これからの未来を描くであろう、最新トピックスをお届けする「さきトレ」。今回は、顧客体験を向上させるEC戦略として注目の「ヘッドレスコマース」について、解説します!
取材協力:
株式会社ビービーエフ 執行役員 EC事業部 部長 デジタルマーケティング推進担当 情報セキュリティアドミニストレータ 安住祐一
CXを向上させるEコマースの新潮流「ヘッドレスコマース」
現在、デジタルトランスフォーメーション(DX)がさまざまな分野で注目を集めています。その背景にあるのは、新型コロナウイルスによって関心が高まった「非接触(コンタクトレス)」というキーワードの影響があります。
「ショッピング」を取り巻く環境もいま、大きく変化し始めています。コロナ禍で外出を控えるために、ECの利用が日本はもちろん、世界的に急増。これまで以上にオンラインでのコミュニケーションが重視される傾向になっています。
Zoomを活用した「オンライン接客」なども、新たな動きのひとつです。これによって、顧客とのタッチポイントは増加。今後さらに増える可能性もあります。また、パルス型消費に代表されるような、「ほしいと思った瞬間に、その場で購入する」現代的な消費行動にも対応するためには、オンライン上でも“柔軟性”が求められる時代になりました。
また、昨今は、スマホの画面サイズが多種多様に存在したり、折り畳み式スマホが登場したり、スマホ以外のタッチポイント(サイネージや、音声認識端末、腕時計型)も増加していく中で、従来のレスポンシブ型ウェブデザインのみでは対応しきれないデジタル環境になってきています。
そのニーズに応えるべく、注目されているのが「ヘッドレスコマース」。顧客とのオンライン上での接点に柔軟に対応することで、カスタマーエクスペリエンス(CX)を向上させるEコマースの概念です。“ヘッドレス”が意味するのは、システム上における「頭と身体の分離」です。頭はUI(顧客が触れる画面やシステムなどのフロントエンド)であり、身体はECプラットフォーム(画面やシステムのフロント要件を実現する機能プログラムやデータベースなどのバックエンド)を指します。
これまで頭(UI・フロントエンド)と身体(ECプラットフォーム・バックエンド)はつながっていたため、ECサイトやアプリ、SNSや広告などのデザイン(UI)を変更するためには双方の影響を踏まえて修正していく必要がありました。
しかし、2つを分離することで、タッチポイントごとに、柔軟にUIを変更することができるようになるため、サイトやアプリなど、それぞれに最適なデザインを用意し、ユーザビリティの向上を図ることが可能となります。
アプリケーション・ソフトウェアを統合する「API」によって、ECプラットフォーム(機能プログラムやデータベースのバックエンド)をUI・フロントエンドから分離。またシステムもそれぞれ分離することで、サイトの表示の高速化や、デザインの柔軟性が向上します。たとえば、サイトの表示速度の改善や、ブランド観を表現するためのリッチなデザインは、主にUI・フロントエンドの開発のみで向上させていくことが可能になります。
一方で、ヘッドレスコマースの懸念点としては、API化によって、インターフェース(フロントエンドとバックエンドのリアルタイム連携)が多く発生するため、大量のアクセスを捌くためのシステム的な工夫(同時接続数の問題やデータベースの応答速度やインフラの仕組みも強くないといけない)が必要となる点です。
高負荷時にすべての機能が問題なく連携動作が可能かという観点で、機能プログラムやデータベースのチューニング、連携テストを十分に実施していく必要はあるでしょう。加えて、未対応のサードパーティ系のツールが使えない場合もあります。
マルチデバイス対応自体は、ヘッドレスコマースにおける優れた点です。しかし、デバイス毎に検証や確認・テストが必要な点では、開発工数は対応デバイス数によって膨らむ可能性もあり、メンテナンスや保守・維持の手間も増加する可能性はあります。※ヘッドレスコマース系のツールにも依ります。
このように、メリットデメリットはあるものの、すでに、ヘッドレスコマースを活用し、UXを改善している例もあります。「Victoria Beckham Beauty」のウェブサイトは、ヘッドレスコマースを採用することで、表示速度を高速化させ、ユーザビリティの向上を実現しています。
ヘッドレスコマースは、ニューノーマル時代の最適解
新型コロナウイルスによって加速するDXの流れは、店舗の在り方さえ変えようとしています。店舗は今後、“売り場”としてだけでなく、“体験の場”としての役割を担うと見る動きもあります。将来的には、見て、体感するのが店舗で、購入はECという流れも予測されています。
そのなかで、CXを向上させるためには、タッチポイントごとに「UIを最適化」することが必要です。「ヘッドレスコマース」は、まさにニューノーマル時代の最適解となりえるのではないでしょうか。
- Written by:
- BAE編集部