2021.08.27

さきトレ | 現実をバーチャルに取り込む超技術「フォトグラメトリ」「ボリュメトリックビデオ」

仮想空間でニーズが高まるフォトリアルな表現

これからの未来を描くであろう、最新トピックスをお届けする「さきトレ」。今回ご紹介するのは、現実に存在する空間や物体をあらゆる角度から撮影することで、丸ごとリアルな3DCGモデルとして取り込むという技術です。仮想空間でのニーズの高まりによって、これらのテクノロジーにも熱い視線が注がれています。
取材協力:株式会社クレッセント

目次

仮想空間のリアルアバターにも活用される「フォトグラメトリ」の技術

「フォトグラメトリ」とは、実写と見紛うほどのフォトリアルな3DCGモデルを生成する技術のことです。現実に存在するものを、あらゆるカメラアングルから撮影し、そのデータを元に3Dオブジェクトを生成していきます。実際の撮影データから構築していくため、非常にリアルな3DCGモデルを精度良く作り上げることができるのが、大きな特徴です。

ESPER社のフォトグラメトリシステム「LIGHTCAGE」での撮影風景
フォトグラメトリで人間の表情をリアルに写しとった3DCGモデル

カメラとコンピューター、専用のソフトウェアがあれば誰でもアクセスできるという手軽さもフォトグラメトリのメリット。専門会社がハイエンドカメラを何十台も使用して超高精細な3Dモデルを作ることもあれば、最も簡単な手法としては一般人がスマートフォンのカメラで撮影して、そのままアプリで処理をするということも可能になっています。

フォトグラメトリは、あらゆる対象を3Dモデル化することができます。例えば、人間の全身を丸ごと取り込むこともできますし、大きな建物を3DCGモデル化することも可能です。後者の場合は、文化財や遺跡などをデジタルアーカイブとして保存し、研究・調査に展開するという活用の仕方が知られています。実は、フォトグラメトリの技術は古くから存在するものであり、とりわけ最新のテクノロジーというわけでもありません。レーザースキャンによる測量技術などと並行して、土木建築など産業の分野で活用されています。

この技術の恩恵を一般生活者が最も身近に感じることができるのが、おそらくエンターテインメントの分野です。ハリウッドの大作映画などで、大物俳優が危険なスタントに挑むお馴染みのシーンがありますが、一見俳優自らが演じているように見えて、実はスタントマンの顔をフォトグラメトリで生成した俳優のリアルな顔に差し替えていることもあるようです。また、実在のスポーツ選手や俳優が登場するゲームなどの3DCGモデルにも、フォトグラメトリの技術が活用されていることがあります。将来的には、フォトグラメトリで作成した俳優やタレントの3DCGモデルを時系列でアーカイブ化し、「20●●年の、この女優を使いたい」といった感じで、映像作品などに出演させるといったことも可能になるといわれています。

また、今後注目していきたいのが仮想空間でのニーズです。バーチャルの世界で活動する際に、自分の分身となるのが「アバター」です。仮想現実の世界なのでアバターの見た目は自由に設定することができますが、フォトグラメトリの技術を使えば、現実と同様のリアルアバターを作ることが可能になります。これにより、実在するアーティストやタレントが、バーチャルの世界でそのままの見た目で表現活動をするということも可能になります。フォトグラメトリは、リアルとバーチャルの境界を溶解させてくれる技術です。

自由視点映像でさまざまなコンテンツを楽しめる「ボリュメトリックビデオ」

「ボリュメトリックビデオ」は、あらゆるアングルから1フレームずつ撮影して生成した3DCGモデルを連続してつなぎ合わせ、360度さまざまな角度から視聴可能な自由視点の映像コンテンツを作成することができるテクノロジーです。

ボリュメトリックビデオの制作手順
ボリュメトリックビデオのイメージ

ボリュメトリックビデオは、比較的新しい撮影テクノロジーです。膨大な量のデータを取り扱う技術であるため、特に近年は5G通信の試金石として、大手通信会社によって積極的にボリュメトリクス技術が取り入れられています。

ボリュメトリックビデオの活用分野として、最も親和性が高いと言えそうなのがエンターテインメントです。例えばボリュメトリックビデオでは、ダンサーやミュージシャンのパフォーマンスを、視聴者の好みの視点や距離から楽しむことができるようになります。ヘッドマウントディスプレイをつけてVRとして鑑賞したり、AR(拡張現実)で現実世界の中で映像を楽しんだり、XR技術と相性も抜群です。

映像をインタラクティブに楽しむことも可能で、撮影したプロスポーツ選手の映像と仮想空間で対戦をすることができる、ゲーム性の高いVRコンテンツも既に登場しています。

エンタメ以外で活用の可能性が考えられるのが、教育分野です。例えば、複雑なヨガのポーズや、ゴルフのスウィングなど、2D映像では細部までわかりづらかったものも、ボリュメトリックビデオであれば、さまざまな角度からプロのフォームをチェックして、トレーニングに役立てることができます。

ボリュメトリックビデオをARで体感する

また意外なところでは、ボリュメトリックビデオはアパレルとも親和性が高いといわれています。これまでECで洋服を購入する場合に、歩いた時の肌へのまとわりや、服の重量感など、モデルの着用写真だけでは判断しづらい部分がありました。ボリュメトリックビデオであれば、見たい部分の布の動きを自由視点で細かくチェックすることが可能になります。リアル店舗へ足を運びづらい今、ECでのコンバージョンにつながりそうなこの活用法は、アパレル業界にとっては大きな力となりそうです。

ボリュメトリックビデオのデータ量は膨大となるというお話をしましたが、つい最近になって、専用アプリをダウンロードしなくても、スマホのブラウザ上でストリーミング再生することが可能になりました。より手軽に視聴することができる環境が整ったことで、今後、生活のさまざまな場面でボリュメトリックビデオによるコンテンツを見かける機会が増えていくことになりそうです。


リアルな人間の姿や動きを3DCGモデルとして再構築する「フォトグラメトリ」や「ボリュメトリックビデオ」の技術は、仮想空間の盛り上がりとともに、新しいニーズを獲得しています。実在の人物をベースとするために、タレントやアーティストを起用したバーチャル施策との相性も良いでしょう。最近では、大手百貨店や鉄道会社が仮想空間に参入するなど、バーチャルへの企業進出が目新しいニュースではなくなってきています。本格化する仮想空間ビジネスにおけるキーテクノロジーとして、これらの技術にますます注目が集まりそうです。

Written by:
BAE編集部