2018.10.23

社会を変える可能性を秘めた個人データ、活性化は生活者へのメリット寄与がカギ

来るべき個人情報の利活用ビジネスに向けて

対談:
株式会社DataSign Founder 代表取締役社長 太田祐一氏
株式会社電通 電通総研カウンセル兼フェロー/株式会社電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント 有園雄一氏

電通テックが今年9月に設立した株式会社マイデータ・インテリジェンス(MDI)は、生活者主導で個人情報管理・運用の実現を通じて、生活者と企業双方に有益なマーケティング支援サービスを提供、プロモーションのデジタル化のその先にある新時代のマーケティングを見据えています。


今回の対談では、日本初のDMP(データマネジメントプラットフォーム)開発に携わり、現在では自身の会社DataSignで「paspit」というパーソナルデータ管理サービスをリリースされた太田祐一氏が登場。電通デジタルの客員エグゼクティブコンサルタントの有園氏と、現状の課題や個人情報の可能性について熱いトークが繰り広げられました。

目次

情報は自分でコントロールする時代へ

有園雄一氏、太田祐一氏
左:株式会社電通 電通総研カウンセル兼フェロー/株式会社電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント 有園雄一氏、右:株式会社DataSign Founder 代表取締役社長 太田祐一氏
有園

太田さんが今やっていることを教えてください。

太田

力を入れているのは、個人向けにリリースしたマイデータを管理するためのツール「paspit」の開発と普及です。生活者が自分自身のデータを便利に、かつ安全に管理・活用できるアプリケーションの第1弾として、様々なところに散らばっている「ID」「パスワード」を自動的に集約・管理できるようにしました。今後、サーバー側からECサイトなどにもアクセスし、個人が簡単に、自身の購買履歴、行動履歴も自動的に集約できるようになります。

paspitのサービス画面
paspitのサービス画面
有園

マイデータには、いわゆる自分のデータは自ら簡単な方法でコントロールできるべきというビジョンがあります。この発想が出てきた背景は、GoogleやFacebookがクッキー情報やユーザーの行動履歴を使い、個人の属性を推定して広告配信で莫大な利益をあげているが、「それってもともと個人の情報でしょう」という理解でいいですか。

太田

それもマイデータの考え方が注目されているひとつの背景ではあります。日本では名前や住所などの個人情報は法律で守られていますが、行動履歴などの情報はそこまで厳密に守られていません。個人に対するプライバシーの影響をアセスメントしようという考え方がありますが、名前だけを知られるのと、見ているウェブサイトを知られるのとは、どちらが嫌か、を考えれば、クッキーでたどる行動履歴こそ自分でコントロールしたい、自分で管理できるようになるのが正しいと思うでしょう。いままではそのような情報はFacebookやGoogleが主に活用してきましたが、個人情報も含め自分の行動履歴や購買履歴などのパーソナルデータを自分で集約し、守るだけではなく、自分のために活用できるようにしようというのがマイデータの考え方です。

有園

私は気にならないですけどね。でも決済のために登録しているIDとパスワードは気にしていて、全部違うものを使っています。それと同じことをpaspitのようなマイデータのサービス提供者は企業が代わってやってくれるということですか。

太田

概念的には変わりません。IDやパスワードは、例えばメールアドレスがIDになっていることが多いですが、paspitを用いることで本物のメールアドレスを登録には使わずトークンを割り付けて管理できるようになります。1個人にかかわる情報を集積して、そのデータを企業が使いたいということであれば、paspitを介して個人にオファーを出します。個人情報のプラットフォーム機能を果たし、個人の承諾を得て企業に提供していくという仕組みです。

有園

そうなると、GoogleやFacebookが勝手に個人情報を使っているのはいずれは違法になる? あるいは問題だということになりますか。

太田

彼らは個人に対価として便利なサービスを提供しているのでそこまで問題とは思っていません。ただ、ひとつ問題とするなら、そのデータをどのように利用しているのかユーザーに十分伝わっていないことです。例えば私の場合は、1日に60サイトくらい閲覧していますが、その結果、約250社に行動履歴が提供されています。そもそも閲覧した60サイトも閲覧者のデータを送信していることを知らない企業が多いので、まずはそこに手を付け、企業側でそのようなデータの送信を管理できるような仕組みも提供しています。個人については、アドブロックすればいいという考え方もありますが、それはエコシステム(ビジネス生態系)上問題があります。個人用には自分のデータがどこに送信されたのかがわかり、オプトアウト(拒否)することのできるツールを作っています。

有園

データポータビリティという概念のもと、個人がデータに対して主導権を持つことが重要だということですね。

太田

これを1社ごと、1個人ごとに対応していくのは大変なので、我々のような事業者が提供するサービスで対応できれば理想です。

個人情報で社会に貢献する人を評価する仕組みづくりを

有園

個人情報が個人の資産と考えれば、本来は企業が利用するならその対価をもらえないとおかしいですよね。これはシェアリングエコノミーに近い考え方だと思いますが、これはある種のパラダイムシフトと言えます。それを個々に自分でコントロールするのは大変だから代行管理する会社が出てくる、それが我々のビジネスモデルになり得るということでいいですか。

太田

一般的な資産は、不動産を例にとればコピーできないもので、勝手に使ったら即座にわかって問題になります。現金も同じです。ところが情報はコピーすれば使えます。だから独占的にだれかに情報資産を預けて運用をしてもらうというよりも、もっと単純に資産として預けた情報によって、自分も生活が便利になっていくという考え方をしたほうがいいと思います。

有園

しかし、情報のコピーも利用方法次第で、許諾を取らないと違法という流れになっています。

太田

はい、なのでコピーされたものが不正利用されないための対策は技術で解決し、個人が自分の情報をコントロールできるようにする必要があります。しかし個人が情報をコントロールできすぎるようになると、嘘をつくこともできるようになります。個人情報に対価が発生するとなると、問題はここにあると思います。

有園

そうすると、ゆくゆくは登録の際に免許証などで本人確認をすることになりますかね。今はGoogleやFacebookが持つ膨大な個人情報も、日本の法律と照らし合わせると持っていないことと同義です。Googleはメールアドレスとパスワードだけでアカウントを作れるし、Facebookは偽名登録もできる。住所も必要ありません。

太田

一般に重要な個人情報と言われるID、パスワードや住所も本質的には、企業にとって重要ではありません。例えば、ある銀行が多額の預金保有者にアプローチしたいと思っても、現在は他行での保有残高を知ることはできません。しかし今後情報銀行が進化すれば、個人への情報提供オファーを介して残高が多い人に向けたアプローチが可能になります。その時点では、他行に預金があることが重要なので、対象者のIDが個人情報と紐づかないトークンでも問題ありません。むしろ、預金残高や行動履歴に嘘がないことのほうが大切です。本人確認の情報は他行の本人確認情報を用いてしまえば、わざわざ自社で本人確認を実施する必要はないのです。

有園

銀行残高やECサイトの購入履歴をpaspit に取り込む許諾をしたユーザーが、別の銀行やECサイトにもデータを提供していいかどうか、paspit 経由で許諾を出すということですね。

太田

はい、すぐにオススメのレコメンドが返ってくるような世界観を目指しています。

有園

個人情報を資産ととらえたときに対価はいろいろ考えられます。しかし、GoogleやYahoo!といったメガプラットフォームには膨大な情報が集まっていても、今は連携して使える仕組みがありません。政府は情報の保有はしても商用では考えない。paspitのような新しいスキームなら、企業や産業の垣根を越えて共有される可能性があるのでしょうか。

太田

これまでも企業間のデータ共有は様々なプレーヤーが挑戦していますが、データの提供側のメリットが乏しく、盛り上がりに欠けました。企業側の制約で1業種1社に限定しては、ユーザーオリエンテッドとは言えませんでしたから、今後は企業側の制約にとらわれず、個人中心のデータ流通に変わっていくと思います。

有園

いまやAIや機械が工場ラインの主要労力となり、ゴールドマンサックスのディーラーですら8割以上AIに代替されている時代です。一方で、企業によっては世界的に内部留保は増えています。ロボットに主に働かせている会社は、きちんと健康情報を含む個人情報を共有し社会の発展や企業の利益に貢献してくれる人たちを評価して、お金で還元してくれればいいと思いませんか。それをマイナンバーと連携させれば、ベーシックインカムという話にもなり得ます。こういうものが情報銀行の発想にあるべきです。

太田

ただそれは中央集権的にお金を集めて再分配するという発想と同じで、それをデータで行うのはリスクが大きいと思います。今のスキームなら情報を分散させて個人が決定する仕組みにもできます。そのバランスをどうするか。個人がどれだけ関与して、政府としてどの程度コントロールするのか、そこを考える必要があります。

有園

これからのマーケティングもビッグデータをAIが分析して活用し、消費が活性化していくという形が主流になります。そうであれば、ビッグデータのもととなる情報を提供した個人に利益が還元されるのは健全な話です。そうしないと、企業はモノが売れず成長にもつながりません。あくまで個人と民間企業が主導してやれば、監視社会になるリスクも抑えられると期待しています。

<対談の最後に>
㈱マイデータ・インテリジェンスが「マイデータ・バンク」を持つにあたり、デジタル革新へ向けた新時代のマーケティングやプロモーション活動を担う企業としてゼロサムゲームに勝つという発想では厳しいと実感します。シェアリングエコノミーの発想で、個人情報を提供する生活者、仲介する企業、事業会社の垣根を越えて、それぞれが新しい利益を求めて協調し、有効なスキームを構築する必要があります。技術力がある企業とのコラボレーションも重要な視点。電通テックは、同分野で先行しているDataSignの太田さんともいい関係を築き、マイデータを起点としたプロモーションを通じて、クライアント企業に貢献していく考えです。

太田祐一

株式会社DataSign
Founder 代表取締役社長

日本初のDMPの開発に携わり、株式会社オウルデータの代表取締役社長に就任。プライバシーに配慮したパーソナルデータ活用について、経済産業省の公表したベストプラクティスとして掲載される。データ活用の透明性確保と、個人起点での公正なデータ流通を実現するため、株式会社DataSignを設立。
ISO/TC 307 Blockchain and distributed ledger technologies 国内審議委員会 委員。 総務省 情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会 オブザーバー。 一般財団法人 情報法制研究所 研究員。MyData Global founding member.

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Written by:
BAE編集部