシュプリントの強みは、体験するための敷居の低さ。アナログとデジタルを掛け合わせた印刷物のコンテンツとしては、例えばQRやARがイメージしやすいですが、いずれも専用のアプリなどが必要になるケースが多く、すぐさま体験できないというデメリットがあります。一方で、フラッシュプリントはスマートフォンのデフォルトのカメラ機能で簡単に体験できます。多くの人がスマートフォンを手にしており、かつ「スマホで写真を撮る」という行為が人々の生活に浸透している現代だからこそ、フラッシュプリントは効果的なツールであると言えるでしょう。

とはいえ、フラッシュプリントには実際に体験してもらわないと、その魅力が伝わりづらいという課題もあります。体験していない人に知ってもらうためには撮影の前後を見せられる仕掛けや、体験してもらうまでの導線をどのように作るか、さらには「フラッシュプリント」に最適のクリエーティブとか何か。次回の記事では、電通テックのアートディレクターも交えて、フラッシュプリントの可能性を探っていきます。

Written by:
BAE編集部