自動運転車の車内における広告市場は、2030年には世界全体で約1000兆円規模になると推測されています。
そこで注目されているのが「窓ガラスのディスプレイ化」です。車だけでなく、施設など、さまざまな場所で見かける“窓ガラス”。そこにはどんな可能性、活用法があるのでしょうか。
石油の精製販売を軸に、機能材事業を展開し、すべての窓をスクリーンに変える「カレイドスクリーン」を開発したJXTG エネルギー株式会社 機能材カンパニー 機能材事業化推進部の方々にお話を聞きました。
世界最高水準の透明度を誇るスクリーン用透明フィルム
——スクリーン用透明フィルム「カレイドスクリーン」。その誕生の経緯と特徴を教えてください。
上坂
東京工業大学の渡辺順次名誉教授が中心となり、2010年に発足した産官学連携プロジェクト「S-イノベ」に参画したのがきっかけです。開発時には具体的な活用方法は決まっていなかったものの、「映像が映る高透明なフィルム」というコンセプトの面白さに、当初から可能性を感じていました
川端
本来、窓ガラスのような透明な素材にプロジェクターで映像を投影しても、ほとんど何も映りません。光がガラスをほぼ透過してしまうためです。しかし、カレイドスクリーンを貼ると、窓ガラスなどを「透明でありながらも映像が映るスクリーン」へ変化させることが可能です。
上坂
カレイドスクリーンの最大の特徴は、透明度の高さです。透明であることと映像が映ることは、本来は、相反する現象ですので、その両立の実現は難しいのですが、前述のプロジェクトの成果に当社独自の技術を加えることで、映像投影性能を確保しながらも、これまでのスクリーン用透明フィルムが70%程度だった透過率を約90%にまで引き上げることに成功しました。これにより見た目も半透明だった従来品と比較して、窓ガラスに貼っても違和感がほぼない状態を実現しています。
間瀬
さらに、フィルムを横につなぎ合わせるだけで大画面化が可能な点も強みです。また投影される映像もプロジェクターの解像度に対応しますので、4K映像も表示可能であり、表現の場を最大限に広げることができます。
再訪率を高め、体験価値を向上させる透明スクリーン
上坂
大きな転機となったのは、ある展示会への出展でした。そこで、現在もお付き合いのある株式会社ネイキッドに興味を持っていただき、以降、窓ガラスを活用した屋内プロジェクションマッピングイベントに活用される事例が増えました。
——プロジェクションマッピング活用の事例について、詳しく教えてください。
川端
たとえば、今年も東京タワーなどで開催中の「CITY LIGHT FANTASIA BY NAKED」という屋内プロジェクションマッピングイベントでは、展望台から見える現実世界の夜景と映像コンテンツをコラボレーションさせています。同イベントの効果もあってか、夜間の施設集客が向上したという話も伺っています。
上坂
「何もないところに映像が映る」という驚きは体験価値が高く、非常に話題となりました。現在も東京タワーの大展望台の窓ガラスには、カレイドスクリーンが貼られているのですが、日中はなかなか気づかないと思います。日中は窓ガラスとして機能し、夜はスクリーンとして機能する。それが両立できた点も、カレイドスクリーンを導入いただけた理由のひとつと考えています。
間瀬
この「CITY LIGHT FANTASIA BY NAKED」は、東京タワーだけでなく、あべのハルカス、名古屋テレビ棟といった各地域の施設でも開催され、ご好評をいただいています。
川端
このような展望台施設の他にも、さまざまなシーンでの導入実績があります。その中でもユニークなのが、新潟県にある「夕映えの宿 汐美荘」で採用いただいた事例です。この旅館は「日本一夕日がきれいに見える宿」として特集されるほど、夕日がきれいなことで有名です。しかし、悪天候時には、その景色をお客様に楽しんでいただけないという悩みがあったようです。そこで、事前に撮影した夕日の映像を、夜間、窓ガラスに貼ったカレイドスクリーンに投影し、お客様に楽しんでいただくというイベントを行い、今でもこのイベントは非常に好評なようです。
間瀬
プロジェクターの映像を切り替えることで、夕日だけではない他のコンテンツを楽しんでいただくことも可能です。実際に同旅館の事例では、花火や水族館といったコンテンツも用意されています。同旅館に宿泊する体験価値の向上に少しでも貢献できればと思います。
上坂
この他にもスポーツイベントやDJイベントなど、常設ではなく期間限定のイベントにおいても、カレイドスクリーンを活用いただいた事例が多くあります。使い方はさまざまですが、「ないはずの場所に映像が現れる」という“驚きと感動”を届けるという点は共通しています。それこそがカレイドスクリーンを使う最大の利点ともいえるかもしれません。
川端
その利点を活かし、ある店舗では閉店後、窓ガラスに映像を流すことで、同店の認知向上を図る施策を実施した事例もあります。 やはり閉店後の店舗に映像が流れているというインパクトは大きく、反響もあったと聞いています。
デッドスペースを活用し、課題を解決
——「窓ガラスのディスプレイ化」には、さまざまな可能性がありそうですね。今後、同分野はどのように発展していくとお考えでしょうか?
川端
街中には、特に活用されていない窓ガラスが思った以上に多いことに気づきます。透明性を活かしたまま、必要な時に必要な情報を表示する場として、窓ガラスを活用していくアイデアは、今まで以上に普及していくのではないでしょうか。また、自動車の窓ガラスに交通情報などを映し出すヘッドアップディスプレイ技術も興味深いです。どちらも現状のカレイドスクリーンでは、投影性能の面から即時の適用は困難な面もありますが、将来的にはそういった用途にも参入できればと考えています。
間瀬
店舗の窓ガラスをスクリーン化し、映像を投影することでアイキャッチとして機能させたり、セールなどの告知をしたりするなどのアイデアは面白いと思います。また災害時に、近くの避難所を案内するといった役割を持たせることができれば、街づくりの面からも意義のある活用方法になるのではないでしょうか。
上坂
これまでデッドスペースになっていた窓ガラスを活用し、それぞれの施設が抱える課題を解決できればと考えています。「窓ガラスを効果的に活用したい」というニーズは、今後さらに拡大していくだろうと感じています。
間瀬
これまでの事例ですと、新しい体験価値の向上、施設魅力度への貢献といった点で効果を発揮しています。その実績を踏まえ、今後もカレイドスクリーンの新たな可能性を、私たち自身も模索していきたいと考えています。
各業界が注目する「窓ガラスのディスプレイ化」。現在、すでに施設や店舗の空間演出において、高い効果を発揮しています。今後、自動運転車や電車などの交通機関への導入や、デッドスペース化している夜の時間帯の建物の窓ガラスへの活用も検討されており、利用の幅はますます拡大していきそうです。
- Written by:
- BAE編集部