2019.03.27

視聴体験を最大化する「インタラクティブ動画」の活用法

リッチな360度動画でタップ数が増加。データ獲得も有利に

多くのスマホ世代から今、注目を浴びているのが、視聴者とコミュニケーションが取れる「インタラクティブ動画」。その動画では、画面をタップするとストーリーが分岐したり、動画を視聴しながら商品が買えるなど、新しい体験を提供しています。活用の際のポイントなどを、インタラクティブ動画広告の制作やプロデュース、編集プラットフォームの提供を行うMIL(ミル)株式会社の光岡 敦さんと、現場で実際にインタラクティブ動画の制作を手掛ける、株式会社アドスペックの末積 典和さんに伺いました。

目次

双方向コミュニケーションで新たな体験を創出

――SNS上でも最近常に話題のインタラクティブ動画ですが、過去からどのように伸展してきたのでしょうか。

光岡

2011年あたりまで、インタラクティブ動画といえば主にFlashで制作されたものでした。現在のようにスムーズな双方向コンテンツは当時から求められていましたが、閲覧できるデバイスそのものが浸透していませんでしたよね。しかも、当時の規格は3Gで、通信速度や通信料の負担なども課題でした。
それが、今やほとんどの人が大容量の動画をスマートフォンで楽しめる時代になり、5Gの未来も見えています。VR元年を過ぎ、現在はYouTubeアプリで360度動画が見られるようにもなりましたし、ようやく「双方向性のある高品質のインタラクティブ動画」を多くの人に提供できるインフラが整ってきたわけです。

――具体的には、動画でどのような効果が期待できるようになったのですか。

光岡

インタラクティブ動画にはストーリー分岐、外部リンク、ポップアップなどの機能を追加できます。例えば、動画内のタグをタップしたりクリックすると新たな展開が広がり、動画の結末や、人物の行動が変わる――という仕掛けなどが可能です。

沖縄市「沖縄子どもの国」ランディングムービー。選択肢でストーリーが分岐する

光岡

こちらは沖縄市「沖縄こどもの国」のPR動画の事例です。動画内に選択肢が出現し、ストーリー分岐しながら、園内の各スポットを「疑似体験」することができる体験型動画として制作しました。動画を自分の視点で動かせる、または動かしているような気持ちになれるので「自分ごと」として捉えてくれやすくなる、という特徴があります。Netflixでもインタラクティブ動画ドラマの展開が始まり、生活に広く浸透しつつあります。

「動画内の役者さんと同じ服が欲しい」「CMのアイテムの詳細を知りたい」といった、視聴者の気持ちを拾うことなどもできるようになりました。展開によっては、現実的な購買にも落としこめます。

香川照之さんがデザイン監修する昆虫をモチーフにしたブランド「Insect Collection」動画コマース。対象物が動いてもタグが追跡する設定

光岡

中でもわかりやすいのは、こちらのようなアパレルの事例です。人物の着用商品にタグ付けし、タップしてもらう仕組みです。例えば、ファッションショーの動画の視聴中に、モデルの周りにタグが現れる。それを触ると、身につけている衣装の情報や販売元の連絡先がポップアップされる、または、直接購入できる、といった仕掛けです。

多数の商品の中から、「はい・いいえ」などの選択肢に答えてもらい、要求や好みに応じたアイテムまで絞り込む、といった、チャート的な展開なども可能です。

視聴者は動画から離脱せず欲しい物に辿り着けますし、広告主は「どのポイントで購買欲求に結びついたのか」がダイレクトにわかります。また、タップした閲覧者だけのデータを蓄積して、リターゲティングもできます。Instagramのストーリー広告などは相性が良いので、動画コマースへの活用でも非常に注目されています。

――360度動画のインタラクティブ化も可能でしょうか。

末積

360度動画を使った手法は、最近特に注目されています。例えば、仕掛けの一つに、視聴者を没頭させる「謎解きミステリー動画」があります。360度動画で室内を探索して、答えを導き出すというインタラクティブ動画ですが、中にPRアイテムなどを配置して、推理を楽しみながら認知してもらえるようにしました。

MIL PR用360度動画「観る」。空間に隠されたヒントから犯人を探すゲーム性を付加

末積

また、企業の採用シーン等でバーチャルオフィスツアーを作り、室内をぐるっと見渡し、動画内の人に話しかけて、インタビュー動画を見たりすることができます。一方向の会社案内より臨場感が高く、実際に働いたときの雰囲気を理解できるでしょう。
360度動画はエンタメ的な要素や、空間・イベント会場の再現とも好相性ですし、MILのシステムを使って動画の中に一般的な2次元動画を取り入れたり、静止画なども取り入れる――といった使い方も効果的です。

光岡

この360度動画のデータ収集と分析を行ったところ、一人当たり平均6.3回も動画をタップしていることがわかりました。
「体験する楽しさ」が強いからでしょう。

その他にも、私たちが制作したインタラクティブ動画に関するデータとしては、サイトへの変遷率は約40%、動画を埋め込んだサイトの離脱率は約12%減少したという実績があります。あるクレジットカード会社の事例では、特定のカードの申し込み件数が約20%増加しました。

データや効果検証を元に動画を最適化できる

――インタラクティブ動画でPR効果を得るためのポイントは、どこにあるのでしょうか。

光岡

動画メディアが当たり前になりましたが、通常の動画は「認知」だけで終わってしまいがち、という課題がありました。見る人に情報やインパクトを与え、企業やブランドのことを知ってもらっても、どこで離脱しているかなどがわからないので、売り上げに繋がっているかがわからないんですね。
インタラクティブ動画になると、見せたいものを意図的に見せる――という具体策まで落とし込めますので、制作のアプローチは大きく異なります。

株式会社MIL 代表取締役CEO 光岡 敦(みつおか・あつし)さん
株式会社アドスペック 代表取締役CEO 末積典和(すえづみ・のりかず)さん
末積

インタラクティブ動画ではできることは非常に多いですから、必要な演出やカメラワーク等は、これまでの動画制作とは全く異なります。それに、視聴者に「動画をタップすると反応がある」ということを、冒頭でわかってもらわなくてはなりません。よって、短く直感的につかめるチュートリアルを入れ込むなど、特殊な仕掛けが必要になります。最初のアクションやストーリーの分岐までは10秒ぐらいのスピード感が望ましいですね。

また、通常の映像演出ではCM動画の最後にロゴを数秒間表示して印象づける……といったことなどをやりがちですが、インタラクティブ動画ではあまり意味がありません。そのタイミングでの離脱を避けて、一秒でも早く商品や外部サイトに遷移するアクションを起こさせたいので、ポップアップで素早く情報を掲示するほうが正解でしょう。

末積

今の人たちは「広告を見させられている」感覚にとても敏感です。「ただの広告」と思われてしまうと、離脱率も高くなりますし、そもそも見て貰えません。ですから、インタラクティブ動画とエンタメとの親和性を十分に活用して、「体験する楽しさ」を提供する必要があります。
先述の360度動画を使った謎解きミステリー動画の中にも、PRアイテムのほかにキャンペーン用のクーポンやキーワードなどを配置することができますが、どちらも楽しんで見つけ出してもらうことが大きなポイントになります。

光岡

先述の通り、データも取れて結果が見えるため、裏付けも分析できます。
私たちが展開しているプラットフォームでは、視聴者が動画のどこを何度タップしたかや、サイト遷移、コンバージョン率などを細かく計測でき、レポートを参照できるサービスも提供しています。
動画内のインサイトがとれるということはイコール、そのデータを元に‘‘クリエーティブのPDCAを回せるようになる”ということでもあります。制作現場と連携をとることで、公開後のインタラクティブ動画をより有利に最適化していくこともできますよ。

インタラクティブ動画の測定結果のレポートの例
インタラクティブ動画の測定結果のレポートの例。インタラクション率、外部サイト誘導率、平均タップ数などがわかる。動画解析タグで視聴からコンバージョンまでの測定も可能

VR市場など多くのシーンでの活用が期待される

――今後のインタラクティブ動画の世界は、どう進化していくでしょうか。

光岡

想定していることの一つに、VR市場での活用があります。現状は、VRゴーグルをつけた状態でしか見られませんし、ディスプレイと違って直接タップできませんが、技術の進捗に応じてタグ付けなどを落とし込めるか、見極めていきたいと思っています。動画コマースなども、「アプリをインストールした人だけがユーザー」という時代は終わってオープン化が進み、楽しさと購入体験を同時に提供できるようになりました。注目の360度動画も、スマホの動きを測るジャイロセンサー(角度センサー)への対応が可能になり、スマホの向きの変化を動画の中の人物や物に反映させることができます。他にもタグを動かせることでユーザーが指で操作できる範囲が大きく増えるなど、よりインタラクティブになることで、今後も視聴時間の増加が期待できます。このような流れはますます広がるでしょう。

インタラクティブ動画の魅力や訴求力は、制作ノウハウの蓄積や、視聴者のインサイトを理解するデータの活用によって向上しています。今後もより多くのシーンで、視聴者に新しい体験を生み出す手段として活用されていくはずです。

「より多くの人たちがインタラクティブ動画を楽しむだけではなく、制作したり公開したりといったことができる時代が来れば良いなと思っています」

インタラクティブ動画はワンタップで情報を得られたり、分岐点で人物の行動や視点を選べるなど、様々な仕掛けで臨場感や没入感を生み出せることに加え、データ分析の精度が向上したことで、幅広い分野で活用されはじめ注目を集めています。動画コマースや採用動画など、インタラクティブ動画は企業とのエンゲージメントを高める重要な役割を果たすなど、活用の幅はますます広がりそうです。
 

Written by:
BAE編集部