昨年、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、これまでリアルが中心だったイベントは、“3密”を避けるために中止、またはオンライン配信に変更となりました。
その流れは「街のバーチャル化」という新たな選択肢を生むことにつながりました。まず渋谷、次に秋葉原と、仮想空間が誕生し、大きなニュースとなりました。
では「街」を仮想化するうえでのポイント、バーチャル空間ならではの活用法とは、どのようなものなのでしょうか。渋谷未来デザイン プロジェクトデザイナー・金山淳吾さんにお話を聞きました。
リアル×テクノロジーが生み出す「非日常感」
——渋谷は早くから企業と手を組み、「5G活用」を模索してきました。昨年5月に生まれた新プラットフォーム「バーチャル渋谷」もその一環なのでしょうか?
現在、渋谷は再開発によって見た目だけではなく、機能もアップデートすることで「観光都市として世界に誇れる未来都市」を目指しています。今後は渋谷区が掲げる「ダイバーシティ」を体現すべく、テクノロジーと融合することで「すべての人が楽しめる渋谷」へと進化を遂げるべく、歩みを進めています。
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そのなかで、2019年からは、KDDIとの共同プロジェクト「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」がスタート。以来、テクノロジーによって、次の時代のエンタメを創出し、都市のエンタメ化を加速させることを目的に、さまざまな取り組みを進めてきました。
テクノロジーに着目したのは、リアルと組み合わせることで、“非日常感”を創出でき、「新しい街体験」をしてもらうことができるからです。しかも誰もが自分のタイミングで体験でき、1to1のコミュニケーションを促進することもできるので、エンゲージメントも高めやすいと考えました。
特に活用していたのが「AR」です。たとえば2019年には、渋谷の特定の場所から指定のサイトにアクセスすると、イギリスのロックバンド、コールドプレイの新曲が試聴できる体験型の音のARコンテンツを展開しました。
さらに昨年は、アニメ『攻殻機動隊SAC_2045』とコラボし、ARを使ったさまざまなコンテンツを提供しました。本当は、同作のSFらしい未来感のある世界観を活用し、リアルの渋谷を舞台にした体験型コンテンツにしたかったのですが、コロナの影響を鑑みて、すべてオンラインに変更しました。
そのなかで、次なる渋谷×ARの新たなカタチを私たちは模索し続けていました。しかし新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、これまでとは違うアプローチ、“オンラインを主体としたエンタメ体験”が求められるようになりました。
そこでVRに注目し、渋谷を仮想化する「バーチャル渋谷」という新プラットフォームを構築したのです。
消費ではなく、「体験」を創出するVR空間
——2020年5月に誕生した「バーチャル渋谷」のオープニングイベントには、5万人が集結。10月に開催された「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」には、さらに多くのユーザーが参加しました。その理由をどう分析していますか。
これはバーチャルもリアルと同様で、「人はそこに目的があるから訪れる」。オープニングイベントに、著名人やアーティストに参加してもらったことが大きかったと考えています。
加えて、バーチャル渋谷がさまざまなメディアで取り上げられたことも大きな要因のひとつだと思います。「バーチャル空間に渋谷が誕生」と聞けば、「どんなものだろう?」と興味を持ちますよね。そのフックとなり得たのは、やはり渋谷の持つ元々のブランド力が大きく影響していると感じます。
いまやスクランブル交差点は、世界的に知られた観光地です。そこにバーチャルとはいえ、訪れることができるとあって、当日は国内外から多くのユーザーが参加しました。
今回、バーチャル空間でのイベントは、リアルの代替手段として選択したものでしたが、結果的に多数の来場者数と、話題創出を実現できたことは成功だったと考えています。
「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」は、世界最大級のバーチャルフェスとして開催しました。期間中は、謎解きゲームなどの豊富なコンテンツと、アーティストによる音楽ライブを提供。結果、6日間で世界中から約40万人が参加しました。
これだけの賑わいを創出できた理由については、やはりコンテンツパワーが大きかったと感じています。きゃりーぱみゅぱみゅさんが出演するオープニングレセプションは世界中からアクセスが殺到。別日に仕切り直したほどでした。
では、「見たいから来た」ユーザーに対して、オンラインライブとバーチャルライブでは何が違うかと言えば、体感でしょう。
オンラインイベントはたとえリアルタイムで視聴できたとしても、感覚的にはYouTube動画を見ているような“消費”に近いのではないでしょうか。しかしバーチャル空間であれば、同じ時間と空間をアーティストとユーザーが共有できるため、その体感は“体験”に近いと言えます。そこにはユーザー同士の会話によるコミュニケーションもありますし、一体感もあります。だからより大きな感動が得られるのです。
一方で、通信インフラとしての5Gがまだ整備されていないため、どうしてもタイムラグが発生してしまうといった問題や、サーバの負荷やランニングコストの問題なども存在していますから、現状、街の仮想化は“発展途上”と言えると思います。今後、「よりリアルに近い体験」を提供すべく、各企業がバーチャル空間に参入するためには、そうした課題感をいかに解決するかも同時に検討する必要があるでしょう。
将来的には、バーチャルとリアルは相互に補完しあい、互いの価値を高めあっていくような関係になるのではないでしょうか。たとえば、アニメやドラマ、映画などの舞台として「渋谷」が使われるケースは多くありますが、リアルな街を規制してイベントを実施するのは難しいですよね。しかしバーチャル空間上なら、リッチコンテンツとして提供できる。ほかにも、リアルのライブハウスで実施した音楽ライブを、後日バーチャル空間上の同じ場所で体験できる(リアルコンテンツの再活用)、といった選択肢もありそうです。
これからの街の仮想化は、OMOを意識した設計が重要
——「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」では、プロモーション展開もされたそうですが、バーチャル空間での広告の在り方については、どのように感じていますか。
今回、展開されたのは「モノを売る」広告ではなく、イベントの世界観に合わせた「ブランディングを意識した広告」でした。たとえばNetflixでは、ステージ上で動画を再生し、ユーザー全員で視聴するといった共有体験を届けることで、ユーザーのエンゲージメントを高める、いわばブランデッドエンターテイメントでした。
ほかにも、いわゆる「看板」のようなものも掲出しましたが、どれも未来感を感じさせるようなデザインを意識することで、ユーザーにとって親しみやすく、企業イメージを向上させるものでした。
これもリアルと同様ですが、バーチャル空間であっても、ユーザーに嫌われてしまうような広告は避けるべきでしょう。自社のブランド力を活かして、「楽しい時間を提供する」ことが理想だと思います。Netflixはその点で、成功例と言えると感じています。
——現状、街の仮想化は、課題もありつつも、大きな可能性がありそうです。今後どのような進化を遂げるとお考えでしょうか。
バーチャルとリアルをいかに連動させ、その価値を高めるかが今後重要だと考えています。たとえば、バーチャル渋谷で書いた落書きや、音声やテキストなどのログをARコンテンツ化し、リアルの渋谷でも見られるようにする。そうやって連動感を高めていくことで、新たな文化が生まれるかもしれませんし、バーチャルもリアルも一体となったレガシーが街に刻まれていく。そんな風になっていくと面白いのではないかと思っています。
ただ、街の仮想化は「リアルの持つブランド力」も重要ですので、どこの街でも横展開できるものではないと考えています。すでに仮想化された「秋葉原」をはじめ、池袋や京都など、リアルでの人気を拡張するようなイメージでバーチャル空間を活用すると、パブリシティ効果も見込みやすく、成功しやすいのではないでしょうか。
そのためには、エリアの拡大も必要だと思っています。渋谷だけでなく、原宿までバーチャル空間上で散策できれば、企業やコンテンツとのコラボレーションの可能性もさらに広がるのではないかと期待しています。
世界初の都市公認のバーチャル空間として誕生した「バーチャル渋谷」は、リアルの価値を拡張することで、国内外から大きな注目を集めています。今後さらにリアルとバーチャルの融合が進めば、新たな文化やコミュニティが生まれ、街に新たな魅力や観光資源が誕生するかもしれません。コロナ禍によって激減したインバウンド需要の対策に各地が苦しむなか、街のバーチャル化は、その解決の糸口となる可能性も秘めているのではないでしょうか。
- Written by:
- BAE編集部