2021.12.23

2021年の Z世代とメンズ美容市場を振り返る

2022年はどんな変化が待っているのか?

今年新語・流行語大賞トップテンに入った”Z世代”というワード。BAEでも、牛窪恵さんや原田曜平さんとZ世代について対談を実施し、多くの反響をいただきました。今回は、電通テックの研究・開発型組織「+tech labo」研究員としてZ世代研究をマーケティング領域でリードする堀かおりが、2021年のZ世代とメンズ美容市場の動きを振り返ります。

目次

“Z世代”の特徴は、Z世代だけのものなのか?

“Z世代”というワードはマーケティング用語としては何年も前から、当たり前のように使われていましたが、ここ2年ほどはテレビ・ネットニュースでもよく使われるようになり、今年ついに、新語・流行語大賞トップテン入り。一般的なワードとして浸透してしてきたと感じています。 

企業は、これからの消費の中心となりうるZ世代を取り込むべく、さまざまな取り組みをしていますが、彼らの好きなモノはすぐに移り変わるため、企業の開発サイクルがZ世代の好きの移り変わり(流行のスピード)に追いつくことが難しくなっています。さらに彼らの大きな特徴として、“好き”別にSNSのアカウントも切り替える、という特性があります。コアなコミュニティほど非公開アカウントでコミュニケーションを取るため、外からは見えない彼らだけの世界も多く存在するのです。

【出典】Boys Beauty調べ <調査対象>24歳以下の男女648名(男性331名、女性317名) <調査実施期間>2021年1月20日~1月25日 <調査方法>インターネット調査

スマホネイティブ、かつ、“好き”の移り変わりが非常に早いZ世代を外からの観察だけで理解しようとするのは不可能に近くなりつつあります。そのため、Z世代をターゲットとするプロモ―ションを行うにあたり、彼らのことを理解したい時には、いかに直接接点を持ち、コミュニケーションを取って対話するか、が重要です。生の意見をインタビューや会話から引き出すことで、データやSNS上には現れづらい、Z世代の本音に迫ることができます。

一方で、スマホや多様なSNSは、Z世代に限らず30代くらいまでの人たちには同じような速度で浸透しています。現に31歳の私は、Z世代に関する話をしながら「とはいえ自分も当てはまるな」と、強調して言いたくなる瞬間が度々あります(笑)。ここで感じるのが「世代論の限界は度々語られてきたけど、いよいよもう限界なのでは?」ということです。世代論を軸に分析や仕事をしてきているのにこんなことを言うのは気が引けますが、確かにそうかもしれないと思うのです。Z世代ならではの事象や流行はありますが、その多くは一時的なもので、考え方や消費の特徴といった短いスパンでは変化しない、より奥深い部分は、Z世代に限らず20代後半~30代でも同じことが言えてしまうなと思うこともがあります。

この違和感をもう少し深掘ると、スマートフォンの浸透と多機能化によって生活の中で触れるチャネルが平均化されたことに起因します。電話、テレビ、新聞、雑誌、Web検索(パソコン)、CD、カメラ、決済…生活の中で必要なありとあらゆる機能がすべて、スマホで完結するようになりました。使っているソフトウェアは異なるものの、何かしたいとき・知りたい時はまずスマホを開く、というアクションを大半の人が行っていると思います。

一方で、スマートフォンを「使って」できることや、触れられる情報・コンテンツは、100万人いたら100万通りあると言い切れるほど、個人によって異なります。そしてこの差も、年齢ごとに流行や使っているサービスの傾向の違いはあるものの、年齢で切るよりはライフスタイルや趣味・嗜好で区切った方が、傾向が見出しやすくなっています。
たとえば、高校生の1クラスと会社の1部署を比較するだけでは、それぞれのクラスター内でばらつきすぎており比較すらも難しい状態となります。しかし、スポーツ好きやアイドル好きといった軸を持たせてパネルを抽出してみると、スポーツ好きがよく見ているメディアや使用するSNS、対して、アイドル好きがよく見ているメディアやSNS、とそれぞれ傾向を見出すことができ、メディアに触れている時間の長さやSNSの中でも信頼を置いている発信者、というような観点で年齢間の差も見やすくなります。来年は、年齢軸で区切ってみるべきポイントと趣味・嗜好軸で見るべきポイントを分析の上で見極め、メソッド化を図りたいと思います。
 

世間に浸透したZ世代の新市場“メンズ美容”

Z世代にはSNSネイティブ以外にも大きな特徴があります。それはZ世代男子の美意識の高さです。
2018年夏ごろから、メンズ美容市場の研究に携わってきましたが、特に盛り上がりを感じ始めたのは2020年夏ごろでした。男性ファッション誌『MEN'S NON-NO』が独走状態だったメンズビューティー領域に、『FINEBOYS』が『FINEBOYS+plus BEAUTY』というメンズビューティー専門誌を創刊して地殻変動を起こした2020年。メンズ美容に特化したメディアは未だに少ないため、同誌はメンズ美容に関わる人にとってバイブルになっています。しかし、雑誌を読むZ世代男子は以下のグラフの通り少ないのが現状です。Z世代の主な情報源はYouTube、Instagram、TikTokであり、HOWTO(メイクやスタイリングのやり方)はYouTubeで検索、Instagramでは商品情報などの検索とストックを、という形で使い分けています。TikTokは10代で、自分が知らなかった商品との出会いを楽しんでいるようです。

【出典】Boys Beauty調べ <調査対象>15 ~29歳までの男性3531名
<調査実施期間>2021年7月2日~7月5日 <調査方法>インターネット調査

そして今年2021年、“メンズ美容”がいよいよ世間に浸透してきたなと感じるようになりました。テレビやネットニュースで”メンズ美容”や“メンズメイク”が注目され、お昼のワイドショーでは韓国風男性アイドルが100均コスメをショッピングする様子が映し出され、店頭でもメンズコスメコーナーが拡大し……といった、目に見えた動きが日々起きていた印象です。

その中でも特に着目すべきは、世間の許容度の高まりです。有名芸能人や芸人が、テレビ・雑誌・WEBなどの各メディアで美容へのこだわりを話す姿が多くなりました。その発信に対して、従来であれば「女性っぽい」「きれいになってどうしたいの?」といったようなイジりの要素を感じるリアクションがほとんどでした。しかし最近は、「肌がきれいでうらやましい」「美意識の高さ見習いたい」「男子も美容に気を遣う時代だよね」など素直でポジティブなリアクションがTV番組内でもSNS上でも目立つようになっています。店頭展開が増え、日常の中にメンズコスメが目に触れる場面が増えてきたため、他人の目を気にしながら選ぶことも減りました。
数年前なら中性的で弱々しいと揶揄された美肌を究める色白韓国系男子は、今やモテるカテゴリーの一つとなりました。Z世代男女のファンを多く抱えたアイドル発掘プロジェクト「PRODUCE 101 Japan」には美を究める男子が出そろい、ファンに「自分もなりたい」と思わせる憧れの対象となっています。

メンズ美容が長年拡大を見せなかった一番の理由は“他人の目”です。例えばBBクリームを塗ったら周りに気付かれるだろうか?どう思われるだろうか?といった心理的ハードルが、美容に関心があっても使用を踏みとどまらせていました。しかしこれだけ急激に世間の許容度が高まると、形勢は逆転して「美容を気にしていない方がダサい」といった新たな基準が生まれる日も近いのではないでしょうか。そしてその中核となり得るのがZ世代です。男女問わず大人の目線や意見に惑わされず、自分なりの価値観をしっかりと持つという特性があるため、たとえ大人が「男なのに」など言おうと、自分たちが信じる美の価値観を大事にして突き進んでいくことでしょう。

【出典】Boys Beauty調べ <調査対象>15 ~29歳までの男性3531名
<調査実施期間>2021年7月2日~7月5日 <調査方法>インターネット調査

本当のジェンダーレス化は無意識下で進んでいる

「ジェンダーレスコスメ」が注目を集めて久しいですが、自ら「うちのブランドはジェンダーレスです!」と一種のカテゴライズをしているブランドのアイテムは実際ユーザーにあまり刺さっていない……という印象を、Z世代男子と話す中で持っています。それよりも、誰を対象にしているのか明示をせず、ブレないブランドの世界観を持ち、品質への強いこだわりを示すブランドの方が男女問わずに人気を集めています。信頼や支持は一朝一夕で築けるものではありませんが、ブランド側が世界観をしっかりと保つ、というのはどのブランドでもできることです。比較技術に長けて審美眼を持つZ世代に受け入れられるには、そういった芯を持つことが重要、ということを念頭に置いておきましょう。

2022年、Z世代とメンズ美容市場はどう進んでいく?

TwitterやInstagramなどのSNSでは、この2年でZ世代を中心にリアルタイム投稿が忌避されるようになってきました。ストーリーズの使用がグッと減り、「リアルタイムで投稿する意味とは?」とユーザーが冷静に考えるようになってきている2021年末。TikTokやリールなど、リアルタイム性を求められないコンテンツの増加により、表向きの部分だけを見ているだけではますます彼らの嗜好を掴めなくなってしまいます。
また、TikTok・リールなどの短尺動画で瞬間的に”消費”されるコンテンツは、商品単品の訴求や認知拡大には効果的ですが、ブランディングにはあまり向かないのではと思います。Z世代はブランドの世界観や考え方に共感をすることで愛着を持つ傾向もあるため、商品訴求と認知拡大には短尺動画、ブランディングには、YouTubeなどの長尺動画やOOHで自ブランドの世界観を全面に表現する、といったように目的に合わせて使い分けていくことがユーザーの記憶に刻むには重要となります。こうした地道な積み重ねで、LTVを伸ばしていきましょう。

メンズ美容市場は、加速度的な拡大が見込まれます。一般的になるにつれて、初心者/中級者/上級者といったリテラシーの差がより分かりやすく出てくるため、各レイヤーのユーザー特性やニーズをしっかりと捉えていくことが今後より重要になります。また、コスメのジェンダーレス化が進むとともに、改めて「メンズコスメとは?」を考えるべき岐路にいるなと感じます。リテラシーが高いユーザーほど“メンズコスメ”とくくられる商品に対して粗く雑な印象を抱く傾向にあるため、これは近々市場課題にもなり得るでしょう。
メンズコスメが男性ユーザーにとっての唯一の選択肢から、数多の選択肢のひとつに変化する過渡期となる2022年。もっとも美容感度の高いZ世代男子がどんな意識を持って美容を楽しんでいるのか?どんな基準でアイテムを比較し、購入を決めるのか?を理解することで、この先のメンズ美容市場が向かう先のヒントを導き出せるはずです。コアな購入層である20代後半~40代だけでなく、ぜひZ世代男子の深掘りもしてみてください。

堀 かおり(ほり かおり)

株式会社電通テック +tech labo研究員

2014年電通テック入社。店舗運営や外資系企業のプロモーションに携わる。2018年5月より未来志向の開発型組織+tech laboの研究員となり、Z世代とSNSをテーマとして日々開発業務を行う。2018年末よりZ世代男子の美容に対する意識の高さに注目しており、彼らに向けて美容情報を発信するInstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)をLIDDELL株式会社と共同で運用している。

+tech labo
Written by:
BAE編集部