2020.02.21

暮らしを快適にするスマートホームはどのように進化していくのか

IoTやAIによって、住まいはさらに進化し、人に優しい社会を作り出す

IoTやAIなどのテクノロジーと家のさまざまな製品がつながることで、住人にとって安全・安心で快適な暮らしを実現する住宅「スマートホーム」。

近年、スマートホーム市場は拡大傾向にあります。アメリカの経営コンサルティングファーム・A.T.カーニーによれば、その世界市場規模は2017年時点で約3.6兆円、2020年には6兆円に成長すると見込まれています。では、その現状や、未来、可能性とはどのようなものなのでしょうか。スマートホーム・ソリューションの開発を行い、スマートライフ・プラットフォーム「SpaceCore(スペース・コア)」を提供する、株式会社アクセルラボ 代表取締役 小暮 学さんにお話を聞きました。

目次

成長の一途を辿る世界の「スマートホーム市場」

——スマートホームの現状とは、どのようなものなのでしょうか?

スマートホームは、世界的に進んでいます。
なかでも、スマートホームの普及がいちばん進んでいるのはアメリカです。不動産事業者が物件にIoTデバイスを導入して展開するビルトインの例や、個人で住宅にIoTデバイスを取り付けるDIYのような例を合わせると、スマートホームの普及率は最も高いです。

——アメリカでスマートホームサービスが普及している理由はどのような点にあるのでしょうか?

アメリカでは、スマートロックやスマートLED照明、また、エナジーコントロールをして電気代を抑えるデバイスなど、個別のデバイスが増えています。そして、それらをまとめて管理・操作するソリューションが重視されていて、デバイスを連携させるプラットフォームサービスが伸びています。また、テクノロジーを活用したセキュリティ向上にも注目が集まっています。ホームセキュリティ関連のIoTデバイスも続々と登場しており、カメラによる監視、センサー、スマートロックはその代表格といえるでしょう。

普及を後押ししているのは、導入のハードルが低いことが考えられます。アメリカではスマートロックも数千円で設置可能です。コスト面でも導入しやすい環境が整っていると思います。

——アジア圏でのスマートホームの現状はどうでしょうか?

アジア圏では、中国が市場を牽引していて、急速に成長しています。

一方、日本のスマートホーム市場はまだまだという状況です。我々が実施した調査によると、日本におけるスマートホームの認知率は60%近いのですが、実際の使用率は他国に比べると非常に低い数値です。その一方で、同自社調査で、スマートホーム化された家に住んだことのある人や使っている人によると、実に60%以上がスマートホームに対してポジティブな意見を持っていたり、満足度が高いという結果が出ています。

この普及率の低さの原因として、日本では個人で住宅にIoTデバイスを取り付けることに対するハードルの高さがあります。ですが、IoTが導入された物件に対する満足度は高いですし、関心も高いと考えられています。そのため、日本ではビルトインでのスマートホーム化が進むと思われます。当社もIoTをビルトインさせる形でスマートホームを提供しています。

——アメリカとアジア圏ではスマートホームの普及の仕方やIoT製品の特徴が違うなどはあるのでしょうか?

実際のところ、ハードウェアの機能性で言うとIoTデバイスの技術はあまり国によって差はありません。
しかし、UI/UXの面で言うと、スマートホームの導入率が高いアメリカは優れています。たくさんの人に使われている分、「どんな使い方をしているか」「何を喜んでいるのか」が可視化されていて、アプリの画面がわかりやすいし、使いやすいです。
アメリカ、日本ともに、プラットフォームサービスが普及に関わってくると考えられます。
例えば、スマートロックですと、ただ単にスマホで鍵の開け締めをするというだけでは、あまり意味がありません。鍵が開いたら、センサーが人を感知して、カメラが起動し、スマホから映像が見える。このように、プラットフォームサービスでさまざまなIoTデバイスが連携することによって、利便性がさらに上がります。アメリカにはこのようなプラットフォームサービスが複数あり、日本で提供している当社のSpaceCoreもこれに当たります。

スマートロック「danalock」
アクセルラボ社が日本で展開するデンマークのスマートロック「danalock」。既存の鍵の上から装着可能で、スマートフォンを介し、鍵の開け締めが可能になる

——日本でのスマートホームの普及はこれからということですが、ニーズはあると思いますか?どのような部分でニーズがあるのでしょうか?

IoTデバイスの中で、日本で今ニーズが高いのは、スマートロックやカメラではないでしょうか。当社のお客さまでも反応がいいのはスマートロックやカメラです。
「あれ?鍵をかけたかな?」というような経験は多くの人があると思います。そのようなときに、スマホで、鍵がどういう状態かがわかります。また、もしものときは鍵をかけることもできます。

また、お子さんがいるご家庭では、お子さんが鍵を開けたら、それが離れている親御さんのスマホに通知されます。さらにカメラを家に置いておけば、帰ってきたお子さんとコミュニケーションが取れるなど、いろいろなことが可能になります。そして、今お話しした例は、便利というだけでなく見守りになります。お子さんだけでなく高齢者も見守れます。

私たちが手がけるIoT搭載マンションの入居者にアンケートを取ってみると、その満足度は高く、住まいのIoT化が住宅の価値を向上させるファクターとなりえることに、しっかりと手応えを感じています。人は一度経験した利便性を手放せなくなります。スマートハウスも同様に、体感する人が増えれば、普及も自然と加速すると考えています。

AIによって、スマートホームはさらに進化を遂げる

——今後AIを活用することで、スマートホームはどのように進化するのでしょうか?

当社が扱っているスマートホームAI「CASPAR(キャスパー)」は、すでにアメリカで導入されているシステムで、“ホームオートメーション”を実現するものです。

IoTは、スマホで家の機器を操作するなど、人が手を動かす部分がありますが、CASPARはボイスコマンドで指示したり、人の動きに合わせて自動で機器を操作してくれます。

CASPARは、住人の家の中での生活スタイルを日々学習することで、自動で先回りして、家の機器を操作し、照明や温度などを自動調整してくれます。例えば、毎朝同じ時間に起床していれば、それを学習し、住人の起床時間に合わせてカーテンをCASPARが自動で開けてくれるようになるといった具合です。

そのため、CASPARはNO UI(ボタンや画面操作に頼らず、目的を達成すること)となります。CASPARは、AIの強みである「深層学習」をスマートホームに応用したものですから、当然、暮らせば暮らすほど、使い勝手もよくなります。

しかし、我々が考えるAI搭載のスマートホームに完全なNO UIはないと思います。やはり人間はスイッチ&トリガーを握っておきたいもので、自分の行動を学習されたとはいえ、家電が勝手についたり消えたりするのは、あまり良い気持ちがしません。そのため、これからは、家が住人に対して会話のように提案してくれるようになるのではないかと考えています。例えば、住人がいつもお風呂に入る時間が近づいたら「お湯を張りますか」と提案してくれるといった具合で。

スマートホーム専用AI「CASPAR」の紹介動画

——AIと家が連携するスマートホームが実現したら、家がヘルスケアに結び付く可能性もありそうですね。

はい。例えば、将来、体重計やバイタル等と連携できるようなスマートミラーを設置したとしたら、体重や健康状態を日々チェックできるようになるでしょうし、そのデータが蓄積され、AIから「顔色が悪いので、病院に行かれては?」といった案内がされる、といったことも技術的には可能になると考えられます。

また昨今、心地よい睡眠を誘うためのスリープテックも話題になっていますが、住まいという環境を考えれば、「眠り」との関わりも深く、睡眠に関するテクノロジーがスマートホームに加わってくることも十分に考えられます。

住まいは生活の中心です。テクノロジーによって改善されるであろうポイントも多くあると思います。今後、テクノロジーの進展とともに、住まいがさらなる進化を遂げる可能性は大いにあるでしょう。

スマート化によって、社会はより人に優しいものへ

——住まいはもちろん、昨今は施設のスマート化も進んでいます。この流れは今後、さらに加速していきそうですね。

家だけでなく、オフィスや店舗、民泊、農業、飲食店もIoT化されています。

特に、家事代行やベビーシッターなどの生活サービスは、スマートホームと親和性が高いです。本来、家事代行サービスを利用するときは、自宅に事業者が来る前に鍵の受け渡しが必要です。しかし、スマートロックがあれば、遠隔で解錠できるため、事前の鍵の受け渡しが不要になります。カメラを設置しその様子を見守ることもできます。こういったことにより、生活サービスの利用のハードルが下がり、よりサービスを検討しやすくなります。

スマートホームは、かつては便利なものとして認識されていました。今は、生活をより快適にしたり、安心や安全を提供してくれるものへと変わりました。

将来的には、日本が直面しているさまざまな社会課題も、テクノロジーが解決していくことになるはずです。未来の住まいはきっと、テクノロジーによって、今以上に人々の生活を豊かで楽しいものにしてくれる。私はそう信じています。

株式会社アクセルラボ 代表取締役社長 小暮学さん
株式会社アクセルラボ 代表取締役 小暮学さん

世界で拡大傾向にある「スマートホーム市場」、日本はまだこれからといった状況のようですが、その利便性を体感した人が増えていけば、普及が加速するのではないでしょうか。テクノロジーの進化とともに、住まいにとどまらず、生活そのものがアップデートする未来はそう遠くないかもしれません。

Written by:
BAE編集部