2021.09.24

優しい視点で心に届ける──調査から見えた「2025年のマーケティング」

ニューノーマル時代に意識すべき「ギフト」という視点

2025年。日本の人口の年齢別比率が劇的に変化して「超高齢化社会」を迎えると言われています。

さらに現在、私たちの生活はコロナ禍の中で急激に変化しています。2025年という節目を迎えるとき、マーケティングの在り方は大きく変化している可能性があります。では、日本、そして世界のマーケターたちは、「2025年のマーケティング」をどのように捉えているのでしょうか。

日本と世界のマーケター2000人を対象に調査を行った、株式会社インテージクオリスの星 晶子さん、株式会社インテージの鮎澤 留美子さんに、調査データをベースに「これからのマーケティングに求められる視点や意識」について、お話を聞きました。

目次

「HOW」ではなく、「WHAT」を思考する世界のマーケターたち

——インテージ社が発表した「グローバルマーケターが描く 2025年マーケティング業界への期待 未来探索プロジェクトレポート」には、マーケターが目指す“ありたい姿”が集積・分析されています。まずはその概要を教えてください。

鮎澤

いま、私たちを襲うコロナショックは、予想も予測もできるものではありませんでした。言わずもがな未来を正確に予想することは不可能です。それでも、マーケターたちが思い描く未来への期待を知ることは、「これからのマーケティングのヒント」や「キーワード」を見つけることにつながると考えました。

鮎澤

本調査はグローバル20ヵ国のマーケター1000人と、日本マーケター1000人を対象に実施されたものです。属性はミレニアルマーケター(20歳〜35歳)、シニアマーケター(40歳〜55歳)。自分自身がマーケターとして成長し、影響力を持つ存在になったとして、どんなキーワードを大切にしたいと考えるかを回答してもらいました。

集まったキーワードを、価値観やインサイトを可視化する「マインドディスカバリーマップ」を作成、私たちはこれからのマーケティングの在り方を読み込むワークショップによって、“7つのキーワード”を抽出しました。

2000人のマーケターの声を可視化した「マインドディスカバリーマップ」(グローバルマーケター/ミレニアル層)。言葉の距離は、関係性の近さや遠さを表す

——日本と世界のマーケターでは、未来に必要なキーワードに相違点はあったのでしょうか。

鮎澤

日本のマーケターが挙げたキーワードの1位は「AI(人口知能)」であり、グローバルマーケターは「INNOVATION」連想が強く、また「LOVE」や「HAPPY」をキーワードに挙げていました。これは、日本人は未来を作る「手段(HOW)」を連想したのに対して、グローバルマーケターたちは「届けたいもの(WHAT)」を連想したと言えるでしょう。
※「INNOVATION」は、日本マーケターでは連想の上位に入っていない

その背景には、SDGsやダイバーシティといったビッグワードも見え隠れします。ちなみに日本の場合は、ミレニアルマーケターが「ペルソナ」や「課題解決」を重視するのに対して、シニアマーケターは「品質」や「先進性」を挙げるというプロダクト思考をはっきりと読み取ることができました。
決して、日本が世界と違うから遅れているということではありませんが、海外マーケターの方がより、「社会の現在と未来」を見つめてマーケティングと向き合っていると言えそうです。

左から、株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部事業デザイン部 デ・サインリサーチグループ マネージャー・鮎澤 留美子さん、株式会社インテージクオリス リサーチ推進部 部長・星 晶子さん

——欧米の方が、SDGsやダイバーシティへの取り組みも先行していると言われます。今回の調査でも、そのことが浮き彫りになったような印象を受けます。

鮎澤

日本マーケターでは、品質の良い製品を作り、利益を最大化する「マーケティング1.0〜2.0」の思想を忠実に継承する意識を持ちながら、企業の課題解決やプロモーティブな施策の実行を優先しているのかもしれません。

「マインドディスカバリーマップ」にもその意識は顕在化しており、日本のミレニアルマーケターが求めているのは「共感」と「利益」でした。そしてシニアマーケターが求めているのは、「高品質の製品」であり、「どう売るか」「何を売るか」の違いはあれ、「売れる」ことをゴールに設定していそうです。

鮎澤

一方でグローバルのミレニアルマーケターでは「ソーシャルデザイン」への意識が高く、社会に貢献することや、誰かをハッピーにすることを、パーパスに結び付けていることが、結果的に企業の利益につながると考えていそうです。

優しさとギフトが“共感”を生む「2025年のマーケティング」

——SDGsやダイバーシティへの関心も高まりつつありますし、今後、日本のマーケターが「ソーシャルデザイン」を重視していく可能性は十分にあると思います。そのなかで求められる「2025年のマーケティング」のカタチとは、どのようなものなのでしょうか。

1つ目のキーワードが「Vision Forward」=ビジョンこそが原動力になる。これまでマーケティングにおける“戦略”とは、利益を得るための方策を検討し、実行することでした。しかしミレニアルマーケターは、「意志=夢」を持つことそのものがマーケットを動かす重要な要素であると考えています。Visionに続くワードでは、Drivenよりもっと前で動かす意味合いでFowardを採択しました。利益や業績は、結果としてついてくるという考え方です。

ミレニアルマーケターの「マインドディスカバリーマップ」。戦略とビジョンの位置関係が近く、双方が作用して機能するという思考が読み取れる

2つ目が「Kind Economy」=優しさの経済。市場拡大や業績を伸ばすことを成果とするのではなく、人にも環境にも“優しい”マーケティング活動が企業のイノベーションにつながる。そんな願いや想いを、多くのミレニアルマーケターたちは抱えています。

優しさとイノベーションの位置関係が近く、人や環境に優しいマーケティングが世界を変えると考える、ミレニアルマーケターたちの思考が読み取れる
鮎澤

3つ目が「Quality Makeover」=心を揺さぶるという価値品質。「品質」とは安全・信頼性や素材の良さ、満足度指標で測られることが定石だと思われますが、次世代のマーケティングでは“ワクワク感”が指標になる可能性があると言えそうです。言い換えれば、感動を生む「感動体験の品質」が、広告・商品・サービス、すべてにおいて重視されるかもしれません。

品質のすぐ側にユニークがあり、「心を揺さぶる」価値の今後の高まりを予感させる

4つ目が「Giggle it!」=口元が緩んでしまう世界。送り手にとっても受けてにハッピーであるかどうか。思わず、くすりとしてしまうような小さなハピネスがそこにあるかどうか。ターゲットの考え方も、大勢をハッピーにするというよりは、個としての“誰か”をハッピーにしたいという方向にシフトしていきそうです。

マーケティングのすぐ側にユーモアがあり、その近くに革新/革新性が位置することから、次世代のマーケティングにおける「ユーモア(口元が緩む)」の重要性を読み取ることができる
鮎澤

5つ目が「Opportunity Designer」=“機会”を創る。いかに新たな機会を発見、創出していけるか。新たな市場の発掘とは、シーンや新体験の機会と捉えた暮らし全体をデザインできるかどうかが求められていそうです。マーケターに求められる資質も“機会を定義し創る人”が加わる可能性を感じます。

その延長で、6つ目のキーワードが見つかりました。「Heartward」=愛と創造性です。心を温めることができるマーケティングであるかどうか。自分の中にちゃんと愛があって、その想いをマーケティングに昇華できるかどうか。「Opportunity Designer」も「Heartward」も、マーケターとしての在り方が変化していくことを予兆させるキーワードと言えます。

(左)「Opportunity Designer」の根拠となるマインドディスカバリーマップ。プロフェッショナル、ビジネス、デザインの位置関係から、市場創出が新たなマーケターに求められる資質と考えていることが読み取れる。 (右)「Heartward」の根拠となるマインドディスカバリーマップ。愛が想像力や感情などと近い位置関係にあり、愛なくしてマーケティングは成立しないと考えるマーケターの思考を感じることができる
鮎澤

そして7つ目が「Marketing with a bow」=生活者へのギフト。マーケティングは今後、ますますソーシャルデザインや顧客体験価値が重視されるようになり、大切になるのが「ギフト」という考え方です。生活者に新しい文化や体験を含めた“暮らし提案”を、生活者に贈り物のように届けることがマーケティングの役割になっていくのではないでしょうか。

ハッピーが文化や体験などの近くにあり、「ハッピーを届けられるかどうか」を多くのミレニアルマーケターが重視していることがうかがえる

次世代マーケティングの鍵を握る「ソーシャルデザイン」の視点

——7つのキーワードからは、利己主義から脱却した「ソーシャルデザイン」視点の重要性を感じることができますね。

はい。だからこそ、企業は今後、「本当の優しさ」の提供が求められるのではないでしょうか。そしてもしもそれが「嘘の優しさ」だったときには、企業イメージが急落する。そんなリスクも存在するように思います。

鮎澤

いまや、SNSを通じて誰もが情報発信ができます。昨今、SNS上のデータを分析し、生活者のインサイトを把握する「ソーシャルインテリジェンス」市場も拡大傾向にあり、その価値も高まっています。企業から発信するメッセージの到達度や効果を測定するベクトルに加えて、生活者発の情報を企業の方が先に求めるといった双方向のニーズもあることから、両者の共創や、インタラクティブな関係性づくりの重要性が高まっていることを感じさせます。
だからこそ、生活者の内なる声に寄り添いつつ、先回りした“暮らしの提案”する企業の「優しさ」や「ギフト」の考え方が不可欠であると考えています。

——最近注目の、顧客に寄り添い、社会における企業の存在意義を重視する「パーパスブランディング」は、7つのキーワードの思想に近しいものを感じます。

そうですね。共通点が多いかもしれません。たとえば、アウトドアブランド「パタゴニア」は、創業以来、自然との共生の問題に対して真摯に取り組み、「すぐに捨てることなく、長く使える製品を届ける」ビジョンが原動力となり、環境への優しさや、ブランドのファンたちに真摯にギフトとして届けたいという姿勢が濃縮されて好例と言えそうです。
ほかにも、ハンドメイド化粧品などで知られる「LUSH」は、フレッシュでオーガニックな製品は、作る人も使う人もハッピーであるべきという思想のもと、エシカルな部分と顧客のハッピーを自然な形でつなぐことで、顧客とのエンゲージメントを高めています。優しさだけでなく、楽しさやハピネスをギフトとして届けることを実現している例と言えるのではないでしょうか。

では、顧客と深くつながるためには、どうすべきか。まずは真摯であることではないでしょうか。そして消費者に対して、しっかりと自社が目指すゴールを「宣言(約束)」することが信頼につながるように思います。

鮎澤

コロナ禍を経験した私たちの生活は一変しました。生活スタイルが変われば、当然、価値観も変化し、自ずとこれまでと見直すことになります。そして新たな生活様式の中で、私たちはいつも「小さなハピネス」を探しています。生活者の心の声に耳を傾け、価値観の再構築をキーに、新しいマーケティングの概念も創られていくのではないでしょうか。この調査結果と7つのキーワードが、マーケターの皆さまにとって、「未来」を考えるヒントとなれば幸いです。


コロナ禍により、マーケティングのあり方や方法にも変化が起きました。新しい日常のなかで、消費者のインサイトや消費行動も日々変化しています。そのなかで、どんな「ギフト」を用意して消費者とのエンゲージメントを高めていくか。未来を創造するための視点を持つことが、これからのマーケティングにおいても重要なポイントでしょう。

Written by:
BAE編集部