ブロックチェーン上で発行される「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」。デジタルコンテンツ市場の発展に大きく貢献する革新的技術です。
最近では、NFTを活用したデジタルアートやメディアが度々高額で売買され、IT・経済界を賑わせています。NFTを巡るこのような動向からは、どんな可能性が読み取れるのでしょうか。また、国内企業がNFT関連のビジネスに参入する際には、どんな考え方がポイントになるのでしょうか。
DXやXR事業を軸に、デジタルヒューマンやデジタルファッション等のクリエーティブを展開する、1SEC(ワンセック)のCEO 宮地さんに伺います。
最先端のクリエーター達が期待を寄せるNFTのメリット
——デジタルアートやデジタルメディアの資産性や希少性を担保する技術として注目される「NFT」。変遷を簡単に教えてください。
NFTが登場したのは2017年頃で、ゲームやデジタルアートに利用されてきました。2020年に登場したデジタルトレーディングカード「NBA Top Shot」の人気などを受けて、市場が急激に活性化しました。
クリエーティブ関連を軸に話をすると、例えば、アーティストの「Beeple(ビープル)」、人気DJの「deadmau5(デッドマウス)」、スニーカーデザインチームの「RTFKT(アーティファクト)」等がNFT作品をマーケットやオークションに発表し、価格が数億~数十億円まで高騰する事例が続出。
その可能性に着目したクリエーターが次々とクリプトアート(NFTアート)を出品し、投機家も多額の資金を投じて、ITや経済界を中心にバズワードになった、というのが現在までの流れです。
また、純粋なデジタルアート以外にも、Twitter社founderのジャック・ドーシー氏による最初のツイートが約3億円で落札されたり、インターネット・ミームのCGが高額で取り引きされたりと、NFTを使って世に新たな価値を問う試みが続き、話題が尽きない状況です。
——多くのクリエーターがNFTに可能性を見出す理由は何でしょうか。
リアルな美術品もそうですが、今までは作品が最初に売れた際にのみクリエーターに利益があり、転売された際には正当な利益を獲得できる仕組みがありませんでした。しかも、デジタル作品は容易にコピーされるため、本物だという証明が難しかったのです。
しかし、NFTを使えば作品の真正性・希少性が証明でき、購入者(保有者)側の資産性も裏付けられます。また、ブロックチェーンテクノロジーによって、二次流通、三次流通と売買された際にも、クリエーターが利益を得る仕組みを設計できるようになりました。
老舗の美術オークショニストもNFTの取り扱いを始め、デジタルなクリエーティブのポジションは、今までと異なるフェーズに突入しました。「正当な評価と売買の仕組みが確立した」ということが、今多くのクリエーターたちがNFTに抱く可能性や期待感の正体です。
——コロナ禍による経済状況の変化で、分散型金融に投資する投機家が増えていることも、NFTの人気に影響しているでしょうか。
現在、NFTに資金を投入しているのは北米を中心とした投機家がほとんどですから、そういった側面も大きいと思います。イーロン・マスク氏のような超富裕層が、可能性に賭けて次々と買っているイメージですね。
ただ、バーチャルなファッション等への注目度については、メタバース(※)の人気が濃くなっているという背景が関わっており、ここが、今後一般層までNFTが普及するポイントになると考えています。
※現実世界を仮想空間上にトレースしたミラーワールド。多くのプラットフォーマーがワールドの構築に乗り出している。
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詳しくは後述しますが、私たちも今後、メタバースを見据えたクリエーティブを展開していきます。
メタバースに飛び込むためのデジタルファッション
——1SECから2021年4月に発売された「AIR SMOKE 1™(エアスモークワン)」は、NFTを活用した国内初のバーチャルスニーカーとして話題になりました。どのようなクリエーティブでしょうか。
私たちが発売する初のクリプトアートで、デジタルファッションアイテムという位置づけです。0.5秒ごとのモーションでレインボーカラーが移り変わり、ソールからスモークが湧き上がる、3DCGのスニーカーです。
虹色にしたのは、ヒッピームーブメントに着想を得たもので、ダイバーシティへの価値の象徴でもあります。直感的にも「レインボーカラーがウケる!」と思って決めました。
「途切れないスモーク」という演出を加え、フィジカルで再現出来ないクリエーティブを意識して、非現実的でデジタルにしか存在しえない一足にしました。私自身、リアルなNIKEのコレクターで、100足くらい持っているので、カッコいいと思う要素を詰め込んだデザインです。
「AIR SMOKE 1™」はNFTのマーケット「Rarible(ラリブル)」と「OpenSea(オープンシー)」で発売し、9分後に約140万円(5イーサリアム)で落札されました。正直、そのスピードには驚きましたし、もっとたくさん出品してもよかったかな、と思いました(笑)。
ちなみに、「AIR SMOKE 1™」と同じ時期に発売されたRTFKTのNFTスニーカーも、1足約150万円、総額約3.2億円が売れています。
——他のものではなく、NFTのスニーカーを発売された理由はどこにあるのでしょうか。
スニーカーというマテリアルが、デジタルアートのファンや熱心なスニーカーのコレクターはもちろん、おしゃれが好きな一般層からも注目されやすく、受け入れられやすいからです。
誰にとっても身近なファッションの訴求力は、メタバースへの重要なハブになり、NFTを多くの人が購入し始めるきっかけにもなると考えています。
——「NFTファッションがメタバースへのハブになる」のはなぜですか。もう少し詳しく教えてください。
実は私たちは、数年内にメタバース世界をオープンして(仮に“ISLAND”と呼称)ファッションブランドやメゾンが集う、魅力ある都市に成長させたいと考えています。簡単に言うと、WEBからアクセスできるデジタルなテーマパークを創り、世界中の人に遊びに来てもらうイメージです。
ただ、世界観だけを披露しても、人は集まりにくいでしょう。そこで、ISLAND内でファッションアイテムというコンテンツを展開し、それに興味を抱く人々に集まってもらうことで、メタバースとしての価値を充実させていきたいと考えているのです。
——メタバースのワールドの中で、自分のアバターが着られるような、ファッションアイテムを展開されるということでしょうか。
その通りです。もう少し、詳しく説明しましょう。
いま、世界中でリモートワークが広がっているように、人の営みは、現実からデジタル上に “お引っ越し” しています。1SECでは、この流れを数年前から掴み、バーチャルヒューマンの開発などに取り組んできました。2017年頃は、「メタバース的な世界が定着するのは2025年以降」と予想していました。
しかし、COVID-19の流行をきっかけに流れがブーストされ、メタバースは一気に”遠くの概念”ではなく身近な世界の一つになりました。「VRChat」「Fortnite(フォートナイト)」「どうぶつの森」なども、現状メタバースと呼べますが、実際にこれらの中で、自らをアバター化して過ごすことを楽しむ人は増えていますよね。
今後もメタバースが進化・拡張していく上で、ライフスタイルの中の物理的なアセットはどんどんデジタル化していきます。
とりわけ、人の個性やパーソナリティが反映され、同時に資産性もあるファッションは、重要なカギになるはずです。
——確かに、メタバースが拡張すれば、アバターが着るものの自由度も求められそうです。
はい。その流れが来ると確信して、「AIR SMOKE 1™」の発売とともに、「1Block」というデジタルファッションレーベルを立ち上げました。
1年以内に、リアルで人気のハイブランドや先進的なメゾンとコラボしながら、今までにないNFTのデジタルファッションを発表していきます。
オートクチュールやフィジカルアイテムとの連動などを展開していきますので、ぜひ楽しみにしてください。
——NFTに興味を示すユーザー層はどのように変化していくでしょうか。
デジタルファッションやアバターを通じて触れられるセンスやカルチャーのバリエーションも増えれば、より多くの人がメタバースやNFTに関心を寄せ、マス層へ拡大するはずです。
RTFKT や「GUCCI」がすでに展開しているように、デジタルファッションアイテムをAR上で着たり、アバターに着せたりすることは今でも可能ですが、将来的にはよりシームレスになります。
リアルワールドがXRでアップデートされていく過程で、「超富裕層がNFTを買い、オンラインゲームやネットカルチャーに詳しい層がメタバースで過ごす」というだけではなく、スマホの動画やゲームのように、誰もがNFTやメタバースに触れるようになると思います。
メタバースは、先天的なフィジカルにも属性にも縛られないダイバーシティになるでしょう。誰もが自由なアバターの姿で世界中の人々と繋がり、好きなワールドで遊び、今までにないファッションを纏える日が来たら、最高に楽しいと思いませんか。
NFTが当たり前に流通する世界がやってくる
——今後、NFTの世界ではどんなクリエーティブやコンテンツが求められていくでしょうか。国内企業の参入できる可能性をどうご覧になっていますか。
例えば、ファッション以外にも――カップラーメンでもお魚でも本でもバイクでもなんでもかまいませんが、「クリプトアート化したら意外とウケた!」ということはあると思います。
NFTの流れの中でも、先行した取り組みは高く評価され、利益を獲得してきました。早く取り組むほど成功の確率は高いでしょう。
ポイントは、3DCGならではの演出や効果を取り入れて、クリエーティブの力でバリューアップを狙うことです。
想像のつく範囲でデジタル化するだけではなく、例えば、ファッションなら “パリコレ×スピルバーグ”のような先進的なイメージを発揮して、見た人が「えっ!」と驚くような、バーチャルならではの魅力を実現してください。
アートとして評価されるほどの洗練を目指すのはハードルが高いかもしれませんが、3DCG化することでメタバースの中でのプロモーションや販促にも活用できるはずです。
日本人が得意そうな分野で、ビジネスとしてのバランスが取りやすいのは、ゲームだと思います。すでに「クリプトスペルズ」「My Crypto Heroes(マイクリプトヒーローズ)」などのゲームが、ゲーム内でのNFTアイテム転売によって、ユーザーにも利益獲得が可能な仕組みを実装しています。
個人がメタバース内でのアバターの行動をプログラムして、NFTアイテムの転売などを行って自動で利益を得る、といったことなども、将来的には可能になると予測しています。
また、メタバース内でのIPの解放も、どんどん進められると思います。実在する法人、有名人、人気キャラクター等をバーチャル化して、ユーザーとのコミュニケーションをとるといったイメージですね。
さらに、もう一歩先の可能性で言うと、建築・不動産も高い可能性を秘めていると思います。過密する東京の一等地に一軒家を建てるのは難しいですが、メタバースのTOKYOならノンビルドの有名建築家作品だって、自分のものにできるかもしれません。
——NFTが拡大していく上での課題はあるでしょうか。今後の目標などもお聞かせください。
NFTの根本であるブロックチェーンや仮想通貨の課題と並び、セキュリティや法整備、マイニングの際に環境へ高負荷がかかるという、エネルギー問題などが挙げられます。
関連するビジネスも急増して、NFTは今、黎明期の混沌を迎えていますが、国内の有名IT企業もマーケットプレイスの出店などに乗り出していますし、次第に整理されるでしょう。エネルギー問題についても、すでに解決策が見えてきています。
試作や流通のコストがかからず、在庫を持たないデジタルファッションなどは、むしろファッション業界のSDGsやサスティナブルに貢献できると評価されてもいます。
……とはいえ、周囲のメディアや企業の一部からはまだ、「NFTってなんか怪しい!」「バブルなんじゃないの?」と、言われます(笑)。「様子見」という企業も多く、やはり、90年代前半のインターネットの黎明期などを彷彿とさせます。
しかし、不安定なものや誤ったものが淘汰されながら、インターネットが当たり前のものとして社会での価値を確立したように、NFTも近しい道筋をたどると確信しています。繰り返しになりますが、先行者に勝機が見えています。
私たちも引き続き、デジタルファッションを皮切りにメタバース世界のクリエーティブをどんどん実現することで、社会のDXに貢献していきたいと考えています。
私たちのライフスタイルに、一歩一歩近づくメタバースの世界。NFTを活用したデジタルファッションへの認知や人気が広まることで、買い物に出かけたり、コミュニケーションしたり、趣味を楽しめる場所としての、社会実装が進みそうです。
そこに、どんなクリエーティブを投じて、販促やPRにどう活用していくのか。今後も先進的な事例と、クリエーターによる斬新な発想からの学びが欠かせません。
- Written by:
- BAE編集部