2022.02.02

健康医療相談、オンライン診療、ヘルステック等を結ぶデジタル医療プラットフォーム

医療問題を解決に導く、包括的なアプリが新登場

コロナ禍により、注目度が上昇した医療のデジタル化。オンラインでの診療や健康相談が実現し、アプリやウェアラブルデバイスを通じたヘルステックサービスなどが増えて、人々にとって身近で頼れるものとなりつつあります。
国内での生活者向けのデジタル医療は今、どのような局面を迎え、どのように成長しようとしているのでしょうか。
各種ヘルスケアサービスやオンライン診療を結ぶ、新たなデジタル医療プラットフォーム「HELPO(ヘルポ)」を展開する、ヘルスケアテクノロジーズ株式会社の大石さんにお話を伺いました。

目次

アプリで医療とヘルスケアの好循環を生み、未病の悪化を防ぐ

——コロナ禍で「ヘルスケア×IT」が進み、新しいヘルスケアサービスが次々と登場して、医療体制にも変革の兆しが見え始めています。
ヘルスケアテクノロジーズではデジタル医療プラットフォーム「HELPO」を展開されていますが、どのようなソリューションですか。


健康医療相談チャットを軸に、病院検索、「HELPOモール(一般医薬品を購入できる専用ECサイト)、またオンライン診療と、それに伴うオンライン服薬指導などを提供する、今までにない包括的な医療プラットフォームです。

「健康相談が受けられる」「病院検索ができる」といった部分的な形での提供ではなく、アプリを通じて様々な機能やサービスを結び、一人ひとりに必要なヘルスケアサービスを幅広くシームレスに提供できることがポイントです。

2021年11月からは、遠隔特定保健指導(特定健診を受けた後に、生活習慣病のリスクに応じて受けられる保健指導)の提供もスタートしました。企業・自治体単位でのPCR検査、ワクチン接種の支援も行っています。

現在は、企業・法人・自治体単位での契約を通じて、従業員や家族、住民などが利用できる。健康に関する相談への対応から、適切な情報の提供、栄養や服薬指導などを、専門家がサポートする
※ヘルスケアテクノロジーズ作成資料による

——医療プラットフォームの構築に取り組まれている背景には、どのような課題があるのでしょうか。

私たちの健康への安心は、安全で質の高い日本の医療に支えられています。しかしご存じの通り、超高齢社会や医療費の増大、医療従事者の疲弊など、様々な要因によって従来の医療制度の維持は難しくなりつつあります。

現在の医療業界における課題の一部。従来の医療サービスの維持が危ぶまれる状況にあり、その解決は産学官の全てが取り組むべき重要な課題に
※厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会報告書(400床以上の病院における割合)」/厚生労働省「平成29年度 国民医療費の概況」/厚生労働省「平成29年受療行動調査(概数)の概況」よりヘルスケアテクノロジーズ作成

この課題を乗り越えるには、医療そのものの進化だけではなく、「未病(※)」にアプローチして重篤な病気になる人を減らしたり、病気にかかったとしても改善状況を適宜ヒアリングすることで、治療と予防の好循環をつくり、一生涯元気に動ける人が増える状況を作っていかなくてはなりません。
※未病とは……「自覚症状はないが検査では異常がある」「自覚症状はあるが検査では異常がない」など、病気とは言えないがかかる手前の状態を指す

幸い、昨今様々な企業によって、優れたヘルスケアサービスがたくさん生み出されています。私たちは、それらを点のままにせず、線や面で連携し、またアセットを相互に共有することで、一気通貫のプラットフォームとして構築・運用することに取り組んでいるのです。

医療プラットフォームの構築イメージ。生活者は健康データを軸に、個々にパーソナライズされた形で、シームレスで利便性の高いヘルスケアサービスを受けられる
※ ヘルスケアテクノロジーズ作成資料による

この図にある通り、将来的には、医療に直結したサービスだけではなく、日々の食生活や運動などにまつわるデータやサービスとも連携し、より幅広く、オンライン・オフラインを縦断する形で、多くの人の健康維持に貢献していきたいと考えています。

——企業の視点から見ても、健康経営(スタッフの健康管理を経営課題として捉え、戦略的に実践すること)に向けた取り組みが重要視され、具体策が求められていますね。

はい。実際に、健康経営を狙いとする「HELPO」の導入や、問い合わせは非常に増えています。
健康経営への正しい取り組みによるスタッフの心身両面での健康リスクの予防・改善は、早期退職の防止、医療費の負担軽減、業務のパフォーマンス向上、人材確保やブランディング等においても大きなメリットになります。
スタッフの健康に配慮しながら働きやすい環境をつくることは、現代の企業にとって最も重要であり、恒久的に取り組むべき課題の一つです。働く人の健康面が業務におけるパフォーマンスやモチベーション、また企業のイメージ等に大きく関わることは、言うまでもありません。

健康経営を推進することで、経済産業省が実施する「健康経営優良法人認定制度(※)」などに認定されれば、社会的な評価にもつながりますし、経営面でプラスとなる、様々なインセンティブも受け取ることができます。
※参考:経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html

健康経営優良法人への申請状況の推移。企業からの関心は年々高まっている
※経済産業省「健康経営優良法人2021(中小規模法人部門)認定法人 取り組み事例集」令和3年3月 より

状態の可視化や情報共有を通じて、より健康な未来へ

——「HELPO」は、実際のユーザーにはどのように利用されているのでしょうか。

窓口であるチャットによる健康医療相談をはじめ、活発に利用されています。「病院に行く余裕がない」「本当に病院へ行くべきなのかわからない」「ネットの情報は信頼度がわかりにくい、情報が多くどの情報を参考にすればいいのかわからない」といった理由から、医療の専門家に対して、より気軽に健康相談ができるサービスを求める声は増えていますね。

相談内容を診療科別に分けると、下記の円グラフのようになります。そもその日常的な体調不良において内科関連が起因となる傾向が強くあります。加えて、昨今のコロナ禍による影響もあり、内科関連の相談が高水準を保っていますが、内科以外の相談も一定数分散しており、「今すぐに聞きたい」「ちょっとした疑問や悩みがある」「デリケートな内容で、直接医師に聞きにくい」「社内の産業医にはどうしても相談しにくい」といった気持ちの受け皿になっています。

一般内科に次いで、産婦人科、また、小児科、消化器科、精神科・心療内科等に関する相談が多いという
※ ヘルスケアテクノロジーズ作成資料による
産婦人科系の相談が多いことに関連して、女性の相談数が男性を上回る。一般的に「アプリを使い慣れていない」とのイメージを持たれやすい60代超からの相談も一定数ある
※ ヘルスケアテクノロジーズ作成資料による

相談者の匿名性を保ったまま、個々の悩みやニーズ、性別・年齢などの属性データをまとめられることが、大きなポイントです。「HELPO」を通じたより適切なアドバイスやその後のフォローアップにつなげられますし、企業側はフィードバックに応じた対策を立てやすくなります。

簡単に説明すると、例えば、メンタルヘルスに関わる相談数が増加傾向にある場合、就業管理の見直しや、対策に役立つヘルステックサービス等の導入につなげることができます。

——アプリで相談内容や検査結果のデータの記録や、自分で活用することなども可能でしょうか。

提供している特定保健指導の機能の中では、特定のウェアラブルデバイスによって取得されたデータや、相談履歴を継続的なアドバイスやチェックに役立てられます。また、PCR検査の結果を(受診者の了承を得て)企業側や医療機関側と共有することなどが可能です。

今後は、「健康医療相談の内容をもとに、問診で尋ねられるような内容を自動でサマリー化でき、医療機関側に渡せる」といったことを、簡単にできるようにしていきたいと考えています。
例えばクリニックにかかる場合、現状だと、患者は受付で問診票を手書きして、それを病院スタッフがデータで入力、また別の機関へのデータ共有はできない――といったように双方の手間や不便が大きいのですが、プラットフォーム上で保存・整理して簡易化できるようになれば、どちらにとっても大きなメリットになります。

さらに近い将来、ユーザー自身が健康データを把握しやすいようなUIを整え、自身の選択や判断によって、特定健康診査の結果などを医療機関やヘルスケアサービスに自在に提供できるようにしていきたいと考えています。
もちろん、個人の健康にまつわる情報ですから、セキュリティや管理は確実にする必要はありますが、ユーザー自身がデータを主体的に取り扱えるようになれば、様々なサービスを受ける上で、より多くの利点を享受できるでしょう。

将来的には、私たち一人ひとりが、健診結果などをスマホで管理して、自分に必要な治療や受けたいサービスに応じて情報を提供する、といったことが可能になる
※ ヘルスケアテクノロジーズ作成資料による

——アプリを通じて、医療やヘルスケアのDXは今後どのように進んでいくでしょうか。新たな分野へと広がっていく可能性などはありますか。

まず、オンライン診療に対応するクリニックの数は現在、全体の1割程度ですが、今後の増加に応じて連携を増やし、皆さんがオンラインでの診療や服薬指導をさらに受けやすい状況を整えていきたいと思います。

また、特定保健指導に関連して、健康状態や未来予測をAIでビジュアル化して、具体策を立てやすくするようなサービスなども検討しており、東京大学と共同研究を進めています。
「このまま肥満が進むと、健康によくありません。生活を見直しましょう」と言われても、積極的に取り組める方は少ないものです。しかし、10㎏、20㎏と肥満が進んだ自分のリアルな画像を見ながら、10年後、20年後と病気にかかる確率がわかりやすく示されれば、改善へのモチベーションを高められるでしょう。

先述の通り、すでに展開されているサービスとの連携も進めていきます。
例えば、デジタル問診や、栄養状態から食材をレコメンドするサービス、おすすめのエクササイズを教えるアプリ、健康をサポートする宅配食やミールキットなど、各社による優れた仕組みがすでに無数に存在します。それぞれに、一つのアプリから気軽にアクセスできれば、ライフスタイル全般に役立つはずです。
フードテック、ウェルネス関連サービス、ベビーテック、フェムテック等も視野に入れ、これらと柔軟に協力・連携しながら、ユーザーメリットとデジタル医療関連の市場を共に拡大していきたいと考えています。

——ちなみに、海外で医療のデジタル化が進んでいる国はあるのでしょうか。

一例で言うと、英国が先行しています。安定した国民保健サービスがあり、いわゆる「かかりつけ医」であるホームドクターが決まっているため、医師と患者のコミュニケーションが密接です。また医師が公務員であるため、国の政策によって取り組みが進みやすく、すでに全体の半数以上の医師がオンライン診療を実施しています。
その他、「デジタルセラピューティクス(DTx)」とも呼ばれている、特定の疾病対策などに用いる治療用アプリ等の分野でも、開発に関するガイダンスの更新が進んでいるようです。

米国や中国でも、コロナ禍で医療のデジタル化が急進しています。米国は多くが自由診療で保険料が高額であること、中国では公的な保険はあるが医療の質にばらつきがあることなどから、「自らの健康は自らで守る」という高い意識が求められるためか、遠隔医療やヘルステックの活用が特に増えています。

ちなみに、米国、中国等では、AIを使った検査画像の判定などの技術活用も急速に進んでいます。診断の精度に貢献しますので、日本でもこれらは積極的に活用されるべきだと考えています。

デジタルでのヘルスケアやデータ活用を当たり前のものに

——今後の目標などを教えてください。

「HELPO」は企業を通じてすでに多くの方に安定して活用していただけるようになり、藤枝市、福岡市をはじめ、自治体との取り組みも成果をあげています。
並行して、健康医療相談の内容が多岐にわたるようになり、ユーザーの期待感も増してきたことを感じています。今後もより多くの皆さんに、より便利で快適に「HELPO」を利用していただけるよう、機能やサービスの幅を強化していきます。

データ等についても、情報管理の安全性を確実に保ち、ポリシーをしっかりと確立しなくてはなりません。包括的な医療プラットフォームを提供する立場としてのリーダーシップで取り組んでいきたいと考えています。

アプリを通じて取得されるデータの利活用によって、より良い医療サービスの展開や商品・商圏の開発などが進むことが期待される

デジタル医療を活用する側のリテラシー、また、提供する医療機関側の対応力は確実に向上してきました。特に、コロナ禍ではそのスピードが上がり、そもそも私たちが想定していたデジタル化の予測値と比べると5年ほど早く進んだ印象です。

毎日、アプリやPCから自分の健康状態を見直して、食事やエクササイズの具体的なプランを立てたり、不調があれば自宅からすぐ専門家や医師に相談したり――という風に、デジタルな健康習慣がより多くの人に根付く日は、そう遠くないでしょう。 私たちは今後も「HELPO」を通じて、新しいヘルスケアの形と文化の醸成を目指していきます。

ヘルスケアテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 大石怜史(おおいし・れいじ)さん
ヘルスケアテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 大石怜史(おおいし・れいじ)さん

デジタルやオンラインを活用した治療や、医療機関内部でのIT活用だけではなく、生活者向けの便利なデジタル医療やヘルステックが増え、それらをシームレスにつなぐ、包括的なアプリが注目されるようになりました。
将来的には、ウェルネス関連サービス、フードテック、ベビーテック、フェムテック、スリープテックといったヘルスケアに近い分野や、様々なタイプのウェアラブルデバイスの情報、栄養や運動のログとの連携など、幅広いサービスやビジネスにまたがるプラットフォームとして、成長していく可能性が高いでしょう。 企業・自治体単位での利用や、部分的な利用にとどまらない、to Cに向けたサービス展開にも期待がかかります。

Written by:
BAE編集部