2021.06.01

栄養データで商品をレコメンド。PRや売り場づくりに役立つ“栄養管理アプリ”

日常の買い物の選択にコミットするサービスの可能性

スーパーでの購買履歴から栄養情報を自動で測定・分析し、健康に役立つ食品をレコメンドする「栄養管理アプリ」。健康意識の向上や、コロナ禍での食生活の変化を背景に、活用のメリットとデータの価値が注目されています。
ユーザーの栄養情報にまつわるデータは、販促や店舗のDXにどう活用されているのでしょうか。また、今後ヘルスケアなどのサービスに、どう役立てられていくのでしょうか。栄養管理アプリを開発する、シルタスの小原さんにお話を伺います。

目次

日々の買い物の選択にコミット。課題解決型のPRが可能に

——栄養管理アプリ「SIRU+(以下シルタス)」の仕組みを簡単に教えてください。

スーパーのポイントカードと連携し、ユーザーの買い物データから栄養素の過不足を自動で分析。栄養バランスが整う食材・商品、レシピを提案するアプリです。継続的に使うことでユーザーの食嗜好なども学習し、よりその人に合う買い物を提案します。
買い物履歴から栄養情報を自動で入力・分析できるため、ユーザーの手間やコストがかからないことがポイントです。

買い物をするだけで、21種類の栄養素の過不足が自動で見える化される。食品、食材の提案やグラム数の予測等には高精度なAI技術を投じている

——どのような店舗で利用できるのでしょうか。ユーザーの傾向なども教えてください。

現在、関東近郊と神戸市のダイエー30店舗、静岡県のしずてつストア、青森県のコープあおもり、ネットスーパーなど、約80店舗で利用が可能です。2021年末には全国1,000店舗で利用が可能になることを目指しています。
ユーザーは6:4で女性が多く、30代、40代がメインです。家族連れから単身者まで約6,000人に利用されています(※2021年1月現在)

——アプリの利用状況から、どのようなデータが取得できるのでしょうか。

購買履歴とそれに基づく栄養状態、レシピの閲覧状況に基づくユーザーの食嗜好、メモ機能に基づく「購入予定の食材・食品」への関心、おすすめした食材を実際に購入しているかどうか、などがわかります。

——スーパーやメーカー側は、どのようにデータを活用できますか。

例えば、ビタミンCが不足傾向にあるユーザーに、ビタミンCがとれる食品をおすすめする、という風に、課題解決型の情報提供やPRが可能になります。レコメンドに反応したユーザーが実際にどの店舗に来店し、購入しているかを分析することで、PRの効果測定も行えます。
また、「●●店にビタミンC不足のユーザーが多く通っている」「300人がこの商品を閲覧している」といったデータを、売り場づくりや仕入れ、商品開発に役立てることも可能です。

実際に、2019年に神戸市のスーパーマーケットで、3,000人のユーザーを対象に2カ月間の実証実験を行ったところ、シルタス導入店舗への来店頻度は26.12%から29.95%に、利用金額は2,244円から2,425円に増加するという結果が出ました。 また、2018年と2019年のデータの比較から、ユーザーの栄養バランスが改善したこともわかりました。

レコメンドと購買の関係については、別の分析から、アクティブユーザーのうちの約4割強が、おすすめした10商品のうち一つは購入していることがわかっています。

——このような効果が生じる理由はどこにあるのでしょうか。

栄養に関連する情報を通じて、ユーザーとの接点を深められることがポイントになっています。
ヘルスケア領域では、すでに歩行、バイタル、睡眠などのデータが様々な方法で取得・活用されていますが、栄養に関するデータは取得がそもそも難しく、貴重です。このデータに、さらに嗜好性に関するデータを組み合わせてパーソナライズの精度を高めることで、説得力のあるおすすめやPRに繋げています。

シルタスは主に買い物の前後や買い物中、献立を考える際等に使われており、日々の買い物の選択にまめにコミットできていることも強みです。
「同じ商品を買うなら、栄養管理に繋がるほう(シルタスが使えるほう)のスーパーに行こう」「栄養が不足しているから、もう少し野菜を買い足そう」というユーザーの気持ちが、来店頻度や利用金額の向上に繋がっています。

実際に、よく行く店舗に自分や家族の健康に役立つ食品、気になる食品が確実にラインナップされていれば、お店に対するユーザーの安心感や信頼度は向上します。また、ユーザーにとって、時間やコストの面でもより効率のよい買い物が可能になります。

カートに食品を入れるだけで栄養状況がわかる

——栄養情報に基づくレコメンドを、販促に活用された事例を教えてください。

2020年にダイエー、ヤクルトと共同で、栄養素に特化した乳酸菌飲料の販促を展開しました。ユーザーの不足栄養素ごとに、シルタスの画面で不足栄養素が補えるタイプを表示して、店頭のサイネージで訴求する取り組みです。
ある店舗で2週間にわたって実施したところ、売上が前年比の1.7倍にアップしました。

アプリからのおすすめが、多彩な商品の中から、自分に向いているものを選ぶポイントに。アプリでチェックした商品を、店頭で想起してもらうきっかけにもなる

2020年に行った味の素との取り組みでは、アミノ酸に特化したスコアが見られる「毎日の栄養通信簿」を展開しました。通常シルタスが表示している21種類の栄養素に加えて、アミノ酸のバランスと独自のスコアに基づくレシピ等が閲覧できます。
こちらの効果等はまだ分析できていませんが、同様の取り組みを今後も展開していく予定です。

「毎日の栄養通信簿」から、アミノ酸のバランスの状況が見られる。「美肌」「ダイエット」等の目標の選択も可能。目標とパーソナルデータにマッチした情報が得られる

——ECサイトとの連動もスタートされたそうですが、こちらはどのような仕組みでしょうか。

買い物代行サービス「ツイディ」のサイト上で、購入する商品をカートに入れると同時に栄養計算がされ、おすすめの食品を表示する仕組みです。
ニューノーマルの時代に対応して、買い物代行サービスの利用が増えていることから開発を進めましたが、シルタスと連携している実店舗のデータとも連携が可能です。

アプリとの連携が可能だが、非アプリユーザーも栄養分析を利用できる。おすすめは旬の食品やお買い得品の中から表示され、経済的で使いやすい食品を選べる

このように、ユーザーが買い物をしている最中にも自分の栄養状態が見られるようなサービスは、今後も増やしていく予定です。オンラインだけではなく、店舗のサイネージやスマートカートと連動するなど、オフラインでも実現可能な環境を作りたいと考えています。

ヘルスケアや地域の健康づくり、情報銀行とも連携

——栄養管理にまつわるデータは、今後どのような分野で活用されていくでしょうか。

店舗のDXに関しては、今後もデータ活用を進めることで、スーパーマーケットを、買い物をするだけではなく「自分や家族の健康状態を知る場所」、ひいては「健康管理に役立つ場所」という新しい価値を備えた場所に変えるサポートをしていきたいと考えています。

ヘルスケアの分野での活用も拡大すべく、現在複数の実証実験に取り組んでいます。
例えば、神戸学院大学、流通科学大学との共同研究では、個人の健康診断データや食事のデータ、活動量に購買データ等を分析し、購買活動と栄養(食習慣)と身体状況の関係性を明らかにする取り組みを行っています。

また、弘前大学COI、コープ共済連、コープあおもり、青森県民生協と共同で、シルタスのデータと健康測定の結果から、健康リテラシーの向上と食生活の改善をはかる研究調査を実施中ですし、福岡県福岡市でも、シルタスが健康的な食生活の普及推進を目指した社会実験に利用されています。

ヘルスケアデータには、血液、バイタル、睡眠、歩行など様々なものがありますが、栄養素に関する長期的なデータは獲得しにくいことが知られています。将来的には、シルタスのデータが生活習慣病等の予測や予防、保険やフィットネスなど、生活者の健康面に広く役立てられることを目指しています。

——総務省が主導する埼玉県さいたま市の情報銀行の実証実験にも参加されています。こちらはどのような取り組みでしょうか。

ヘルスケアデータや購買データのほか、住環境などのパーソナルなデータを掛け合わせて、地域や一人一人に最適化された生活支援サービスや、金融サービス、マーケティング戦略等の開発の可能性を検証し、パーソナルデータの価値の検証を行う取り組みです。

2019年に総務省の主導で、埼玉県さいたま市美園地区で市民100名を対象に行われた、情報信託機能の社会実装に向けた実証実験の全体スキーム図

他のデータとの掛け合わせの可能性については、例えば、ジムでの運動量などのデータと連携したり、IoT家電と連携したサービスなどの展開にも活用できると思います。実際に、シルタスのデータには、スマートホームを作る住宅メーカー等からも関心が寄せられています。

——今後の課題や目標を教えてください。

シルタスが利用できる店舗やECサイトをさらに増やし、今後は決済データ等からも栄養情報をデータ化することで、引き続き栄養データの質と量を担保していきます。スーパーなどの店舗のDXにも貢献したいですし、情報銀行等とのデータ連携も進めることで、ライフスタイル全体の最適化に役立つインフラとしてシルタスを進化させたいと考えています。

ユーザーが自分の栄養データを他でも使えるようにしていくことも大事だと思っています。“不健康にならないためのリスクヘッジになる”というだけではなく、例えばポイントが貯まる、より付加価値の高いサービスが受けられる、などの具体的なメリットに結び付けたいですね。食品以外の買い物等による健康への影響などへの検証も、今後の課題の一つです。

今まで通り “買い物をするだけ” で、生活者の健康や楽しみに繋がり、暮らしを支えるライフログに成長していきたいと思います。

シルタス株式会社 代表取締役 小原一樹(おはら・かずき)さん
シルタス株式会社 代表取締役 小原一樹(おはら・かずき)さん

食や栄養、ヘルスケア関連のデータは、販促やPRへの活用はもちろん、ユーザーと店舗が継続的な関わりを持つための、強い接点になることがわかりました。データから「健康になれる売り場づくり」が実現すれば、スーパーでの顧客体験は大きく更新されそうです。また、食以外のあらゆる分野との連携が進むことによって、ライフスタイル全般において、より一人ひとりに合ったサービスの提供にも役立てられそうです。

Written by:
BAE編集部